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運命の開戦
8.
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12月8日、午後12時。
ハワイから北へ500km程に、南雲機動部隊の第1次攻撃隊が到達していた。
空母赤城の飛行甲板上。
攻撃隊各機が所狭しと並べられている。
その翼下を整備員が駆け回り、着々と発進準備が進められている。
「皇国の荒廃、この一戦にあり!各員、奮励努力せよ‼︎」
航空参謀源田実中佐の号令の下、パイロット達が一斉に愛機へと搭乗する。
「ブチっ」
源田は攻撃隊長淵田美津雄中佐を愛称で呼んだ。
「頼んだぞ」
「任せとけって」
豪快な笑顔で応える淵田に、源田も改めて敬礼して送る。淵田も軽く敬礼し返すと、九七式艦上攻撃機へと乗り込んだ。
山本五十六司令長官の具申で決定した真珠湾攻撃。主力が航空機攻撃となり源田が立案した大作戦が、いよいよ始まろうとしていた。
マストに翻るZ旗。
更にゆっくりと信号旗が上がっていき、最頂部まで上がった後、一気に降ろされる。
「発艦!」
空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍、瑞鶴、翔鶴より次々と飛び立って行く。
板坂少佐率いる零式艦上戦闘機42機。
高嶋少佐率いる九九式艦上爆撃機52機。
村田少佐率いる雷撃隊、九七艦攻40機。
淵田中佐率いる爆撃隊、九七艦攻42機。
総勢174機の、まさに空前無比と言える艦隊航空戦力が順次飛び立っていった。
同時刻。
南雲機動部隊とは反対方面から突入する形で、巨大な潜水艦が2隻並んで潜航していた。
並んでと言うとおかしいかもしれないが、単独行動が主の潜水艦が艦隊行動をとる事が珍しく、ある意味不思議な光景なのかもしれない。
戦略砲撃潜水艦イ- 500と潜水空母イ- 401だ。
真珠湾攻撃という大作戦への参加にあたり、色んな状況判断が必要だろうとの事で旗艦の2隻が此方にきている。
いや、本来はイ- 402も参加していたのだ。
開戦に間に合わす為の急造突貫工事と短期間な訓練の為の練度不足。ハワイへの航海中に色々と不備が起こってしまい引き返す羽目になってしまったのである。
そして、この時イ- 400は別単艦行動をとっていた。
イ- 401より発艦した晴嵐3機は、攻撃隊に先行して強行偵察を行い、真珠湾の様子を機動部隊へ報告していた。主要目的である空母が1隻しかいない事。戦艦は8隻いる事。
「よし、やるぞ!」
そして、空母への雷撃を敢行する事。
真珠湾の水深は浅く、魚雷は海底にぶつかる為雷撃は不可能とアメリカ海軍は考えていた。
日本軍も同様の結論だった。
だが日本は、開発と猛特訓で問題をクリア出来ると考えたのだ。合理的に無駄を省くアメリカと、根性で成せると無理強いをする日本。
此度、運命の女神は偶々日本に微笑んだ。
たった3機の強襲。
それ以上に、フロートを使い船舶の様に接近して敵前洋上で離水すると言う、もはや死命とも言える偵察行は日本ならではのものであり、太平洋艦隊司令部もレーダーに映る海上の小さな影は、地元漁船と考えても、流石に油断とは謗られぬだろう。
結果、空母レキシントンは無防備に左舷に3発の魚雷を喰らってしまう。
慌てふためくその状況下で、日本軍の第1次攻撃隊が襲来したのである。
「よっしゃあー!晴嵐、後は任せな」
駆逐艦が動き出し、対空砲火が始まり出して、フロート付きの晴嵐は必死に逃げ出そうとしていた。
そこへ雲霞の如く九九艦爆が襲い掛かったのである。
その頃にはハワイオアフ島からも迎撃機が上がってきていたがゼロ戦の敵ではなかった。魔法か?とも思える捻り込み等を駆使したゼロ戦の格闘戦力は、アメリカ機を全く寄せ付けなかったのだ。
戦艦へは九七艦攻雷撃隊が向かっていった。
日本が誇る九一式航空魚雷は、真珠湾の浅い水深(30m)をものともせず戦艦へ命中したのである。
戦艦オクラホマは4本の魚雷を左舷に喰らった。
大きく艦体を震わせると、黒煙をあげ左に傾き出す。甲板から滑り落ちる者や飛び降りる者。乗組員は脱出しつつあり、もはや転覆は避けられそうになかった。
戦艦カルフォルニアは2発の魚雷によって爆発炎上。ゆっくりと沈みつつある。
ズガガガーン!
