8 / 21
自由奔放な少女達
8. エンデロブルに帰ってきました
しおりを挟む 目眩く帝都での交友。
エンデロブルに帰ってきて、ホッとしたのはマヂです。一応、この街に…、自宅兼拠点があるんです。
「ご馳走三昧で太ったんじゃない?」
「めちゃくちゃ気を使うんだから、そんなワケないんだって」
軽口交わしながら、私達3人は冒険者ギルドへと。
「ね、マリーダ!何かいい依頼ない?」
「あら、お帰り。そうね、コレなんかどお?」
手に持ってる依頼書をそのまま私達の前に。
「ガリザの森で薬草採取?」
「面倒くさそう。でも、コレは」
「私がいないと厳しいかも」
パラプルカは高級ポーションに欠かせない薬草。回復効力もだが、劇的と呼べる程の薬効増幅剤としての役割を持つ。独特の香りを持つが、匂いそのものがかなり薄く、その匂いを覚えてるイヌ系族獣人がいないと探し出す事は極めて困難なんだ。
何せ見た目が雑草とまるで一緒。でもコッチには匂いが無い。
この匂いの差が、勿論他の獣人も他種族と比べると遥かに嗅覚は鋭いけど、イヌ系族獣人じゃないと区別出来るモノじゃないの。
何故匂いを覚えてるかと言えば、神聖属性魔法の使い手たる回復師として、製薬調合という薬師の基本位は出来る様になってる。
これは元『銀の聖女』としての技術の名残。記憶もだけど、あの時習得したワザは、そのまま使えるから。
「あれ?リーファは?」
「薬師程上手くは作れないけどね。一応製薬調合技法知ってるよ」
「『銀の聖女』って何でもあり?」
「ンなワケあるか⁉︎」
とりあえず説得力のある言い訳。
「獣人のガキが生き抜く為の知恵を必死に付けた。コレでも苦労してんの」
「マリーダ。コレ、アタシらがうってつけだと思うから受けるわ」
薬草もだけど、ガリザの森もまた難所なワケで。
此処は古のエルフの森だったらしく。今はいないけどね。でもエルフは、里たる森に他種族が入る事を極端に嫌う。だから森自体に『幻惑』がかかってる場合が多い。それが、既に退去した森であったとしても『幻惑』が解ける事はなくて。
どう対処するか。
事は単純。エルフがいればいい。
ハーフダークエルフだろうと、エルフの血を引く者に『幻惑』は作用しない。だからカノンには、普通の森でしかないんだ。
その辺もあって、サラは「アタシらがうってつけ」と言ってる。
マリーダも熟練受付嬢(歳はいってないよ、若いんだよ)だから、そういうのは熟知していて。
「じゃあ、よろしくね」
ガリザの森は、エンデロブルからだと北になるけど、ベリュー沼地帯よりは遥かに近い。徒歩でも半日歩けば辿り着く。
街道から半日分の距離を外れるワケだけど。
獣人とダークエルフだと、子供でも舗装された石畳街道より獣道の方が歩きやすかったりする。
私達は、苦もなく森へ着いた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
一方その頃。
帝国皇宮を特使が訪れていた。
獣人王国ゲゥドーン特使、第2王子グラン。
ゲゥドーンは獅子族獣人の英雄リーオー=ダイタスが王祖として打ち立てた東方の王国。ウィルザード帝国やローデルシア王国と比べれば小国でしかない。が、この2大国はゲゥドーンの建国を公認し、帝国は国交すら樹立している。ローデルシアも民間レベルでは交易している。
だが西方諸国は、獣人を魔物とし奴隷階級ですら認めていない。そして「魔物の国家の存在を認めず」と、ゲゥドーンに対し『聖戦』の名の下に幾度となく攻め込んでいた。
この件に関し、帝国もローデルシアも無干渉であり、どちらにも支援はしていない。
この戦争がダラダラ長引いているのは、「魔物国家殲滅」を謳い文句とする西方諸国の執念深さと、ある意味魔物とさえ言われる程の獣人達の個々の能力の高さの為に、西方諸国が攻め倦んでいたからである。
そして、第何次か分からぬ聖戦が起ころうとしており、ゲゥドーン特使が国交のある帝国に協力を要請していたのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「殿下に対応頂けるとは思いもよりませんでした」
