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第四章
18. 静かなる悪意
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「…ガーランド公爵令嬢アリス…。ここまで手強いとは?」
「今さらだな? 宰相家にしてやられたのは、これが初めてではあるまい?」
「くっ? 皇太子殿下と言えど口が過ぎますぞ! ここは皇帝陛下の御前であるのですぞ!!」
ロズファンバルグ帝国、王宮。
マールディア王国に入った工作員より、計画が狂い出したという報告が入り、皇帝以下関係閣僚が、防音魔法隔壁のある小部屋に入ったのは先程であった。
愉しげな皇太子に比べ、苦虫を噛み潰したような顔をしている宰相。焦った顔の軍諜報部の長。
だが、皇帝は無表情だ。喜びも焦りも、何の感情も見せていない。
「とは言え、まだ表立って動くのは不味い。今少しガントに頑張って貰うしかないと思うが?」
「それしかあるまい」
小部屋を出て、皇帝の私室。
入る事が出来るのは本当に限られている場所。勿論、実子たる皇太子は限られたメンバーだ。
「ルイーゼの件、お前の指示か? ハインツ」
「はい、父上。ルイーゼはアリス=ガーランド公爵令嬢との接触に成功したと。かなり親しくなれたようです」
「彼女をどう使う」
「無論、両国の親善友好。私は皆様と考えもやり方も違う!」
「ま、よい。変革も必要かも知れぬ。故にお前を好きにさせておる。国の大義、忘れるなよ?」
「御意」
私室を出る皇太子。
見つめる皇帝の目はやや暗い。
「希望のみを見つめるは若き故の特権。だが、いらぬ野心を載せようとするのが気になるのう」
「アリス。君は私の花嫁だ。くくっ、あはははは」
そして、ハインツ皇太子の笑みもやや暗かったのだ。
アリスの支援、農地開発は進み、荒地や岩場、沼地等色んな所が畑へと開墾されていった。
「『豊穣の女神』。本当に大したものです」
「便利屋じみてきましたが?」
「フローラは兎も角、クラリス、言い方酷くない?」
学園での定例とも言えるお茶会。
2大巨頭という意味が薄れつつある。フローラがアリスの傘下に入ってしまったという状況なのだから。
アリスのライバルではなかったのか?貴族達からは困惑の声もあったのだが、フローラ曰く、
「私達は将来、義理の姉妹になるのですから」
まだ、ユリアン王子と婚約している訳ではない。ユーリル王太子の婚約者であるアリスとは立ち位置が違う筈なのだが、それを感じさせない状況になりつつある。
サイナス伯爵家は確かに第2王子派だったが、その中心的存在ではなかった。本来ならばフローラの態度は、他の貴族達の反感と嫉妬を買う筈なのだが、当のユリアン王子が否定せず、またセレナ王妃も反対していない。
前回のレイザック侯爵令嬢エーリカの時は、断固と言える位の反対する態度を見せていた王妃が、である。
それはさておき、ほんわかとした雰囲気でお茶会は続いた。
それが、3人のみの密談となると雰囲気が変わってしまう。そして、この時はフローラではなくルイーゼに名が変わる。
「皇太子が黒い? そのハインツ様とか、でしたっけ?」
「えぇ、クラリス。そのハインツ皇太子殿下のお蔭で、死罪にならず、こうして色々やってるのですけど、その、アリス様の事を色々聞かれたのです」
「私の事?」
「流石はアリス様。ここに来て、又々求婚者が出来た?」
「やめて。後1年半位でユーリル殿下に嫁げるのですよ? 勘弁して下さい」
言ってる事は大事なのだが、この3人だと女子会にしか聞こえないのは、全員が陰謀詭計に優れているから? クラリスに至っては、面白がってる様にしか見えない。
「友好親善の為、ロズファンバルグの者と婚姻、大義名分はとてつもなく大きいですが、アリス様にきたらどうされますか?」