轟音が鳴り響き上空の攻撃機にも衝撃が伝わってくる。
戦艦アリゾナが誘爆を繰り返し爆炎を上げる。
戦艦ウェストバージニアも3発の魚雷を喰らい沈もうとしていた。
「せ、戦艦が…」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
太平洋艦隊司令部。
昼食をとり終えた太平洋艦隊司令長官ハズバンド=キンメル提督は、食後のコーヒーを味わっている時に空襲警報と駆け込んで来た部下の報告を聞いた。
「海上の漁船らしき影は所属不明航空機と判明。その数3機」
「はあ?何を言っている?」
日本の宣戦布告があって2日。
非常時から警戒時へ移行し、緊張の日々が少し軽くなったと思えた朝。キンメルの元にも日本軍の巨大潜水艦がニューヨークに現れ、自由の女神や沿岸部を砲撃したと言うショッキングなニュースが飛び込んできた。
「何を馬鹿な。今日はエイプリルフールではないのだぞ」
巡洋艦サイズの大型砲撃潜水艦。
我が目で見ても信じられない存在の襲撃等、タチの悪い冗談でしかなかったのである。
そこへ振って沸いた所属不明機。
冗談が流行っているのか?何が来ると言うのだ。
「所属不明機は日本機と判明!」
流石に晴嵐にある日の丸が確認され、キンメルも冗談では済ませられなくなった。
ドドーン!ズガガガーン‼︎
衝撃音は3発聞こえてきた。
「レキシントン、雷撃されました!」
それから、ものの数十分。
今、目の前で起こっている惨状。
キンメルには悪夢としか思えなかった。
「ハルゼーの警告は正しかったと言うのか」
ハワイから北へ500km程に、南雲機動部隊の第1次攻撃隊が到達していた。
空母赤城の飛行甲板上。
攻撃隊各機が所狭しと並べられている。
その翼下を整備員が駆け回り、着々と発進準備が進められている。
「皇国の荒廃、この一戦にあり!各員、奮励努力せよ‼︎」
航空参謀源田実中佐の号令の下、パイロット達が一斉に愛機へと搭乗する。
「ブチっ」
源田は攻撃隊長淵田美津雄中佐を愛称で呼んだ。
「頼んだぞ」
「任せとけって」
豪快な笑顔で応える淵田に、源田も改めて敬礼して送る。淵田も軽く敬礼し返すと、九七式艦上攻撃機へと乗り込んだ。
山本五十六司令長官の具申で決定した真珠湾攻撃。主力が航空機攻撃となり源田が立案した大作戦が、いよいよ始まろうとしていた。
マストに翻るZ旗。
更にゆっくりと信号旗が上がっていき、最頂部まで上がった後、一気に降ろされる。
「発艦!」
空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍、瑞鶴、翔鶴より次々と飛び立って行く。
板坂少佐率いる零式艦上戦闘機42機。
高嶋少佐率いる九九式艦上爆撃機52機。
村田少佐率いる雷撃隊、九七艦攻40機。
淵田中佐率いる爆撃隊、九七艦攻42機。
総勢174機の、まさに空前無比と言える艦隊航空戦力が順次飛び立っていった。
同時刻。
南雲機動部隊とは反対方面から突入する形で、巨大な潜水艦が2隻並んで潜航していた。
並んでと言うとおかしいかもしれないが、単独行動が主の潜水艦が艦隊行動をとる事が珍しく、ある意味不思議な光景なのかもしれない。
戦略砲撃潜水艦イ- 500と潜水空母イ- 401だ。
真珠湾攻撃という大作戦への参加にあたり、色んな状況判断が必要だろうとの事で旗艦の2隻が此方にきている。
いや、本来はイ- 402も参加していたのだ。
開戦に間に合わす為の急造突貫工事と短期間な訓練の為の練度不足。ハワイへの航海中に色々と不備が起こってしまい引き返す羽目になってしまったのである。
