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第1章 森に住む少年
4. ロックの実力
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いつものように狩りをするつもりで、ロック達は森に出ていた。トライギドラスに乗って、上空から獲物を探していた時に、馬車を襲うオークの群れを見つけたのだった。
「ブヒィ! ブモゥ! ブヒブヒ!!」
オークジェネラルに率いられた群れが馬車に殺到する。
「キャアアア!」
女にとって、オークは最悪の魔物と言っていい。
エサにされるのは勿論だが、繁殖に使われてしまうからだ。
オークやゴボルト、ゴブリンにオーガ。
この種類の魔物にはメスがいない。他種族のメスを使って繁殖するのだが、ゴボルトはやはり犬型の魔物のメスを使う事が多い。オーガもその体格上、あまり人間の女を使わないし、それほど繁殖期も来ない。ゴブリンに至っては、メスなら何でも可であり、為に爆発的な繁殖力を持つ。
だが、オークは好んで人間や亜人の女を使う。また、オークは性欲が異常に強く、女達は身も心もボロボロになってしまう。
そんな女達が一杯いることに気付いているように、オーク共は馬車へ殺到したのだった。
「ブヒヒヒヒィ! ブモゥ!」
馬車の扉がこじ開けられ、中の女達を確認し奇声をあげるオーク。奴隷商人と護衛の戦士も必死の抵抗をするものの、絶対的に数が不足していた。
結界がなくなった事がまだ知られていない。
以前ならばこれで、充分といえる位の低ランク魔物しか現れてなかったのだから。
Cランクのオークジェネラルが出てくるなど予想外であり、群れの数も予想外だった。
「キャアアア! 嫌アアアア!」
女達も借金奴隷の身であり、娼館に売られる事もあるのは納得していた。犯罪奴隷では無いため、ある程度の人権は保証されてはいる。
まさか、オークの群れに襲われるなんて!?
殴られ、気絶させられてオークに担がれていく女達。
「えぇい!」
そんな中、銀髪の獣人の少女が抵抗し馬車からの脱出に成功する。が、馬車の回りには嘲り笑うオークの群れがいた。
「そんな…」
まだ10歳位の少女だ。
見ると、中にはいきり立つものを露出させて迫るオークもいる。
「うげ…、気持ち悪い。でも、ここまで絶望的?」
「伏せろ!」
やや遠くから聞こえてくる声に反応する。
「誰?」
伏せた少女の上を、風魔法ウィンドカッターの煌めく刄が飛び交っていく。
「ブッギャーアアアア!」
オークが切り刻まれていく。
「大丈夫?」
少女の横に、緑の髪の少年が降り立った。
「ドラン、助けよう!」
「パルルルル【オークは?】」
「ピルルルル【食っていい?】」
「プルルルル【旨そう!】」
首の根元? を擦って指示するロックに、ドランがオークを食べていいか聞いてくる。
群れの為にD+ランクとなっているオークなので、Cランク位のパーティーでないと本来は太刀打ち出来ない。が、ギルドに行ってないのでランク外評価となっているが、実際はかなりの高ランクといえるロックと、A+ の可能性があるドラン。全く問題なかった。
「いいよ! ドラン、肉祭り食べ放題!」
「ピルルルル【お肉♪】」
「プルルルル【お肉♪】」
「パルルルル【食べ放題♪】」
オークは、狩る側から狩られる側になった。
「ブッギャーアアアア!!」
