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第一章『それは、新しい日常』
第十七話「追求」
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水色の月明かりの下、魔王城に設置されている一つの塔の上に二つの人影あった。一つは黒髪の少年、もう一つは金髪の少年だ。二つのシルエットは屋根という不安定な場所にも関わらず、器用にも胡座をかいて座っている。
「リリィーじゃなくて残念だったな」
「ははは、それは昼間のお返しのつもりかい?」
俺が昼間シオンにからかわれた時の仕返しに、全く同じセリフを返してやるとシオンは笑って受け流す。
「お前だってわかってんだろ? リリィーに好意もたれてんのは」
「そりゃ気に入られてるのはわかるけど...」
自分で好かれていると言うのは口に出しずらいのだろう。シオンの返す言葉は歯切れが悪い。
「しかしあいつも惚れやすすぎだろ。まだ数日だぜ? どこかの箱入り娘とかだったのか?」
「んー? どうなんだろう? 僕らは自分の過去を話をしないから」
(あの風呂場の事件があったからなぁ、意識してしまうのも仕方ない気が...)
「それで話ってなんだい? こんな話をする為に呼び出したわけじゃないよね?」
シオンもだいたい察しているのだろう、敢えて挑発的な笑みを浮かべている。そりゃそうだ、人が来ないようわざわざこんな所を選んだのだ。その意味に気づかない訳がない。
「あー、まあその過去の話ってやつなんだが...」
俺はなんと言えば良いのかわからず口ごもる。
「いや、単純にいこう。お前、隠していることがあるだろ? それを全部教えろ」
俺の唐突な追求にシオンは特に驚いた様子もなく、俺の言葉に続ける。
「よくわかるね。ちなみになんでそう思ったのか聞いても?」
隠す必要もないと感じているのか、とぼけることもない。普通になぜわかったのかと理由を聞いてくる。
「一つ目、今日の昼間にお前のことをシオンにいちゃんと呼ぼうとした、スラムの子とはどういう関係だ? なぜ隠した?不自然すぎる」
隠すことに無理があったと自覚しているのだろう、シオンは苦笑する。
「二つ目、お前のその身体について。ボルガーに問われた時、人間だって答えたな。だが、スキルも称号もなしであの身体能力、そして、不気味な回復能力、どう考えても普通じゃない」
この事についても一度目撃されているからだろう。シオンも追求されるのを仕方ないと割り切っているようだ。
「最後に三つ目、『平和な世界を作る』お前はそう言ったが本当の目的はなんだ? 最初こそ馬鹿みたいに勇者やってるのかと思ったがそれも違う」
俺の最後の追求にシオンは少々驚いたような反応を見せる。
「僕が平和な世界を望んでいないって?」
「いや、望んでるんだろ。でも一番の目的じゃないはずだ。もし人々を助けたいなんていうなら、なんでサイクロプス事件の時真っ先にやって来なかった」
「それは、君たちが先についていてなんとかしてくれると思ったから——」
「違うな、俺とイブも成り行きで助けたが、普通なら会って日も無いやつらに国民の命を預けたりはしない。それに、先に着いたのが俺たちっていうのもおかしい。俺とイブはあの時《瞬間移動》を使わず歩いて向かった。なら南門に近かったお前が先についた筈だ」
シオンの言い訳を一蹴し、そこまで一気にまくし立てると彼は肩をすくめた。
「君は探偵にでもなるつもりかい?」
「俺としてはこっちの世界にも探偵なんてものがあることに驚きだ」
俺もシオン同様に肩をすくめて返す。
「それで、怪しさ満点のお前は俺の信用を取り戻してくれるのか? 場合によっちゃ今までに得たスキルで全力で逃げさせてもらう。お前に移動系のスキルがないのは知ってるからな」
「......」
しばらく沈黙が続いた。風の吹き抜ける音だけが聞こえる。ここは塔の上だ、遮るものか何も無いので度々吹く強風が全身を打ち付ける。
「やっぱり教えてはくれないか?」
「あー、いやごめん。何処から話せばいいかと思って」
しばし顎に手を当て考え込むシオン。
「...教えてはくれるのか」
「君はイセカイジンだからね。少なくとも敵にはならないと思うから」
「ならなんで今まで黙ってたんだ?」
「明るい話題じゃないからね。単純に僕が話したく無かっただけだよ。ようは気持ちの問題さ」
そう言われると、必要な事とはいえなんだか申し訳なくなってくる。
「あー、なんか悪いな。無理矢理聞いちまって」
「いいよ、別に」
そこで謝る必要は無いとシオンは苦笑する。
「それじゃあ、ちょっと昔話をしようか。僕には、一人の妹がいてね——
「リリィーじゃなくて残念だったな」
「ははは、それは昼間のお返しのつもりかい?」
俺が昼間シオンにからかわれた時の仕返しに、全く同じセリフを返してやるとシオンは笑って受け流す。
「お前だってわかってんだろ? リリィーに好意もたれてんのは」
「そりゃ気に入られてるのはわかるけど...」
自分で好かれていると言うのは口に出しずらいのだろう。シオンの返す言葉は歯切れが悪い。
「しかしあいつも惚れやすすぎだろ。まだ数日だぜ? どこかの箱入り娘とかだったのか?」
「んー? どうなんだろう? 僕らは自分の過去を話をしないから」
(あの風呂場の事件があったからなぁ、意識してしまうのも仕方ない気が...)