そして、この時イ- 400は別単艦行動をとっていた。
イ- 401より発艦した晴嵐3機は、攻撃隊に先行して強行偵察を行い、真珠湾の様子を機動部隊へ報告していた。主要目的である空母が1隻しかいない事。戦艦は8隻いる事。
「よし、やるぞ!」
そして、空母への雷撃を敢行する事。
真珠湾の水深は浅く、魚雷は海底にぶつかる為雷撃は不可能とアメリカ海軍は考えていた。
日本軍も同様の結論だった。
だが日本は、開発と猛特訓で問題をクリア出来ると考えたのだ。合理的に無駄を省くアメリカと、根性で成せると無理強いをする日本。
此度、運命の女神は偶々日本に微笑んだ。
たった3機の強襲。
それ以上に、フロートを使い船舶の様に接近して敵前洋上で離水すると言う、もはや死命とも言える偵察行は日本ならではのものであり、太平洋艦隊司令部もレーダーに映る海上の小さな影は、地元漁船と考えても、流石に油断とは謗られぬだろう。
結果、空母レキシントンは無防備に左舷に3発の魚雷を喰らってしまう。
慌てふためくその状況下で、日本軍の第1次攻撃隊が襲来したのである。
「よっしゃあー!晴嵐、後は任せな」
駆逐艦が動き出し、対空砲火が始まり出して、フロート付きの晴嵐は必死に逃げ出そうとしていた。
そこへ雲霞の如く九九艦爆が襲い掛かったのである。
その頃にはハワイオアフ島からも迎撃機が上がってきていたがゼロ戦の敵ではなかった。魔法か?とも思える捻り込み等を駆使したゼロ戦の格闘戦力は、アメリカ機を全く寄せ付けなかったのだ。
戦艦へは九七艦攻雷撃隊が向かっていった。
日本が誇る九一式航空魚雷は、真珠湾の浅い水深(30m)をものともせず戦艦へ命中したのである。
戦艦オクラホマは4本の魚雷を左舷に喰らった。
大きく艦体を震わせると、黒煙をあげ左に傾き出す。甲板から滑り落ちる者や飛び降りる者。乗組員は脱出しつつあり、もはや転覆は避けられそうになかった。
戦艦カルフォルニアは2発の魚雷によって爆発炎上。ゆっくりと沈みつつある。
ズガガガーン!
轟音が鳴り響き上空の攻撃機にも衝撃が伝わってくる。
戦艦アリゾナが誘爆を繰り返し爆炎を上げる。
戦艦ウェストバージニアも3発の魚雷を喰らい沈もうとしていた。
「せ、戦艦が…」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
太平洋艦隊司令部。
昼食をとり終えた太平洋艦隊司令長官ハズバンド=キンメル提督は、食後のコーヒーを味わっている時に空襲警報と駆け込んで来た部下の報告を聞いた。
「海上の漁船らしき影は所属不明航空機と判明。その数3機」
「はあ?何を言っている?」
日本の宣戦布告があって2日。
非常時から警戒時へ移行し、緊張の日々が少し軽くなったと思えた朝。キンメルの元にも日本軍の巨大潜水艦がニューヨークに現れ、自由の女神や沿岸部を砲撃したと言うショッキングなニュースが飛び込んできた。
「何を馬鹿な。今日はエイプリルフールではないのだぞ」
巡洋艦サイズの大型砲撃潜水艦。
我が目で見ても信じられない存在の襲撃等、タチの悪い冗談でしかなかったのである。
そこへ振って沸いた所属不明機。
冗談が流行っているのか?何が来ると言うのだ。
「所属不明機は日本機と判明!」
流石に晴嵐にある日の丸が確認され、キンメルも冗談では済ませられなくなった。
ドドーン!ズガガガーン‼︎
衝撃音は3発聞こえてきた。
「レキシントン、雷撃されました!」
それから、ものの数十分。
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