「それは、貴女とユリアン殿下におまかせしますわ。だからこそ、貴女をルイーゼとして、マールディア王国に認めさせるようクラリスと謀っているのですよ」
笑みを浮かべて悪巧み。アリスもまた、クラリスに負けず劣らず面白がってる感があった。
「それは…?」
「ロズファンバルグ皇族として、マールディア王子に嫁ぐ。私、本気ですよ、ルイーゼ。それとも、ユリアン殿下の事はお芝居ですか?」
「それは酷いです。そんな女だとお思いですか? 私はユリアン殿下を心からお慕いいたしております」
ムキになるルイーゼ。それを見てクスクス笑う2人。
「勿論、貴女の想いが本物だと、私達も思っております。だからこそ、ユリアン殿下も穏やかになられつつあるし、多分セレナ王妃様もご納得されていられると思うのです」
「アリス様」
「婚約が成れば大義名分は立つ。私がロズファンバルグに赴き、港を造っても文句は言われないでしょう」
「アリス様、本気なのですね? しかも港を造るって」
「山合が多く、崖しか海と接していない。でも、サノマ村の近くのこの辺りの崖ならば、『ガンロウ』の力で切り開けそうと思うのです。ここしかないのですが…」
「いえ、1つでも港が出来れば、我が国は変わります。サノマなら皇都と、そう離れていない。しかもあの辺りはピノ大公国の領内。宰相をも巻き込める話に出来るかもしれない。それにしても、よく帝国の地理をご存知で」
「ごめんなさい。貴女の素性を調べる時に、帝国で活動していた盗賊を公爵家の密偵としてスカウトしました。彼のお蔭で色々な事がわかったのです」
「私の素性? 流石はアリス様。やはり陰謀知謀ではガーランド宰相家に敵わなかったのですね」
「ええ。彼がリージャさんを知っていたのです。以前皇妃様の護衛をされていた女性だと」
「リージャから足がついていたのですか? 私達の認識はかなり甘かったのですね」
ショックを受けるルイーゼ。諜報力のレベルの違いをはっきり指摘されているのだ。
「この事、ハインツ皇太子にお伝えして欲しいのです。『こちらはお見通し』、と」
アリスの大勝負が始まる。
「今さらだな? 宰相家にしてやられたのは、これが初めてではあるまい?」
「くっ? 皇太子殿下と言えど口が過ぎますぞ! ここは皇帝陛下の御前であるのですぞ!!」
ロズファンバルグ帝国、王宮。
マールディア王国に入った工作員より、計画が狂い出したという報告が入り、皇帝以下関係閣僚が、防音魔法隔壁のある小部屋に入ったのは先程であった。
愉しげな皇太子に比べ、苦虫を噛み潰したような顔をしている宰相。焦った顔の軍諜報部の長。
だが、皇帝は無表情だ。喜びも焦りも、何の感情も見せていない。
「とは言え、まだ表立って動くのは不味い。今少しガントに頑張って貰うしかないと思うが?」
「それしかあるまい」
小部屋を出て、皇帝の私室。
入る事が出来るのは本当に限られている場所。勿論、実子たる皇太子は限られたメンバーだ。
「ルイーゼの件、お前の指示か? ハインツ」
「はい、父上。ルイーゼはアリス=ガーランド公爵令嬢との接触に成功したと。かなり親しくなれたようです」
「彼女をどう使う」
「無論、両国の親善友好。私は皆様と考えもやり方も違う!」
「ま、よい。変革も必要かも知れぬ。故にお前を好きにさせておる。国の大義、忘れるなよ?」
「御意」
私室を出る皇太子。
見つめる皇帝の目はやや暗い。
「希望のみを見つめるは若き故の特権。だが、いらぬ野心を載せようとするのが気になるのう」
「アリス。君は私の花嫁だ。くくっ、あはははは」
そして、ハインツ皇太子の笑みもやや暗かったのだ。
アリスの支援、農地開発は進み、荒地や岩場、沼地等色んな所が畑へと開墾されていった。
「『豊穣の女神』。本当に大したものです」
「便利屋じみてきましたが?」
「フローラは兎も角、クラリス、言い方酷くない?」
学園での定例とも言えるお茶会。
