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自由奔放な少女達
9. 帝国の中枢は…
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ウィルザード帝国皇宮。
獣人王国ゲゥドーン特使グラン王子からの申し出、『銀の聖女』の助力要請を私は陛下達に諮る事にした。
「ふむう」
「陛下、教会としては反対、と申し上げます」
帝国最高教会大司教チャールズ。
先日、銀の聖女と侯爵家としても交流を持ったと聞く。
「『銀の聖女』の事は大陸に知れ渡っております。一介の冒険者が個人的に参戦するのとは訳が違いますぞ」
「大司教猊下の意見に私も賛成します」
帝国宰相ジュリー=エンダー公爵。
「『銀の聖女』は帝国公認の通称となっております。西方諸国とゲゥドーンとの戦争に、帝国が加担…、いや介入したと各国に取られかねません」
「それに、あの様な年端も行かぬ少女を戦に駆り出したと他国に誹られかねません。いくら彼女個の力が騎団に匹敵しようとも、これは道理に叶わぬ事と存じます」
皇太子付近衛騎団団長ダスカー。
「また、個人的にも彼女は娘同然と呼べる存在です。とても戦場に送る事、同意出来様筈もない事、諸氏及び陛下には納得頂けるものと」
そう。
彼女を冒険者と仕込んだ恩人。彼女自身も公言しているし、まるで親娘とも言える雰囲気と会話を皇宮でもしていた事、誰もが認知している。
「誰も賛同せず、か。特使グラン王子には申し訳ないがな。余もあれ程小さく愛らしい娘を戦場に送る事は、とても認められる事ではない。仮に彼女が『赴く』と主張したとしても、だ」
先日の祝賀会は、ある意味大きい。
伝え聴く評判と彼女の容姿が全く釣り合わないのだ。
ドレスアップした彼女は、12歳という幼く愛らしい、年相応の美少女でしかなかった。皇妃が言った「神聖属性魔法を使い熟し瘴気竜をも討ち倒す、どれ程猛き女丈夫かと思うておったのです。これ程小さく愛らしい娘だったとは」との言が、共通の認識だったのだ。
「それに、西方諸国の言い分は余も理不尽と思える。故に此度は帝国としての意思表示を敢えて行おうと考えておるが、皆はどう思う」
「宜しいかと。帝国教会もまた、彼等の言う『聖戦』に違を唱える事、宣すべきと考えております」
「西方諸国は『内政干渉』と抗議するでしょうが、敢えて意思表示を行う事、陛下に賛同致します」
最高顧問会とも言える帝国中枢の意思決定。
グラン王子には、多少申し訳ないが…。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「そうですか。とは言え、帝国の意思表示は有り難い。それだけでも、此処へ赴いた甲斐がありました」
グラン王子は感謝の意を伝え、帰国の途についたと報告があった。
そして、グラン王子との約束通りウィルザード帝国皇帝ロラン10世の名において、西方諸国へ「獣人を魔物扱いする事は遺憾である」と宣言した。
また、帝国最高教会大司教チャールズ=ヴェルダートも「獣人への迫害を『聖戦』と呼ぶ事は、主神の意に沿うと言えず。また獣人を魔物とする事も同様」との声明を発した。
大陸中の国々は殆ど『光の神々』を信仰する。
この世界に神々は12神。
そう、光の10神と闇の2神。
主神ヴァイランシア。
生命神フェーダ。
正義と戦いの神ティーラン。
火の精霊神ガンドワ。
水の精霊神アクロス。
風の精霊神エアノード。
大地の精霊神ジアード。
愛と美の女神サリアナ。
商業の神ナンヴァルス。
工藝と酒の神バルグドゥ。
暗黒神ヴォルデス。
自由と欲望の神ベリアガルド。
各教会には、大概光の10神の像があり、中央に主神ヴァイランシアの像が鎮座しまわりに9神、稀に10神が祀られている。
暗黒神ヴォルデスの像がある神殿は無いが、ベリアガルドは自由を司るが故に闇の神で在りながら神殿の末席に祀られる事もあった。
どの神を信仰するにしろ、この世界の教会は光の神々の神殿であり、それは帝国にしろローデルシアやゲゥドーンにしろ変わらない。
無論、西方諸国においても。
本山ではないにしても、我が帝国最高教会の権威は世界中の教会においても大きく、その大司教が「獣人を魔物とするは主神の意に反する」と宣言した事は、西方諸国にとって「神の権威を偽装した」と言っているに等しい。
直様西方6国より帝国へ抗議声明が出たものの、ロラン10世は「無礼なり」と抗議そのものを切って捨てた。
こうなると西方諸国は『聖戦』処ではない。
ウィルザード帝国を怒らせてしまった?
