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採掘依頼
41.
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依頼を受けて、オレはボルニクス火山へ。
確か火口近くの奥の洞に『炎魔竜ビザード』の寝グラがあった筈。グリフォンの背に乗って、少し火口から離れた場所へ降りる。
休眠期とは言え、流石にグリフォンの接近にはビザードも反応するだろうから。
ランクSの神竜でも、グランならいい勝負だ。
何せ飛行速度と旋回能力はグリフォンが遥かに勝るし、嘴や鉤爪は竜の鱗を切り裂く力を持つ。
最終的に持久戦となればグリフォンに勝ち目は無い。でも神竜も無傷ではいられない。
寝ている間に、そんな相手に接近されれば身の危険を感じるのは当然。
だから、ビザードが反応しない位離れる訳。
硝煙鉱石…、麻袋…2つ。
うん、1つ増えた。って言うのも、実は更に追加の依頼が来たんだ。
あの日の夕方。オレの元に妙な手紙が来ていた。
差し出し人はBってなってるだけ。
この名に心当たりは1人しかいない。
エラムの…ビリー親分。
手紙で呼び出されたのは、帝都でもややガラの悪い場末の酒場。
奥の一室に入ると、そこに通信水晶球。
こんな酒場に?
「こんなとこへスマねェな、坊主。いや、男爵様とお呼びすべきか?」
水晶球に映るのはビリー親分。
「坊主で。エラムの新人冒険者じゃないと会う理由が面倒」
「ソイツはコッチもありがてぇな。なあ、坊主。チョイと小耳に挟んだんだが、硝煙鉱石の採掘に行くんだと?」
「耳が早いのか、顔が広いのか。その通りだけど」
「1袋余計に採って来てくれねぇか?勿論真っ当な相場で買い取る。ちとな、とある商人の取引で入用なんだよ」
「親分が絡んでる時点で真っ当な取引じゃなさそうだけど、ま、知らない聞いてない関係ない話だよね。で、いつ迄?」
「話早くて助かる。5日後には欲しいが」
「ギリか?何とかします」
で、ボルニクス火山にいる。
助かるのは、硝煙鉱石はほぼ露天掘で済む事。
しかも匂いに噴出煙もあるので探し易い。
勿論煙を吸うと体力ゴッソリ持っていかれる。だから気流の防壁が必要なんだ。
「麻袋2つ、か。『穴掘呪文』じゃ採石出来ないから、『ブロック造り』で鉱石を取り出すしかないな」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「知らない聞いてない関係ない話…。しかも、直ぐに期日を聞いてきた。フン、青臭いガキじゃないのは助かるな。流石に『魔女の息子』は俗世を知ってるって事か。アンタの出る幕はなかったよ、ドルフ」
エラムギルドの一室。
机の上に通信水晶球があり、真正面にビリーがいる。そして、水晶球の死角の位置にギルドマスター・ドルフがいた。
若く希望に燃える新人冒険者は、裏の仕事や事情を理解せず正論を捲し立てる事も多い。
「貴族でもあるし、あの子は帝国中枢に近い。多分、綺麗事では済まない事も経験済なんだと思う。が、2つ返事でアンタの依頼を受けるとも思えなかったからな。念の為に控えさせてもらったが…」
「ま、悪党にもそれなりの役割ってモンがあらぁな。そいつを呑んでもらうだけでも助かる。それに、坊主はエラムの新人冒険者って立場でコッチに会った。であれば俺達も坊主の貴族の立場は配慮する。持ちつ持たれつ。悪党にも通すスジがあるからな」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
火口近く、明らかに黄色い地質の場所をブロック状に切り崩していく。その上で結晶化しているモノを選り分けて麻袋に詰め込む。
にしても採取用の皮手袋って案外掴み難い。また袋の口を開け辛いし。
「グルルルルゥ」
「うん?どうした?グラン」
この場にはグリフォンしかいない。フェンリルには灼熱大地に近い火口へ留まるのは死活問題だし、ハイ・ピクシーも羽根や服に硫黄臭が付くのを嫌い、ついて来ていない。グランはオレと同じく『気流防壁呪文』が使えるから。
「そこで何してる?グリフォンから隠れているのか?どうすれば…、何とか気をひく!ゆっくりと逃げろ‼︎」
は?年配の冒険者か?
「鉱石採取です。グランはオレの従魔です!問題ありません‼︎ お構い無く‼︎」
オレの知名度もまだまだって事かぁ。
よし。採石終了。
改めてグランが従魔である事を示すために、オレはグランの背に跨る。
「帰るよ、グラン。でも帝都の方な」
後から思えば、オレは密かに作業しておけば良かった。グリフォンがいた事で、採石作業をしていたのがオレだって事、喧伝した事になってしまったんだ。
この時は、考えもしなかった…。
帝都に戻ったオレは鍛治ギルドへ行き、受付嬢に硝煙鉱石の入った麻袋を渡し、依頼達成の手続きをした。
その後で、こっそりとあの酒場へ行き、そこにいた繋ぎの者に同じく鉱石の入った麻袋を渡した。
その繋ぎの者は、依頼達成の手続きをも請け負っていて、コッチでもオレは報酬を得た。
2つの同じ依頼。
両方とも達成してしまったが故に、後々面倒な事になってしまう事なんて、この時は思いもよらなかったんだ…。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「結果として、チョイと騙したことにもなるが…、悪く思うなよ、坊主。うん、まだ坊主には話せん事が色々有ってな。ドルフ、後の事は頼むわ」
「はぁ~っ。やむを得ん。頼まれてやるよ」
ビリーが裏から出ていくのを、私は多少苦々しく思いながら見送るしかなかった。
「くっそ、全く厄介事を持ち込みやがって」
確か火口近くの奥の洞に『炎魔竜ビザード』の寝グラがあった筈。グリフォンの背に乗って、少し火口から離れた場所へ降りる。
休眠期とは言え、流石にグリフォンの接近にはビザードも反応するだろうから。
ランクSの神竜でも、グランならいい勝負だ。
何せ飛行速度と旋回能力はグリフォンが遥かに勝るし、嘴や鉤爪は竜の鱗を切り裂く力を持つ。
最終的に持久戦となればグリフォンに勝ち目は無い。でも神竜も無傷ではいられない。
寝ている間に、そんな相手に接近されれば身の危険を感じるのは当然。
だから、ビザードが反応しない位離れる訳。
硝煙鉱石…、麻袋…2つ。
うん、1つ増えた。って言うのも、実は更に追加の依頼が来たんだ。
あの日の夕方。オレの元に妙な手紙が来ていた。
差し出し人はBってなってるだけ。
この名に心当たりは1人しかいない。
エラムの…ビリー親分。
手紙で呼び出されたのは、帝都でもややガラの悪い場末の酒場。
奥の一室に入ると、そこに通信水晶球。
こんな酒場に?
