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第二章

7.学園生活はモテモテ

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 翌年、アリスは13歳になる。
 今年より、ジュニア・スクールに通う事に!

 庶民、平民は10歳で学校に通う。読み書き計算を習い、国史他基礎的な学問を修める。それ以上は専門知識の学問となる。
 貴族が13歳でスタートするのは、基礎的学問は家庭教師から習うのが普通だからだ。初等教育は、出来て当たり前なのである。
 ジュニア・スクールたる王立学園は、13の歳で入学し、15歳で修了となる。16歳で成人だからだ。
 これより先はシニア・スクールたる王立大学院で学ぶ事になる。ここまで来るのは、ほとんど研究者や学者、教育者を志す者だ。
 この世界の教育は、そんな形になっていた。


 「こういう設定だったんだ?」
 アリスの頭には、ゲームにおける第2部学園編というステージしかなかった。意外と細かな設定があったようである。
 
 ま、何はともあれ学園生活が始まる。
 結局、ヒロインはこの世界にいなかった。このまま続くのか? まさかの転校生イベントか? 実はワクワクしていたアリスなのである。

 同じ学園に王子達もいる。しかし、王子達は2歳年上。なので、この1年だけが同じ学園なのだ。


 入学式。
 新入生総代として決意表明をするのはリオン=アルザード辺境伯次男。白髪赤目のアルビノである彼は、かなり身体が弱かったものの、その分絶大な魔力と秀才といえる頭脳の持ち主である。『光の御子』と呼ばれ、その名の通り光の上位精霊『ソルバード』と契約していた。
 立派な決意表明はしたものの、その後、立ったままの式典に耐えきれず倒れてしまい、虚弱体質を証明してしまったリオン。介抱したのは、後ろにいて倒れかかられたアリスだった。

 「あれ? 光の精霊? 僕のじゃない? 」
 「私の『リーン』です。大丈夫ですか?」
 「ありがとうございました。えっと、アリス嬢? だよね? アリス=ガーランド公爵令嬢。貴女が僕を? 介抱してくれた?」
 寝たまま尋ねるリオン。
 「どうしてそんなに疑問形? 私に倒れかかってきたのよ! 知らない振りも出来ないし」
 「失礼。アルザード家とガーランド家って、仲悪かったから」
 「だから死にかけをほっといていい? ガーランド家は悪魔じゃありませんよ?」

 流石にリオンも詫びる。あまりにも失礼な物言い。
 笑い飛ばしてくれているが、アリスは勿論、ガーランド家から正式に抗議声明が出てもおかしくない。
 「大丈夫なようなら行きましょうか? 私達同じクラスです。何なら肩貸しますよ?」

 大丈夫と言ったものの、直ぐにフラつくリオン。
 結局アリスの肩を借りて教室へ向かったのだが、その姿はちょっと波紋を呼んでしまった。
 
 両家の仲の悪さは国中が知っている。その子供が仲睦まじく肩組んで密着する姿は、『悲劇の恋人達』と話題になってしまったのだ。
 あくまでもジョークとして。

 恋人と言うには、あまりにも残念!
 リオンの一般的な評価である。

 入学式にて広まった優しさ。
 アリスはクラスでも人気者になる。あっという間に取り巻きが出来たのだった。
 テレーゼ=フォルティス辺境伯令嬢にクラリス=オルドラム伯爵令嬢。カレン=ヘィスティング男爵令嬢に騎士階級の令嬢達。
 ユーリル王子と恋仲の噂があるだけに、第1王子派が多く集まってきている。そういう意味では、第2王子派のオルドラム伯爵令嬢クラリスがいることに違和感を感じる者もいて、事実懸念を表したりしたのだが、オルドラム伯爵はともかく、クラリスは中立派の夜会や会合によく顔を出し、アリスとも知己だった。

 で、対抗する派閥としてエリーカ=レイザック侯爵令嬢がいる。単純に恋のライバルである。第1王子派の令嬢で、ユーリルに早くからアプローチしていた為、アリスは思いっきり目の上のタンコブだった。

 そして、アリスに猛アプローチする存在。

 クロイス王国第2王子ジョージ=クロイス。
 兄ヘンリーから、異国の青い瞳の少女を聞かされ、会うのを楽しみにしていた。実際会うと、思い描いたのよりずっと美少女であり、一目で恋に落ちたのだった。

 「アハハ」
 「笑い事ではありませんよ? 私、落ちるかもしれません」
 「おっと? それは困るな」

 昼休み、学園内の談話室。
 個室に近いその一角にユーリル王子とアリス、テレーゼにクラリスがいた。
 「私達もガードしてはいるのですが…」
 テレーゼも、やや苦笑気味。
 「クラリス嬢は? というよりはユリアン派の思惑だが」
 「それを聞きます? 私が答えると?」
 「この場にいるということは、ね。聞かれないとは思っていないだろ?」
 ニコニコ顔のユーリルに、困惑する表情のクラリス。
 
 「ありていに言えば、ジョージ殿下に他国へ連れて行って貰いたい、って言うのが本音です」
 「成る程。なびかないのならいない方がまし、と言う事か。アイツ、アリス嬢を諦めたのか?」
 「私から見ても、アリス様はユリアン殿下に全く好意を持っていらっしゃらないと思いますよ?」
 「え? 私、そんなに露骨でしたか?」
 「確かに礼を失わない態度でいらっしゃいます。でも、ユーリル殿下に対しては、恋する乙女の雰囲気が出ていますので。ユリアン殿下に脈はない、と誰が見ても思います」
 テレーゼも頷いている。
 「フム。公爵家の立場もあるとは思うけど、もうアリス嬢に結婚を申し込もうかな?」
 「お返事出来ませんよ? お父様の説得、かなり厳しいですし」

 ガーランド公爵の娘溺愛は、かなり有名である。

 「フフ、王の勅命という手も有るけどね」
 「力業ですか? 確かに、それが一番手っ取り早そうですが、そうなるとセレナ王妃がどう動かれるか心配ですが」
 テレーゼの問いに渋面を作るユーリル。
 確かに、この婚約によりユーリルは後ろ楯を得る。
 「前途多難だなぁ。うーん」

 いっそ、王位継承を辞退すると言って、アリスとの婚約をという手も!
 ユーリルは流石に、この考えを声に出さなかった。クラリス嬢がいるので、第2王子派に言質を取られてしまう。
 「おっと? そろそろ時間か」
 昼休みが終わる。
 「それではまた!」
 
 学年が違うので校舎が違う。皆と別れたユーリルは、1人3年の校舎へ戻る。
 「また会いに行ってたのかよ?」
 出迎えたのは、悪意に満ちたユリアンだった。
「悪いか? 俺は好意を持たれてるみたいだしな」
「くっ!」
 アリスを、ガーランド公爵家を手に入れれば、おそらく王位継承は確定する。家格が段違いなのだ。なのに出会いにしくじった! あれからの半年間で挽回出来なかった。
 セロンの失敗もでかい。拉致に失敗した上に、策を知る手勢を奴隷として味方に引き込まれてしまった。お陰で手が出しにくくてしょうがない。
 「下手な策は使わない事だ。それに、俺が嫌われてもお前になびく事はないな」
 「その減らず口、後悔するなよ?」

 睨み付けて、ユリアンは去っていく。
 血を分けた兄弟が、1番憎むべき対象になっている。やりきれない思いで一杯のユーリルだった。
 「癒し…、せっかく会って来たというのに。アリス」
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