6国の対応は別れ、事態は紛糾した。
見る者が滑稽と感じる程に。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「そんな大事になってたんだ」
「リーファのお陰で獣人の地位が上がった訳だ」
エンテロブルにダスカー団長がやって来て、事の次第を『元気っ娘』に告げた。
「無論、グラン王子自らが再びやって来て帝国へ感謝の意を表したよ」
「そうなんですね」
「ゲゥドーンのダイタス王家って獅子族ですよね。会ってみたかったなぁ」
サラが憧れる感で言うと。
「お前さんも、そう思うか?」
「それはまぁ。獣人娘としては獅子族は憧れの対象だし」
「『銀魔狼』の貴女の方が、より憧れの対象だと思いますよ、『銀の聖女』殿」
エンテロブルの旅宿『夕暮の小麦亭』。
辺境にしては★3つとまではいかなくとも、そこそこ程度のいい宿の食堂で。だからガラの悪い酔っ払いとかはいなくて。
後ろの席に、フード被った男性がいたんだ。
「え?まさか?」
「はじめまして。ゲゥドーンのグランです」
フードをとったグラン王子は、髪型も凛々しく、でも爽やかな雰囲気を見せて。
「な、そ、その!御尊顔を拝し…テテ」
慌てたサラは、舌噛んじゃったりして。
まぁ、私も焦って跪こうとしてイスから転げかけちゃったけど「あ、わわ」。
他国だとしても、ゲゥドーン獅子族王家は、私達獣人にとって特別な存在だから。
カノンは、慌てふためく私達2人に、違う意味でビックリしてた。
獣人王国ゲゥドーン特使グラン王子からの申し出、『銀の聖女』の助力要請を私は陛下達に諮る事にした。
「ふむう」
「陛下、教会としては反対、と申し上げます」
帝国最高教会大司教チャールズ。
先日、銀の聖女と侯爵家としても交流を持ったと聞く。
「『銀の聖女』の事は大陸に知れ渡っております。一介の冒険者が個人的に参戦するのとは訳が違いますぞ」
「大司教猊下の意見に私も賛成します」
帝国宰相ジュリー=エンダー公爵。
「『銀の聖女』は帝国公認の通称となっております。西方諸国とゲゥドーンとの戦争に、帝国が加担…、いや介入したと各国に取られかねません」
「それに、あの様な年端も行かぬ少女を戦に駆り出したと他国に誹られかねません。いくら彼女個の力が騎団に匹敵しようとも、これは道理に叶わぬ事と存じます」
皇太子付近衛騎団団長ダスカー。
「また、個人的にも彼女は娘同然と呼べる存在です。とても戦場に送る事、同意出来様筈もない事、諸氏及び陛下には納得頂けるものと」
そう。
彼女を冒険者と仕込んだ恩人。彼女自身も公言しているし、まるで親娘とも言える雰囲気と会話を皇宮でもしていた事、誰もが認知している。
「誰も賛同せず、か。特使グラン王子には申し訳ないがな。余もあれ程小さく愛らしい娘を戦場に送る事は、とても認められる事ではない。仮に彼女が『赴く』と主張したとしても、だ」
先日の祝賀会は、ある意味大きい。
伝え聴く評判と彼女の容姿が全く釣り合わないのだ。
ドレスアップした彼女は、12歳という幼く愛らしい、年相応の美少女でしかなかった。皇妃が言った「神聖属性魔法を使い熟し瘴気竜をも討ち倒す、どれ程猛き女丈夫かと思うておったのです。これ程小さく愛らしい娘だったとは」との言が、共通の認識だったのだ。
「それに、西方諸国の言い分は余も理不尽と思える。故に此度は帝国としての意思表示を敢えて行おうと考えておるが、皆はどう思う」
「宜しいかと。帝国教会もまた、彼等の言う『聖戦』に違を唱える事、宣すべきと考えております」
「西方諸国は『内政干渉』と抗議するでしょうが、敢えて意思表示を行う事、陛下に賛同致します」
最高顧問会とも言える帝国中枢の意思決定。
