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23. 何してくれたんだー!って話

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「お嬢様」
「で?経過としては」
「賊…、その、とりあえず賊と呼びますが、自害して果てたみたいです。ただ、問題が…」
「何か、身の判定出来る物を持っていた?」
「はい。どうも徽章を」
「最悪だわ」

 バーグマン公爵令嬢カタリナさんが、賊に連れ去られそうになり、護衛の騎士が必死の相打で撃退したのだけど、どうも、その賊がマーガレットを連れ戻そうとした何処ぞの王太子アホ坊の個人的な手のモノらしく。
 それこそジェイならば、私をよく知る者なんだけど、今回ジェイは例の秘宝を密かに持ち帰るべく行動中だったみたいで。
 動いていたのが、絶対に護衛から離れない役目の者だったらしく。全く人選ミス。
 私がドレス姿じゃなく冒険者然としている事も髪を切った事も知らない影の人。で、この宿に来ていたを私と思い込み襲撃してしまったみたいで。
 馬車の家紋とか確認しないの?
 そんな短慮で影が成り立つの?

 そもそも他国で無理矢理連れ戻す様、影を差し向けるって考えが浅過ぎ。他国王都に影を送る事が、何を意味するのか。祐介アルフォートは前世日本人の意識だけで動いたのかしら。この世界で、今まで生きてきたモノを全てリセットでもしたと言うの?

「王宮へ行きます。下手すると戦争にまで成りかねません」

 王都に暗殺者アサッシンを送り込んだと取られかねない暴挙。確かにウィルバーム王国は、この大陸の1/3と言える国土を有してるけど、逆に言えば2/3の外国に囲まれた内陸国だ。外交的に封じ込められると…。
 大陸有数の港サラジアポートを持つカナック王国は交易立国であり、ならばこそ色々な国々と交渉を持ち易い立場にある。諸外国に提案しやすいんだ。その辺りの事すら、あの王太子アホ坊の頭には無かったと言うの?

「何が何でもお嬢様を連れ戻したかったのでしょうね」
「短慮過ぎです。しかも致命的に政治を知らぬ事を暴露したと言える事態。場合によっては廃立もやむ無しと思われかねません」
「まさか?アルフォート殿下は一人息子です。下に妹君ジュリエット様が居られるだけで」

 そう。
 しかも、ウィルバーム王国に女王が立つのはかなり難しいと言える位の男尊女卑的風潮がある。また、言ってはなんだけどジュリエット殿下が聡明な王族と言えるかと言えば…。

 どうして、あれ程聡明な君主たる陛下と才色兼備な王妃から、あんな兄妹が生まれたのだろう。不敬だけど貴族の間で実しやかに言われた陰口。それだけに王太子妃候補にかかる期待は大きかったし、私もそれに応えるべく努力してきたつもりだった。…断罪される悪役令嬢なんだけどね。

 マキシア商会で着替えた私達は、直ぐに王宮へ向かう。商会より先触れは出して貰ったが、ほぼアポなし訪問。取り計らってもらえるのか、甚だ疑問なのです。

「お待ちしておりました、バルター公爵令嬢マーガレット様。謁見の間へ案内致します」

 以前にも出迎えてくれた騎士隊長?団長さん?
 どうやらカナック国王に、私の想いを汲み取って頂けたみたい。


「ようこそ、マーガレット嬢」
「ジェスター7世陛下にはご機嫌麗しく、本日は火急の参上にお応え頂き本当に感謝しております」
「其方の感謝も謝罪も不要なのだ、本来ならば」
「此度、祖国王太子の短慮は私如きの謝罪では到底不足ではございましょう。ですが、出奔したとは言え王太子妃候補にあった者としては、とても看過し得ず、また陛下のご厚情に甘える事も出来ません」
「その王太子は謹慎中の身だったらしいがね。謹慎期間が伸びて公務から遠ざける旨通達があった。ローンダミス国王からの親書が通信鳥モルスバード速達で届いてね」

 廃嫡は免れた?とは言え…。

「もう一つ、親書に有ったのだ。マーガレット嬢。其方を我が国の妃として迎える用意があるとウィルバーム王国へ通告し承諾の旨、クレイン王家からもバルター公爵家からも貰えていたのだが、此度、それを翻して其方を帰国せしめ給う事を願うとな。理由は分かろう?」

 私にアルフォート殿下アホ坊の轡を握れと?

 本当に何してくれたんだー!
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