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獣人王国ゲゥドーン
18. 楽しい旅路
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「実力主義、か。よかったよ。帝国は俺の理想を受け継いだままでいてくれてるんだ」
嬉しそうなロンに、私はコクリと頷く。
帝国が獣人を臣民だと明言したのは、確かにロラン1世だけど、西方諸国へ明言し、彼等から抗議を受けたロラン7世曰く。
「それが帝国のヤリ方だ。父祖皇帝ロラン1世の御代より続いている。それで他国に非難され、やがては滅亡するやもしれぬ。が、どうせ不死の国家等無い。帝国は滅ぶ事はあっても、堕落や腐敗があってはならぬのだ」
死ぬのは構わん。が、腐ってはならぬ。
7世陛下は、歴代でも苛烈な方と評判だったらしいけど、皇室の権威と信頼を更に高めた方でもある。9世陛下の『皇家裏話』では「8世は7世のお陰で皇帝とは厳しいモノと演じなくてはならず必死だった」とぼやき続けたって暴露してる。
ちなみに、レン様のお祖父様でまだ矍鑠と御壮健でいらっしゃる方だよ。
「宰相は今エンダー公爵家か。じゃあイングリス伯爵家は?」
「今は公爵家だよ。でも国境警備は譲らないって、未だに南方海洋警備を、海軍を一手に引き受けてるって話」
当時のイングリス伯爵ロイダーは、ゼネデギルア王国の辺境伯に近い立場で、王国の海洋軍事及び交易を牛耳る存在。ウィルザード伯ロランの金銭的にも軍事的にも援護していたんだとか。
勿論、同じく国境防衛に従事していたウィルザード伯爵家の軍事力は、他家と比べても群を抜いてはいた。
つまり王国は、王国内で1、2位の軍事力を持つ両伯爵家に攻められた訳で。例え堕落していなくても持たなかったって事らしいけど、権威権力に溺れ頼り切っていた王国は、実力主義の両伯爵家に全く太刀打ち出来なかったんだ。
まぁ、ウィルザード皇家が出してる建国秘話だから、かなり王国が堕落腐敗してる表現になってる。
前世の私は、それで生命を落としたのだから同情の余地は無いけどね。
翌日。
昼過ぎには、次の宿泊場ホルンスに着いちゃった。で、次の街までは今日中に着くのは無理で野営必須な状況なので、少し効率悪いんだけど、ホルンスの宿屋に入る事になった。
いや、私達だけならもっと速い移動が出来るんだよ。荷馬車を引く驢馬の問題。
「軍馬とかなら、多分次の次位まで行ってるんでしょうがね」
ブルワークさんの荷馬車を引くのは、そこそこ年期の入った驢馬。確かに悪路だろうとペースが落ちる事もなく、魔物が現れても落ち着いてる。私達が討伐するって信じ切ってる感があるんだ。
若い驢馬は、馬力こそ有れ場慣れしてないから、何かのトラブル時に慌てふためき、下手すれば惨事を引き起こす事もある。
「これが正解だと思います」
私やサラは、これでも護衛依頼を結構熟してる。
パニックに陥った馬が暴れて、馬車転落の目に遭った事だってあるんだ。
あの時は「もっと遠くで魔物を捉えて退治してくれたら良かったんだ!」って、護衛料減額されたんだよ、マジで。コッチが子供だと思って、凄い剣幕でイチャモンつけてきたんだ。最後には冒険者を貶む様な事まで言い出したから、私達は言い値を呑んだんだ。
流石に、今はそんな事ないよ。
これでもランクC冒険者なんだから。
宿場町ホルンスは、牛族の郷にも近く、地元名産品として甘酒がある。これ、実は母乳を発酵させて造る、とっても甘くて口当たりも良くって、私達でも飲めるお酒なんだよねー。
幼児なら兎も角、12歳なら多少嗜む事は出来るから、こういう甘いのは是非ともね。
攫われた人の中に、この街出身の者がいたらしくって、私達は大歓迎されたんだ。
で、翌日。
