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運命の開戦
11.
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「エンタープライズが沈んだ?」
その報告を受けた時、キンメルにはもう生きる希望すら見出せなかった。
「巡洋艦ノーザンプトン大破、駆逐艦ウォーク、バートン、マーフィー撃沈」
「機動部隊もほぼ壊滅と言う事か」
「駆逐艦オブライエンとモンローが無事ですが、これは救助用に見逃されたと」
壊滅してしまった艦隊司令部基地の代わりである倉庫の一室。キンメル達艦隊司令部首脳は、何とか焼け残った格納庫近くの倉庫に、若干の機器を持ち込んで司令部機能を確保していた。
「見逃された、か。そう言えばニューヨークでも例の潜水艦は漁船や客船には手を出さなかったとか」
「ですね。だから写真が残ったんです。秘匿兵器の筈なのに、日本軍の思考は何か違っていると」
「人道的、或いは騎士道か。あながち間違いと言えないだろうが」
「戦争当事国同士としてはどうでしょうか。まぁ、我々も日本が野蛮とは思ってはいませんが」
「大西洋艦隊から、少し回してもらうしかないな」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ホワイトハウス、オレンジルーム。
ニューヨーク砲撃、真珠湾攻撃に続いての空母エンタープライズ撃沈の報は、太平洋艦隊司令部以上の重苦しい雰囲気と激しい怒りの充満をもたらしていた。
「太平洋艦隊から戦艦と空母が失われた」
「これでは、太平洋が日本の箱庭になってしまう」
この事を聞かされたフィリピン基地司令マッカーサーからは「我々は退避撤退を選べない、と言う事ですか?あなた方は本当に戦争をする気があったのですか?」と首脳批判とさえ思える意見が伝わってきた。
「それにしても、この砲撃潜水艦は」
「写真や、現場の声からの推定ですが、全長190…200mでしょうか。30センチ2連装砲塔を前後一門ずつ。艦橋には測距儀も備わっている様です。エンタープライズをかなりの遠方から砲撃出来ていますし。それに魚雷の性能も問題です」
「ハルゼーの報告か」
「エンタープライズの見張員は、雷跡を全く見なかったと言っているのです」
「そんな馬鹿な。雷跡のない魚雷なぞ」
「どうやら日本は、酸素魚雷の開発に成功した様ですね」
空気を使って馳走する魚雷は、どうしても発泡しながら進むことになる。これが雷跡となって発見されやすい。その為、水に溶け込み無雷跡となる酸素魚雷の開発を急いでいたが、純酸素は爆発し易く危険極まりない為開発を諦めた経緯がある。
「巨大砲撃潜水艦はイギリスが実用不適と判断したモノ。それに酸素魚雷…。何故だ?何故、日本は我々が不可能とした兵器を開発出来る」
「確かに。あの浅い真珠湾でも使える航空魚雷にしても、です。我々はあんな水深では魚雷は使用不可だと考えていたのに」
「神は、世界を正しく導く為に我等白人を創り賜うたのではなかったのか?何故、劣等人種の科学が優れているのだ⁉︎」
天井…、いや天界を見上げているのか?
ルーズベルトの怒りの声がオレンジルームに響く。
軍首脳陣は、そこまで信心深く…と言うか現実的ではあったが、だとしても、こうも自分達が実現不可能、或いは実用に満たずと判断した物を次々と開発する日本に、恐怖せざるを得なかった。
「甲板を開き安定翼にするとは。砲塔を海水流から守るのは勿論、トップヘビーになってしまう事への対策も考えられてある。確か安定性が悪く命中率が著しく低下し、場合によっては転覆する為とても使える代物では無いとイギリスは言っていたが」
「砲塔も少し小さくしている様ですね。イギリスの試作艦は35センチクラスでしたから」
「30センチクラスでも充分戦艦サイズだ。沿岸警備隊は勿論、駆逐艦でも撃ち合い出来ない」
「今のところ2隻は確実に存在します。それだけなのか、それ以上存在するのか」
「全く、この12月8日はアメリカ災厄の日として歴史に残る事になりましたね」
「ノックス、そんな冗談事では困る。海軍は今後どうするつもりだ」
ルーズベルトの目は血走り、まるで海軍が怠慢だと言わんばかりの形相だ。
「太平洋艦隊には、本来空母サラトガとホーネットがいます。サラトガはサンディエゴで改修点検中、ホーネットはエンタープライズ同様、戦闘機の輸送任務についていました」
「戦艦や巡洋艦は大西洋艦隊から回す様、今パナマへ向かっている処です」
だが、アメリカ災厄…最悪の日は終わっていなかった。
オレンジルームの電話が鳴り響き、首脳陣は再び悪魔の嘲笑を耳にしたかの感に襲われた。
「な、そ、そんな…」
電話をとった、大統領側近ホプキンスが絶句する。
「何が起こった!」
「ぱ、パナマ運河が空襲されました」
「何だと?」
「商戦が空爆され轟沈、着底。その上ペデロ・ミゲル閘門とミラフローレス閘門が破壊されたと」
「日本軍が?どうやって閘門まで艦載機を運ぶ。奴らの空母の動きが、それ程掴めなかったと言うのか?」
「空爆したのは水上機だそうです」
「水上機?」
言われて思い出す。
真珠湾で、最初の攻撃が水上機だったという事を。
「パナマ湾沖合に別の巨大潜水艦が現れたとの事」
「別の、とは?」
「漁船が確認、機銃で追い払われた様ですが、前甲板にカタパルトを持つ大型潜水艦で、そいつが水上機を3機、発艦したそうです」
