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激闘!潜水戦隊
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イギリスから空母が2隻貸し出される。
ドイツ経由で、その情報がもたらされたのは1月も終わろうとする頃である。
その間、太平洋上では特型潜水戦隊とホーネットとの駆け引き…必死の鬼ごっこが繰り広げられていた。
脚の速い新型空母ホーネットにジグザグ航行もだが、少し航路から外れられても待ち伏せする事が出来ず、停泊中は駆逐艦が鵜の目鷹の目で港内外を走り回っていて近付けなかった。やむなく遠方からの雷撃を行うも外れ、或いは駆逐艦の撃沈はあったものの、という結果に終わる。
晴嵐での空襲も2度試みたが、駆逐艦の激烈な対空砲火のせいで失敗していて、しかも初回は6機の晴嵐が失われていた。2度目も這々の体で1機が逃げ延びていた。
イ- 400の戦列復帰は、そういう状況だった。
「これは、ホーネットの艦長の腕か?それとも司令か?」
「確か『海賊ジャック』フレッチャー少将が指揮されているとか」
トラック環礁までは、もはや日本の内海と言える程平穏になり、快適な洋上航行で進んで来た。それ程アメリカ太平洋艦隊は弱体化している。戦艦と空母が殆ど壊滅状態であり、巡洋艦や駆逐艦は退役した老朽艦をも駆り出して数を揃えているのだから。
「艦長、『レーダー波探知』と大原電探長より報告。おそらくガトー級です」
発令所から連絡が入る。
司令塔にいた南田と前原は「急速先行」と返すと見張員等と共にハッチへと飛び込んだ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「潜航し始めました。相手は日本巡洋艦ではなく」
「それに近いサイズの潜水艦、か。どうやら化け物潜水艦の1隻の様だな。散々我が合衆国を困らせてきたヤツだ。これまでの恨みを晴らしてやろう」
太平洋上、トラック環礁へ向かうイ- 400を捉えたのは、ガトー級アメリカ潜水艦オリンピア。
日本の通商破壊活動に対して、アメリカ太平洋艦隊に残されている戦力は駆逐艦もだが潜水艦がメインとなっていた。日本軍が、戦艦や空母をとにかく目標として叩いてた為に潜水艦位しか残った戦力が無かったのもあるが、太平洋艦隊司令のミニッツ大将が潜水艦畑を歩んで来た生粋の潜水艦乗りだと言う事も大きい。
日本は島国だから、殆どの資源を海上輸送に頼るしか無い。通商破壊は日本にとっても致命的なダメージを与える筈。
また駆逐艦は潜水艦の天敵。これはどれほど大型であろうとも潜航中ならば条件は同じ。
ニミッツは持てる潜水艦戦力をぶつけてきたのである。
ハワイから南に3,000キロ。北西から南東に並ぶ島々、ライン諸島。北部のジョンストン島やパルミラ島等がアメリカであり、クリスマス島やスターバック島等南部がイギリス領であるこの諸島は、アメリカからオーストラリアを結ぶ重要な海上交通路となっていた。
これが、フィリピンのマッカーサー軍やインドのイギリス軍の生命線であり東南アジアでの戦力を増強している日本軍に必死の抵抗を続けている。
その為、パルミラ島やクリスマス島には飛行場もあり哨戒機が常に飛び交い、また駆逐艦や駆潜艇が密な哨戒や船団護衛を行っていた。
そして、パルミラ島に第6潜水戦隊61潜水隊として6隻のガトー級潜水艦が配備されていた。
オリンピア、タウトグ、グレイバック、バーブ、スレッシャー、タンボア。
この内オリンピアとタンボアは、休暇の為、あの日偶々真珠湾から本土サンフランシスコ海軍泊地にきていて撃沈を免れていた。
それだけに日本軍の大型潜水艦を沈めるべく意気込んでいたのである。
「ですが艦長。この潜航をみると、此方のレーダー波を探知されたのかもしれませんが」
「フム。彼方さんのレーダーが当艦並の力量だと言う事か」
オリンピア艦長トーマス=フランクス中佐は副長アレックス=レアード少佐の意見に賛同する。
僚艦の艦長の中には、日本人等東洋の黄色人種でしかない、と見下している者もいる。何が劣等なものか。彼等の戦略砲撃潜水艦や潜水空母は、アメリカやイギリスが実用化不可能とした代物なんだぞ!
