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第三章
17. 豊穣の女神
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ソンダクのスラム支援の後、アリスの人気と支持はうなぎ登りに上がった。
本来はユリアン王子主宰の支援である。
だが、スラムの住人は勿論、農地不足に悩む山村からもアリスの支援を望む声が高まったのだ。
アリスが光の精霊持ちなのは広く知られていた。
今回の件で、上位大地属性精霊を持つ事が国中に知れ渡ってしまった。
しかも、魔法を組み合わせて、新たな耕作魔法まで編み出して見せた。
『豊穣の女神』と呼ばれる奇跡。
加えて、支援の時、アリスが何をしていたのかも人気に拍車をかけた。
普通のドレスにエプロン姿で、手料理を奮っていた!
フローラ嬢の陣頭指揮も充分印象に残り人気上昇の要因ではあった。だが、元々あったアリスの下々目線。
自分達と同じ目線に立って物事を考えてくれる。
市民平民にとって、アリスは民の救世主だ!
エプロン姿でお玉を持って忙しく、でも楽しげに笑顔で動く若き女性の姿は、スラムの人々に好印象を与えた。その女性が、次期王太子妃たる公爵令嬢だった。皆一様に驚き、感謝したのである。
「ユリアン、話がある」
王宮でユーリル王太子は、第2王子ユリアンを訪ねた。
「なんだ?ふん、さぞかしご機嫌だろうな。妃殿下の人気はうなぎ登りだ」
「その事だが、頼みがある。アリスへの支援要請が多すぎてな」
「自慢か?」
不貞腐れるユリアン。
「彼女が言うには、『これはユリアン殿下主宰の支援です。私個人に言わないで下さいませ』ってな」
「はあ?」
「主宰はお前だ。お前の命で動くという事を前面に出している。だから要請はあくまで、ユリアンの名でして欲しいとの事だ。これは、お前が始めた支援だ。その実績は、名誉はユリアン、お前の物にならないといけない。アリスはそう考えて、動かない」
皮肉げに、だが苦笑しつつ、
「いい子ちゃんなのか、お人好し過ぎるのか。それを頼みにくるお前もベタぼれだな」
「ほっとけ」
「ま、素直に感謝しておこう。改めて、ビラノマの沼地を農地に出来ないか、アリス嬢に頼みたいのだが?」
「ほう? ルイスト伯爵からの要請かい?」
「伯はまだ、俺を支持している。そんな奴の頼みは聞けないか?」
「フム。確かにあの沼地が畑になれば、かなり豊かになる。国が富む。断る理由は無いな」
「これも素直に感謝しとくか。では、それで色々組むぞ?」
「了解した。アリスに言っとくよ」
多少態度が軟化したか? 刺々しさがなくなった気がするユーリルだった。
王家の名で、次の支援計画が発表された。
これ迄と違うのは、スラムの支援ではなく、農地改良支援とハッキリ打ち出した事だ。
アリスの支援参加も発表され、それをユリアン王子の名で公示した事も世間は驚きを持って迎えた。
だが、これで国中が、この支援はユリアン王子の主宰、意向で行われている事。支援の為にユリアン王子はユーリル王太子の婚約者に頭を下げて支援を要請している事を知る事になったのだった。
予てより王子達の不仲を聞いていた貴族達は、この事にかなり不思議がっていたのだが、ユリアンが変わった事、変えたのはサイナス伯爵令嬢フローラである事、フローラ嬢とアリスが学友で実に仲が良い事がわかると、ざわめきだしたのである。
社交界の勢力図が変わる。
その他大勢のサイナス伯爵家が、前にも増して注目を集めたのだった。
「感謝します、アリス様。お陰様で今やサイナス伯爵家は時の人ですわ」
「ユリアン殿下からも謝意が届きました。本当に嬉しく思いますし、あの方を穏やかなる心地なさせている貴女の存在に、私も感謝しています」
学園の放課後。
いつものお茶の時間。2大巨頭と言うべきアリスとフローラが、共に同じ円卓でお茶を楽しんでいる。
同席出来ている令嬢にとっては、本当に特別な、至福の時といえるし、娘からその事を聞いた当主達は卒倒せんばかりに喜んだのだった。
アリスの取り巻きは変わらない。クラリスは勿論、テレーゼもカレンも入学当時からの仲良しである。
だが、フローラの取り巻きにとっては、次期王太子妃であり宰相家たるガーランド公爵令嬢と近付ける機会! 何としてでも絶好のチャンスにしなければ! 緊張と積極的アピールと。少し見ているのも痛々しい令嬢もいた。
「シェラ? それにプリシラも。アリス様は採って食べはしないですわ」
「フローラ嬢? 私をオーガみたいに言わないでくださいませ?」
睨むアリスは、でも目が笑っている?