「何だと?」
「日本軍は、潜水空母をも造り上げたのかと」
その報告を受けた時、キンメルにはもう生きる希望すら見出せなかった。
「巡洋艦ノーザンプトン大破、駆逐艦ウォーク、バートン、マーフィー撃沈」
「機動部隊もほぼ壊滅と言う事か」
「駆逐艦オブライエンとモンローが無事ですが、これは救助用に見逃されたと」
壊滅してしまった艦隊司令部基地の代わりである倉庫の一室。キンメル達艦隊司令部首脳は、何とか焼け残った格納庫近くの倉庫に、若干の機器を持ち込んで司令部機能を確保していた。
「見逃された、か。そう言えばニューヨークでも例の潜水艦は漁船や客船には手を出さなかったとか」
「ですね。だから写真が残ったんです。秘匿兵器の筈なのに、日本軍の思考は何か違っていると」
「人道的、或いは騎士道か。あながち間違いと言えないだろうが」
「戦争当事国同士としてはどうでしょうか。まぁ、我々も日本が野蛮とは思ってはいませんが」
「大西洋艦隊から、少し回してもらうしかないな」
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ホワイトハウス、オレンジルーム。
ニューヨーク砲撃、真珠湾攻撃に続いての空母エンタープライズ撃沈の報は、太平洋艦隊司令部以上の重苦しい雰囲気と激しい怒りの充満をもたらしていた。
「太平洋艦隊から戦艦と空母が失われた」
「これでは、太平洋が日本の箱庭になってしまう」
この事を聞かされたフィリピン基地司令マッカーサーからは「我々は退避撤退を選べない、と言う事ですか?あなた方は本当に戦争をする気があったのですか?」と首脳批判とさえ思える意見が伝わってきた。
「それにしても、この砲撃潜水艦は」
「写真や、現場の声からの推定ですが、全長190…200mでしょうか。30センチ2連装砲塔を前後一門ずつ。艦橋には測距儀も備わっている様です。エンタープライズをかなりの遠方から砲撃出来ていますし。それに魚雷の性能も問題です」
「ハルゼーの報告か」
「エンタープライズの見張員は、雷跡を全く見なかったと言っているのです」
「そんな馬鹿な。雷跡のない魚雷なぞ」
「どうやら日本は、酸素魚雷の開発に成功した様ですね」
空気を使って馳走する魚雷は、どうしても発泡しながら進むことになる。これが雷跡となって発見されやすい。その為、水に溶け込み無雷跡となる酸素魚雷の開発を急いでいたが、純酸素は爆発し易く危険極まりない為開発を諦めた経緯がある。
「巨大砲撃潜水艦はイギリスが実用不適と判断したモノ。それに酸素魚雷…。何故だ?何故、日本は我々が不可能とした兵器を開発出来る」
「確かに。あの浅い真珠湾でも使える航空魚雷にしても、です。我々はあんな水深では魚雷は使用不可だと考えていたのに」
「神は、世界を正しく導く為に我等白人を創り賜うたのではなかったのか?何故、劣等人種の科学が優れているのだ⁉︎」
天井…、いや天界を見上げているのか?
ルーズベルトの怒りの声がオレンジルームに響く。
軍首脳陣は、そこまで信心深く…と言うか現実的ではあったが、だとしても、こうも自分達が実現不可能、或いは実用に満たずと判断した物を次々と開発する日本に、恐怖せざるを得なかった。
「甲板を開き安定翼にするとは。砲塔を海水流から守るのは勿論、トップヘビーになってしまう事への対策も考えられてある。確か安定性が悪く命中率が著しく低下し、場合によっては転覆する為とても使える代物では無いとイギリスは言っていたが」
「砲塔も少し小さくしている様ですね。イギリスの試作艦は35センチクラスでしたから」
「30センチクラスでも充分戦艦サイズだ。沿岸警備隊は勿論、駆逐艦でも撃ち合い出来ない」
「今のところ2隻は確実に存在します。それだけなのか、それ以上存在するのか」
「全く、この12月8日はアメリカ災厄の日として歴史に残る事になりましたね」
「ノックス、そんな冗談事では困る。海軍は今後どうするつもりだ」
ルーズベルトの目は血走り、まるで海軍が怠慢だと言わんばかりの形相だ。
「太平洋艦隊には、本来空母サラトガとホーネットがいます。サラトガはサンディエゴで改修点検中、ホーネットはエンタープライズ同様、戦闘機の輸送任務についていました」
「戦艦や巡洋艦は大西洋艦隊から回す様、今パナマへ向かっている処です」
だが、アメリカ災厄…最悪の日は終わっていなかった。
オレンジルームの電話が鳴り響き、首脳陣は再び悪魔の嘲笑を耳にしたかの感に襲われた。
「な、そ、そんな…」
電話をとった、大統領側近ホプキンスが絶句する。
「何が起こった!」
「ぱ、パナマ運河が空襲されました」
「何だと?」
「商戦が空爆され轟沈、着底。その上ペデロ・ミゲル閘門とミラフローレス閘門が破壊されたと」
「日本軍が?どうやって閘門まで艦載機を運ぶ。奴らの空母の動きが、それ程掴めなかったと言うのか?」
「空爆したのは水上機だそうです」
「水上機?」
言われて思い出す。
真珠湾で、最初の攻撃が水上機だったという事を。
「パナマ湾沖合に別の巨大潜水艦が現れたとの事」
「別の、とは?」
「漁船が確認、機銃で追い払われた様ですが、前甲板にカタパルトを持つ大型潜水艦で、そいつが水上機を3機、発艦したそうです」
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