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驚異の潜水空母
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パナマ運河。
アメリカにとって、太平洋と大西洋を結ぶ大動脈にして生命線。
元はスエズ運河を完成させたフランス人レセップスが始めた難工事をアメリカ政府が引き継ぎ、コロンビアからパナマを独立させて完成させた大運河。
カリブ海側コロン、太平洋側パナマシティには駆逐艦主体の駐屯艦隊もあり、また陸戦隊や少しの航空戦力もいて運河を守っている。
大使館への暗号電文を解読したアメリカ政府、軍首脳陣は、日本の戦線布告を12月6日と事前に知って開戦準備を進めていたが、日本が攻めてくるのはフィリピンだと決めてかかっていた為、ハワイ真珠湾は勿論の事だが、このパナマに至っては更に何の警戒もしていなかった。
12月8日、午前6時。
奇しくもイ- 501とイ- 400は同時刻に浮上。
一方はニューヨーク沖。一方はパナマ湾沖合。
共に日常の朝。
尤も、客船や輸送船が頻繁に行き交うニューヨーク沖と違い、パナマ沖合には漁船がチラホラとしか存在せず、また湾近辺での漁を行っていた為250km程も沖合に現れた巨大潜水艦等、この時点では気に留める者等いなかった。
それでも南田艦長は潜望鏡で周囲の探査を念入りに行った。ソナーは勿論、信頼性は低かったが試験的に設営されていた電探をも使用してパナマシティに駐屯している守備艦隊の動きを探ったのである。
「飛行機整備員、作業開始!」
トラック環礁からパナマに来るまで再び訓練を行った。初回は散々だった組立発艦訓練、少しはマシになっていたものの、南田にとっては不満の残る結果でしかなかった。
訓練後の訓示で整備員達はこき下ろされ、飛行整備長石田整備兵曹は後程「気合いが足らんのだ」と整備員達の尻をスパナで引っ叩いたとか。
2度と叩かれたくない整備員達の奮闘もあり、1号機の組立は1時間弱で完了。整備員が操縦席に潜り込んでエンジンを始動させる。
数度の空回りの後エンジンがかかる。
最初は不規則だった回転が、やがて滑らかで規則正しいモノに変わっていく。排気煙も黒から白色へと変わり、操縦士加藤一平中尉と偵察員野村健三郎二等飛行兵曹が乗り込む。
「頼みます」
「任せろ」
「かぁとぉー!正午までしか待てんからな。必ずそれまでに帰って来いよぉー‼︎」
「はっかぁーん!」
カタパルトから射出され、晴嵐1番機は大空を転回して後続を待った。
生きて帰れるのか?
加藤も野村も、岸和田飛行長に遺書は預けてはあった。
慣れもあるのだろう。2番機、3番機は1号機のそれよりも早く作業が完了し飛び立った。
風もいい具合に吹いていたので、さほど艦も速度を出さずとも発艦速度に達していた。
プロペラの音は大きく、漁船も異様に巨大な潜水艦が飛行機を射出しているのが見えた。
「漁船が近付いてきました」
「威嚇射撃用意」
対空迎撃用の3連装機銃を撃つ。
ダッダダダダダ!慌てて逃げ出す漁船。
確かに、不用意に潜水艦へ近付く漁船等皆無だろう。彼等も此方をどうこう仕様というつもりではなく不審者への対応という面が大きい。
「漁船、離れていきます」
「潜航用意!」
イ- 400は波間に消えた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
スエズ運河は平地の運河だったが、パナマ運河は高低差があった。その為3つの閘門と2つの人工池からなる運河で全長約80km。幅は33mで、この幅がアメリカ海軍にとって致命的な弱点の1つとなっていた。
つまり、運河を越えられない艦船を造る訳には出来ないのだ。
戦艦の幅は、搭載砲の大きさを左右する。
この制限のせいで、アメリカ海軍は40.6センチ以上の砲を持つ事が出来なかった。
そして、深さもだが、仮に船が沈みでもすれば、それだけで通行出来なくなってしまう。避けて通るだけの幅が無いのだから。
市街地から侵入してきた晴嵐3機は、何の警戒もされずここまで来た。
市民も、何の警報もだが報告すらなかった航空機が飛んでいる事を不思議には思ったのだが、それでも空襲とは思わなかった。彼等にとっては初めて見る日の丸であり、これが敵国機だとは思いもよらぬ事だったのだ。
