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激闘!潜水戦隊
22.
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連合艦隊の潜水艦は、通常3ヶ月の行動を基準としていて、それだけの食糧燃料を持っている。また、単艦行動が常である潜水艦は、その動向を確認する術が無い。
その為3ヶ月過ぎても音沙汰ない場合は撃沈されたものとして処理されていた。
浮上航行していたイ- 402を攻撃したカタリナ哨戒機は、多少デカいなとは思ったらしいのだが、それでも「敵潜水艦撃破」としか報告せず、また特型潜水戦隊だけではなく伊号呂号が各地で通商破壊を行なっていた為に、アメリカ軍首脳陣も日本軍の1潜水艦撃沈としか受け止めていなかった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ズガガガーン!ドガガーン‼︎
「輸送艦撃沈!」
潜望鏡でも確認した。艦尾を吹き飛ばされたのは5,000t級の商船か?アメリカ船籍なのは間違いないので、かわいそうだが見逃す訳にはいかなかった。イ- 400は迷わず雷撃を行ったのである。
「レーダーに感!おそらく哨戒機です」
「急速潜航」
それ程西海岸沿岸部に近付いている訳ではなかったが、カタリナ哨戒機は5,000キロの航続距離を持つ大型飛行艇だ。つまり半径2,500キロ圏内ならば彼等は飛んでくる。商船のSOSを受けて急いで駆け付けて来たに違いないのだ。
ザッバーン!ブクブク…、ドーン‼︎
「爆雷、でも遠い。左舷後方200mか。しかも浅いな」
衝撃音とともに艦が揺さぶられる。
「航海長は、そこまでわかるんですか?」
「おおよそだけどね。インド洋で散々喰らったし」
至近距離で喰らった爆雷の衝撃で艦長と先任の水雷長が負傷して指揮出来なくなったイ- 76。艦長は意識不明のまま、結局帰らぬ人となった。矢上は発令所にいた上位士官として艦の指揮を取り、掌水雷長菅野兵曹と反撃し、イギリス駆逐艦カマーゼンに一矢報いて何とか逃げ切った。
矢上大尉の武勇伝ではあるが、爆雷の洗礼を受けたのは別にこの時だけでは無い。前原と同じ伊号潜水艦に乗っていた初陣時にも喰らったし、その時の艦長や前原水雷長の言動や撃退策が、今の矢上の血肉となっている。
「現在深度50」
「深度そのまま。針路変更240」
「変更240」
ザッバーン!…ドーン‼︎
「離れた?また、当てずっぽうだな」
揺れが小さい。
何せ艦体がデカい。空からは丸見えかと思っていたが、そうでもないらしい。
現在位置と航続距離、滞空時間を考えるとカタリナ哨戒機が上空にいるのも後僅かか?
「そろそろいいだろう。潜望鏡深度へ」
南田艦長も哨戒機は戻ったと判断した。
「潜望鏡深度!」
イ- 400はゆっくりと浮上していく。
「潜望鏡深度です」
「深度そのまま。潜望鏡、短波マスト上げろ」
潜望鏡塔がゆっくりと上がる。
およそ5分後。
「敵信確認。『輸送船撃沈と敵潜水艦攻撃するも撃沈確認出来ず』と言っている様です」
敵信長須田少尉からの報告が通信室から上がってくる。通信室には敵信班や暗号班が詰めていて、敵の通信を傍受し発信源の特定や通信内容の確認、暗号の場合は暗号班が解読を行う。彼等のトップが通信長井上正一郎大尉だ。
「後、気になる通信が」
「どうした?」
「今回の潜水艦、つまり我々の事ですが『先日撃沈したものと同型艦と思われる』と言っているんです」
「何だと?」
この艦と同型?
現時点で同型艦は3隻。伊号第400型は400、401、402しかいない。
「まさか402が?」
イ- 401とは、それこそ先日、情報のやりとり共有化を行ったばかりだ。その時に10日は音信不通の402の事も気に掛けようと有田司令とも確認し合った処だったのだが。
内容が内容だったので須田は井上へ即報告、井上大尉も「至急艦長へ報告せよ」と須田を発令所へ上げたのである。
「ウェーク島沖まで戻った所でトラックの第7潜水戦隊司令部へ暗号通信を送ろう」
イ- 400はウェーク島まで戻る事にした。
「真下艦長もかなりの慎重な方と思ってましたが」
「焦りがあったのかもしれんな」
流石に南田艦長、前原先任将校の表情も重い。
立て続けの大作戦で息つく間もなかったが、まだ開戦して1月も経ってはいない。確かにもうすぐ年の瀬ではあるのだが。
それでも八面六臂の大活躍中の特型潜水戦隊に於いて全く戦果が無いのがイ- 402だったのだ。
「状況了解。伊号第400潜水艦は、このままトラック環礁へ帰投せよ」
電波状態及び通信機器の調子が良かったのか。暗号電文は意外にも早く返ってきた。暗号長から渡された電文を見た井上は破顔し、直ぐに艦長へ報告した。
「どうやら正月くらいはのんびりと過ごせそうですね」
「今回は無いものと覚悟していたがね」
堅物の南田艦長も笑みを浮かべる。
「トラック環礁へ帰投する。浮上して洋上航行」
発令所に歓声が起こった。
アメリカ太平洋艦隊がほぼ消滅している今、きつい潜水航行をとる必要は全く無い。
「艦長!アレ‼︎」
イ- 400がトラック環礁夏島の潜水艦投錨地へ戻った時、そこには新造艦が2隻停泊していた。
イ- 403と404である。
「400型は4隻だったんじゃ?」
「5隻目が完成しているとはね」
年明けにも大作戦が展開される?