どんなに甘く口当たり良くてもお酒はお酒。
ロンにラグ、サラは二日酔いで「頭痛ぁい」とのたうち回っていたんだ。
「何で1番歳下のリーファが何ともないのよー?」
こちとら聖属性魔物と呼ばれる銀魔狼、つまりは解毒特性持ちだもん。瘴気だって無効化出来てるんだよ。
「何それ?ズルい!」
強い酔いならば解毒と癒しの重ね掛けなんだけど。今回はそれほどでもないから。
「神の名において、皆の状態を回復せよ」
状態回復と軽い癒しを持つ神聖属性集団魔法。
「流石!『銀の聖女』様ね」
「全然、そう思ってないでしょ?」
「だって、ズルいもん」
「テンメぇー!先ずは感謝じゃないの?」
「ガラ悪いし」
朝食に特製カルミルを戴き、次の国境の街へ出発。お土産として特製チーズを分けてもらって。
狼族や狐族と言えど肉食のみって訳じゃ無い。
お野菜は勿論、パンだって食べる。だから、ここの特製チーズって高級品はとっても嬉しいんだ。
牛族、馬族、兎族も肉食べるしね。
獣人の食生活は人族他種族と変わらないんだ。
偶に、誤解されてる事もあるけど。特に地方辺境で。
あ、辺境って言っても帝国やローデルシア等の大国は獣人も各街にいるし、そんな誤解は無いんだけどね。大陸そのものの辺境となると、本当に人族しか居なかったりするから、牛族や兎族が草食って思われてたりするんだ。
しかも手掴みって…。私達だって食器使うわ。
読み書き出来ない者、確かに多いけどね。
少しは魔物に襲われたりもしたけど、ほぼ無事な旅路で、私達は国境を越えた。
帝国とゲゥドーン王国は国境を接してはいない。
間に、山脈諸国と呼ばれる都市…街国家?自治区って言った方がピッタリかな。街道筋に点在する国家群がある。
ローデルシアと帝国、ゲゥドーンの緩衝地帯にもなってしまってるのもあって、此処は昔っから大国に編入された歴史は無い。
…その価値無しって思われてるってのが実情だと思う。私ですら、ね。
そして、帝国国境の街、西方玄関口のザクサントアへ着いた。
ウィルザード帝国に帰って来たんだー!
嬉しそうなロンに、私はコクリと頷く。
帝国が獣人を臣民だと明言したのは、確かにロラン1世だけど、西方諸国へ明言し、彼等から抗議を受けたロラン7世曰く。
「それが帝国のヤリ方だ。父祖皇帝ロラン1世の御代より続いている。それで他国に非難され、やがては滅亡するやもしれぬ。が、どうせ不死の国家等無い。帝国は滅ぶ事はあっても、堕落や腐敗があってはならぬのだ」
死ぬのは構わん。が、腐ってはならぬ。
7世陛下は、歴代でも苛烈な方と評判だったらしいけど、皇室の権威と信頼を更に高めた方でもある。9世陛下の『皇家裏話』では「8世は7世のお陰で皇帝とは厳しいモノと演じなくてはならず必死だった」とぼやき続けたって暴露してる。
ちなみに、レン様のお祖父様でまだ矍鑠と御壮健でいらっしゃる方だよ。
「宰相は今エンダー公爵家か。じゃあイングリス伯爵家は?」
「今は公爵家だよ。でも国境警備は譲らないって、未だに南方海洋警備を、海軍を一手に引き受けてるって話」
当時のイングリス伯爵ロイダーは、ゼネデギルア王国の辺境伯に近い立場で、王国の海洋軍事及び交易を牛耳る存在。ウィルザード伯ロランの金銭的にも軍事的にも援護していたんだとか。
勿論、同じく国境防衛に従事していたウィルザード伯爵家の軍事力は、他家と比べても群を抜いてはいた。
つまり王国は、王国内で1、2位の軍事力を持つ両伯爵家に攻められた訳で。例え堕落していなくても持たなかったって事らしいけど、権威権力に溺れ頼り切っていた王国は、実力主義の両伯爵家に全く太刀打ち出来なかったんだ。
まぁ、ウィルザード皇家が出してる建国秘話だから、かなり王国が堕落腐敗してる表現になってる。
前世の私は、それで生命を落としたのだから同情の余地は無いけどね。
翌日。
