出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ

文字の大きさ
上 下
20 / 30
激闘!潜水戦隊

20.

しおりを挟む
 ウェーク島。
 北太平洋に浮かぶ3つの島と、それを取り巻く環礁で成り立つ島は、ハワイと並ぶアメリカ軍の軍事的拠点であり、真珠湾から遅れた12月10日、後顧の憂いを断つべく第4艦隊司令井上成美中将指揮の元、南洋部隊が攻撃を開始する。

 井上中将は、山本長官と同様「次の主力は航空機」と言って憚らない。いや、「連合艦隊は空母と駆逐艦と潜水艦があればいい」とすら言い出す程で海軍主力からも、ある意味恨まれていると言ってもいい人物である。歯に衣着せぬあまりにも激しい物言いは、命すら狙われる位であり、その回避の為に第4艦隊司令を拝命したとの噂も絶えない。

 先ず第4艦隊第6水雷戦隊が先陣をきる。
 軽巡洋艦夕張、駆逐艦追風、疾風、睦月、如月、弥生、望月の7隻が護衛する特設巡洋艦金龍丸と金剛丸に分乗した陸戦隊2個中隊が、夜陰に乗じて上陸する事になっていた。
 だがこの日の夜半は波が高く、上陸用大発を降ろす事にも苦労して、結局転覆大破させてしまう。

 上陸部隊を指揮する伊藤少佐は「この波では不可能」と報告。第6水雷戦隊司令梶岡定道少将は夜間上陸を諦めてしまった。
 翌朝に上陸作戦が再び決行、上陸支援の為に駆逐艦の支援砲撃が加えられる。

「砲撃開始!」

 この砲撃で燃料タンクを破壊、激しい黒煙を上げた為に水雷戦隊は基地に大損害を与えたと判断してしまう。

「全艦、接近してトドメをさす」
 駆逐艦は不用意に沿岸へ近付き、敵基地や砲台の破壊を目視で確認しようとしてきたのである。

「馬鹿め。我々はやられてはおらん!」
 守備隊長カニンガム中佐がほくそ笑み、日本軍を引き付ける様指示を出す。

「5インチ砲射程内です」
撃てっファイア!」
 ピーコック岬に設置された5インチ砲が砲撃を開始する。
 もう100mも距離は無い。素人でも当てられる距離だ。

「た、退避!」
 1番近付いていた駆逐艦疾風の近藤艦長が慌てて叫んだが艦は簡単に止まる事は勿論、転回も難しい。そして、艦砲より陸上砲台の方が命中率が良いのは自明の理だ。艦尾の爆雷や甲板上の砲弾に誘爆し、疾風は轟音とともに爆発して波間に消えたのである。
「馬鹿な。砲台は破壊されてなかったのか。砲撃中止!全艦後退‼︎」

 そこへF4Fワイルドキャット戦闘機12機が襲い掛かる。エンタープライズが輸送して、艦砲射撃時にも防空壕で必死に耐えてきた航空隊が、今こそ恨み晴らさんと有り合わせの爆弾を搭載し飛び立ったのだ。

真珠湾の仇だリメンバー パールハーバー!」

 ドーン!ズガガガーン‼︎

 2隻目。
 執念の空爆は如月の魚雷発射管を粉砕、凄まじい閃光と爆発音を発して、瞬時に海中へ没した。

 真珠湾攻撃やイギリス極東艦隊空襲。
 日本軍自身の手でその威力を実証したにも関わらず、第4艦隊は制空権を全く考慮していなかった。上空援護の無い駆逐艦は、逃げ回る事しか出来なかったのである。

「な、なんたる事ぞ!」
 信じられない思いで旗艦夕張から、たった今駆逐艦が消えた海上を見つめる梶岡少将の脳裏に「艦隊全滅」の文字が過ぎる。
「攻略中止!撤退する‼︎」

 破竹の勢いで勝ち進んできた日本海軍の初めての大損害であり、井上中将も「空母ないしは航空戦力の援護を求む」と連合艦隊へ打電するしかなかった。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 第4艦隊はトラック環礁へ帰還した。

 当初、第4艦隊司令部は真珠湾から帰投途中の南雲機動部隊から、山口多聞少将のニ航戦隊(空母蒼龍、飛龍)を向かわせてもらおうとしていた。真珠湾への2次攻撃を主張出来る程航空燃料も爆弾もあったからだが、流石にタイミングが悪過ぎた。現時点から再びウェーク島へ向かう事になれば、何処かで空母の燃料補給が必要となってしまう。その時間がとても惜しい。

 現在トラック環礁に駐留する機動部隊。
 特型潜水空母戦隊を動かす事にしたのである。

「まだ空母ホーネットが健在なのですぞ!伊号第400型は必死に捜索しつつ、通商破壊作戦を行なっている最中なのです」

 第7潜水戦隊古湊少将は断固反対した。
 新鋭大型空母であるホーネットは、公称最大速度34ノットという快速を活かし、ミッドウェイ島やグアム島へ攻撃機や哨戒機を輸送していた。通常の航路からも外れ、ジグザグに航行するホーネットに待ち伏せも出来ず、また停泊中は駆逐艦の強固な警戒で中々接近出来ずにいた。95式酸素魚雷の射程はアメリカの想像を超えるモノがあるが、距離と命中率が反比例するのは学徒兵でも分かる理屈だ。魚雷は高価な兵器なだけに無駄弾を撃つ訳にはいかず、結果はともかく必中を期する時しか魚雷を使う訳にはいかなかった。

