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5. 国王陛下は頭を抱えて

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 王太子が勝手にバルター公爵令嬢マーガレットとの婚約を破棄してしまったと聞いて、ローンダミス3世は頭を抱えてしまった。
 しかも、代わりに選んだのがボルト男爵令嬢ミリアだと。

 ボルト男爵家は新興貴族だ。
 先々代の騎士レガリア=ボルトの国防における働き。この功に報いて爵位をあげた。その後、現当主ブルームが交友を拡げ、子爵家との婚姻により家格が上がり、それで爵位が上がる事となった。
 何故、あの娘に此処迄入れ上げるのか?

 確かにマーガレット嬢より愛嬌はある。
 が、それだけではないか?

 王妃教育を受け入れられるのか、甚だ疑問が残る。

 それに、ニールが…。
 マーガレット嬢の父親バルター公爵が今にも怒鳴り込んで来そうで怖い。筆頭公爵家というのを考慮しないとしても、ニールは充分娘を溺愛していたし、その彼が婚約破棄を知らされたとすれば、今頃は怒り心頭で王城へ押し掛けてくるやもしれん。

 はぁ。

「陛下が溜息とは珍しいですな」
「宰相…、わかっていて」
「いやはや、困りましたなぁ」
「全く。このまま太子として立てていて良いものか。余は何処で誤ったのか。確かに恋愛は自由であるだろうがの」

 宰相ビリー=チェスター公爵。
 余の補佐役として、若き頃より色々助言も貰ってきたが。

「確かに王太子殿下には、良き伴侶補佐役が必要とは思います。ボルト男爵家は中々人脈は広いですよ。なので過ちと言い切れるかと言うと、どうでしょうなぁ」

 余が訝しんでおると、
「成り上がり故の人脈の広さは馬鹿に出来ぬと申しておるのですよ、陛下。父たるボルト男爵は、巧みな話術と人柄で交友を拡げていき、遂には子爵家から妻を娶り男爵家を興しました。娘の方も手練手管で人脈を作って殿下に近付いておる様子。上手く立ち回れば良き補佐となるやもしれません」
 ふむ。その様な見方もあるという事か。
「経験不足は否めませんから、多少の時間は必要でしょうが。なので王妃教育がマーガレット嬢の頃より、更に重要となりましょう」
 それも微妙だ。
 それにマーガレット嬢は、大変出来の良い生徒であったと王室家庭教師からも聞いてはいるが、ミリア嬢はあまりにも未知数。

 やはり頭を抱えたくなる。

 あれは、伝令か?
 宰相が聞いておるが…。

「陛下。バルター公が見えられたと」

 やはり来おったか。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「真里…だよな。でも何故?私はずっとマーガレットの仕草を見ていた筈なのに。それに彼女に触れた時ピリッと来た。何かモヤが晴れた気がした。モヤ…」

 ズキッ。
 この頭痛は一体?

 婚約破棄が父王の勘気に触れたらしく、アルフォートは自室で謹慎に近い形で過ごしている。

「あのゲーム。真里がやってた時…、ヒロイン…、ヒロインはミリアだよな。マーガレットは悪役令嬢の立ち位置で…。はぁ、話半分しか聞いてなかったしなぁ」

 評判はかなり高かった。
 が、仲間内処か、やってる男子等皆無と言える。それ位の恋愛度甘々の恋愛ゲームだった。

 コンコン。

「入れ」

 カチャ。ギィ。
 扉が開いて。
「アルフォート殿下。バルター公がお見えになったと。今、陛下に謁見されておられます」

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「此度は、愚息が愚かな事をした。許せ」
 流石に詫びざるを得まい。
 だが、公爵からの返答に、余も返す言葉を失ってしまう。

「不満も言いたき事も山の様にございます。が、王太子殿下との婚約解消を、公爵家は同意致します」
「なんと?」

 うん?謁見の間の扉前で騒ぎ?
 あの声は愚息アルフォートか?

 ガターン。

「父上、それにバルター公爵!」
「誰が呼んだ!何時入室を許した‼︎ この愚か者め」
「殿下。例え王太子と言えどこれは無体に過ぎます。お下がり下さいませ。衛兵!何故殿下をお通しした‼︎ よもや押し切られたとは言うまいな⁉︎」

 国王在室の扉。
 こうも簡単に開けられては、何の為の衛兵か⁉︎
「申し訳ございませぬ」
「言い訳はよい!早く王太子殿下をお連れ申せ」
「御意」

 その手を払い除けるか、アルフォート。
「公爵!先日の…、その婚約破棄を、私は撤回する!今一度マーガレットに会わせて欲しい」

 睨み付け?いや、嘲りの眼差しか?

「何と言う情け無きお言葉。臣は失望しましたよ、殿下。王族の言、それ程軽き物とお思いか」
「それは」
「今、陛下に『公爵家は婚約破棄に同意する』と申し上げた処です。『この様な不名誉、家名に傷がつきます』そう言ってマーガレットは家を出ました」

 な、なんじゃと?
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