周りの令嬢には、ある意味不思議に見える。不仲な王子達の恋人同士。あまり仲良しになる機会も理由も無い。
「本当に不思議に見えるわ、事情を知らなけらば。というか、これすらもアリス様の優しい個性と思われるのかしら?」
全てをわかっているクラリス以外には、周りがキョトンとしている表情も仕方がない。
「フローラ?様?」
アリスがフローラを伴ってクラリスを訪れたのは先日の事である。
「クラリス、申し訳ないのだけど、私達の悪巧みに巻き込まれてくれませんか?」
「…一応聞きますが、それ、私に選択肢がありますか?」
「ごめんなさい。イエス一択なのです」
「…いい性格しておいでです、アリス様」
ため息も出ない。だが、ただ良いように使われるのは御免だ。その辺りがクラリスの真骨頂であり、アリスが必ず頼る参謀格たる所以でもあった。
こうして、戦争回避の悪巧みが始まったのだ。
そして、支援当日。
ビラルマの沼地の為に、農地の拡充が出来なかったルイスト伯爵領は、アリスの魔法のお陰で、広大な畑を手に入れたのである。
「ユリアン殿下。それにガーランド公爵令嬢アリス様。本当に本当にありがとうございました」
自作農達と共に、頭を下げるアルト=ルイスト。
「アルト様。太陽感謝祭で踊った以来ですわ。中々夜会も伺えず、少し心苦しかったのですが。此度はお役に立てて何よりです」
穏やかで、尚快活な女神の微笑みは、そこにいた全ての人々を魅了した。それに、噂に違わず期待通りに、お玉を持ったエプロン姿で手料理をも振る舞ったのである。
「ルイーゼ。アリス=ガーランドとここまで接近しているのは何故だ? まさか? 国の意向から離れ出した? いや、そんな筈はない。あやつが皇太子殿下の意を離れる訳がない!」
そのハインツ皇太子の意向でフローラ、いやルイーゼがアリスと手を組んでいるとは思わないガントなのだが、数年かけた計画が崩れだしている事に、どうしても忸怩たる思いがあったのである。
「…アリス=ガーランド。何をしたのだ?」
本来はユリアン王子主宰の支援である。
だが、スラムの住人は勿論、農地不足に悩む山村からもアリスの支援を望む声が高まったのだ。
アリスが光の精霊持ちなのは広く知られていた。
今回の件で、上位大地属性精霊を持つ事が国中に知れ渡ってしまった。
しかも、魔法を組み合わせて、新たな耕作魔法まで編み出して見せた。
『豊穣の女神』と呼ばれる奇跡。
加えて、支援の時、アリスが何をしていたのかも人気に拍車をかけた。
普通のドレスにエプロン姿で、手料理を奮っていた!
フローラ嬢の陣頭指揮も充分印象に残り人気上昇の要因ではあった。だが、元々あったアリスの下々目線。
自分達と同じ目線に立って物事を考えてくれる。
市民平民にとって、アリスは民の救世主だ!
エプロン姿でお玉を持って忙しく、でも楽しげに笑顔で動く若き女性の姿は、スラムの人々に好印象を与えた。その女性が、次期王太子妃たる公爵令嬢だった。皆一様に驚き、感謝したのである。
「ユリアン、話がある」
王宮でユーリル王太子は、第2王子ユリアンを訪ねた。
「なんだ?ふん、さぞかしご機嫌だろうな。妃殿下の人気はうなぎ登りだ」
「その事だが、頼みがある。アリスへの支援要請が多すぎてな」
「自慢か?」
不貞腐れるユリアン。
「彼女が言うには、『これはユリアン殿下主宰の支援です。私個人に言わないで下さいませ』ってな」
「はあ?」
「主宰はお前だ。お前の命で動くという事を前面に出している。だから要請はあくまで、ユリアンの名でして欲しいとの事だ。これは、お前が始めた支援だ。その実績は、名誉はユリアン、お前の物にならないといけない。アリスはそう考えて、動かない」
皮肉げに、だが苦笑しつつ、
「いい子ちゃんなのか、お人好し過ぎるのか。それを頼みにくるお前もベタぼれだな」
「ほっとけ」
「ま、素直に感謝しておこう。改めて、ビラノマの沼地を農地に出来ないか、アリス嬢に頼みたいのだが?」
「ほう? ルイスト伯爵からの要請かい?」
「伯はまだ、俺を支持している。そんな奴の頼みは聞けないか?」
「フム。確かにあの沼地が畑になれば、かなり豊かになる。国が富む。断る理由は無いな」
「これも素直に感謝しとくか。では、それで色々組むぞ?」
