最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?

ノデミチ

文字の大きさ
上 下
19 / 67
そして…婚約

19.

しおりを挟む
 それを聞いた時、ルキアルは笑いが込み上げて来た。
 あの渦中のテイマーが騎士ブヌア家の息女に婚約を申し出た、と?
 ブヌア家と言えば、まさにルシアン直属だ。ファブリは腹心だし夫人のアンリエットはルシアンの乳母を勤めていたな。

「その上で皇太子寄りにいて欲しいんだ」

 私の希望を汲んでくれたんだね、クロノ准男爵。

「宮中もですが、ガスター侯爵始め殿下派が大騒ぎですよ」
 私の副官、ジムボール=カロン・ルード伯爵子息が呆れた感で報告してくる。私の無二の親友でもある彼は私とルシアンの本心を熟知している。皇位争いをしている様にみせて、兄弟2人で国政を回す算段をしている事を…。
「ガスター侯爵が?また厄介な御仁が…」
「彼の方の情熱は殿下を皇位に就ける事に注がれておりますから」
 随分とマイルドな物言いだ。
 彼の御仁のは狂信的と言っても過言ではないと思うがね。
「で、向こうの派閥は?」
「祝福モード全開ですね。何せフェンリルとグリフォンを従える英雄級ランクAのテイマーですから」
「彼はまだランクBだよ。確かにクラスレベルは英雄級40超えだが」

 パワーバランスは崩れた。
 この天秤の傾きは簡単には取り戻せない。多分そのまま水の如く向こうへ流れ出るだろうな。だが、それを頼んだのは私だ。
 動かない水は澱んでいく。流れを作らなくてはならない。その意味でも実に理想的だ。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 カミーユとは兎も角、オレはブヌア家と何の接点もない。なので皇女殿下を通じて皇太子殿下の了承を取り付けた上で2人に口裏を合わせてもらった。
 リスティア皇女もルシアン皇太子も愉しげに二つ返事で了承してくれたんだ。

 これで表向きは皇太子殿下の意向だ。

 己の派閥に取り込む為の婚姻工作。
 ルキアル皇子派にとっては露骨な派閥工作。でもまさか皇太子の意向に面と向かって異を唱える者等居よう筈もないから。
 それにオレは権力的には何の力もない准男爵だ。下位貴族の婚姻等権力争いに明け暮れる上位貴族にとっては取るに足らない世情で、その意味でもオレの婚約等口を出す事はプライドが許さない。
 なので何の障害も無く皇帝陛下の裁可も下り、オレとカミーユはすんなり婚約者同士になった。
 やったね。

 厄介事は増えた気がするけど…。

 何せオレの様な下々の貴族でもルキアル殿下派のガスター侯爵が怒り狂っている事が聞こえてくる。

 ガスター侯爵がルキアル皇子に肩入れするのは訳がある。元々『神たる皇帝は絶対的強者』と言う持論で、その点でルシアン皇太子を認めていない。
 皇太子にそう強気で言えるのは、ガスター侯爵が現皇帝ルーファス1世陛下の従兄弟に当たるからだ。つまり皇太后ティオーリアの姉がガスター侯爵の生母であり、三公に入らなかったとは言え発言力は大きい。

 三公って国務大臣のミズル公爵家。
 軍務大臣のポーリッチ公爵家。
 そして法皇クロノ公爵家。

 つまりは政・軍・信仰の3つの権力。
 勿論この上が絶対的権力者たる皇帝陛下だけど。

 で、オレって公爵家と同じ家名なんだよね。末席傍流の騎士爵位とは言え、この家名を決める時に官僚が大騒ぎしたのがわかる。法皇様エフェメラさんの意向と言うよりゴリ押しに近かったらしい。公爵家の方々も『滅びの魔女母さん』がヘソを曲げる事を避けたかった様だし。
 考えてみれば、オレに対して上位貴族のゴリ押しがなかったのは、この家名のお陰なんだよね。門での待ち伏せ等で会って説得しようとしたのは。
 普通准男爵程度なら呼びつけられて終わり。
 上位貴族に対しオレは、反抗の手段は本来なら持てない。でも持ててるのは従魔の存在と家名。
 三公の末席傍流家ってちょいチートだから。

 現法皇のキティアラさんはエフェメラさんの玄孫。母さんメーヴとエフェメラさんは本来同世代だから、いかに母さんの寿命が規格外オカシイのかがわかる。
 で、帝都に来た時、陛下への拝謁前に挨拶と思って一応法皇家の門扉を潜ったんだ。

「今は2人っきりです。歳の近い親戚の態度で構いませんよ?」

 そう笑い掛ける法皇様は16歳の少女、と言う雰囲気しか出していない。
「あ、でも…」
「私の息抜きに付き合え、って言ってんの」
 うわぁ、態度迄変わった。
 悪戯っぽく微笑むと慣れた手付きでお茶を淹れ出す。
「あの、法皇様」
「キティで。そうね?オネェちゃんでも良いわよ?」
 とうとう弟呼ばわりだよ。

 国教を司る法皇の権力は皇帝の次になる。
 何故なら『帝国正教会』は皇帝を神と定義し崇め奉る宗教だ。

 オレ達をこの世界レムルに送り込んだあの野太い声の存在。あれがこの世界の創造神だと思う。
 でもこの世界レムルは、一般的には救世の母神エルシェアを信仰するエルサー教が主流だ。帝国も基本的にはこのエルサー教の一派。でエルシェアの代理として君臨統治する現人神が皇帝陛下というのが『正教会』なんだ。
 あはは、話逸れたね。
 なんだかんだ言いつつ、オレの存在は現法皇にも末席傍流の一族として好意的に受け入れられたんだ。

 これは大きい。

 ブヌア家が、オレとの婚約を両手を挙げて歓迎してくれたのはこの事も大いに関係してる。一介の騎士家が三公の末席傍流家と婚姻を結べる訳だから。

 色んな人の思惑が上手く乗っかったのがカミーユとの婚約だった。
 ね。厄介事が増えたってわかってもらえた?

 エラムに帰ってきて、陞爵と婚約の報告をエラム領主アンバー辺境伯とギルマス・ドルフさん、それに姉的存在のリリアさんにした時、何て言うか呆れられてしまったりして…。
 あ、勿論同時に報告してないからね。
 辺境伯に報告後、ギルドでギルマスとリリアさんに報告してるから。

「確かに…。褒賞授与で帝都に赴いたと聞いていたがね。嫁まで見つけてくるとはね。が、これで皇女派と言うより皇太子派と目される訳だが」
「それもルキアル殿下の御意志の方が強いんです。その…極秘ですよ」
「わかってるよ、それ位は」
 ギルマスも貴族の端くれ。権力のゴタゴタに無関心な訳では決して無いから。

「で、その上でお前さんはこのギルド所属の冒険者テイマーで居るつもりなんだな」
「実際結婚するにしても成人後の話です。後2年もあるし」
「ホントに厄介事増やしてくれたな。その分、コッチも厄介な依頼を振るからな、覚悟しておけよ。そもそもランクBの冒険者なんだからな」

 これも仕方ないか。もう、ドラゴン退治だろうが、ドンと来い!
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...