帰って来たイ- 400を迎えたのは、新たなる戦いの予感だった。
その為3ヶ月過ぎても音沙汰ない場合は撃沈されたものとして処理されていた。
浮上航行していたイ- 402を攻撃したカタリナ哨戒機は、多少デカいなとは思ったらしいのだが、それでも「敵潜水艦撃破」としか報告せず、また特型潜水戦隊だけではなく伊号呂号が各地で通商破壊を行なっていた為に、アメリカ軍首脳陣も日本軍の1潜水艦撃沈としか受け止めていなかった。
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ズガガガーン!ドガガーン‼︎
「輸送艦撃沈!」
潜望鏡でも確認した。艦尾を吹き飛ばされたのは5,000t級の商船か?アメリカ船籍なのは間違いないので、かわいそうだが見逃す訳にはいかなかった。イ- 400は迷わず雷撃を行ったのである。
「レーダーに感!おそらく哨戒機です」
「急速潜航」
それ程西海岸沿岸部に近付いている訳ではなかったが、カタリナ哨戒機は5,000キロの航続距離を持つ大型飛行艇だ。つまり半径2,500キロ圏内ならば彼等は飛んでくる。商船のSOSを受けて急いで駆け付けて来たに違いないのだ。
ザッバーン!ブクブク…、ドーン‼︎
「爆雷、でも遠い。左舷後方200mか。しかも浅いな」
衝撃音とともに艦が揺さぶられる。
「航海長は、そこまでわかるんですか?」
「おおよそだけどね。インド洋で散々喰らったし」
至近距離で喰らった爆雷の衝撃で艦長と先任の水雷長が負傷して指揮出来なくなったイ- 76。艦長は意識不明のまま、結局帰らぬ人となった。矢上は発令所にいた上位士官として艦の指揮を取り、掌水雷長菅野兵曹と反撃し、イギリス駆逐艦カマーゼンに一矢報いて何とか逃げ切った。
矢上大尉の武勇伝ではあるが、爆雷の洗礼を受けたのは別にこの時だけでは無い。前原と同じ伊号潜水艦に乗っていた初陣時にも喰らったし、その時の艦長や前原水雷長の言動や撃退策が、今の矢上の血肉となっている。
「現在深度50」
「深度そのまま。針路変更240」
「変更240」
ザッバーン!…ドーン‼︎
「離れた?また、当てずっぽうだな」
揺れが小さい。
何せ艦体がデカい。空からは丸見えかと思っていたが、そうでもないらしい。
現在位置と航続距離、滞空時間を考えるとカタリナ哨戒機が上空にいるのも後僅かか?
「そろそろいいだろう。潜望鏡深度へ」
南田艦長も哨戒機は戻ったと判断した。
「潜望鏡深度!」
イ- 400はゆっくりと浮上していく。
「潜望鏡深度です」
「深度そのまま。潜望鏡、短波マスト上げろ」
潜望鏡塔がゆっくりと上がる。
およそ5分後。
「敵信確認。『輸送船撃沈と敵潜水艦攻撃するも撃沈確認出来ず』と言っている様です」
敵信長須田少尉からの報告が通信室から上がってくる。通信室には敵信班や暗号班が詰めていて、敵の通信を傍受し発信源の特定や通信内容の確認、暗号の場合は暗号班が解読を行う。彼等のトップが通信長井上正一郎大尉だ。
「後、気になる通信が」
「どうした?」
「今回の潜水艦、つまり我々の事ですが『先日撃沈したものと同型艦と思われる』と言っているんです」
「何だと?」
この艦と同型?
現時点で同型艦は3隻。伊号第400型は400、401、402しかいない。
「まさか402が?」
イ- 401とは、それこそ先日、情報のやりとり共有化を行ったばかりだ。その時に10日は音信不通の402の事も気に掛けようと有田司令とも確認し合った処だったのだが。
内容が内容だったので須田は井上へ即報告、井上大尉も「至急艦長へ報告せよ」と須田を発令所へ上げたのである。
「ウェーク島沖まで戻った所でトラックの第7潜水戦隊司令部へ暗号通信を送ろう」
イ- 400はウェーク島まで戻る事にした。
「真下艦長もかなりの慎重な方と思ってましたが」
「焦りがあったのかもしれんな」
流石に南田艦長、前原先任将校の表情も重い。
立て続けの大作戦で息つく間もなかったが、まだ開戦して1月も経ってはいない。確かにもうすぐ年の瀬ではあるのだが。
それでも八面六臂の大活躍中の特型潜水戦隊に於いて全く戦果が無いのがイ- 402だったのだ。
「状況了解。伊号第400潜水艦は、このままトラック環礁へ帰投せよ」
電波状態及び通信機器の調子が良かったのか。暗号電文は意外にも早く返ってきた。暗号長から渡された電文を見た井上は破顔し、直ぐに艦長へ報告した。
「どうやら正月くらいはのんびりと過ごせそうですね」
「今回は無いものと覚悟していたがね」
堅物の南田艦長も笑みを浮かべる。
「トラック環礁へ帰投する。浮上して洋上航行」
発令所に歓声が起こった。
アメリカ太平洋艦隊がほぼ消滅している今、きつい潜水航行をとる必要は全く無い。
「艦長!アレ‼︎」
イ- 400がトラック環礁夏島の潜水艦投錨地へ戻った時、そこには新造艦が2隻停泊していた。
イ- 403と404である。
「400型は4隻だったんじゃ?」
「5隻目が完成しているとはね」
年明けにも大作戦が展開される?
帰って来たイ- 400を迎えたのは、新たなる戦いの予感だった。
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