昼過ぎには、次の宿泊場ホルンスに着いちゃった。で、次の街までは今日中に着くのは無理で野営必須な状況なので、少し効率悪いんだけど、ホルンスの宿屋に入る事になった。
いや、私達だけならもっと速い移動が出来るんだよ。荷馬車を引く驢馬の問題。
「軍馬とかなら、多分次の次位まで行ってるんでしょうがね」
ブルワークさんの荷馬車を引くのは、そこそこ年期の入った驢馬。確かに悪路だろうとペースが落ちる事もなく、魔物が現れても落ち着いてる。私達が討伐するって信じ切ってる感があるんだ。
若い驢馬は、馬力こそ有れ場慣れしてないから、何かのトラブル時に慌てふためき、下手すれば惨事を引き起こす事もある。
「これが正解だと思います」
私やサラは、これでも護衛依頼を結構熟してる。
パニックに陥った馬が暴れて、馬車転落の目に遭った事だってあるんだ。
あの時は「もっと遠くで魔物を捉えて退治してくれたら良かったんだ!」って、護衛料減額されたんだよ、マジで。コッチが子供だと思って、凄い剣幕でイチャモンつけてきたんだ。最後には冒険者を貶む様な事まで言い出したから、私達は言い値を呑んだんだ。
流石に、今はそんな事ないよ。
これでもランクC冒険者なんだから。
宿場町ホルンスは、牛族の郷にも近く、地元名産品として甘酒がある。これ、実は母乳を発酵させて造る、とっても甘くて口当たりも良くって、私達でも飲めるお酒なんだよねー。
幼児なら兎も角、12歳なら多少嗜む事は出来るから、こういう甘いのは是非ともね。
攫われた人の中に、この街出身の者がいたらしくって、私達は大歓迎されたんだ。
で、翌日。
どんなに甘く口当たり良くてもお酒はお酒。
ロンにラグ、サラは二日酔いで「頭痛ぁい」とのたうち回っていたんだ。
「何で1番歳下のリーファが何ともないのよー?」
こちとら聖属性魔物と呼ばれる銀魔狼、つまりは解毒特性持ちだもん。瘴気だって無効化出来てるんだよ。
「何それ?ズルい!」
強い酔いならば解毒と癒しの重ね掛けなんだけど。今回はそれほどでもないから。
「神の名において、皆の状態を回復せよ」
状態回復と軽い癒しを持つ神聖属性集団魔法。
「流石!『銀の聖女』様ね」
「全然、そう思ってないでしょ?」
「だって、ズルいもん」
「テンメぇー!先ずは感謝じゃないの?」
「ガラ悪いし」
朝食に特製カルミルを戴き、次の国境の街へ出発。お土産として特製チーズを分けてもらって。
狼族や狐族と言えど肉食のみって訳じゃ無い。
お野菜は勿論、パンだって食べる。だから、ここの特製チーズって高級品はとっても嬉しいんだ。
牛族、馬族、兎族も肉食べるしね。
獣人の食生活は人族他種族と変わらないんだ。
偶に、誤解されてる事もあるけど。特に地方辺境で。
あ、辺境って言っても帝国やローデルシア等の大国は獣人も各街にいるし、そんな誤解は無いんだけどね。大陸そのものの辺境となると、本当に人族しか居なかったりするから、牛族や兎族が草食って思われてたりするんだ。
しかも手掴みって…。私達だって食器使うわ。
読み書き出来ない者、確かに多いけどね。
少しは魔物に襲われたりもしたけど、ほぼ無事な旅路で、私達は国境を越えた。
帝国とゲゥドーン王国は国境を接してはいない。
間に、山脈諸国と呼ばれる都市…街国家?自治区って言った方がピッタリかな。街道筋に点在する国家群がある。
ローデルシアと帝国、ゲゥドーンの緩衝地帯にもなってしまってるのもあって、此処は昔っから大国に編入された歴史は無い。
…その価値無しって思われてるってのが実情だと思う。私ですら、ね。
そして、帝国国境の街、西方玄関口のザクサントアへ着いた。
ウィルザード帝国に帰って来たんだー!
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