その為、「敵機襲来」とパナマシティにある海軍陸戦隊司令部に連絡が来た時、3番機が太平洋側のミラフローレス閘門に800キロ爆弾を叩きつけた後だったのである。
「馬鹿な。何処から飛んで来た」
「分かりません。敵は水上機との報告です」
閘門爆撃される。
陸戦隊司令マック大佐は、飛び込んできた報告を最初は信じられなかった。
「げ、迎撃機を飛ばせ。運河の高射砲は何をしていた?」
閘門が1つでも破壊された以上、もはやパナマ運河は通航出来ない。だが、せめて侵入してきた日本機は落とさねば。
航空戦力があるとはいえ、旧式のバッファローが主力機であり、12.7ミリ機銃4丁と火力は高いものの速度が450キロと鈍重な上に操縦性も悪かった。
おっとり刀で上がってきた時には奥側のペドロ・ミゲル閘門にも800キロ爆弾が炸裂、更に通航中の2,000t級商船も爆撃を喰らい沈んでしまっていた。
「封鎖完了!逃げ帰るぞ」
一目散に逃げ出す晴嵐と追いかけるバッファロー。速度差と、晴嵐はフロート付とは言え攻撃機として造られている為操縦性は良く、フロートを外せばゼロ戦並みの格闘戦力を持ち合わせている。着水が下手と言われた2番機操縦士笠原にしても操縦そのものは決して悪い腕ではなかった。
だが、12.7ミリ機銃は掠めただけでも破壊力があった。
「ちっ、やられたか」
尾翼を掠めた晴嵐2番機はふらつく様になってしまう。
「ここまでか。佐野、お前は脱出しろ」
「ここでかよ?捕虜になるくらいならお供するよ、笠原」
イ- 400に乗り込んで半年以上コンビを組んできたのだ。それに「生きて虜囚の辱めを受けず」と言う、アメリカにとって信じられない訓示を受けて来ていた。
フロートを強制脱落し身軽になった2番機はバッファローへ立ち向かう。それ程持たなかったにしても、それでも他の2機が逃げる時間を稼ぐ事は出来た。
「おかぁちゃーん」
晴嵐2番機は爆散し墜落した。
アメリカにとって、太平洋と大西洋を結ぶ大動脈にして生命線。
元はスエズ運河を完成させたフランス人レセップスが始めた難工事をアメリカ政府が引き継ぎ、コロンビアからパナマを独立させて完成させた大運河。
カリブ海側コロン、太平洋側パナマシティには駆逐艦主体の駐屯艦隊もあり、また陸戦隊や少しの航空戦力もいて運河を守っている。
大使館への暗号電文を解読したアメリカ政府、軍首脳陣は、日本の戦線布告を12月6日と事前に知って開戦準備を進めていたが、日本が攻めてくるのはフィリピンだと決めてかかっていた為、ハワイ真珠湾は勿論の事だが、このパナマに至っては更に何の警戒もしていなかった。
12月8日、午前6時。
奇しくもイ- 501とイ- 400は同時刻に浮上。
一方はニューヨーク沖。一方はパナマ湾沖合。
共に日常の朝。
尤も、客船や輸送船が頻繁に行き交うニューヨーク沖と違い、パナマ沖合には漁船がチラホラとしか存在せず、また湾近辺での漁を行っていた為250km程も沖合に現れた巨大潜水艦等、この時点では気に留める者等いなかった。
それでも南田艦長は潜望鏡で周囲の探査を念入りに行った。ソナーは勿論、信頼性は低かったが試験的に設営されていた電探をも使用してパナマシティに駐屯している守備艦隊の動きを探ったのである。
「飛行機整備員、作業開始!」
トラック環礁からパナマに来るまで再び訓練を行った。初回は散々だった組立発艦訓練、少しはマシになっていたものの、南田にとっては不満の残る結果でしかなかった。
訓練後の訓示で整備員達はこき下ろされ、飛行整備長石田整備兵曹は後程「気合いが足らんのだ」と整備員達の尻をスパナで引っ叩いたとか。
2度と叩かれたくない整備員達の奮闘もあり、1号機の組立は1時間弱で完了。整備員が操縦席に潜り込んでエンジンを始動させる。
数度の空回りの後エンジンがかかる。
最初は不規則だった回転が、やがて滑らかで規則正しいモノに変わっていく。排気煙も黒から白色へと変わり、操縦士加藤一平中尉と偵察員野村健三郎二等飛行兵曹が乗り込む。
「頼みます」
「任せろ」
「かぁとぉー!正午までしか待てんからな。必ずそれまでに帰って来いよぉー‼︎」
「はっかぁーん!」
カタパルトから射出され、晴嵐1番機は大空を転回して後続を待った。
生きて帰れるのか?
