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運命の開戦
7.
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12月8日、午前6時。
日本がアメリカと国交断絶して2日目の朝。
それでも、いつもと変わらぬ日常。
ニューヨークの朝は、客船や輸送船が行き交い、また漁船はある程度漁を終えてロングアイランドの漁港へ帰ろうという時間。
そこへ、とてつもなく大きな潜水艦が浮上してきた。
行き交う漁船も、また定期航路の客船も見た事のない大型潜水艦が上部船体を左右に開き出す。それは安定翼にも浮きにも見える。そして現れた甲板上には、まるで巡洋艦かと思える様な主砲が最前部と後尾に備え付けられていた。艦橋には測距儀も見える。
「な、何だ?あれは」
やがて、マストに晴天旭日旗が翻る。
「は?日本の?」
その旗が日本軍のモノだと知る者が輸送船船長の中にもいた。
現在、国交断絶し戦争状態である事を。
ドドーン!
前部主砲が火を噴いた?
何処?何を狙って撃った?
ズガガガーン!
弾着?何が?
ロングアイランドに?いや、リバティアイランドだ!
船長は、砕け落ちる自由の女神像を見た。手にしていたであろう松明が、クルクルと回りながら海上へ落下して。
潜水艦の横を、漁船が慌てて遠ざかろうと逃げていく。だが、大型潜水艦は漁船に見向きもしない様だ。
「漁船は撃たないのか?くそッ!輸送船は見逃さないってか?」
砲塔が、こちらに転回したかにみえる。
ドドーン!
ヒューン‼︎
砲弾の風切り音が聞こえた気がした。
ズガガガーン!
輸送船に命中した砲弾は、船を真っ二つにするかの如く中央で炸裂し、輸送船は波間へと姿を消した。
それを見て客船も必死で遠ざかろうとする。
が、砲塔が客船を向く事はなかった。
埠頭から、今にも出航しようとする沿岸警備隊の巡視艇を狙っていた。
ドドーン!
ドドーン‼︎
今度は前部後部の主砲を同時に撃ったのか?
ロングビーチに平行する形になった大型潜水艦は、埠頭や沿岸部を砲撃し始めたのだ。
「船長!」
「しゃ、写真は撮ったか?」
「い、一応。でも、何ですか?あの化け物潜水艦」
「マストにある旗からして日本軍だ。あんな化け物を持っていたのか?此処迄どうやって来たと言うんだ⁉︎」
ズガガガーン!
巡視艇が呆気なく沈んでいく。
おっとり刀で飛んで来た、沿岸警備隊の戦闘機も、上部甲板にある機銃~連装機関砲が炸裂し、敢えなく撃墜されてしまった。
「まるで巡洋艦だ。いや、あの主砲は戦艦クラスなのか?」
客船の船長も従軍経験があった。
それだけに大型潜水艦の搭載砲が、戦艦並の30センチ程に見えたのである。
どれ程砲撃したのだろうか?
砲撃し終えた大型潜水艦は上部船体を閉じると、巨体らしからぬ素早さで潜航していった…。
時間にして、ほんの30分もあったかどうか。
本土、それもアメリカの玄関口への日本軍の砲撃は、アメリカ全土に激震を走らせたのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
12月8日、午後1時。
オレンジルームに再び軍首脳が揃った。
昼食もそこそこに召集された彼等は、日本軍の巡洋艦サイズという有り得ない巨大な潜水艦がニューヨークを砲撃したと言う、冗談にしてはタチの悪い報告を受けて唖然としていた。
だが冗談ではない。客船乗組員や乗客が撮った写真が数枚、机に拡げられている。
「間違いなく旭日旗だ。日本軍がこのニューヨークを…」
「こんな化け物を造っていた等、何故我々の情報部は知り得なかったのだ⁉︎」
「そう言えば、確かイギリスの試作砲撃潜水艦を買い付けたときいています」
「数十年前だったか?だが、あれは実用に耐えずと失敗作評価だったと記憶しているが」
「はい、とりあえずイギリスにも確認中です」
浮上するまで誰にも気付かれず。
潜航された為に行方も知れず。
潜水艦の秘匿性が、これほど厄介なモノであると言うのか?
「コイツは次に何処へ現れる?何処へ消えた?」
「閣下。それよりも、日本軍がコイツを何隻保有しているかが問題です」
建造すら気付かれなかった化け物潜水艦。
ルーズベルト大統領は、目の前が闇に覆われ、魔王が嘲笑している様な錯覚に襲われてしまった。
「まさか1隻だけ、という事はないでしょう」
「そう…だ、な。そんな兵器等あり得ない。だが日本がこんな巨艦を造るだけの技術と資材を持つとは」
「昨年禁輸するまで、日本は鉄屑をかなり輸入しております。また東南アジアを手中に収めた事で各種資源を手に入れている筈です」
ルーズベルトは写真を手に取ると。
「この主砲は30センチだという事だが」
「威力もですが、この写真を撮った客船クーリッジ号のハリスン船長は従軍経験があります。彼は前大戦時には巡洋艦勤務でして、艦砲のサイズはそれなりに把握出来ていると」
フォレスタル海軍作戦部長が応える。
報告を受けた時に、フォレスタルはハリスンの従軍の有無を確認した。勤務状況や評価等から、彼の報告の信頼性を高くしたのである。
「戦艦並の主砲、という事になるな」
「巡洋艦サイズならば搭載も可能だろう。それでいて潜水航行が出来るとなると」
「まだ信じられんよ。こんな化け物潜水艦が存在する等と」
その時、会議室の電話が鳴った。
「今、大事な会議中だ!何が?は?何だと?」
電話を取ったのは大統領側近ホプキンス。
「何事だ?」
だが、ホプキンスは呆然として直ぐには応えなかった。
「ホプキンス!何があった‼︎」
「ハワイが…、日本軍が真珠湾を攻撃しました。太平洋艦隊司令部からの緊急伝です」
日本がアメリカと国交断絶して2日目の朝。
それでも、いつもと変わらぬ日常。
ニューヨークの朝は、客船や輸送船が行き交い、また漁船はある程度漁を終えてロングアイランドの漁港へ帰ろうという時間。
そこへ、とてつもなく大きな潜水艦が浮上してきた。
行き交う漁船も、また定期航路の客船も見た事のない大型潜水艦が上部船体を左右に開き出す。それは安定翼にも浮きにも見える。そして現れた甲板上には、まるで巡洋艦かと思える様な主砲が最前部と後尾に備え付けられていた。艦橋には測距儀も見える。
「な、何だ?あれは」
やがて、マストに晴天旭日旗が翻る。
「は?日本の?」
その旗が日本軍のモノだと知る者が輸送船船長の中にもいた。
現在、国交断絶し戦争状態である事を。
ドドーン!
前部主砲が火を噴いた?
何処?何を狙って撃った?
ズガガガーン!
弾着?何が?
ロングアイランドに?いや、リバティアイランドだ!
船長は、砕け落ちる自由の女神像を見た。手にしていたであろう松明が、クルクルと回りながら海上へ落下して。
潜水艦の横を、漁船が慌てて遠ざかろうと逃げていく。だが、大型潜水艦は漁船に見向きもしない様だ。
「漁船は撃たないのか?くそッ!輸送船は見逃さないってか?」
砲塔が、こちらに転回したかにみえる。
ドドーン!
ヒューン‼︎
砲弾の風切り音が聞こえた気がした。
ズガガガーン!
輸送船に命中した砲弾は、船を真っ二つにするかの如く中央で炸裂し、輸送船は波間へと姿を消した。
それを見て客船も必死で遠ざかろうとする。
が、砲塔が客船を向く事はなかった。
埠頭から、今にも出航しようとする沿岸警備隊の巡視艇を狙っていた。
ドドーン!
ドドーン‼︎
今度は前部後部の主砲を同時に撃ったのか?