「旗艦タンボアへ報告。艦隊無線電話を使え。此方の位置を気取られる訳にはいかんからな」
だが、旗艦タンボアにいる戦隊司令ハリス=ランサー大佐は「日本軍がレーダーを配備している等聞いた事が無い。おそらくタイミングの問題だ。バーブと本艦も近くにいる。3艦で攻撃する」と、やや呑気な応えを返してきた。
「レーダーが無い?最新鋭と言える大型潜水艦なんだぞ?コッチに無い装備だって有ると考えるべきじゃないのか?」
「ですね。旗艦艦長ジョン=ホワイト中佐も『日本軍侮難し』の慎重派です。そこは上手くやってくれるでしょう」
「となるとバーブだな」
バーブ艦長マーク=バンディ中佐は確かに優れた軍人なのだが、白人至上主義が見られるキライがある。
「イギリスがいらんモノを日本にくれてやるから。おそらく猿が訳も分からず使ってるのだろうが」
戦略砲撃潜水艦もイギリス艦の猿真似としか思っていない。
その時の激論をフランクス艦長は思い出してしまう。
「本気か?トーマス、猿にそんな高度な潜水艦が造れる訳が無い。イギリスから購入したのは事実なんだぞ」
「イギリスは実用に耐えず、と廃棄同然で日本に売り払ったのだ。それを真珠湾で艦隊を壊滅し得る潜水戦艦へと改良している。それに潜水空母は日本独自の設計だぞ」
「有り得んよ。何処かにいた水上機母艦と大型潜水艦を結びつけた漁民の妄想だろう。それとも君は水上機を発艦させる大型潜水艦を、その目で見たとでも言うのかね」
パナマ沖の漁船の目撃情報しか、潜水空母だという証言は無い。だが現実問題として水上攻撃機による本土空爆が続いているのだ。
そして、付近の海上に水上機母艦等影も形もない。母艦が潜水しているとしか思えないのだ。
「よりにもよって、今回の僚艦がバーブですか」
レアード少佐の溜息に同感だが、嘆くばかりではなく、どう日本軍の特型潜水艦を仕留めるか。
「必ず沈めるぞ。日本軍大型潜水艦め」
ドイツ経由で、その情報がもたらされたのは1月も終わろうとする頃である。
その間、太平洋上では特型潜水戦隊とホーネットとの駆け引き…必死の鬼ごっこが繰り広げられていた。
脚の速い新型空母ホーネットにジグザグ航行もだが、少し航路から外れられても待ち伏せする事が出来ず、停泊中は駆逐艦が鵜の目鷹の目で港内外を走り回っていて近付けなかった。やむなく遠方からの雷撃を行うも外れ、或いは駆逐艦の撃沈はあったものの、という結果に終わる。
晴嵐での空襲も2度試みたが、駆逐艦の激烈な対空砲火のせいで失敗していて、しかも初回は6機の晴嵐が失われていた。2度目も這々の体で1機が逃げ延びていた。
イ- 400の戦列復帰は、そういう状況だった。
「これは、ホーネットの艦長の腕か?それとも司令か?」
「確か『海賊ジャック』フレッチャー少将が指揮されているとか」
トラック環礁までは、もはや日本の内海と言える程平穏になり、快適な洋上航行で進んで来た。それ程アメリカ太平洋艦隊は弱体化している。戦艦と空母が殆ど壊滅状態であり、巡洋艦や駆逐艦は退役した老朽艦をも駆り出して数を揃えているのだから。
「艦長、『レーダー波探知』と大原電探長より報告。おそらくガトー級です」
発令所から連絡が入る。
司令塔にいた南田と前原は「急速先行」と返すと見張員等と共にハッチへと飛び込んだ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「潜航し始めました。相手は日本巡洋艦ではなく」
「それに近いサイズの潜水艦、か。どうやら化け物潜水艦の1隻の様だな。散々我が合衆国を困らせてきたヤツだ。これまでの恨みを晴らしてやろう」
太平洋上、トラック環礁へ向かうイ- 400を捉えたのは、ガトー級アメリカ潜水艦オリンピア。
日本の通商破壊活動に対して、アメリカ太平洋艦隊に残されている戦力は駆逐艦もだが潜水艦がメインとなっていた。日本軍が、戦艦や空母をとにかく目標として叩いてた為に潜水艦位しか残った戦力が無かったのもあるが、太平洋艦隊司令のミニッツ大将が潜水艦畑を歩んで来た生粋の潜水艦乗りだと言う事も大きい。
