出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ

文字の大きさ
上 下
23 / 31
激闘!潜水戦隊

23.

しおりを挟む
「改装ですか?」
「そうです。それもあって急ぎイ- 404を竣工させたのです」

 トラック環礁に帰投した伊号第400潜水艦を待っていたのは、正月返上での改装計画だった。

「開戦以来の特型潜水艦の活躍は、当初の期待以上であり、山本長官も殊の外喜んでおいでです」

 夏島の第4艦隊第7潜水戦隊司令部に、艦政本部から木俣技術少佐がやって来ていた。

「電探を強化し対空用と対水上用とを取り付けます。また新型の3式探信儀という水中測的機能を備えた物も装備します。此奴は半径1,500m以内の潜水艦を探知出来るものです」
「それはありがたい」

 アメリカ軍駆逐艦には備わっている水中測的装置ソナーのせいか、フィリピン近郊での通商破壊活動を実施していた呂号潜水艦が探知され、爆雷攻撃により撃沈される事が最近起きて来ていた。
 だからと言う訳でもないが、スクリュー音聴音だけでなく探知出来る装置システムを南田は欲していた。
 が、南田にとって電探レーダーはそれ程でも無い。

 史実では日本海軍が電探を装備するのは3年後である。「電波を発すれば、逆に見つかる」と思われており、また信頼性もそれ程高くもない代物だった。見張員の鍛えた目の方が的確だったのだ。
 アメリカ軍の高性能レーダーの為に事前に察知される様になってから「何故電探を付けないのか」と言う話になったが、もはや手遅れだった。

 この世界では、潜水空母はともかく戦略砲撃潜水艦の雛型はイギリスであり、試作機として色々実験的な装備があった。当時の日本はイギリスの同盟国であり、軍事的な交流もかなりあったのだ。
 勿論アメリカとも交流があり、山本五十六の名はアメリカでも有名だったし、ハルゼー等日本でも勇猛で知られる提督と言えた。

「今後も、もっと暴れて欲しい。閣下は、そう願っています」
 木俣少佐はそこで一息つくと、
「本来ならイ- 400と402が改装の筈でした。その不在の穴を埋める為に403と404が竣工したのです」
「401は?」
「新造艦のみを残す訳にはいきません。旗艦として、この2隻を統率してもらいます」
「確かに」
「帰投し次第402も横須賀へ戻ってもらいます」

 確認がとれない以上、イ- 402は作戦中としか言いようがない。

 イ- 400は正月を洋上で迎えた。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 明けて昭和17年1月。

 流石に正月は日本軍も大人しく、アメリカも戦時下とはいえ新年を祝えた。
 尤も、太平洋艦隊をほぼ失いパナマ運河すら封鎖されたアメリカが出来る事は、艦船の建造と各復旧作業しかなかった。

 だが、ヨーロッパ戦線はそうはいかなかった。
 ドイツが破竹の勢いで進撃していたからである。

 その辺りの確認もあり、ワシントンD.C.にイギリス首相チャーチルがパウンド海軍作戦部長とイズメイ陸軍参謀長を伴い訪れていた。
 アメリカも陸海空軍首脳が揃い、ホワイトハウスにて連合軍最高戦略会議が開かれたのである。

「ほう。これが戦略砲撃潜水艦、ね」
 開戦でのニューヨーク砲撃。客船を見逃したが為に乗組員は無論、乗客も写真をかなり撮っていた。何度か交戦しており、そこから戦闘力も割り出している。
「あの使えない試作艦を此処迄実用化するとは」
「そして、それ以上に厄介なのが、この『潜水空母サブマリン・キャリア』です」

 少し遠めの空中写真。おそらくカタリナ哨戒機が何とか撮影出来たモノ。
「水上攻撃機を3機搭載している為、いつ、どこで空爆されるか分からない状況が続いています。先日もオレゴンで山火事を起こされました」

 全面攻勢の前の静けさ?と言うよりは、嫌がらせの攻撃と思われる感じだ。

「日本を挑発し、戦端を開かせた事は大統領の失策。そんな声が野党だけでなく与党にも拡がって来ているのです」

 失策時の責任問題で一蓮托生とならぬ様、副大統領は対日戦略会議のメンバーには入っていない。だとしても最近のトルーマン副大統領は、ルーズベルト批判の急先鋒となっている気がしてならない。

「太平洋では大人しいとは言え、今彼等はインド洋で大暴れしています」
「そうだな。お陰で我々もインドを失いそうだ」

 対中国もだが、今日本軍は東南アジアへ進出しインドシナを手中に収め出した。各種資源、特に石油を手に入れた事は大きい。

「おまけにドイツは、ロンメルがアフリカを好き放題にしておる。このままスエズまで来られては我々イギリスは干上がってしまう」
 Uボートによる通商破壊はイギリスの首をじっくりと締め上げてきた。アメリカの援助で、どうにか持ち堪えている状況である。

「ドイツに、いやヒトラーに世界の覇権を許す訳にはいかん。アメリカは今少し大西洋、そしてヨーロッパ戦線に力を入れて欲しい」
「気持ちは分かる。が、太平洋の守りをもう少し固めねば、それも出来ぬ相談だ。その為に空母を貸してはもらえないだろうか。今、太平洋で稼働しているのはホーネット1隻しかいないのだ」

 どうしても戦艦を主力として重視してきた。
 戦力を増強してきた日本に、条約で戦艦保有の制限もかけて来たというのに。
 各種条約脱退後、日本の戦力を注視してはいたが、戦艦や巡洋艦の動きに気をとられていた感はある。ここまで空母や潜水艦に力を入れていたとは夢にも思わなかった。

「日本軍は正規空母6隻、改造空母まで入れるとかなりの航空戦力を保有しています。これ程制空権が武器になるとは思いもよらぬ事でして」
「そうだな。我々も戦艦を航空機で沈められるとは考えもしなかった」

 イギリス極東艦隊の空襲による壊滅は、それまでの戦争の常識すら変えてしまった。戦艦を斃せるのは戦艦のみ。そう思われてきたのだから。

「そして、ドイツと手を組んだ事により、日本は潜水艦の使い方を変えた」

 確か、補助艦艇として戦艦や巡洋艦に一撃を加えるというのが元々の日本の考え方だった筈。「愚かな事だ」と密かに笑っていたのだが。
 東洋のUボート。
 そう船乗りに怖れられる程通商破壊に徹している。ドイツと違うのは救助船に手を出さない事や場合によっては浮輪等を与えている事だ。

「日本との同盟を解消したのは間違いだったやもしれんな」
 声には出さないものの、チャーチルは少しホゾを噛んでいたのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

処理中です...