ガブリ! バキバキ! ゴックン♪
爪や噛み付き、尻尾の攻撃で、どんどんオークを倒していくドラン。そのまま食らい付いていく。
ロックも背の大剣を抜いて攻撃する。
コルニアスの剣技を意識に刷り込まれている為、剣がスムーズにオーク共を切り裂いていく。
「ブーギ、ブッギャーギャー!」
オークジェネラルが1声吠える。すると、ほとんどのオークが一目散に逃げ出す。
「助かった? でも? 皆居ます? オークに連れ去られた方がいますか?」
破壊され、蹂躙された馬車に尋ねるロック。
と、横に銀髪の少女が来て、
「3人足らないです。ここに、私含めて10人の女性がいました。でも」
ケガしているのを含めて6人しかいない。
「3人? うわ?」
ここでロックは女達の格好に気付く。奴隷だからだろうか。皆、下着姿だったのだ。
「助けてくれてありがとう。貴方、凄く強いんですね。格好良かった。本当にありがとう。あの?」
銀髪の少女も気付く。
目の前の少年が、真っ赤な顔で外方向いている事を。
「あ!」
自分が下着姿だという事を。
もう1台の馬車は無事だった。
「君? 本当にありがとう! お陰で助かったよ。お礼もしたいし、どうかな? このままアゥゴーまで一緒に」
「あ、あの、お礼はいいです。あの、ドランが上で睨んでるし、多分もうオークは来ないとは思うんですけど、念のため街まで送ります」
上空には、オークを腹一杯食べて満足げなトライギドラスが飛んでいる。
「パルルルル【お肉何処だ?】」
「ピルルルル【お肉何処だ?】」
「プルルルル【出てこい 、お肉♪】」
「後、オーク達の巣が何処か、僕の従魔のレツ…、レトパトが追い掛けています。わかったら教えます」
そう言うと森の出口まで送り届けたのだった。
街の入り口前の広場。森の出口。
奴隷商人2人と馬車1台の中から出てくる10人の女達。そして外にいる6人の女。
アゥゴーの街より警備員が近付き声をかける。
「大丈夫か? 皆さん無事か? ケガ人とかは?」
「ケガ人はいません。3人の女がオークに連れ去られましたが、残りは無事です。あの子のお陰です」
森の出口に1人の少年。
「あの子!」
「ロックニャ!」
「まさか、あの子が1人で?」
「えぇ。あの子も信じられない位強かったのですが、あの子の従魔が! トライギドラスが片っ端からオークを平らげてしまって」
『信じられない位強い』『従魔のトライギドラス』
街の入り口。そこにいる冒険者や商人、ギルドや警備の人間が不思議そうに森の出口の少年を見る。
身の丈近い大剣、不思議な素材のバンディッツメイルを見に着けた少年。まだ10歳前後にしか見えない。
しかも、従魔にトライギドラス?
Aランクの3つ首竜。アゥゴーの街位なら壊滅出来る程の天災的魔物。それを従魔に?
「ここにいるシオン達も確認して報告を受けているわ。ギルドはあの子を凄腕のテイマーと認識しています」
ギルドマスター・ルミナの言葉に、回りの雰囲気が変わった。
ギルドが凄腕のテイマーと認めた? とは言ってもまだ子供。楽にとり込められるだろう、冒険者にそんな気配が漂いだしたのである。
「ロック君、ありがとう。お礼もあるし、色々話もしたい。街に来てもらえないかな?」
シオンが話し掛ける。
「シオンさん、でしたよね。あの…、お礼…貰いました。その…、僕に…話無いです。後は、お任せします」
興味なさそう? というより人付き合いが下手過ぎ?