「わかって欲しい。ウェーク島も、このまま放置する訳にはいかないのだ」

 アメリカの反撃拠点にもなり得る、その軍略価値は計り知れない。

 古湊少将以下第7潜水戦隊は第4艦隊の指揮下だ。その司令官である井上中将に命令されてしまっては、古湊も拒む事は出来なかった。

「今後はこの様な使い方をなさらぬ様、お願い申し上げる」

 そう返すのが精一杯だった。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

大和型戦艦4番艦 帝国から棄てられた船~古(いにしえ)の愛へ~

花田 一劫
歴史・時代
東北大地震が発生した1週間後、小笠原清秀と言う青年と長岡与一郎と言う老人が道路巡回車で仕事のために東北自動車道を走っていた。 この1週間、長岡は震災による津波で行方不明となっている妻(玉)のことを捜していた。この日も疲労困憊の中、老人の身体に異変が生じてきた。徐々に動かなくなる神経機能の中で、老人はあることを思い出していた。 長岡が青年だった頃に出会った九鬼大佐と大和型戦艦4番艦桔梗丸のことを。 ~1941年~大和型戦艦4番艦111号(仮称:紀伊)は呉海軍工廠のドックで船を組み立てている作業の途中に、軍本部より工事中止及び船の廃棄の命令がなされたが、青木、長瀬と言う青年将校と岩瀬少佐の働きにより、大和型戦艦4番艦は廃棄を免れ、戦艦ではなく輸送船として生まれる(竣工する)ことになった。 船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。 輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。 その桔梗丸が修理のため横須賀軍港に入港し、その時、長岡与一郎と言う新人が桔梗丸の船員に入ったが、九鬼船頭は遠い遥か遠い昔に長岡に会ったような気がしてならなかった。もしかして前世で会ったのか…。 それから桔梗丸は、兄弟艦の武蔵、信濃、大和の哀しくも壮絶な最後を看取るようになってしまった。 ~1945年8月~日本国の降伏後にも関わらずソビエト連邦が非道極まりなく、満洲、朝鮮、北海道へ攻め込んできた。桔梗丸は北海道へ向かい疎開船に乗っている民間人達を助けに行ったが、小笠原丸及び第二号新興丸は既にソ連の潜水艦の攻撃の餌食になり撃沈され、泰東丸も沈没しつつあった。桔梗丸はソ連の潜水艦2隻に対し最新鋭の怒りの主砲を発砲し、見事に撃沈した。 この行為が米国及びソ連国から(ソ連国は日本の民間船3隻を沈没させ民間人1.708名を殺戮した行為は棚に上げて)日本国が非難され国際問題となろうとしていた。桔梗丸は日本国から投降するように強硬な厳命があったが拒否した。しかし、桔梗丸は日本国には弓を引けず無抵抗のまま(一部、ソ連機への反撃あり)、日本国の戦闘機の爆撃を受け、最後は無念の自爆を遂げることになった。 桔梗丸の船員のうち、意識のないまま小島(宮城県江島)に一人生き残された長岡は、「何故、私一人だけが。」と思い悩み、残された理由について、探しの旅に出る。その理由は何なのか…。前世で何があったのか。与一郎と玉の古の愛の行方は…。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

ブラックスペア

高雄摩耶
歴史・時代
  1939年。日本海軍では新型高性能潜水艦の建造計画が持ち上がる。技術担当の酒井中佐はその高すぎる要求に頭を抱えてしまう。そんな中、発明家の有岡安治郎から、新型機関の提案が送られてくる。半信半疑でその見学に向かった酒井中佐を待っていたのは…太古の魔女を自称する一人の少女だったのだ!  冗談かと笑う中佐であったが、少女は彼の目の前で例の新型機関、通称「チャンツエンジン」を魔法力で動かし始め、素晴らしい性能を発揮したのである。彼はその性能に驚愕するが、この機関には大きな制約があった。それは”機関を扱えるのは十代の女性のみ”というものであった。  1941年夏、女学校に通う女学生、下田アリサはある募集の張り紙を見かける。それは「事務作業のため十代の女性を募集する」という海軍が作成したものだった。学費に困っていた彼女は夏休みの間だけでもやってみようと海軍を訪れる。そこではなぜか体力試験や視力、聴力の検査、そして謎の装置による調査が行われる。その結果、彼女は他の応募者を差し置いて合格することができたのだ。しかし彼女を待っていたのは、新型潜水艦「イ-99」への乗組命令だった。  地獄の太平洋戦線を舞台に、「ブラックスペア」と恐れられた少女の潜水艦は、果たして生き残ることができるのか!?彼女たちの戦いが、いま始まる!

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

処理中です...