加藤も野村も、岸和田飛行長に遺書は預けてはあった。
慣れもあるのだろう。2番機、3番機は1号機のそれよりも早く作業が完了し飛び立った。
風もいい具合に吹いていたので、さほど艦も速度を出さずとも発艦速度に達していた。
プロペラの音は大きく、漁船も異様に巨大な潜水艦が飛行機を射出しているのが見えた。
「漁船が近付いてきました」
「威嚇射撃用意」
対空迎撃用の3連装機銃を撃つ。
ダッダダダダダ!慌てて逃げ出す漁船。
確かに、不用意に潜水艦へ近付く漁船等皆無だろう。彼等も此方をどうこう仕様というつもりではなく不審者への対応という面が大きい。
「漁船、離れていきます」
「潜航用意!」
イ- 400は波間に消えた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
スエズ運河は平地の運河だったが、パナマ運河は高低差があった。その為3つの閘門と2つの人工池からなる運河で全長約80km。幅は33mで、この幅がアメリカ海軍にとって致命的な弱点の1つとなっていた。
つまり、運河を越えられない艦船を造る訳には出来ないのだ。
戦艦の幅は、搭載砲の大きさを左右する。
この制限のせいで、アメリカ海軍は40.6センチ以上の砲を持つ事が出来なかった。
そして、深さもだが、仮に船が沈みでもすれば、それだけで通行出来なくなってしまう。避けて通るだけの幅が無いのだから。
市街地から侵入してきた晴嵐3機は、何の警戒もされずここまで来た。
市民も、何の警報もだが報告すらなかった航空機が飛んでいる事を不思議には思ったのだが、それでも空襲とは思わなかった。彼等にとっては初めて見る日の丸であり、これが敵国機だとは思いもよらぬ事だったのだ。
その為、「敵機襲来」とパナマシティにある海軍陸戦隊司令部に連絡が来た時、3番機が太平洋側のミラフローレス閘門に800キロ爆弾を叩きつけた後だったのである。
「馬鹿な。何処から飛んで来た」
「分かりません。敵は水上機との報告です」
閘門爆撃される。
陸戦隊司令マック大佐は、飛び込んできた報告を最初は信じられなかった。
「げ、迎撃機を飛ばせ。運河の高射砲は何をしていた?」
閘門が1つでも破壊された以上、もはやパナマ運河は通航出来ない。だが、せめて侵入してきた日本機は落とさねば。
航空戦力があるとはいえ、旧式のバッファローが主力機であり、12.7ミリ機銃4丁と火力は高いものの速度が450キロと鈍重な上に操縦性も悪かった。
おっとり刀で上がってきた時には奥側のペドロ・ミゲル閘門にも800キロ爆弾が炸裂、更に通航中の2,000t級商船も爆撃を喰らい沈んでしまっていた。
「封鎖完了!逃げ帰るぞ」
一目散に逃げ出す晴嵐と追いかけるバッファロー。速度差と、晴嵐はフロート付とは言え攻撃機として造られている為操縦性は良く、フロートを外せばゼロ戦並みの格闘戦力を持ち合わせている。着水が下手と言われた2番機操縦士笠原にしても操縦そのものは決して悪い腕ではなかった。
だが、12.7ミリ機銃は掠めただけでも破壊力があった。
「ちっ、やられたか」
尾翼を掠めた晴嵐2番機はふらつく様になってしまう。
「ここまでか。佐野、お前は脱出しろ」
「ここでかよ?捕虜になるくらいならお供するよ、笠原」
イ- 400に乗り込んで半年以上コンビを組んできたのだ。それに「生きて虜囚の辱めを受けず」と言う、アメリカにとって信じられない訓示を受けて来ていた。
フロートを強制脱落し身軽になった2番機はバッファローへ立ち向かう。それ程持たなかったにしても、それでも他の2機が逃げる時間を稼ぐ事は出来た。
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