「それで話ってなんだい? こんな話をする為に呼び出したわけじゃないよね?」
シオンもだいたい察しているのだろう、敢えて挑発的な笑みを浮かべている。そりゃそうだ、人が来ないようわざわざこんな所を選んだのだ。その意味に気づかない訳がない。
「あー、まあその過去の話ってやつなんだが...」
俺はなんと言えば良いのかわからず口ごもる。
「いや、単純にいこう。お前、隠していることがあるだろ? それを全部教えろ」
俺の唐突な追求にシオンは特に驚いた様子もなく、俺の言葉に続ける。
「よくわかるね。ちなみになんでそう思ったのか聞いても?」
隠す必要もないと感じているのか、とぼけることもない。普通になぜわかったのかと理由を聞いてくる。
「一つ目、今日の昼間にお前のことをシオンにいちゃんと呼ぼうとした、スラムの子とはどういう関係だ? なぜ隠した?不自然すぎる」
隠すことに無理があったと自覚しているのだろう、シオンは苦笑する。
「二つ目、お前のその身体について。ボルガーに問われた時、人間だって答えたな。だが、スキルも称号もなしであの身体能力、そして、不気味な回復能力、どう考えても普通じゃない」
この事についても一度目撃されているからだろう。シオンも追求されるのを仕方ないと割り切っているようだ。
「最後に三つ目、『平和な世界を作る』お前はそう言ったが本当の目的はなんだ? 最初こそ馬鹿みたいに勇者やってるのかと思ったがそれも違う」
俺の最後の追求にシオンは少々驚いたような反応を見せる。
「僕が平和な世界を望んでいないって?」
「いや、望んでるんだろ。でも一番の目的じゃないはずだ。もし人々を助けたいなんていうなら、なんでサイクロプス事件の時真っ先にやって来なかった」
「それは、君たちが先についていてなんとかしてくれると思ったから——」
「違うな、俺とイブも成り行きで助けたが、普通なら会って日も無いやつらに国民の命を預けたりはしない。それに、先に着いたのが俺たちっていうのもおかしい。俺とイブはあの時《瞬間移動》を使わず歩いて向かった。なら南門に近かったお前が先についた筈だ」
シオンの言い訳を一蹴し、そこまで一気にまくし立てると彼は肩をすくめた。
「君は探偵にでもなるつもりかい?」
「俺としてはこっちの世界にも探偵なんてものがあることに驚きだ」
俺もシオン同様に肩をすくめて返す。
「それで、怪しさ満点のお前は俺の信用を取り戻してくれるのか? 場合によっちゃ今までに得たスキルで全力で逃げさせてもらう。お前に移動系のスキルがないのは知ってるからな」
「......」
しばらく沈黙が続いた。風の吹き抜ける音だけが聞こえる。ここは塔の上だ、遮るものか何も無いので度々吹く強風が全身を打ち付ける。
「やっぱり教えてはくれないか?」
「あー、いやごめん。何処から話せばいいかと思って」
しばし顎に手を当て考え込むシオン。
「...教えてはくれるのか」
「君はイセカイジンだからね。少なくとも敵にはならないと思うから」
「ならなんで今まで黙ってたんだ?」
「明るい話題じゃないからね。単純に僕が話したく無かっただけだよ。ようは気持ちの問題さ」
そう言われると、必要な事とはいえなんだか申し訳なくなってくる。
「あー、なんか悪いな。無理矢理聞いちまって」
「いいよ、別に」
そこで謝る必要は無いとシオンは苦笑する。
「それじゃあ、ちょっと昔話をしようか。僕には、一人の妹がいてね——
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