「えと、うん。まぁ、そうかもしれないけど、その」
「シオンも同レベルニャ! 話下手ニャ! ね、ロック君。大変? 面倒? ニャんとニャく分かるけど、世捨人は早すぎるニャ! もう少しお姉さんたちと関わってみるニャ。とりあえず食事! 一緒にどうニャ?」
会話が続かないシオンを見かねて突っ込むミーナ。
「はい? え? 食事!? ですか?」
「このお兄さんが奢ってあげるニャ!」
シオンの肩を叩くミーナ。呆れるパーティーメンバー。
「どうニャ? 街1番の宿の食堂でお腹一杯食べてみニャいかニャ?」
「俺の奢り? 街1番って『至高の楽園』のか?」
慌てるシオン。ランクC冒険者として稼いではいるが、『至高の楽園』は街1番の高級宿だ。食堂もそれに付随した味と価格になっている為に2つ返事で、とは言い難い。
「ロックさん、シオンさんも。その食事は私がお礼として出させてもらいますよ。どうでしょうか? ロックさん!?」
奴隷商人の1人、代表であるチャイ=タークが話し掛ける。こっそりホッとするシオン。
ロックも断り切れないかな? と思い始めた。
「そう…ですね。あぁ、君の服とかもあるし買い物、必要だよね」
「あ、少しは持っているのです。馬車の中に…」
「馬車、壊されて、荷物ボロボロにされてた。それ以外だったの?」
「うーん、あれだけど…」
ロックの後ろ、よく見るとローブ姿の銀髪の獣人少女がいる。
「あれ? あの娘は?」
すると、奴隷商人タークが
「お礼として、あの獣人の少女を彼に譲渡しました。南の山村で魔物に襲われて両親を失ったんです。身寄りが無いため私共の処に来たのですが、犯罪も借金も無いので。丁度歳も同じ位ですし。彼に尽くす事を彼女も了承したので」
「じゃあロックの所有奴隷?」
「いえ。あの子は直ぐ奴隷証文を破り捨てました。尤も譲渡した奴隷をどうしようと、あの子の自由ですが」
「じゃあ、あの娘は自由民ニャ?」
「ですね。もはや私共は関知致しません」
そんな話をしている最中、ロックが何かブツブツ言い出す。
「ここは? 森から外れて、川向うの岩場の先の広場? 川縁で村が出来つつ…、あれ? 数が倍以上? ジェネラルが2匹? 」
「どうしたニャ?」
「多分レトパトだ。偵察する時、レトパトは見た物を従魔の絆で結ばれた主に、そのまま送れる能力を持っている。手紙を運ぶだけが能の鳥じゃないんだ。攻撃力はあまりないけど、かなり使える魔物なんだよ。尤もメチャクチャ人間嫌いで中々慣れてくれないし、テイムしにくい魔物ではあるけど」
「それ、凄いニャ!」
「凄腕のテイマーだな、本当に」
シオンの呟きに皆頷く。
と同時に、何としても自分達のパーティーに入れる! やや黒い雰囲気が漂ってきた。
通信が終わったのだろう。ロックはシオン達を見ると
「オークの村、行先わかりました。森から出て岩場の広場の川縁。只、数が倍以上です。ジェネラルも2匹いました。村の真ん中に大きな家あります。ひょっとしたら…」
「王クラスが、オークキングがいるかもしれない訳か」
オークキング。ジェネラルの上位種。ランクB。
その力は強大で、中レベルながら大地属性魔法すら使う魔物。
回りが騒ぎ出す。
『紅き閃光』の少年達も、
「シオンさん、キングがいるとなるとE+の俺達じゃ」
「厳しい、か。Cの俺達もチト厳しいな。ルミナ、盗賊討伐隊はいつ帰ってくるんだっけ?」
「明後日よ。そしたらB+の『電光の大斤』やA+の『悠久の風』が帰ってくるわ」
「くっ! オーク討伐だけなら兎も角、女達の救出を考えると、明日には出発したい。だが…」
ランクの差は、ある意味絶望的な壁だ。1つ上位なら巧くいけば、という状況なのだ。
「あの…、オークキングは任せて下さい。ドランなら大丈夫だし、その、僕も…、前、オーガキング倒した事、あります」
ロックが、自分を指して言う。
オーガキングもランクBだ。つまり、この少年はランクB並みか、それ以上の戦闘力を持つ事になる。
「そうか? 本当に君は凄いな。ルミナ? 俺達とこの子。それに『紅き閃光』で明日出発する。確かに、トライギドラスがいれば、オークキングも何とかなる」
「そうね。貴方のトライギドラスは『捕食』持ち?」
「え? あ、はい。ドランとスライ…僕のビッグスライムは『捕食』を持っています」
これで、トライギドラスのA+は確定した。
「A+?」
ざわめきが大きくなる。ランクAで充分天災的な魔物なのだ。
「あいつらだけで、小国位なら潰せるんじゃ?」
場の雰囲気が変わる。パーティーに入れる事よりも、この子を怒らせない、関わらないっていうものに。
そして、ミーナは勿論シオンも理解する。この子は1人で生きざるを得ないのだと。こんなに腫れ物のように思われていたら、とても街で一般の者とは暮らせない。雰囲気に居たたまれなくなってしまう。ましてや多感な少年の時期では!