2大巨頭という意味が薄れつつある。フローラがアリスの傘下に入ってしまったという状況なのだから。
アリスのライバルではなかったのか?貴族達からは困惑の声もあったのだが、フローラ曰く、
「私達は将来、義理の姉妹になるのですから」
まだ、ユリアン王子と婚約している訳ではない。ユーリル王太子の婚約者であるアリスとは立ち位置が違う筈なのだが、それを感じさせない状況になりつつある。
サイナス伯爵家は確かに第2王子派だったが、その中心的存在ではなかった。本来ならばフローラの態度は、他の貴族達の反感と嫉妬を買う筈なのだが、当のユリアン王子が否定せず、またセレナ王妃も反対していない。
前回のレイザック侯爵令嬢エーリカの時は、断固と言える位の反対する態度を見せていた王妃が、である。
それはさておき、ほんわかとした雰囲気でお茶会は続いた。
それが、3人のみの密談となると雰囲気が変わってしまう。そして、この時はフローラではなくルイーゼに名が変わる。
「皇太子が黒い? そのハインツ様とか、でしたっけ?」
「えぇ、クラリス。そのハインツ皇太子殿下のお蔭で、死罪にならず、こうして色々やってるのですけど、その、アリス様の事を色々聞かれたのです」
「私の事?」
「流石はアリス様。ここに来て、又々求婚者が出来た?」
「やめて。後1年半位でユーリル殿下に嫁げるのですよ? 勘弁して下さい」
言ってる事は大事なのだが、この3人だと女子会にしか聞こえないのは、全員が陰謀詭計に優れているから? クラリスに至っては、面白がってる様にしか見えない。
「友好親善の為、ロズファンバルグの者と婚姻、大義名分はとてつもなく大きいですが、アリス様にきたらどうされますか?」
「それは、貴女とユリアン殿下におまかせしますわ。だからこそ、貴女をルイーゼとして、マールディア王国に認めさせるようクラリスと謀っているのですよ」
笑みを浮かべて悪巧み。アリスもまた、クラリスに負けず劣らず面白がってる感があった。
「それは…?」
「ロズファンバルグ皇族として、マールディア王子に嫁ぐ。私、本気ですよ、ルイーゼ。それとも、ユリアン殿下の事はお芝居ですか?」
「それは酷いです。そんな女だとお思いですか? 私はユリアン殿下を心からお慕いいたしております」
ムキになるルイーゼ。それを見てクスクス笑う2人。
「勿論、貴女の想いが本物だと、私達も思っております。だからこそ、ユリアン殿下も穏やかになられつつあるし、多分セレナ王妃様もご納得されていられると思うのです」
「アリス様」
「婚約が成れば大義名分は立つ。私がロズファンバルグに赴き、港を造っても文句は言われないでしょう」
「アリス様、本気なのですね? しかも港を造るって」
「山合が多く、崖しか海と接していない。でも、サノマ村の近くのこの辺りの崖ならば、『ガンロウ』の力で切り開けそうと思うのです。ここしかないのですが…」
「いえ、1つでも港が出来れば、我が国は変わります。サノマなら皇都と、そう離れていない。しかもあの辺りはピノ大公国の領内。宰相をも巻き込める話に出来るかもしれない。それにしても、よく帝国の地理をご存知で」
「ごめんなさい。貴女の素性を調べる時に、帝国で活動していた盗賊を公爵家の密偵としてスカウトしました。彼のお蔭で色々な事がわかったのです」
「私の素性? 流石はアリス様。やはり陰謀知謀ではガーランド宰相家に敵わなかったのですね」
「ええ。彼がリージャさんを知っていたのです。以前皇妃様の護衛をされていた女性だと」
「リージャから足がついていたのですか? 私達の認識はかなり甘かったのですね」
ショックを受けるルイーゼ。諜報力のレベルの違いをはっきり指摘されているのだ。
「この事、ハインツ皇太子にお伝えして欲しいのです。『こちらはお見通し』、と」
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