上 下
54 / 67
ベルン侵攻!

54.

しおりを挟む
「話が違う!これでは…」
「そう?ベルン王国の手を借りる。配下に入るのと、それ程違うとは思えませんがね」
「ま、マドウ夫人?貴女はまさか⁉︎」

 支援を目的として街道から帝国国境へ通過していく筈のベルン王国近衛師団が、街道筋要所に駐留しつつあり。
 そう報告が入った時、エイクロイドは頭をぶん殴られた気がした。

 ベルンの目的は我が国の占領にあったのか?
 真意の確認の為に、私はマドウ伯爵夫人の元へ赴いたのだが、夫人は笑いながら応えたのだ。

 ベルンの配下に入る、と。

「そ、それは属国?いや、ベルン王国の1領となると言う事か?」
「この状況で国体の保持に何の意味があると?民草には何ら影響はないでしょう」


『確かに民の暮らしには影響はないわね』

 は?パルム侯爵夫人?何故此処に?

『セラ、コレは全て貴女の考え?』
「大筋はね。でも、これでベルン王国をも手玉に取れる事がわかったわ」
『そう。貴女の企みにベルン王国が乗っかったのね。本当に?寧ろ貴女がベルンの思惑通りに動かされたのでは?』
「ウフフ。それはそれで構わない。謀略に長けていれば、もっと早く貴女の場所に立てたであろうから」

 あ、そう言えばパルム侯爵夫人の姿が透けている?これは?幻体通信ファンタム・コールか?
 それにしても、何故パルム侯爵夫人は、こうも自由に動けるのだ?

「それはそうと、貴女は今、何処にいるのかしら?ロイス様」
『さあね。只、私を留める枷は、少なくともこの国にはないわ。これでもミリシア魔術師の頂点にいるのよ。何処ぞの息子には太刀打ち出来なくともね』

 矢張り侯爵夫人は館には居らぬのか?
 確かに王国で夫人の動きを止められる者はおらんだろう。王太子の命令等気にも止めぬ筈。

 それは先ずはどうでもいい。
 私はマドウ伯爵夫人の考えには同調出来ぬ。かと言って、パルム侯爵夫人の復権等あの王太子殿下の態度から考えても不可能と思える。

 このままではベルン王国に支配される。
 だが、我が軍の要請で入ってきた隣国軍を今更追い出す事など…。

 このまま、このまま、このまま…。

『利用される事も折込済み。いいわ。陛下は兎も角、あの王太子殿下ではこの国に未来はない。まだベルン王国の1領である方が、確かに民草にとっては有意義かもしれん。好きになさいな、セラ。私は孫と家の存続のみに奔る事にしよう』

 な?今、何と?

 パルム侯爵夫人の姿がかき消す様に見えなくなっていく。

「あ…、」

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

『では、ベルン王国は?』
「このままミリシア王国を占領、属国って言うより併呑する腹積もりだと思う」

 モルド辺境伯の館で。
 オレはミリシアで見てきた事を、通信水晶球でリスティア皇女に話す。側にはルシアン皇太子の姿も。

『ミリシアは、それに対して対処はしないと思うかい?クロノ男爵』

 貴族じゃなくて冒険者として動いててんだけどな。ルシアン皇太子はどうしてもオレを男爵と呼ぶんだ。

「かなり鈍い、って言うより判断待ちに見受けられました。多分軍司令が判断に迷いがあるんじゃないでしょうか」
『さもありなん。エイクロイド元帥と言えば優柔不断で有名な御仁だ。状況と自らの要請。どちらを捨てるか、迷いが残るのだろうな』

 法皇様キティさんの思惑通りだ。
 多分、パルム侯爵夫人の暗躍もあるんだろうけど、軍のTOPとしては判断力…決断力だな。欠け過ぎだよ。

 その意味ではパルム侯爵夫人の存在は大きかったと思う。でも彼女は失脚した。
 しかも、彼女自身が王国に、ミリシア王家に失望してるかに見えた。

「寧ろ、これで強大になったベルン王国への対応が問題となったのではないでしょうか。ミリシアを併呑したベルンの国力は帝国を上回るかもしれません」
『そうだね。となると、遊軍としての君の存在がかなり大きくなる。君には申し訳ないと思うがね、クロノ男爵』
『ロディ、戦争なんかに貴方を使う事、私も納得は出来ない。でも…』
「帝国貴族としての義務は果たします。まぁ、大量殺戮者にならない程度の使い道は期待させてください」

 出来れば抑止力として使って欲しい。
 切札ジョーカーなんだから、決定力じゃなくてね。法皇様キティさんにはそれくらい求めてもバチは当たらないんじゃないかと思ってるけど…。

『勿論よ。法皇キティアラの名にかけて』
『王太子としても約束するよ、クロノ男爵』

 口約束だけど、言質はとった。
 この2人に、こう言わせては、オレも覚悟を決めてやるしかない!

 元々のジュピターなら、多分法皇の、そして皇家の道具になんかならない。確かにオレが望んだ事じゃない。けど今のオレはかなり皇家に近い。しかも法皇家そのものにいる。

 あの女神か?多少恨み言も言いたいけどね。
 ま、このくらいは落とし所の範囲内だろ。

 少なくとも、あの野太い声の男性神のやり様より遥かにマシだと思うから。

『クロノ男爵、イグネス城塞を陥せるかい?』

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「元帥!どうなっておる‼︎どうするのか⁉︎」

 国王リュグロー7世陛下の金切り声が響く。

「帝国にミィゼナー砦を落とされ、今またベルン王国に街道筋拠点に駐留されつつある。彼奴らは儂の国を何と心得ておるのだぁ!」
「答えよ!元帥‼︎ベルン王国と如何なる約定を結んだ。我が国を売ったというのか⁈」

 王宮へ参内したエイクロイドに国王陛下からの詰問が飛ぶ。

 が、あんまりな言われ様だ。
 ひたすら国家につくしてきたというのに。王太子殿下は、そう思われていたのか?

「ベルン王国とは我が国支援の為に、帝国との国境付近へ兵を出す、と。私もマドウ伯爵夫人から、その様にしか聞いておらず…」
「では、マドウ夫人は?今何処におる?」
「そ、それが…」

 あの後、マドウ伯爵夫人も忽然と姿を消したのだ…。

 そこへ、近衛兵士が飛び込んでくる。

「申し上げます!国境要衝のイグネス城塞が陥落致しました‼︎」

 な、何?
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...