私の前に、ゲゥドーン特使グラン王子がいる。
「小国と言え貴殿も王子だ。それに、助力の要請が『銀の聖女』の事であれば、私も無関心ではいられない」
そう。
ゲゥドーンの助力要請は、『銀の聖女』の支援を得たい、という事に他ならない。
ベリュー沼地帯の活躍で、彼女の存在感は一気に他国へも広まった。神聖属性魔法の使い手としても、帝国最高教会が司教並と認め、名誉職ではあるが相応の地位を宣言した程の実力がある。
更に、短槍使いとしても近衛騎士に匹敵する戦闘力がある。
場合によっては、彼女1人で1軍にも匹敵し得るのだ。
勿論、彼女は、その戦闘力を誇示する事はない。仲間を、誰かを守るためにのみ発揮していて、その対象に自分を入れない程の天然さを持つ、見てる方がヤキモキする少女だ。
この話。
帝国の要請が無くとも、聞けば彼女は戦地に赴くだろう。
西方の同胞は苦難を強いられている。
彼女はかなり気にしていた。
そして、また無茶をする。
瘴気竜を倒し、沼地を浄化した後倒れ込んだ彼女の、微笑んだ寝顔とは言え蒼く顔色は優れなかった。しかもあの後3日寝込んでいた。
あの顔色は忘れられない。
それ以上に、抱き上げた時の彼女の軽さに愕然としたのだ。
あれ程幼く、小さな身体の何処にあれだけの力を秘めているのか?
「帝国が『銀の聖女』を貸したくない事は重々承知しています。それでも、伏してお願い申し上げる」
頭をテーブルに擦り付ける程下げるグラン王子。
その日、私は返答を保留した…。
エンデロブルに帰ってきて、ホッとしたのはマヂです。一応、この街に…、自宅兼拠点があるんです。
「ご馳走三昧で太ったんじゃない?」
「めちゃくちゃ気を使うんだから、そんなワケないんだって」
軽口交わしながら、私達3人は冒険者ギルドへと。
「ね、マリーダ!何かいい依頼ない?」
「あら、お帰り。そうね、コレなんかどお?」
手に持ってる依頼書をそのまま私達の前に。
「ガリザの森で薬草採取?」
「面倒くさそう。でも、コレは」
「私がいないと厳しいかも」
パラプルカは高級ポーションに欠かせない薬草。回復効力もだが、劇的と呼べる程の薬効増幅剤としての役割を持つ。独特の香りを持つが、匂いそのものがかなり薄く、その匂いを覚えてるイヌ系族獣人がいないと探し出す事は極めて困難なんだ。
何せ見た目が雑草とまるで一緒。でもコッチには匂いが無い。
この匂いの差が、勿論他の獣人も他種族と比べると遥かに嗅覚は鋭いけど、イヌ系族獣人じゃないと区別出来るモノじゃないの。
何故匂いを覚えてるかと言えば、神聖属性魔法の使い手たる回復師として、製薬調合という薬師の基本位は出来る様になってる。
これは元『銀の聖女』としての技術の名残。記憶もだけど、あの時習得したワザは、そのまま使えるから。
「あれ?リーファは?」
「薬師程上手くは作れないけどね。一応製薬調合技法知ってるよ」
「『銀の聖女』って何でもあり?」
「ンなワケあるか⁉︎」
とりあえず説得力のある言い訳。
「獣人のガキが生き抜く為の知恵を必死に付けた。コレでも苦労してんの」
「マリーダ。コレ、アタシらがうってつけだと思うから受けるわ」
薬草もだけど、ガリザの森もまた難所なワケで。
此処は古のエルフの森だったらしく。今はいないけどね。でもエルフは、里たる森に他種族が入る事を極端に嫌う。だから森自体に『幻惑』がかかってる場合が多い。それが、既に退去した森であったとしても『幻惑』が解ける事はなくて。
どう対処するか。
事は単純。エルフがいればいい。
ハーフダークエルフだろうと、エルフの血を引く者に『幻惑』は作用しない。だからカノンには、普通の森でしかないんだ。
その辺もあって、サラは「アタシらがうってつけ」と言ってる。
マリーダも熟練受付嬢(歳はいってないよ、若いんだよ)だから、そういうのは熟知していて。
「じゃあ、よろしくね」
ガリザの森は、エンデロブルからだと北になるけど、ベリュー沼地帯よりは遥かに近い。徒歩でも半日歩けば辿り着く。
街道から半日分の距離を外れるワケだけど。
獣人とダークエルフだと、子供でも舗装された石畳街道より獣道の方が歩きやすかったりする。
