上 下
49 / 67
戦争への道

49.

しおりを挟む
「正面から抗議…。皇帝の名に於いて詰問されるとはね」

 溜息しか出ない。
 宮廷魔術師と言われても、この程度の知恵しか持てないのか?ロイス・テレーゼ=パルムの策は全て失敗に終わった。

 全て…、1人のテイマーの為に。

 ロディマス=クロノ男爵…。

 魔法使いの魔法を全て修めて、尚且つテイマーとしてランクAの従魔を2頭も持つ英雄級レベル40超えの少年。

 フランでの魔物暴走スタンピード
 ミズル公国での公孫動乱バカのヤラカシ

 帝国領へ侵攻し、上手くいけば領土割譲も描けた筈。実際途中までは上手くいきつつあった。

 だが…。

異世界人エトランゼの介在があったとは言え、こうも簡単に阻止されるものなのか」

 この事、事実で有りや無しや。

 グランザイア帝国皇帝ルーファス1世の名での詰問状。勿論ミリシア王国としては事実無根と返答するしかない。あくまでも帝国のでっち上げ、謀略難癖として世界レムルに発するしか道は無いのだ。

「本当に情け無い限りです」

 私の目の前には王国国軍元帥のエイクロイド公爵が沈痛な面持ちで佇んでいる。

「やむを得まい。君以上に策を巡らせる者等この国には居らぬ。で、どう思う。帝国の陰謀・でっち上げと発した場合、帝国向こうが取る道は」
「報復。彼等からすれば懲罰と言えるやもしれません。どれだけの規模で攻め込まれるか、ですが、最悪の場合我が方1国では太刀打ち出来ない可能性も有り得ます」
「ベルンに救援を頼むしかない。が、見返りとして要求されるモノも大きかろう。勝っても負けても王国が無くなる?どこまで交渉できるのか。厳しい戦いになりそうだな」

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 ゴーダ家謀叛。
 ミズル公国動乱と併せて、帝国の権威を揺るがす事件が立て続けに起こった事は帝国全土を怒らせるに充分だったんだ。

 政教一体となっている帝国は、教会トップこそ法皇様キティさんだけど、皇帝を現人神として救世の母神エルシェアの代理人と位置付けてる。

 つまりは神への冒涜だ。
 それに現皇家は帝国臣民の尊敬信仰愛されの対象として揺るぎない存在になってる。

 ミリシア王国討つべし。

 熱狂的に機運が高まってるんだよね。

「もし戦争にでもなったら、ロディはどうするの?」

 ギルド併設酒場にて。
 ランクA昇格おめでとーパーティ、という名のささやかなランチ。オレを含むいつもの5人で食事してる時に、ローラから聞かれた。

「帝国貴族の義務もあるし、従軍するしかないよ。多分一兵卒って訳にもいかないだろうし。独立遊軍として単独行動させてもらうのがベストなんだけどね」
「そうか。フェンリルにグリフォンがいるんだから、ロディはワンマンアーミーで充分戦果を期待出来るんだ」
 納得する様にハリーも頷く。
「部隊の指揮とかじゃなくて?」
 クリントの疑問。
「それ、オレの年齢がネックになると思う」
「そっか。ロディ、未成人だもんな」

 16歳成人になってたら問題はないんだけどね。

 本来なら男爵位を持つオレに、あんな口調や態度だと不敬罪って話になる。
 だから准男爵へ陞爵された時に、オレは声を大にして繰り返し訴えたんだ。

「ギルド内では1冒険者。貴族扱いは一切無用。爵位は勿論、法皇家一族である事も無視して欲しい」

 冒険者として動く時と貴族としての時。
 オレはしっかりとケジメをつけてきた。

 幸いギルドもアンバー辺境伯も衛士達も、オレの言い分を納得してくれた。冒険者仲間も賛同してくれて、仲間と言うべき同輩4人は態度を変えずに接してくれてる。

 戦士のローラ、ハリーにクリント。魔法使いのアルト。バカ言い合える同輩ナカマ
 このランチタイムって、ホント楽しいんだ。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「あぁしてると、ホントに年相応っていうか、新人冒険者のガキなんだがなぁ」
英雄級ランクAの冒険者で法皇様の一族で男爵様。本来なら雲の上のお貴族様ですね」

 ランチタイムだからか。依頼受付の手も空いたので、ふと併設酒場の方に目をやったリリアは、楽しげに談る若い冒険者グループを見た。

 ロディ達だ。

 同年代~ロディのみが未成人だが~の子等が語らってる。あの子達は登録も同じ位。ランクDの昇格試験を共に受けようと色々競い合っていた若者達。

 フランの魔物暴走スタンピード沈静の功で正体?がバレたロディを、それでも同じ様に付き合い、競い合おうと頑張っている子等。

 微笑ましいなぁ。

「そう、お貴族様だ。だからおそらく、ミリシアとの戦争になれば彼奴は戦場に駆り出される。貴族の義務もあるし、彼奴自身が最強のワンマンアーミーだ」

 広域極大呪文を複数使える魔法使いで、それを全て魔法剣として駆使出来る。その上、従魔達はフェンリルとグリフォンだ。

「今のアマレゴ位ならばオレだけで対抗出来そうです」

 ベルン王国とミリシア王国に挟撃されたアマレゴ王国は、都市国家レベルの領土と国力になってしまってる。ロディは、それを自身と従魔達だけで、と言い切ったの。

 只の男爵ならば、上位貴族にいいように使われたかもしれない。でもあの子は法皇クロノ家一族。しかも法皇キティアラ様の弟分と言っていいだ。
 ついでに婚約者カミーユさんはルシアン皇太子殿下の腹心中の腹心、ファブリ騎士の妹。
 自身の力もだけど、バックにいる人達が強力過ぎて…。

 兄の子甥っ子って言い聞かせないと萎縮してしまう。でも、そんな態度を見せるとロディは途端にシュンとしてしまう。

「あの笑顔を見てると、本当にあれが素なんだろうな。魔女メーヴもそうだったろうが、本当に権力に無関心。貴族の義務…、そう、まるで義務感だけで貴族をやっている様にも見える」
「かもしれませんね」

 マディアス兄さん。アナタの子は、本当に素敵な、本当に私の自慢の甥っ子です。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...