【完結】悪役令嬢に転生したのに、あれ? 話が違うよ?

ノデミチ

文字の大きさ
上 下
17 / 27
第三章

17. 豊穣の女神

しおりを挟む
 ソンダクのスラム支援の後、アリスの人気と支持はうなぎ登りに上がった。
 本来はユリアン王子主宰の支援である。
 だが、スラムの住人は勿論、農地不足に悩む山村からもアリスの支援を望む声が高まったのだ。

 アリスが光の精霊持ちなのは広く知られていた。
 今回の件で、上位大地属性精霊を持つ事が国中に知れ渡ってしまった。
 しかも、魔法を組み合わせて、新たな耕作魔法まで編み出して見せた。

 『豊穣の女神』と呼ばれる奇跡。

 加えて、支援の時、アリスが何をしていたのかも人気に拍車をかけた。
 普通のドレスにエプロン姿で、手料理を奮っていた!

 フローラ嬢の陣頭指揮も充分印象に残り人気上昇の要因ではあった。だが、元々あったアリスの下々目線。       

 自分達と同じ目線に立って物事を考えてくれる。
 市民平民にとって、アリスは民の救世主だ!

 エプロン姿でお玉を持って忙しく、でも楽しげに笑顔で動く若き女性の姿は、スラムの人々に好印象を与えた。その女性が、次期王太子妃たる公爵令嬢だった。皆一様に驚き、感謝したのである。


 「ユリアン、話がある」
 王宮でユーリル王太子は、第2王子ユリアンを訪ねた。
 「なんだ?ふん、さぞかしご機嫌だろうな。妃殿下の人気はうなぎ登りだ」
 「その事だが、頼みがある。アリスへの支援要請が多すぎてな」
 「自慢か?」
 不貞腐れるユリアン。
 「彼女が言うには、『これはユリアン殿下主宰の支援です。私個人に言わないで下さいませ』ってな」
 「はあ?」
 「主宰はお前だ。お前の命で動くという事を前面に出している。だから要請はあくまで、ユリアンの名でして欲しいとの事だ。これは、お前が始めた支援だ。その実績は、名誉はユリアン、お前の物にならないといけない。アリスはそう考えて、動かない」
 皮肉げに、だが苦笑しつつ、
 「いい子ちゃんなのか、お人好し過ぎるのか。それを頼みにくるお前もベタぼれだな」
 「ほっとけ」
 「ま、素直に感謝しておこう。改めて、ビラノマの沼地を農地に出来ないか、アリス嬢に頼みたいのだが?」
 「ほう?  ルイスト伯爵からの要請かい?」
 「伯はまだ、俺を支持している。そんな奴の頼みは聞けないか?」
 「フム。確かにあの沼地が畑になれば、かなり豊かになる。国が富む。断る理由は無いな」
 「これも素直に感謝しとくか。では、それで色々組むぞ?」
 「了解した。アリスに言っとくよ」
 多少態度が軟化したか? 刺々しさがなくなった気がするユーリルだった。

 王家の名で、次の支援計画が発表された。
 これ迄と違うのは、スラムの支援ではなく、農地改良支援とハッキリ打ち出した事だ。
 アリスの支援参加も発表され、それをユリアン王子の名で公示した事も世間は驚きを持って迎えた。
 だが、これで国中が、この支援はユリアン王子の主宰、意向で行われている事。支援の為にユリアン王子はユーリル王太子の婚約者に頭を下げて支援を要請している事を知る事になったのだった。

 予てより王子達の不仲を聞いていた貴族達は、この事にかなり不思議がっていたのだが、ユリアンが変わった事、変えたのはサイナス伯爵令嬢フローラである事、フローラ嬢とアリスが学友で実に仲が良い事がわかると、ざわめきだしたのである。
 社交界の勢力図が変わる。
 その他大勢のサイナス伯爵家が、前にも増して注目を集めたのだった。


 「感謝します、アリス様。お陰様で今やサイナス伯爵家は時の人ですわ」
 「ユリアン殿下からも謝意が届きました。本当に嬉しく思いますし、あの方を穏やかなる心地なさせている貴女の存在に、私も感謝しています」

 学園の放課後。
 いつものお茶の時間。2大巨頭と言うべきアリスとフローラが、共に同じ円卓でお茶を楽しんでいる。
 同席出来ている令嬢にとっては、本当に特別な、至福の時といえるし、娘からその事を聞いた当主達は卒倒せんばかりに喜んだのだった。
 アリスの取り巻きは変わらない。クラリスは勿論、テレーゼもカレンも入学当時からの仲良しである。
 だが、フローラの取り巻きにとっては、次期王太子妃であり宰相家たるガーランド公爵令嬢と近付ける機会! 何としてでも絶好のチャンスにしなければ! 緊張と積極的アピールと。少し見ているのも痛々しい令嬢もいた。
 「シェラ? それにプリシラも。アリス様は採って食べはしないですわ」
 「フローラ嬢? 私をオーガみたいに言わないでくださいませ?」
 睨むアリスは、でも目が笑っている?
 周りの令嬢には、ある意味不思議に見える。不仲な王子達の恋人同士。あまり仲良しになる機会も理由も無い。
 「本当に不思議に見えるわ、事情を知らなけらば。というか、これすらもアリス様の優しい個性と思われるのかしら?」
 全てをわかっているクラリス以外には、周りがキョトンとしている表情も仕方がない。

 
 「フローラ?様?」
 アリスがフローラを伴ってクラリスを訪れたのは先日の事である。

 「クラリス、申し訳ないのだけど、私達の悪巧みに巻き込まれてくれませんか?」
 「…一応聞きますが、それ、私に選択肢がありますか?」
 「ごめんなさい。イエス一択なのです」
 「…いい性格しておいでです、アリス様」
 ため息も出ない。だが、ただ良いように使われるのは御免だ。その辺りがクラリスの真骨頂であり、アリスが必ず頼る参謀格たる所以でもあった。
 こうして、戦争回避の悪巧みが始まったのだ。


 そして、支援当日。

 ビラルマの沼地の為に、農地の拡充が出来なかったルイスト伯爵領は、アリスの魔法のお陰で、広大な畑を手に入れたのである。

 「ユリアン殿下。それにガーランド公爵令嬢アリス様。本当に本当にありがとうございました」
 自作農達と共に、頭を下げるアルト=ルイスト。
 「アルト様。太陽感謝祭で踊った以来ですわ。中々夜会も伺えず、少し心苦しかったのですが。此度はお役に立てて何よりです」

 穏やかで、尚快活な女神の微笑みは、そこにいた全ての人々を魅了した。それに、噂に違わず期待通りに、お玉を持ったエプロン姿で手料理をも振る舞ったのである。


 「ルイーゼ。アリス=ガーランドとここまで接近しているのは何故だ? まさか? 国の意向から離れ出した? いや、そんな筈はない。あやつが皇太子殿下の意を離れる訳がない!」

 そのハインツ皇太子の意向でフローラ、いやルイーゼがアリスと手を組んでいるとは思わないガントなのだが、数年かけた計画が崩れだしている事に、どうしても忸怩たる思いがあったのである。

 「…アリス=ガーランド。何をしたのだ?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

処理中です...