私達は、苦もなく森へ着いた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
一方その頃。
帝国皇宮を特使が訪れていた。
獣人王国ゲゥドーン特使、第2王子グラン。
ゲゥドーンは獅子族獣人の英雄リーオー=ダイタスが王祖として打ち立てた東方の王国。ウィルザード帝国やローデルシア王国と比べれば小国でしかない。が、この2大国はゲゥドーンの建国を公認し、帝国は国交すら樹立している。ローデルシアも民間レベルでは交易している。
だが西方諸国は、獣人を魔物とし奴隷階級ですら認めていない。そして「魔物の国家の存在を認めず」と、ゲゥドーンに対し『聖戦』の名の下に幾度となく攻め込んでいた。
この件に関し、帝国もローデルシアも無干渉であり、どちらにも支援はしていない。
この戦争がダラダラ長引いているのは、「魔物国家殲滅」を謳い文句とする西方諸国の執念深さと、ある意味魔物とさえ言われる程の獣人達の個々の能力の高さの為に、西方諸国が攻め倦んでいたからである。
そして、第何次か分からぬ聖戦が起ころうとしており、ゲゥドーン特使が国交のある帝国に協力を要請していたのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「殿下に対応頂けるとは思いもよりませんでした」
私の前に、ゲゥドーン特使グラン王子がいる。
「小国と言え貴殿も王子だ。それに、助力の要請が『銀の聖女』の事であれば、私も無関心ではいられない」
そう。
ゲゥドーンの助力要請は、『銀の聖女』の支援を得たい、という事に他ならない。
ベリュー沼地帯の活躍で、彼女の存在感は一気に他国へも広まった。神聖属性魔法の使い手としても、帝国最高教会が司教並と認め、名誉職ではあるが相応の地位を宣言した程の実力がある。
更に、短槍使いとしても近衛騎士に匹敵する戦闘力がある。
場合によっては、彼女1人で1軍にも匹敵し得るのだ。
勿論、彼女は、その戦闘力を誇示する事はない。仲間を、誰かを守るためにのみ発揮していて、その対象に自分を入れない程の天然さを持つ、見てる方がヤキモキする少女だ。
この話。
帝国の要請が無くとも、聞けば彼女は戦地に赴くだろう。
西方の同胞は苦難を強いられている。
彼女はかなり気にしていた。
そして、また無茶をする。
瘴気竜を倒し、沼地を浄化した後倒れ込んだ彼女の、微笑んだ寝顔とは言え蒼く顔色は優れなかった。しかもあの後3日寝込んでいた。
あの顔色は忘れられない。
それ以上に、抱き上げた時の彼女の軽さに愕然としたのだ。
あれ程幼く、小さな身体の何処にあれだけの力を秘めているのか?
「帝国が『銀の聖女』を貸したくない事は重々承知しています。それでも、伏してお願い申し上げる」
頭をテーブルに擦り付ける程下げるグラン王子。
その日、私は返答を保留した…。
25
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚
ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。
原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。
気が付けば異世界。10歳の少年に!
女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。
お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。
寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる!
勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう!
六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる!
カクヨムでも公開しました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる