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運命の開戦
4.
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呉海軍潜水艦基地。
今、ゆっくりと巨大な潜水艦が出航していく。
この秋竣工した伊号第401潜水艦だ。
「行っちまいましたねぇ」
埠頭で見送ったのは伊号第400潜水艦。
本来なら、イ- 400が先に完成する筈だった。
甲板上で作業中の下士官や水兵達は、無念さを滲ませながらイ- 401を見送る。
と、後部甲板ハッチから出て来る士官がいる。
「そろそろ航海長達が着任する頃だ。別件もあるので庁舎へ出向く」
「了解です、先任」
司令塔で作業を監督している砲術長平松中尉が、敬礼して先任将校兼水雷長前原泰造少佐を見送り、それを見て水兵達がわらわらと集まってくる。
「今度来られる航海長って」
「インド洋でイギリスの駆逐艦相手に大活躍したって聞きましたが」
「らしいな。先任は前にも同じ艦にのってたって言われてたぞ」
前原先任の知り合い?
ならば、前任者の様に陰険で部下虐めをする様な者ではないな。
下士官達に安堵の表情が浮かぶ。
それくらい彼は嫌われ、急病で入院する事になった事に課員に拍手喝采されたのだ。
「おーい、そろそろ作業に戻れ」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「大尉殿、あれ」
「え?出航した?は?」
埠頭が一望出来る庁舎の窓から、2人の士官が少し慌てて海を眺めて。
「401だよ、太一」
廊下で前原に声をかけられ、2人の内の若い方が振り向き様に「水雷長!」と破顔する。
「とうとう航海長か。それと甲本も。まだ一緒なのか?」
「どうも腐れ縁になってきやして」
「確かにな。司令に着任の挨拶は」
「今済ませたところです」
「なら、艦へ案内するよ。イ- 400の先任将校前原だ」
「航海長を拝命致しました矢上太一大尉です」
「同じく、運用長を拝命致しました甲本洋平中尉です」
敬礼を交わした後、3人は艦へと急ぐ。
「先程、401が出航したと言われていましたが?」
「あぁ。事情があってな。向こうが先に完成したんだ」
埠頭へ向かう道縋ら。
「伊号第400型潜水艦の事は聞いているな」
「はい。潜水空母と聞いています」
「あぁ。本来400型は12隻建造される予定だったんだが、予算の事情でな。先ずは4隻という事になった」
「また、削られましたね」
「その分搭載機を当初計画より増やす事になったんだ。2機を3機にする訳だが、これが決まった時401は着工前で400は既に外殻が出来ていてね。格納庫拡張よりは402として出来つつある外殻を持ってこようという話になってね」
「その分工期がズレた」
「そう言う事だ。で、旗艦も401が務める事になってね。400の乗員はそれが面白くない」
「それは、確かに」
「まぁ、モノは考え様だ。何せ艦隊司令の有田大佐とウチの艦長は全くウマが合わない」
山本次官の構想である特殊戦略潜水艦隊。
現場の艦長や艦政本部内では、それ程支持されている訳ではなかったが、有田龍之介大佐は当時軍令部員の中で空母構想を支持していた1人だった。水偵搭載型潜水艦の艦長には一部、「折角の航空戦力を偵察の為だけに使うのは勿体ない」と言う意見もあったのだ。
有田司令は、軍令部に居ただけに世界情勢や国際法にも明るく、潜水艦長としても優秀であっただけに「我が意のままに。異論認めず」と、司令着任時は多少我の強い部分があった。確かに間違った事は言ってないのだが、イ- 400艦長南田志郎中佐は、それでも場合によっては司令の言に頷く事が無く、それまで部下の反論にあった事のなかった有田の怒りを買う事もしばしばあったのだ。
401艦長日高中佐は、その意味では上に従う、上官にとって実に使いやすい艦長であり(追従型と安直には言い切れなかったが)、有田にとってもやり易い形となった。
イ- 401が旗艦になったのは、竣工時期だけが理由ではなかったのだ。
「まあ、それくらい色々厳しい艦長だからな。覚悟しとけよ」
そう言う前原の表情は決して暗くなく、だから矢上も「前原さんが、此処迄慕う艦長ならば」と決意を新たにしていた。
今、ゆっくりと巨大な潜水艦が出航していく。
この秋竣工した伊号第401潜水艦だ。
「行っちまいましたねぇ」
埠頭で見送ったのは伊号第400潜水艦。
本来なら、イ- 400が先に完成する筈だった。
甲板上で作業中の下士官や水兵達は、無念さを滲ませながらイ- 401を見送る。
と、後部甲板ハッチから出て来る士官がいる。
「そろそろ航海長達が着任する頃だ。別件もあるので庁舎へ出向く」
「了解です、先任」
司令塔で作業を監督している砲術長平松中尉が、敬礼して先任将校兼水雷長前原泰造少佐を見送り、それを見て水兵達がわらわらと集まってくる。
「今度来られる航海長って」
「インド洋でイギリスの駆逐艦相手に大活躍したって聞きましたが」
「らしいな。先任は前にも同じ艦にのってたって言われてたぞ」
前原先任の知り合い?
