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第一章

3.精霊と契約! これは大事です

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 アリスが7歳の時、遠くアルザード辺境伯領に、光の御子が表れた、と噂が流れた。

 「光の御子? ひょっとしたら『ヒロイン』? だとしたら、今から会うの? それともいきなり学校?」

 アリスの7歳時のイベントといえば、教会での本洗礼だけである。辺境伯領に表れた、と言われてる以上、もはやアリスと御子の接点はなかった…はずだった。

 「でも、確かにアルザード辺境伯は『ヒロイン』の親代わり。伯爵の亡くなられた弟さんの子供だった」

 大筋において一緒。微妙に違うのはバージョンアップ?
 「ま、どうしようもないか」
 そうつぶやくと、歩きながら山の中へ。
 勿論いつもの護衛二人も一緒。

 「何でお嬢様自身が山菜取りに?」
 「山菜じゃないわ! ハーブ! ちょっと香料を試してみたいのよ。ビィトが解れば頼んだのだけど?」
 「いえ、全部同じ葉っぱに見えるもので…」
 それを聞いて、アリスも苦笑する。
 「まあ、お父様もそうだもの。男の人って、そういうものなの?」
 「多分。何せ花もよく区別出来ませんし」
 「いやまぁ、キレイ位は思うんですけどね」

 エイダもビィトも苦笑い。
 「そういや、さっきアルザード辺境伯の事言ってましたね。何か興味が?」
 「え? ああ、光の御子がって聞いたから。どんな娘なのかな?」
 「ああ、何でも白髪赤目のアルビノらしいですよ。『力』はあるようですが、体力が全くないらしくって。とんだ優男って話だと」
 「は? 優男? え? 男の子なの?」
 「ですよ。確かお嬢様と同じ年」

 驚いて動きが止まるアリス。
 『ヒロイン』がいない?イベント処か存在そのものがない!
 「どうなってるの?」
 「は? 何がですかい?」
 「あ、うん。独り言! こっちの話」
 言いながらも考え込んだアリス。が、歩きながらの為、足下が疎かになってしまった。

 「危ない! お嬢様!!」
 少し道を外しただけだったが、ズルっとすべってしまった。
 「きゃあ!わわ!やば!!」
 すべった先が畦の端。更にすべって畦下に落ちそうだ。
 「お嬢様!」
 咄嗟にエイダが手を伸ばすも届かない。

 そこへ光が翔んできた!
 エイダとビィトには、そう見えた。
「な? 何だ?」
 途端にアリスが浮き上がる。フワリフワリと。
 「え? この光は? あ、あのう…、ひょっとして妖精さん?」
 浮いているアリスを、ビィトが捕まえて引き寄せた。
 「大丈夫ですか? お嬢様」
 「ありがとう、ビィト」
 改めて、アリスは光に礼を言う。
 「助かりました。ありがとうございました」
 何か訴えるように瞬く光。
 「ひょっとして? 私と一緒にいてくれる? あなたのお名前は?」
 困惑? 困ったように瞬く光。名前無いの?
 「なら、あなたの名前は『リーン』。これからも一緒にいてください!」
 
 光が強く煌めく!
 やがて、輝きはちいさくなり、少女の姿に変わっていった。身長15cmくらいで背中に羽がある、見るからに妖精という姿!
 「私はリーン。光の精霊。今、貴女と契約を結び、私は精霊へと昇格しました。我が加護を貴女に」
 「私はアリス。よろしくね、リーン」

  それはアリスが前世にて、『プリ活』をやっていて『ヒロイン』である光の御子と契約した光の精霊の名前。この世界でも、自分と契約することになった。
 『私がヒロインの立ち位置にいる? 何故? アリスは悪役令嬢ではなかったの?』
 考え込んだアリス。現実に精霊は目の前にいる。

 『そう、ヒロインは貴女。でも悪役令嬢になるかは貴女次第』

 アリスの頭に響く声。
 『この世界に私を呼んだ神? それともリーン?』
 答えはなかった。

 「悪役になんかなるもんですか」
 小さな、でもしっかりとした強い決意。
 とは言うもののアリスは、ヒロインとして生きる自覚も出来ていなかった。


 ガーランド公爵令嬢アリスが、『精霊持ち』になった。しかも光の精霊らしい。
 噂は、あっという間に広まった。
 なので、茶会はまだわかる。
 夜会の誘いは、7歳という年齢を考えると非常識にも程がある! 公爵は激怒し、夜会の誘いを行った貴族は、その逆鱗に触れたのだった。合掌。

 「あはは! お父様がご機嫌斜めだったのは、そのせいなんだ」
 「笑い事じゃないよ? アリス。大変だったみたい。官僚達が可哀相でね」

 8歳離れた兄マイケル=ガーランドが、疲れた顔で呟いた。王都の学校の寄宿舎にいる兄は、長期休暇の時しか家に帰って来ない。偶々帰ってきた時に不機嫌な父との巡り合わせは、これも不幸と言えなくもない。

 「で、本当に光の精霊?」
 「って言ってたよ。可愛いんだ!」
 そうは言っても出すことはない。
 精霊は見世物ではない。意に沿わぬ事を続ければ、いうことを聞かなくなる。信頼度は直ぐに下がるのだ。
 結局『リーン』が納得しないと言って、マイケルが光の精霊と会うことはなかった。
 
 マイケルによって、中央の、王家の状況を少し知る事が出来た。
 今、王家は2派に別れていた。
 第1王子派と第2王子派である。

 第1王子ユーリルは正妃の子であるが、妃は病死しており、第2妃が正妃に今はなっていた。
 今の正妃の子が、第2王子ユリアンである。

 しかも元正妃は伯爵家の出で、現正妃は侯爵家の出だった。
 マールディア王家の血の証である赤毛は、ユーリルの方が濃く、ユリアンは金褐色といっていい。
 この2人、同じ歳で、誕生日の4ヵ月しか離れていなかった。ユーリルが6月、ユリアンが10月。
 
 ユーリルの方が聡明なのは誰がみてもハッキリとしており、第1王子派の拠り所となっていた。
  只、有力な後楯が不足している。

 現正妃セレナ=マールディアは、フロスト侯爵家の令嬢であり、侯爵家は王国でも有数の大貴族と言える。これに対抗するには、公爵家か辺境伯家か? この辺りが後楯になるしかない。

 ガーランド公爵家は、宰相という立場もあり、現時点では中立派である。ザルツ公爵家も近衛府司令官という立場で中立派を唱っている。
 フォルティス辺境伯もアルザード辺境伯も、どちらにつけば美味しいか決めかねており、第2王子派が有利ではあるが、決定的な差になっていない。

 「だからさ。王子と年相応のアリスを、王子の婚約者にしたいみたいで、茶会や夜会の申し出が両派から来ていてね。父上は実に機嫌が悪かったんだ!」
 元々娘を溺愛しているガーランド公爵は、「嫁にはやらん」と公言しており、そういう意味でも逆鱗に触れた形になっていた。

 「でも、今はともかく、5年後くらいは社交的活動もしなくてはなりませんね。はい。ダンスと護身術、しっかり習練しておきます」
 実は剣術、護身術に興味津々なアリスは、良い口実が出来たとほくそ笑むのだった。
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