「明日…ですね。また、明日の朝、ここに来ます」
雰囲気を察し、帰ろうとするロック。
「待つニャ!」
ミーナに捕まって抱きしめられてしまう。
「ふぁ? み、ミーナさん?」
「だから、世捨人にニャるには早すぎるニャ!」
「いえ、あの…1人じゃ…無いです。その、…お嫁さん、貰いました」
ボン!
「ニャ?」
見ると銀髪の少女が瞬間ボイラーに早替わりし真っ赤になっている。
「お、お嫁さん…」
焦って照れて、呟く少女。言った少年も真っ赤になっている。それを生暖かな目で見るミーナ。
「それは結構な事ニャ。だとしても、ご飯の約束したニャ。この娘の買い物もあるニャ? 今夜はこの街に泊まるニャ! ところで、貴女の名前は何ニャ?」
「お嫁さん…、え? あ、名前? その、リルフィンです。あたし、リルフィンと言います」
「ふーん、犬族、いや狼族ニャ?」
ビックリするボイラー。コクンと頷く。
奴隷商人に聞こえていない。ミーナも、そう見てとったので頷き返すだけで済ます。
犬族なら一般的だが、狼族となると希少価値が出る。無償で譲渡しているだけに、「いや、やっぱり…」ともめるかもしれない。そうミーナも察した。
「よし! じゃあ、お姉さんと買い物するニャ! 服とか選んであげるニャ。その後、シオンの奢りでパーティーニャ!!」
「何でだ?」
反論? とまではいかなくても、ミーナに確認するシオン。だが、ミーナは勿論、リラやデガンにとっても既に既成事実となっていた。
「何でだよ?」
「ま、諦めろ」
他人事、と呟くデガンに、仕方ないよ、というオーラ全開のリラ。
シオンも忘れていた。奴隷商人のタークが出すと言った事を。しかし、こうなるとタークも話の流れに任せてしまう。出さずに済むのなら越したことはない。
なので、本当にシオンの奢りになってしまうのである。
「ブヒィ! ブモゥ! ブヒブヒ!!」
オークジェネラルに率いられた群れが馬車に殺到する。
「キャアアア!」
女にとって、オークは最悪の魔物と言っていい。
エサにされるのは勿論だが、繁殖に使われてしまうからだ。
オークやゴボルト、ゴブリンにオーガ。
この種類の魔物にはメスがいない。他種族のメスを使って繁殖するのだが、ゴボルトはやはり犬型の魔物のメスを使う事が多い。オーガもその体格上、あまり人間の女を使わないし、それほど繁殖期も来ない。ゴブリンに至っては、メスなら何でも可であり、為に爆発的な繁殖力を持つ。
だが、オークは好んで人間や亜人の女を使う。また、オークは性欲が異常に強く、女達は身も心もボロボロになってしまう。
そんな女達が一杯いることに気付いているように、オーク共は馬車へ殺到したのだった。
「ブヒヒヒヒィ! ブモゥ!」
馬車の扉がこじ開けられ、中の女達を確認し奇声をあげるオーク。奴隷商人と護衛の戦士も必死の抵抗をするものの、絶対的に数が不足していた。
結界がなくなった事がまだ知られていない。
以前ならばこれで、充分といえる位の低ランク魔物しか現れてなかったのだから。
Cランクのオークジェネラルが出てくるなど予想外であり、群れの数も予想外だった。
「キャアアア! 嫌アアアア!」
女達も借金奴隷の身であり、娼館に売られる事もあるのは納得していた。犯罪奴隷では無いため、ある程度の人権は保証されてはいる。
まさか、オークの群れに襲われるなんて!?
