【完結】悪役令嬢に転生したのに、あれ? 話が違うよ?

ノデミチ

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第四章

23. 戦後処理と甘いオシオキと

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 ロズファンバルグ帝国軍野営地。

 補給部隊が山賊の襲撃を受け、兵糧が奪われてしまったと報告が来るのに暫しの時間が経過した。
 それを阻止すべく救援に赴いた軽騎兵団も冒険者風の少女2人に追い払われてしまったとの報告が入った時、帝国の侵攻兵団の総指揮官アレス=ザレスは独断で侵攻を諦め、兵糧が尽きる前に撤退、つまり再び国境を越えようと考えた。
 まだ深く侵攻しておらず、国境線はそれ程遠くなかったからなのだが、目前のフォルティス辺境伯の別荘地にマールディア王国軍が集結しつつあると聞くと
「手遅れ、万事休すか」
 直ぐに降伏を決めてしまった。

 元々アレスは交戦派の貴族の陪臣で騎士団長の身分でしかない。
 交戦派の急先鋒はトラブニス公爵だが、先の皇太子襲撃にしてもそうだが、詰めが甘いというか博打打ちの度胸がからっきしと言っていい程無く自分の近衛騎士団も陪臣も全く侵攻兵団に出してこなかった。過激派とも言える交戦派ギムルソン伯爵の騎士団が主力であり、アレスもその第2騎士団長である。
 主家の命に忠実ではあるものの、アレスは基本的には超リアリストであり、この侵攻の馬鹿馬鹿しさをしっかりと認識していた。

「お前を逃した女冒険者は、例の王太子婚約者だと思える。そうだったな」

 自身は肩を射抜かれ、弓兵を無力化された軽騎兵の隊長、騎士ケリー=コラリーは2人の冒険者の内、明らかに判断を下していた方を思い浮かべて頷いた。
「15~6くらいの少女で金髪碧眼。東方剣技の使い手でしたので、まず間違いないかと」
「ウム。金髪碧眼で東方剣技の使い手…。確かにそんな少女は2人と居まい」
「それに大地属性魔法と風属性魔法を使っていたようですので」
「大地上位精霊ガイエルフェン…。その上で貴様等を捕虜とする事に難色を示す、か。おそらくハインツ皇太子と何らかの繋がり?密約か?出来ているのだろう。となると、ここでマールディアの兵と戦う事は無駄…、無意味と言えるな。ここは矢張り降伏の一手しかないな。尤もロイド第3騎士団長は反対するだろうが」

 あの男は降伏よりも玉砕を選ぶ。
 マールディア王国を見下すガチガチの国粋主義者で、交戦派ギムルソン伯爵の過激な信奉者ロイド=ワイルダー。
 大極を見ない近視眼的脳筋の為に、ギムルソン伯爵ですら侵攻兵団の総指揮を執らせる事を躊躇ってしまい、自身に否定的で、苦言さえ呈するアレスに兵団長を任せざるを得なかった。
 この辺ギムルソンは過激派ではあっても軍人として決して無能では無く、退却や降伏を選択肢の1つとして普通に持てる度量を持っていたのである。


「こ、降伏だとぉ?」
「状況を見るに他に手は無しと思えるのだが?」

 野営地の本陣たる天幕にロイドを呼び出したアレスは、今後の打開策として敵陣降伏の意思を伝えた。

「我等はまだ負けてはおらぬ!」
「だが勝てる要素も皆無だ。その上例のマールディア王太子妃候補たるガーランド公爵令嬢の態度を見るに、何かハインツ皇太子と密約が有るようにも見える。だとすれば、このまま戦っても我等は叛逆罪に問われかねない。ならばこそだ」
「バカな。我等が叛逆?」
「皇族の意向を伯爵が意に解さぬと思うてか?」

 本来アレスとロイドは同格である。伯爵家の騎士団長同士だ。が、天幕の中、アレスが急造の執務机で席につき真向かいにロイドが立っている。
 この兵団の総指揮官がアレスであり、その下についている事をロイドも納得しているのだ。脳筋であっても軍秩序は流石に弁えていた。

「ロイド、私とて納得出来ない。だが叛逆者の汚名等死んでも御免蒙る。だからだ。降伏して皇太子殿下の意に沿う形で帰国するのがマシなほうだと思えるのだ」

 皇太子の意に沿う形。
 結局、アレスのこの読みは正しく、降伏し捕虜となったギムルソン伯爵の騎士団はマールディア王家とハインツ皇太子主導のロズファンバルグ皇家とのやり取りで身柄の引き渡しが実現する。
 
 その1ヵ月後、正式に両国に国交が樹立された。


「胸騒ぎ?は?どういう事?」
「何か漠然と不安感があるの。でも何が引っかかっているのかがピンとこないの」

 ロズファンバルグ帝国侵攻兵団が降伏して、その身柄をフォルティス辺境伯が確保した。アレスは降伏したものの軍律を正し、秩序を保っていたので、辺境伯の騎士団も捕虜を騎士として扱い、丁重に王都へと護送したのである。
 それを見届けてアリスとクラリスはコッソリと王都に帰った。が、捕虜尋問のせいで2人が密かに何をしてきたか、王室にバレてしまったのだ。
「自分が預かる」
 ユーリル王太子が言い切り、王妃や宰相の説教は回避出来たものの、全くアリスは安心出来なかった。

 ユーリル王太子の私室に連れ込まれる。
「さて、何が言いたいか分かるよね」
 無邪気に見えての黒笑みがユーリルの気持ちを物語っていて、流石にアリスも言い訳出来なかった。
「えーと、申し訳ありませんでした、殿下。もうしませんので…」
 迫られて壁にドンと手を突かれて。
「うわぁ、現実の壁ドン?あの、ユーリル殿下?その、ね、ワッキ、ゴメン」
 ユーリルは無言で圧力を掛けつつ迫って来る。
「ね、その…、ち、近い…よ、あ、うぅん」
 アリスの小さな柔らかい唇を、ユーリルは己が口で塞いだ。
「あん、うぅん」
 割と長く塞ぎ、たっぷりと甘い口づけを堪能して、
「怒ってる。だから、先ずはオシオキ」
「きゃあ、ちょ、ちょっと、殿下!? その、あ、あん」
 ユーリルは身体を密着させると、アリスの頬から耳元へ口づけを這わす。壁を押さえていた右手は、今度はアリスを押さえ付ける。それも胸元を。撫でる感じから、やがて鷲掴みになり、その弾力を堪能し始めた。

 結局、アリスは婚前交渉とも言えそうなオシオキを受けてしまう。最後の一線を超えない寸止め状態の愛撫は、ユーリルの自爆とも言えたのだが。

「これで全て上手くいった…んだよね?そう思ったんだけど」
「は?上手くいったんだろ?何がある」
「妙な胸騒ぎがあって」

 不安が分からないままアリスはユーリル王太子と共に、ロズファンバルグ帝国との国交樹立調印式に臨む。


 王都では、少しずつ闇の精霊が力を蓄えつつあった。
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