「了解した。アリスに言っとくよ」
多少態度が軟化したか? 刺々しさがなくなった気がするユーリルだった。
王家の名で、次の支援計画が発表された。
これ迄と違うのは、スラムの支援ではなく、農地改良支援とハッキリ打ち出した事だ。
アリスの支援参加も発表され、それをユリアン王子の名で公示した事も世間は驚きを持って迎えた。
だが、これで国中が、この支援はユリアン王子の主宰、意向で行われている事。支援の為にユリアン王子はユーリル王太子の婚約者に頭を下げて支援を要請している事を知る事になったのだった。
予てより王子達の不仲を聞いていた貴族達は、この事にかなり不思議がっていたのだが、ユリアンが変わった事、変えたのはサイナス伯爵令嬢フローラである事、フローラ嬢とアリスが学友で実に仲が良い事がわかると、ざわめきだしたのである。
社交界の勢力図が変わる。
その他大勢のサイナス伯爵家が、前にも増して注目を集めたのだった。
「感謝します、アリス様。お陰様で今やサイナス伯爵家は時の人ですわ」
「ユリアン殿下からも謝意が届きました。本当に嬉しく思いますし、あの方を穏やかなる心地なさせている貴女の存在に、私も感謝しています」
学園の放課後。
いつものお茶の時間。2大巨頭と言うべきアリスとフローラが、共に同じ円卓でお茶を楽しんでいる。
同席出来ている令嬢にとっては、本当に特別な、至福の時といえるし、娘からその事を聞いた当主達は卒倒せんばかりに喜んだのだった。
アリスの取り巻きは変わらない。クラリスは勿論、テレーゼもカレンも入学当時からの仲良しである。
だが、フローラの取り巻きにとっては、次期王太子妃であり宰相家たるガーランド公爵令嬢と近付ける機会! 何としてでも絶好のチャンスにしなければ! 緊張と積極的アピールと。少し見ているのも痛々しい令嬢もいた。
「シェラ? それにプリシラも。アリス様は採って食べはしないですわ」
「フローラ嬢? 私をオーガみたいに言わないでくださいませ?」
睨むアリスは、でも目が笑っている?
周りの令嬢には、ある意味不思議に見える。不仲な王子達の恋人同士。あまり仲良しになる機会も理由も無い。
「本当に不思議に見えるわ、事情を知らなけらば。というか、これすらもアリス様の優しい個性と思われるのかしら?」
全てをわかっているクラリス以外には、周りがキョトンとしている表情も仕方がない。
「フローラ?様?」
アリスがフローラを伴ってクラリスを訪れたのは先日の事である。
「クラリス、申し訳ないのだけど、私達の悪巧みに巻き込まれてくれませんか?」
「…一応聞きますが、それ、私に選択肢がありますか?」
「ごめんなさい。イエス一択なのです」
「…いい性格しておいでです、アリス様」
ため息も出ない。だが、ただ良いように使われるのは御免だ。その辺りがクラリスの真骨頂であり、アリスが必ず頼る参謀格たる所以でもあった。
こうして、戦争回避の悪巧みが始まったのだ。
そして、支援当日。
ビラルマの沼地の為に、農地の拡充が出来なかったルイスト伯爵領は、アリスの魔法のお陰で、広大な畑を手に入れたのである。
「ユリアン殿下。それにガーランド公爵令嬢アリス様。本当に本当にありがとうございました」
自作農達と共に、頭を下げるアルト=ルイスト。
「アルト様。太陽感謝祭で踊った以来ですわ。中々夜会も伺えず、少し心苦しかったのですが。此度はお役に立てて何よりです」
穏やかで、尚快活な女神の微笑みは、そこにいた全ての人々を魅了した。それに、噂に違わず期待通りに、お玉を持ったエプロン姿で手料理をも振る舞ったのである。
「ルイーゼ。アリス=ガーランドとここまで接近しているのは何故だ? まさか? 国の意向から離れ出した? いや、そんな筈はない。あやつが皇太子殿下の意を離れる訳がない!」
そのハインツ皇太子の意向でフローラ、いやルイーゼがアリスと手を組んでいるとは思わないガントなのだが、数年かけた計画が崩れだしている事に、どうしても忸怩たる思いがあったのである。
「…アリス=ガーランド。何をしたのだ?」
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