殴られ、気絶させられてオークに担がれていく女達。
「えぇい!」
そんな中、銀髪の獣人の少女が抵抗し馬車からの脱出に成功する。が、馬車の回りには嘲り笑うオークの群れがいた。
「そんな…」
まだ10歳位の少女だ。
見ると、中にはいきり立つものを露出させて迫るオークもいる。
「うげ…、気持ち悪い。でも、ここまで絶望的?」
「伏せろ!」
やや遠くから聞こえてくる声に反応する。
「誰?」
伏せた少女の上を、風魔法ウィンドカッターの煌めく刄が飛び交っていく。
「ブッギャーアアアア!」
オークが切り刻まれていく。
「大丈夫?」
少女の横に、緑の髪の少年が降り立った。
「ドラン、助けよう!」
「パルルルル【オークは?】」
「ピルルルル【食っていい?】」
「プルルルル【旨そう!】」
首の根元? を擦って指示するロックに、ドランがオークを食べていいか聞いてくる。
群れの為にD+ランクとなっているオークなので、Cランク位のパーティーでないと本来は太刀打ち出来ない。が、ギルドに行ってないのでランク外評価となっているが、実際はかなりの高ランクといえるロックと、A+ の可能性があるドラン。全く問題なかった。
「いいよ! ドラン、肉祭り食べ放題!」
「ピルルルル【お肉♪】」
「プルルルル【お肉♪】」
「パルルルル【食べ放題♪】」
オークは、狩る側から狩られる側になった。
「ブッギャーアアアア!!」
ガブリ! バキバキ! ゴックン♪
爪や噛み付き、尻尾の攻撃で、どんどんオークを倒していくドラン。そのまま食らい付いていく。
ロックも背の大剣を抜いて攻撃する。
コルニアスの剣技を意識に刷り込まれている為、剣がスムーズにオーク共を切り裂いていく。
「ブーギ、ブッギャーギャー!」
オークジェネラルが1声吠える。すると、ほとんどのオークが一目散に逃げ出す。
「助かった? でも? 皆居ます? オークに連れ去られた方がいますか?」
破壊され、蹂躙された馬車に尋ねるロック。
と、横に銀髪の少女が来て、
「3人足らないです。ここに、私含めて10人の女性がいました。でも」
ケガしているのを含めて6人しかいない。
「3人? うわ?」
ここでロックは女達の格好に気付く。奴隷だからだろうか。皆、下着姿だったのだ。
「助けてくれてありがとう。貴方、凄く強いんですね。格好良かった。本当にありがとう。あの?」
銀髪の少女も気付く。
目の前の少年が、真っ赤な顔で外方向いている事を。
「あ!」
自分が下着姿だという事を。
もう1台の馬車は無事だった。
「君? 本当にありがとう! お陰で助かったよ。お礼もしたいし、どうかな? このままアゥゴーまで一緒に」
「あ、あの、お礼はいいです。あの、ドランが上で睨んでるし、多分もうオークは来ないとは思うんですけど、念のため街まで送ります」
上空には、オークを腹一杯食べて満足げなトライギドラスが飛んでいる。
「パルルルル【お肉何処だ?】」
「ピルルルル【お肉何処だ?】」
「プルルルル【出てこい 、お肉♪】」
「後、オーク達の巣が何処か、僕の従魔のレツ…、レトパトが追い掛けています。わかったら教えます」
そう言うと森の出口まで送り届けたのだった。
街の入り口前の広場。森の出口。
奴隷商人2人と馬車1台の中から出てくる10人の女達。そして外にいる6人の女。
アゥゴーの街より警備員が近付き声をかける。
「大丈夫か? 皆さん無事か? ケガ人とかは?」
「ケガ人はいません。3人の女がオークに連れ去られましたが、残りは無事です。あの子のお陰です」
森の出口に1人の少年。
「あの子!」
「ロックニャ!」
「まさか、あの子が1人で?」
「えぇ。あの子も信じられない位強かったのですが、あの子の従魔が! トライギドラスが片っ端からオークを平らげてしまって」
『信じられない位強い』『従魔のトライギドラス』
街の入り口。そこにいる冒険者や商人、ギルドや警備の人間が不思議そうに森の出口の少年を見る。
身の丈近い大剣、不思議な素材のバンディッツメイルを見に着けた少年。まだ10歳前後にしか見えない。
しかも、従魔にトライギドラス?
