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第1部3章 お出かけ編
25 誘拐
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馬車に揺られてどれくらい経っただろうか。数十分は経ったと思われるが、その間に承治とユンフォニアを捕えた二人組は「うまくいった」「あとは身代金だ」などと会話を交わしていた。
もはや考えるまでもないが、これは明らかに誘拐というやつだ。
しかし、誘拐犯二人の会話に耳を傾けていると、どうやら彼らは目の間の少女が第一王女ユンフォニアであることに気付いていないらしい。
恐らくユンフォニアと承治のことを貴族令嬢とその付き人か何かと勘違いしているのだろう。
そんなことを考えているうちに、馬車は目的地と思しき場所に到着したらしい。
揺れが収まると同時に、承治とユンフォニアは背中をこつかれて薄暗い納屋のような空間に連れ出された。
床には藁が敷かれ、窓は全て高い位置にある。恐らく人気のない場所なのだろう。
藁の山に投げ込まれた承治とユンフォニアは、改めて誘拐犯二人と対面する。
一方は服屋の売り子を装っていたエルフ青年で、もう一方はガタイのいい強面の大男だ。エルフ青年は一見すると大人しそうな見た目をしているが、大男の方はいかにもヤクザな雰囲気を纏っている。
大男は承治に近づき口を塞いでいた布を解く。
そして、ニタニタと不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。
「おっと、叫んでも無駄だぜ。ここはそういう場所だ」
「抵抗する気はありませんよ」
正直なところ、承治は心臓が張り裂けそうになるほどビビっていた。
だが、ユンフォニアがいる手前、取り乱すわけにもいかず、なんとか冷静さを装うことができた。
「なんだ、意外に素直だな。俺達の言う通りにすれば命だけは助けてやる。俺達の目的がわかるか?」
「身代金ですか」
大男は満足げに頷く。
同時に、承治はいささか安心した。なぜなら、身代金目的の誘拐ならすぐに殺される心配がないと思ったからだ。
大男は尚も余裕の表情で話を続ける。
「話が早くて助かるぜ。とりあえず、どこの家のモンか言いな。そこの嬢ちゃんは貴族なんだろ?」
その言葉に、承治とユンフォニアは目を見合わせる。
ここで身分を偽るという選択肢もあったが、承治はあえて正体を明かすことにした。
「ええと、その、実を言うと、そこの彼女は国王カスタリア三世の長女ユンフォニア姫なんです……」
すると、大男は一瞬きょとんとした表情を見せたが、次の瞬間大笑いを始めた。
「お姫様だって? この小娘が次期女王のユンフォニア姫だって言うのか? にいちゃんよう、あんまり俺達をバカにすると痛い目みるぜ」
「いや、それが本当なんです……とりあえず、彼女の口を自由にしてあげられませんか? 直接聞いてみればいい」
「おもしれぇ。聞いてやろうじゃねぇか」
大男はユンフォニアの口を塞ぐ布をほどく。
口が自由になったユンフォニアは、「ぷはっ」と息を吸い込み大男に告げた。
「その男ジョージの言う通り、余はカスタリア王国第一王女のユンフォニアだ。嘘偽りはない」
「おいおい、嬢ちゃんまで俺達をからかう気か?」
すると、大男の傍らで佇んでいたエルフ青年が口を開く。
「なら、ユンフォニア王女の長ったらしい本名を言ってみなよ。自慢じゃないが、僕は記憶力には自信がある。君が第一王女だというなら、自分の名前くらい言えるだろ」
「ふむ。それは良いアイディアだ。ではジョージ、答えてみよ」
えっ、なんで俺に振るの? 自分で言えばよくない?