グラン王子には、多少申し訳ないが…。
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「そうですか。とは言え、帝国の意思表示は有り難い。それだけでも、此処へ赴いた甲斐がありました」
グラン王子は感謝の意を伝え、帰国の途についたと報告があった。
そして、グラン王子との約束通りウィルザード帝国皇帝ロラン10世の名において、西方諸国へ「獣人を魔物扱いする事は遺憾である」と宣言した。
また、帝国最高教会大司教チャールズ=ヴェルダートも「獣人への迫害を『聖戦』と呼ぶ事は、主神の意に沿うと言えず。また獣人を魔物とする事も同様」との声明を発した。
大陸中の国々は殆ど『光の神々』を信仰する。
この世界に神々は12神。
そう、光の10神と闇の2神。
主神ヴァイランシア。
生命神フェーダ。
正義と戦いの神ティーラン。
火の精霊神ガンドワ。
水の精霊神アクロス。
風の精霊神エアノード。
大地の精霊神ジアード。
愛と美の女神サリアナ。
商業の神ナンヴァルス。
工藝と酒の神バルグドゥ。
暗黒神ヴォルデス。
自由と欲望の神ベリアガルド。
各教会には、大概光の10神の像があり、中央に主神ヴァイランシアの像が鎮座しまわりに9神、稀に10神が祀られている。
暗黒神ヴォルデスの像がある神殿は無いが、ベリアガルドは自由を司るが故に闇の神で在りながら神殿の末席に祀られる事もあった。
どの神を信仰するにしろ、この世界の教会は光の神々の神殿であり、それは帝国にしろローデルシアやゲゥドーンにしろ変わらない。
無論、西方諸国においても。
本山ではないにしても、我が帝国最高教会の権威は世界中の教会においても大きく、その大司教が「獣人を魔物とするは主神の意に反する」と宣言した事は、西方諸国にとって「神の権威を偽装した」と言っているに等しい。
直様西方6国より帝国へ抗議声明が出たものの、ロラン10世は「無礼なり」と抗議そのものを切って捨てた。
こうなると西方諸国は『聖戦』処ではない。
ウィルザード帝国を怒らせてしまった?
6国の対応は別れ、事態は紛糾した。
見る者が滑稽と感じる程に。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「そんな大事になってたんだ」
「リーファのお陰で獣人の地位が上がった訳だ」
エンテロブルにダスカー団長がやって来て、事の次第を『元気っ娘』に告げた。
「無論、グラン王子自らが再びやって来て帝国へ感謝の意を表したよ」
「そうなんですね」
「ゲゥドーンのダイタス王家って獅子族ですよね。会ってみたかったなぁ」
サラが憧れる感で言うと。
「お前さんも、そう思うか?」
「それはまぁ。獣人娘としては獅子族は憧れの対象だし」
「『銀魔狼』の貴女の方が、より憧れの対象だと思いますよ、『銀の聖女』殿」
エンテロブルの旅宿『夕暮の小麦亭』。
辺境にしては★3つとまではいかなくとも、そこそこ程度のいい宿の食堂で。だからガラの悪い酔っ払いとかはいなくて。
後ろの席に、フード被った男性がいたんだ。
「え?まさか?」
「はじめまして。ゲゥドーンのグランです」
フードをとったグラン王子は、髪型も凛々しく、でも爽やかな雰囲気を見せて。
「な、そ、その!御尊顔を拝し…テテ」
慌てたサラは、舌噛んじゃったりして。
まぁ、私も焦って跪こうとしてイスから転げかけちゃったけど「あ、わわ」。
他国だとしても、ゲゥドーン獅子族王家は、私達獣人にとって特別な存在だから。
カノンは、慌てふためく私達2人に、違う意味でビックリしてた。
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