Aランクの3つ首竜。アゥゴーの街位なら壊滅出来る程の天災的魔物。それを従魔に?
「ここにいるシオン達も確認して報告を受けているわ。ギルドはあの子を凄腕のテイマーと認識しています」
ギルドマスター・ルミナの言葉に、回りの雰囲気が変わった。
ギルドが凄腕のテイマーと認めた? とは言ってもまだ子供。楽にとり込められるだろう、冒険者にそんな気配が漂いだしたのである。
「ロック君、ありがとう。お礼もあるし、色々話もしたい。街に来てもらえないかな?」
シオンが話し掛ける。
「シオンさん、でしたよね。あの…、お礼…貰いました。その…、僕に…話無いです。後は、お任せします」
興味なさそう? というより人付き合いが下手過ぎ?
「えと、うん。まぁ、そうかもしれないけど、その」
「シオンも同レベルニャ! 話下手ニャ! ね、ロック君。大変? 面倒? ニャんとニャく分かるけど、世捨人は早すぎるニャ! もう少しお姉さんたちと関わってみるニャ。とりあえず食事! 一緒にどうニャ?」
会話が続かないシオンを見かねて突っ込むミーナ。
「はい? え? 食事!? ですか?」
「このお兄さんが奢ってあげるニャ!」
シオンの肩を叩くミーナ。呆れるパーティーメンバー。
「どうニャ? 街1番の宿の食堂でお腹一杯食べてみニャいかニャ?」
「俺の奢り? 街1番って『至高の楽園』のか?」
慌てるシオン。ランクC冒険者として稼いではいるが、『至高の楽園』は街1番の高級宿だ。食堂もそれに付随した味と価格になっている為に2つ返事で、とは言い難い。
「ロックさん、シオンさんも。その食事は私がお礼として出させてもらいますよ。どうでしょうか? ロックさん!?」
奴隷商人の1人、代表であるチャイ=タークが話し掛ける。こっそりホッとするシオン。
ロックも断り切れないかな? と思い始めた。
「そう…ですね。あぁ、君の服とかもあるし買い物、必要だよね」
「あ、少しは持っているのです。馬車の中に…」
「馬車、壊されて、荷物ボロボロにされてた。それ以外だったの?」
「うーん、あれだけど…」
ロックの後ろ、よく見るとローブ姿の銀髪の獣人少女がいる。
「あれ? あの娘は?」
すると、奴隷商人タークが
「お礼として、あの獣人の少女を彼に譲渡しました。南の山村で魔物に襲われて両親を失ったんです。身寄りが無いため私共の処に来たのですが、犯罪も借金も無いので。丁度歳も同じ位ですし。彼に尽くす事を彼女も了承したので」
「じゃあロックの所有奴隷?」
「いえ。あの子は直ぐ奴隷証文を破り捨てました。尤も譲渡した奴隷をどうしようと、あの子の自由ですが」
「じゃあ、あの娘は自由民ニャ?」
「ですね。もはや私共は関知致しません」
そんな話をしている最中、ロックが何かブツブツ言い出す。
「ここは? 森から外れて、川向うの岩場の先の広場? 川縁で村が出来つつ…、あれ? 数が倍以上? ジェネラルが2匹? 」
「どうしたニャ?」
「多分レトパトだ。偵察する時、レトパトは見た物を従魔の絆で結ばれた主に、そのまま送れる能力を持っている。手紙を運ぶだけが能の鳥じゃないんだ。攻撃力はあまりないけど、かなり使える魔物なんだよ。尤もメチャクチャ人間嫌いで中々慣れてくれないし、テイムしにくい魔物ではあるけど」
「それ、凄いニャ!」
「凄腕のテイマーだな、本当に」
シオンの呟きに皆頷く。
と同時に、何としても自分達のパーティーに入れる! やや黒い雰囲気が漂ってきた。
通信が終わったのだろう。ロックはシオン達を見ると
「オークの村、行先わかりました。森から出て岩場の広場の川縁。只、数が倍以上です。ジェネラルも2匹いました。村の真ん中に大きな家あります。ひょっとしたら…」
「王クラスが、オークキングがいるかもしれない訳か」
オークキング。ジェネラルの上位種。ランクB。
その力は強大で、中レベルながら大地属性魔法すら使う魔物。
回りが騒ぎ出す。
『紅き閃光』の少年達も、
「シオンさん、キングがいるとなるとE+の俺達じゃ」