「こんなとこへスマねェな、坊主。いや、男爵様とお呼びすべきか?」
水晶球に映るのはビリー親分。
「坊主で。エラムの新人冒険者じゃないと会う理由が面倒」
「ソイツはコッチもありがてぇな。なあ、坊主。チョイと小耳に挟んだんだが、硝煙鉱石の採掘に行くんだと?」
「耳が早いのか、顔が広いのか。その通りだけど」
「1袋余計に採って来てくれねぇか?勿論真っ当な相場で買い取る。ちとな、とある商人の取引で入用なんだよ」
「親分が絡んでる時点で真っ当な取引じゃなさそうだけど、ま、知らない聞いてない関係ない話だよね。で、いつ迄?」
「話早くて助かる。5日後には欲しいが」
「ギリか?何とかします」
で、ボルニクス火山にいる。
助かるのは、硝煙鉱石はほぼ露天掘で済む事。
しかも匂いに噴出煙もあるので探し易い。
勿論煙を吸うと体力ゴッソリ持っていかれる。だから気流の防壁が必要なんだ。
「麻袋2つ、か。『穴掘呪文』じゃ採石出来ないから、『ブロック造り』で鉱石を取り出すしかないな」
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「知らない聞いてない関係ない話…。しかも、直ぐに期日を聞いてきた。フン、青臭いガキじゃないのは助かるな。流石に『魔女の息子』は俗世を知ってるって事か。アンタの出る幕はなかったよ、ドルフ」
エラムギルドの一室。
机の上に通信水晶球があり、真正面にビリーがいる。そして、水晶球の死角の位置にギルドマスター・ドルフがいた。
若く希望に燃える新人冒険者は、裏の仕事や事情を理解せず正論を捲し立てる事も多い。
「貴族でもあるし、あの子は帝国中枢に近い。多分、綺麗事では済まない事も経験済なんだと思う。が、2つ返事でアンタの依頼を受けるとも思えなかったからな。念の為に控えさせてもらったが…」
「ま、悪党にもそれなりの役割ってモンがあらぁな。そいつを呑んでもらうだけでも助かる。それに、坊主はエラムの新人冒険者って立場でコッチに会った。であれば俺達も坊主の貴族の立場は配慮する。持ちつ持たれつ。悪党にも通すスジがあるからな」
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火口近く、明らかに黄色い地質の場所をブロック状に切り崩していく。その上で結晶化しているモノを選り分けて麻袋に詰め込む。
にしても採取用の皮手袋って案外掴み難い。また袋の口を開け辛いし。
「グルルルルゥ」
「うん?どうした?グラン」
この場にはグリフォンしかいない。フェンリルには灼熱大地に近い火口へ留まるのは死活問題だし、ハイ・ピクシーも羽根や服に硫黄臭が付くのを嫌い、ついて来ていない。グランはオレと同じく『気流防壁呪文』が使えるから。
「そこで何してる?グリフォンから隠れているのか?どうすれば…、何とか気をひく!ゆっくりと逃げろ‼︎」
は?年配の冒険者か?
「鉱石採取です。グランはオレの従魔です!問題ありません‼︎ お構い無く‼︎」
オレの知名度もまだまだって事かぁ。
よし。採石終了。
改めてグランが従魔である事を示すために、オレはグランの背に跨る。
「帰るよ、グラン。でも帝都の方な」
後から思えば、オレは密かに作業しておけば良かった。グリフォンがいた事で、採石作業をしていたのがオレだって事、喧伝した事になってしまったんだ。
この時は、考えもしなかった…。
帝都に戻ったオレは鍛治ギルドへ行き、受付嬢に硝煙鉱石の入った麻袋を渡し、依頼達成の手続きをした。
その後で、こっそりとあの酒場へ行き、そこにいた繋ぎの者に同じく鉱石の入った麻袋を渡した。
その繋ぎの者は、依頼達成の手続きをも請け負っていて、コッチでもオレは報酬を得た。
2つの同じ依頼。
両方とも達成してしまったが故に、後々面倒な事になってしまう事なんて、この時は思いもよらなかったんだ…。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「結果として、チョイと騙したことにもなるが…、悪く思うなよ、坊主。うん、まだ坊主には話せん事が色々有ってな。ドルフ、後の事は頼むわ」
「はぁ~っ。やむを得ん。頼まれてやるよ」
ビリーが裏から出ていくのを、私は多少苦々しく思いながら見送るしかなかった。
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