日本は島国だから、殆どの資源を海上輸送に頼るしか無い。通商破壊は日本にとっても致命的なダメージを与える筈。
また駆逐艦は潜水艦の天敵。これはどれほど大型であろうとも潜航中ならば条件は同じ。
ニミッツは持てる潜水艦戦力をぶつけてきたのである。
ハワイから南に3,000キロ。北西から南東に並ぶ島々、ライン諸島。北部のジョンストン島やパルミラ島等がアメリカであり、クリスマス島やスターバック島等南部がイギリス領であるこの諸島は、アメリカからオーストラリアを結ぶ重要な海上交通路となっていた。
これが、フィリピンのマッカーサー軍やインドのイギリス軍の生命線であり東南アジアでの戦力を増強している日本軍に必死の抵抗を続けている。
その為、パルミラ島やクリスマス島には飛行場もあり哨戒機が常に飛び交い、また駆逐艦や駆潜艇が密な哨戒や船団護衛を行っていた。
そして、パルミラ島に第6潜水戦隊61潜水隊として6隻のガトー級潜水艦が配備されていた。
オリンピア、タウトグ、グレイバック、バーブ、スレッシャー、タンボア。
この内オリンピアとタンボアは、休暇の為、あの日偶々真珠湾から本土サンフランシスコ海軍泊地にきていて撃沈を免れていた。
それだけに日本軍の大型潜水艦を沈めるべく意気込んでいたのである。
「ですが艦長。この潜航をみると、此方のレーダー波を探知されたのかもしれませんが」
「フム。彼方さんのレーダーが当艦並の力量だと言う事か」
オリンピア艦長トーマス=フランクス中佐は副長アレックス=レアード少佐の意見に賛同する。
僚艦の艦長の中には、日本人等東洋の黄色人種でしかない、と見下している者もいる。何が劣等なものか。彼等の戦略砲撃潜水艦や潜水空母は、アメリカやイギリスが実用化不可能とした代物なんだぞ!
「旗艦タンボアへ報告。艦隊無線電話を使え。此方の位置を気取られる訳にはいかんからな」
だが、旗艦タンボアにいる戦隊司令ハリス=ランサー大佐は「日本軍がレーダーを配備している等聞いた事が無い。おそらくタイミングの問題だ。バーブと本艦も近くにいる。3艦で攻撃する」と、やや呑気な応えを返してきた。
「レーダーが無い?最新鋭と言える大型潜水艦なんだぞ?コッチに無い装備だって有ると考えるべきじゃないのか?」
「ですね。旗艦艦長ジョン=ホワイト中佐も『日本軍侮難し』の慎重派です。そこは上手くやってくれるでしょう」
「となるとバーブだな」
バーブ艦長マーク=バンディ中佐は確かに優れた軍人なのだが、白人至上主義が見られるキライがある。
「イギリスがいらんモノを日本にくれてやるから。おそらく猿が訳も分からず使ってるのだろうが」
戦略砲撃潜水艦もイギリス艦の猿真似としか思っていない。
その時の激論をフランクス艦長は思い出してしまう。
「本気か?トーマス、猿にそんな高度な潜水艦が造れる訳が無い。イギリスから購入したのは事実なんだぞ」
「イギリスは実用に耐えず、と廃棄同然で日本に売り払ったのだ。それを真珠湾で艦隊を壊滅し得る潜水戦艦へと改良している。それに潜水空母は日本独自の設計だぞ」
「有り得んよ。何処かにいた水上機母艦と大型潜水艦を結びつけた漁民の妄想だろう。それとも君は水上機を発艦させる大型潜水艦を、その目で見たとでも言うのかね」
パナマ沖の漁船の目撃情報しか、潜水空母だという証言は無い。だが現実問題として水上攻撃機による本土空爆が続いているのだ。
そして、付近の海上に水上機母艦等影も形もない。母艦が潜水しているとしか思えないのだ。
「よりにもよって、今回の僚艦がバーブですか」
レアード少佐の溜息に同感だが、嘆くばかりではなく、どう日本軍の特型潜水艦を仕留めるか。
「必ず沈めるぞ。日本軍大型潜水艦め」
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