ならば、前任者の様に陰険で部下虐めをする様な者ではないな。
下士官達に安堵の表情が浮かぶ。
それくらい彼は嫌われ、急病で入院する事になった事に課員に拍手喝采されたのだ。
「おーい、そろそろ作業に戻れ」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「大尉殿、あれ」
「え?出航した?は?」
埠頭が一望出来る庁舎の窓から、2人の士官が少し慌てて海を眺めて。
「401だよ、太一」
廊下で前原に声をかけられ、2人の内の若い方が振り向き様に「水雷長!」と破顔する。
「とうとう航海長か。それと甲本も。まだ一緒なのか?」
「どうも腐れ縁になってきやして」
「確かにな。司令に着任の挨拶は」
「今済ませたところです」
「なら、艦へ案内するよ。イ- 400の先任将校前原だ」
「航海長を拝命致しました矢上太一大尉です」
「同じく、運用長を拝命致しました甲本洋平中尉です」
敬礼を交わした後、3人は艦へと急ぐ。
「先程、401が出航したと言われていましたが?」
「あぁ。事情があってな。向こうが先に完成したんだ」
埠頭へ向かう道縋ら。
「伊号第400型潜水艦の事は聞いているな」
「はい。潜水空母と聞いています」
「あぁ。本来400型は12隻建造される予定だったんだが、予算の事情でな。先ずは4隻という事になった」
「また、削られましたね」
「その分搭載機を当初計画より増やす事になったんだ。2機を3機にする訳だが、これが決まった時401は着工前で400は既に外殻が出来ていてね。格納庫拡張よりは402として出来つつある外殻を持ってこようという話になってね」
「その分工期がズレた」
「そう言う事だ。で、旗艦も401が務める事になってね。400の乗員はそれが面白くない」
「それは、確かに」
「まぁ、モノは考え様だ。何せ艦隊司令の有田大佐とウチの艦長は全くウマが合わない」
山本次官の構想である特殊戦略潜水艦隊。
現場の艦長や艦政本部内では、それ程支持されている訳ではなかったが、有田龍之介大佐は当時軍令部員の中で空母構想を支持していた1人だった。水偵搭載型潜水艦の艦長には一部、「折角の航空戦力を偵察の為だけに使うのは勿体ない」と言う意見もあったのだ。
有田司令は、軍令部に居ただけに世界情勢や国際法にも明るく、潜水艦長としても優秀であっただけに「我が意のままに。異論認めず」と、司令着任時は多少我の強い部分があった。確かに間違った事は言ってないのだが、イ- 400艦長南田志郎中佐は、それでも場合によっては司令の言に頷く事が無く、それまで部下の反論にあった事のなかった有田の怒りを買う事もしばしばあったのだ。
401艦長日高中佐は、その意味では上に従う、上官にとって実に使いやすい艦長であり(追従型と安直には言い切れなかったが)、有田にとってもやり易い形となった。
イ- 401が旗艦になったのは、竣工時期だけが理由ではなかったのだ。
「まあ、それくらい色々厳しい艦長だからな。覚悟しとけよ」
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