上 下
18 / 37
コッソリと守護する者

18.あの子が隠れてやった事

しおりを挟む
 シャトナー伯爵領都エルトプライムバーグは、ここヒガンザタンサラスから馬車でも6日はかかる距離だ。しかも途中には難所と呼ばれるボーレ渓谷もある。幼女の足でどうやって?

 スレインは思い出して笑う。
 あの子は巨大な狼ガイルフェンを使役していた。4聖神獣の脚ならば大した距離でもないのだろう。

『珍しいな、スレイン。君から連絡があるとは』
「ご無沙汰してます。導師」

 ギルドマスターのローンディルは、私の魔法使いとしての導師。私自身が神より授かりし職種は『魔法剣士』だったので、ランクSまで昇りつめて現在に至っている。

『導師はよせ、と言っているだろう。君は私を超えランクSまでになった。自慢の弟子だよ。だが、今は同じギルドマスターだ。同格だよ』
「私にとっては『師』です。そこは譲れません。ところで導師。先日、グレートボアの素材を持ち込んだ子供がいたと聞きましたが」

 久しぶりの連絡だ。そもそも導師はかなりの御多忙。中々連絡と繋がらない。旧交を温めたい気持ちを抑えて本題に入る。

『おお。確かにな。中々丁寧な処理をされていてな。高品質素材として換金したと聞いているが。その子が何か?』
「どんな子でした?」
『うん?え~と、あぁ、これだ。名はアイラ。銀髪ライトグリーンの眼をした、ゆくゆくは美女間違い無しと受付嬢は勿論、ウチの職員ヤロー共の注目の的だ。身なりもキチンとしていたから、何処ぞの貴族の嬢ちゃんか、という噂だったが。この街の周りはそれなりに魔物も多い。貴族連中の狩場にもなっているし、子供が小遣い程度の気持ちで換金に来る事もあるからな。さして気にも留めなかったが。この娘がどうかしたのか?』

 本当に頭の良い子だ。
 ココならばランクBのグレートボアの素材を持ち込むと大騒ぎになる。が、領都エルトプライムバーグならば日常茶飯事だ。しかも忙しい時に持ち込むと、勿論鑑定はしっかりとやるが、子供だからと不審に思う暇もない。しかもあそこのギルドなら貴族の子が換金に来る事は間々有る事だ。

御領主シャトナー伯から聞いておりませんか?此処ヒガンザタンサラスで上役のみに噂になっている」
『アイラ…、そうか、アイラ=サイモン。成る程。ではあの子が、【聖獣使い】かもしれないというサイモン公爵家の棄子か。フム。スレイン。君はかなりあの子に感謝しなくてはならないかもな』
「は?と言われると?」
『あの子が持ち込んだのはグレートボアだけじゃ無い。オークキング以下オークの素材を沢山持ってきてる。君達の知らない間にオークの集落が出来ていたのかもしれないぞ。彼女はそれを人知れず潰した。勿論自身の生活を守る為だとは思うがな。何せオークは5歳児でも女と見れば性交しようとするからな』
「オークの集落…。そんな…」

 そんなものに襲われたら、この街の女性は根こそぎ奪われてしまうかもしれない。いつの間に。

『まぁ、ここまて秘密裏に事を成してるところを見ると、余程人目に触れたく無いし、噂になるのもゴメン被ると言う事だなぁ。確かに【聖獣使い】なんて職種がバレた日には、どんな騒ぎになるか解りゃしないしな。スレイン、君の役目は益々重大になってきているぞ。あの子がそこに住んでいる事で、ヒガンザタンサラスはかなりの恩恵を受けている筈だからな』

 全くだ。
 既に彼女は、この地に豊穣をもたらしてくれつつある。
 その上、高ランクの魔物まで駆除してくれていたとは…。

『コチラからも御領主には報告しておく。オークの集落は裏付けの為にも確認しておいてくれ』
「わかりました。感謝します、導師」

 確認出来て良かった。

 後日、ランクCの冒険者パーティと同行し確認がとれた。
 街からそう遠くない森の奥。
 城塞か?と思う程の堅牢だったと思われる集落があった。
 叩き壊され、燃やされていて、原型は想像するしかないが、周りの柵にしても広大だし、中央の建物跡は屋敷と言える規模すらあった。

「ギルドマスター、これは?」
「領都のギルドから報告を受けた。オークの集落。これ程大きなモノだったとは」
「領都の。だからか。あそこならランクAのパーティも幾つかいますからね」

 アイラ…。
 やはり君の使役しているのは4聖神獣なんだね。

 今度こそ確信したよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

かわいい孫と冒険の旅に出るはずたったのに、どうやらここは乙女ゲーの世界らしいですよ

あさいゆめ
ファンタジー
勇者に選ばれた孫の転生に巻き込まれたばーちゃん。孫がばーちゃんも一緒じゃなきゃ嫌だとごねてくれたおかげで一緒に異世界へ。孫が勇者ならあたしはすっごい魔法使いにして下さいと神様にお願い。だけど生まれ変わったばーちゃんは天使のようなかわいい娘。孫にはなかなか会えない。やっと会えた孫は魔王の呪いで瀕死。どうやらこの状態から助ける事がばーちゃんの役割だったようだ。だけど、どうやらここは本当は乙女ゲーの世界らしい。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

処理中です...