ロングビーチに平行する形になった大型潜水艦は、埠頭や沿岸部を砲撃し始めたのだ。
「船長!」
「しゃ、写真は撮ったか?」
「い、一応。でも、何ですか?あの化け物潜水艦」
「マストにある旗からして日本軍だ。あんな化け物を持っていたのか?此処迄どうやって来たと言うんだ⁉︎」
ズガガガーン!
巡視艇が呆気なく沈んでいく。
おっとり刀で飛んで来た、沿岸警備隊の戦闘機も、上部甲板にある機銃~連装機関砲が炸裂し、敢えなく撃墜されてしまった。
「まるで巡洋艦だ。いや、あの主砲は戦艦クラスなのか?」
客船の船長も従軍経験があった。
それだけに大型潜水艦の搭載砲が、戦艦並の30センチ程に見えたのである。
どれ程砲撃したのだろうか?
砲撃し終えた大型潜水艦は上部船体を閉じると、巨体らしからぬ素早さで潜航していった…。
時間にして、ほんの30分もあったかどうか。
本土、それもアメリカの玄関口への日本軍の砲撃は、アメリカ全土に激震を走らせたのである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
12月8日、午後1時。
オレンジルームに再び軍首脳が揃った。
昼食もそこそこに召集された彼等は、日本軍の巡洋艦サイズという有り得ない巨大な潜水艦がニューヨークを砲撃したと言う、冗談にしてはタチの悪い報告を受けて唖然としていた。
だが冗談ではない。客船乗組員や乗客が撮った写真が数枚、机に拡げられている。
「間違いなく旭日旗だ。日本軍がこのニューヨークを…」
「こんな化け物を造っていた等、何故我々の情報部は知り得なかったのだ⁉︎」
「そう言えば、確かイギリスの試作砲撃潜水艦を買い付けたときいています」
「数十年前だったか?だが、あれは実用に耐えずと失敗作評価だったと記憶しているが」
「はい、とりあえずイギリスにも確認中です」
浮上するまで誰にも気付かれず。
潜航された為に行方も知れず。
潜水艦の秘匿性が、これほど厄介なモノであると言うのか?
「コイツは次に何処へ現れる?何処へ消えた?」
「閣下。それよりも、日本軍がコイツを何隻保有しているかが問題です」
建造すら気付かれなかった化け物潜水艦。
ルーズベルト大統領は、目の前が闇に覆われ、魔王が嘲笑している様な錯覚に襲われてしまった。
「まさか1隻だけ、という事はないでしょう」
「そう…だ、な。そんな兵器等あり得ない。だが日本がこんな巨艦を造るだけの技術と資材を持つとは」
「昨年禁輸するまで、日本は鉄屑をかなり輸入しております。また東南アジアを手中に収めた事で各種資源を手に入れている筈です」
ルーズベルトは写真を手に取ると。
「この主砲は30センチだという事だが」
「威力もですが、この写真を撮った客船クーリッジ号のハリスン船長は従軍経験があります。彼は前大戦時には巡洋艦勤務でして、艦砲のサイズはそれなりに把握出来ていると」
フォレスタル海軍作戦部長が応える。
報告を受けた時に、フォレスタルはハリスンの従軍の有無を確認した。勤務状況や評価等から、彼の報告の信頼性を高くしたのである。
「戦艦並の主砲、という事になるな」
「巡洋艦サイズならば搭載も可能だろう。それでいて潜水航行が出来るとなると」
「まだ信じられんよ。こんな化け物潜水艦が存在する等と」
その時、会議室の電話が鳴った。
「今、大事な会議中だ!何が?は?何だと?」
電話を取ったのは大統領側近ホプキンス。
「何事だ?」
だが、ホプキンスは呆然として直ぐには応えなかった。
「ホプキンス!何があった‼︎」
「ハワイが…、日本軍が真珠湾を攻撃しました。太平洋艦隊司令部からの緊急伝です」
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