承治は仕方なく今朝の記憶を引き出す。
「ええと、ユンフォニア・サクソン・アノ・カリヨン・ピッケ・ファゴット・カスタリア……だっけ?」
大男はエルフ青年に目配せする。
「おい、合ってるのか」
「まあ、正解っぽいけど、実は僕も正確には覚えてなくて……」
いや、それ問題出した意味なくね? というより、答えられるとは思ってなかっただろ。
などと承治が考えていると、ユンフォニアは不満げに口をすぼめる。
「いいや不正解だ。コンスティーナが抜けておる。正解は、ユンフォニア・サクソン・アノ・カリヨン・ピッケ・コンスティーナ・ファゴット・カスタリアだ。なんなら王家の親族全員の名を答えてもよい。それよりジョージよ、そろそろ余の名前くらい覚えてはどうだ」
アンタはもう名札ぶら下げといてください。
なんて文句がこの場で言えるわけもなく、承治は気まずそうに目を逸らす。
そして、一連のやり取りで場の空気は微妙な感じになってきた。
いささか当惑していた大男は、そろそろ我慢の限界だったのか、承治の胸倉を掴んで強引に迫る。
「とにかく、王女様の名前なんて今はどうでもいいんだよ。お遊びはこのくらいにして本当のことを言いな。一発ぶち込めば目が覚めるか? ああ?」
すると、ユンフォニアが大男を制止するかのように声を上げる。
「待て! 証拠ならある。余の腰に下がっている短剣を見ろ。これは我が家に伝わる家宝だ。柄に王家の紋章が刻印されておる」
その言葉に応じ、今度はエルフ青年がユンフォニアの腰から短剣を抜く。
「……確かに、これはカスタリア金貨に刻まれているものと同じ王家の紋章だ。この装飾も並みの品じゃない」
大男は苛立たしげに口を開く。
「てめぇまでコイツらの冗談に付き合うってのか? 王女様が街をうろついてるわけねぇだろ。俺達を騙そうとしてんだ」
エルフ青年は冷静に応じる。
「だけど、彼らが言ってることが事実なら少しマズい事になる。王女様が誘拐されたなんて知れたら、王都は大騒ぎだ。貴族の子供一人がいなくなるのとは訳が違う」
「じゃあどうしろって言うんだよ! とにかくボスに報告だ。後のことを考えるのはそれからでもいい」
「待てよ。ボスに報告なんてしたら僕らは本当に手を引けなくなるぞ」
言い争いをする二人に対し、承治は気になることを問いかける。
「ボスって、首謀者がいるのか?」
その言葉に、エルフ青年が応えた。
「ああ、僕らはとどのつまり雇われさ。儲け話があるって、この誘拐を持ちかけられたんだ」
そんな告白に対し、承治は必死に頭を回転させて交渉の余地を見いだした。
「なら、取引をしないか」
もはや考えるまでもないが、これは明らかに誘拐というやつだ。
しかし、誘拐犯二人の会話に耳を傾けていると、どうやら彼らは目の間の少女が第一王女ユンフォニアであることに気付いていないらしい。
恐らくユンフォニアと承治のことを貴族令嬢とその付き人か何かと勘違いしているのだろう。
そんなことを考えているうちに、馬車は目的地と思しき場所に到着したらしい。
揺れが収まると同時に、承治とユンフォニアは背中をこつかれて薄暗い納屋のような空間に連れ出された。
床には藁が敷かれ、窓は全て高い位置にある。恐らく人気のない場所なのだろう。
藁の山に投げ込まれた承治とユンフォニアは、改めて誘拐犯二人と対面する。
一方は服屋の売り子を装っていたエルフ青年で、もう一方はガタイのいい強面の大男だ。エルフ青年は一見すると大人しそうな見た目をしているが、大男の方はいかにもヤクザな雰囲気を纏っている。
大男は承治に近づき口を塞いでいた布を解く。
そして、ニタニタと不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。
「おっと、叫んでも無駄だぜ。ここはそういう場所だ」
「抵抗する気はありませんよ」
正直なところ、承治は心臓が張り裂けそうになるほどビビっていた。
だが、ユンフォニアがいる手前、取り乱すわけにもいかず、なんとか冷静さを装うことができた。
「なんだ、意外に素直だな。俺達の言う通りにすれば命だけは助けてやる。俺達の目的がわかるか?」
「身代金ですか」
大男は満足げに頷く。
同時に、承治はいささか安心した。なぜなら、身代金目的の誘拐ならすぐに殺される心配がないと思ったからだ。