「厳しい、か。Cの俺達もチト厳しいな。ルミナ、盗賊討伐隊はいつ帰ってくるんだっけ?」
「明後日よ。そしたらB+の『電光の大斤』やA+の『悠久の風』が帰ってくるわ」
「くっ! オーク討伐だけなら兎も角、女達の救出を考えると、明日には出発したい。だが…」
ランクの差は、ある意味絶望的な壁だ。1つ上位なら巧くいけば、という状況なのだ。
「あの…、オークキングは任せて下さい。ドランなら大丈夫だし、その、僕も…、前、オーガキング倒した事、あります」
ロックが、自分を指して言う。
オーガキングもランクBだ。つまり、この少年はランクB並みか、それ以上の戦闘力を持つ事になる。
「そうか? 本当に君は凄いな。ルミナ? 俺達とこの子。それに『紅き閃光』で明日出発する。確かに、トライギドラスがいれば、オークキングも何とかなる」
「そうね。貴方のトライギドラスは『捕食』持ち?」
「え? あ、はい。ドランとスライ…僕のビッグスライムは『捕食』を持っています」
これで、トライギドラスのA+は確定した。
「A+?」
ざわめきが大きくなる。ランクAで充分天災的な魔物なのだ。
「あいつらだけで、小国位なら潰せるんじゃ?」
場の雰囲気が変わる。パーティーに入れる事よりも、この子を怒らせない、関わらないっていうものに。
そして、ミーナは勿論シオンも理解する。この子は1人で生きざるを得ないのだと。こんなに腫れ物のように思われていたら、とても街で一般の者とは暮らせない。雰囲気に居たたまれなくなってしまう。ましてや多感な少年の時期では!
「明日…ですね。また、明日の朝、ここに来ます」
雰囲気を察し、帰ろうとするロック。
「待つニャ!」
ミーナに捕まって抱きしめられてしまう。
「ふぁ? み、ミーナさん?」
「だから、世捨人にニャるには早すぎるニャ!」
「いえ、あの…1人じゃ…無いです。その、…お嫁さん、貰いました」
ボン!
「ニャ?」
見ると銀髪の少女が瞬間ボイラーに早替わりし真っ赤になっている。
「お、お嫁さん…」
焦って照れて、呟く少女。言った少年も真っ赤になっている。それを生暖かな目で見るミーナ。
「それは結構な事ニャ。だとしても、ご飯の約束したニャ。この娘の買い物もあるニャ? 今夜はこの街に泊まるニャ! ところで、貴女の名前は何ニャ?」
「お嫁さん…、え? あ、名前? その、リルフィンです。あたし、リルフィンと言います」
「ふーん、犬族、いや狼族ニャ?」
ビックリするボイラー。コクンと頷く。
奴隷商人に聞こえていない。ミーナも、そう見てとったので頷き返すだけで済ます。
犬族なら一般的だが、狼族となると希少価値が出る。無償で譲渡しているだけに、「いや、やっぱり…」ともめるかもしれない。そうミーナも察した。
「よし! じゃあ、お姉さんと買い物するニャ! 服とか選んであげるニャ。その後、シオンの奢りでパーティーニャ!!」
「何でだ?」
反論? とまではいかなくても、ミーナに確認するシオン。だが、ミーナは勿論、リラやデガンにとっても既に既成事実となっていた。
「何でだよ?」
「ま、諦めろ」
他人事、と呟くデガンに、仕方ないよ、というオーラ全開のリラ。
シオンも忘れていた。奴隷商人のタークが出すと言った事を。しかし、こうなるとタークも話の流れに任せてしまう。出さずに済むのなら越したことはない。
なので、本当にシオンの奢りになってしまうのである。
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ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
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しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。

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