大男は尚も余裕の表情で話を続ける。
「話が早くて助かるぜ。とりあえず、どこの家のモンか言いな。そこの嬢ちゃんは貴族なんだろ?」
その言葉に、承治とユンフォニアは目を見合わせる。
ここで身分を偽るという選択肢もあったが、承治はあえて正体を明かすことにした。
「ええと、その、実を言うと、そこの彼女は国王カスタリア三世の長女ユンフォニア姫なんです……」
すると、大男は一瞬きょとんとした表情を見せたが、次の瞬間大笑いを始めた。
「お姫様だって? この小娘が次期女王のユンフォニア姫だって言うのか? にいちゃんよう、あんまり俺達をバカにすると痛い目みるぜ」
「いや、それが本当なんです……とりあえず、彼女の口を自由にしてあげられませんか? 直接聞いてみればいい」
「おもしれぇ。聞いてやろうじゃねぇか」
大男はユンフォニアの口を塞ぐ布をほどく。
口が自由になったユンフォニアは、「ぷはっ」と息を吸い込み大男に告げた。
「その男ジョージの言う通り、余はカスタリア王国第一王女のユンフォニアだ。嘘偽りはない」
「おいおい、嬢ちゃんまで俺達をからかう気か?」
すると、大男の傍らで佇んでいたエルフ青年が口を開く。
「なら、ユンフォニア王女の長ったらしい本名を言ってみなよ。自慢じゃないが、僕は記憶力には自信がある。君が第一王女だというなら、自分の名前くらい言えるだろ」
「ふむ。それは良いアイディアだ。ではジョージ、答えてみよ」
えっ、なんで俺に振るの? 自分で言えばよくない?
承治は仕方なく今朝の記憶を引き出す。
「ええと、ユンフォニア・サクソン・アノ・カリヨン・ピッケ・ファゴット・カスタリア……だっけ?」
大男はエルフ青年に目配せする。
「おい、合ってるのか」
「まあ、正解っぽいけど、実は僕も正確には覚えてなくて……」
いや、それ問題出した意味なくね? というより、答えられるとは思ってなかっただろ。
などと承治が考えていると、ユンフォニアは不満げに口をすぼめる。
「いいや不正解だ。コンスティーナが抜けておる。正解は、ユンフォニア・サクソン・アノ・カリヨン・ピッケ・コンスティーナ・ファゴット・カスタリアだ。なんなら王家の親族全員の名を答えてもよい。それよりジョージよ、そろそろ余の名前くらい覚えてはどうだ」
アンタはもう名札ぶら下げといてください。
なんて文句がこの場で言えるわけもなく、承治は気まずそうに目を逸らす。
そして、一連のやり取りで場の空気は微妙な感じになってきた。
いささか当惑していた大男は、そろそろ我慢の限界だったのか、承治の胸倉を掴んで強引に迫る。
「とにかく、王女様の名前なんて今はどうでもいいんだよ。お遊びはこのくらいにして本当のことを言いな。一発ぶち込めば目が覚めるか? ああ?」
すると、ユンフォニアが大男を制止するかのように声を上げる。
「待て! 証拠ならある。余の腰に下がっている短剣を見ろ。これは我が家に伝わる家宝だ。柄に王家の紋章が刻印されておる」
その言葉に応じ、今度はエルフ青年がユンフォニアの腰から短剣を抜く。
「……確かに、これはカスタリア金貨に刻まれているものと同じ王家の紋章だ。この装飾も並みの品じゃない」
大男は苛立たしげに口を開く。
「てめぇまでコイツらの冗談に付き合うってのか? 王女様が街をうろついてるわけねぇだろ。俺達を騙そうとしてんだ」
エルフ青年は冷静に応じる。
「だけど、彼らが言ってることが事実なら少しマズい事になる。王女様が誘拐されたなんて知れたら、王都は大騒ぎだ。貴族の子供一人がいなくなるのとは訳が違う」
「じゃあどうしろって言うんだよ! とにかくボスに報告だ。後のことを考えるのはそれからでもいい」
「待てよ。ボスに報告なんてしたら僕らは本当に手を引けなくなるぞ」
言い争いをする二人に対し、承治は気になることを問いかける。
「ボスって、首謀者がいるのか?」
その言葉に、エルフ青年が応えた。
「ああ、僕らはとどのつまり雇われさ。儲け話があるって、この誘拐を持ちかけられたんだ」
そんな告白に対し、承治は必死に頭を回転させて交渉の余地を見いだした。
「なら、取引をしないか」
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