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拾異伝 : 十歳、四年生の夏

合宿

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 もうすぐ宿泊訓練があります。
 何でも、近衛騎士団の山岳訓練場に一週間泊まり込んで各種訓練・鍛練を行うとの事。勿論、近くの森に出る魔物の掃討も騎士団と一緒にするそうです。

 「魔物って、人を襲ったり食べたりするのでしょう?大丈夫なの?」

 王都にいる貴族の令嬢は、野外に出る事等殆どありません。狩りすらした事無い娘もいるみたい。
 「いや、普通はそうでしょう。何度も言いますが、お嬢様が規格外なのですよ」
 「お嬢! ガキの頃から率先してやってたもんな」

 公爵家の陪臣の筈なのに、私、公爵令嬢なのに…。
 「ね、もう少し私も普通の令嬢って言ってもいいと思わない?」
 「無理です」「無理っす」
 チクショウ! 声を揃えて即答しやがった!

 「いや、陪臣の二人でなくても無理だろ? 流石の私も君の事を普通とは言えないよ?」
 む? 笑いながら、話に加わってきたのはルーク様?
 「それはひどいです、ルーク様」
 「普通の令嬢は『ドラゴンスレイヤー』にはなれないと思うけどね。竜語と死霊魔法以外は全て修めている君は、この国最強の魔法使いと言っていい」
 「ですね。今年の合宿、歴代最強の学生だから騎士団の護衛要らないって、専らの評判なのです」
 む?マゼールさん? 今、聞き捨てならない事を言いませんでしたか?

 「俺とマゼール、もうその辺の近衛騎士には負けないと思うよ」
 「そっか。ローラも流石宮廷魔術師の娘って聞くし」
 「その三人よりドラゴンスレイヤーの存在だと思いますよ、お嬢様。いい加減現実逃避やめません?」
 「カイルは兎も角、前はもう少し遠慮があったと思うけど、チェレン?」
 残念がる私に対して、
 「諦めました。カイルを見倣う事が現実的だと判断せざるを得ません。いいですか、お嬢様。そもそも私達は物心ついた時から、こうして三人常に一緒に入る訳ですが…」

 うわ! 話長くなった。
 その後延々五分は喋り続けたのでしょうか?
 ってカイル? 何故離れてる? マゼールさん? ルーク様? ウソ? 私一人でチェレンのお説教受けてるの?
 あぁ ~ もう!!
 「わかったから!チェレン、もうわかりました。貴方の主家をキチンとわからせようとするその態度に謝意と賞賛を表します」
 「いたみいります、お嬢様」
 チクショウ、皮肉効いてない。

 私は、少し離れて笑いを堪えている三人に恨み言を言いたいです。
 「ここで婚約者を助けようという気はありませんでしたか? ルーク様」

 ムギュ。

 「私の役目は、こうして君を宥める事だと思っているんだ」
 「いつもいつも抱きしめたら私がご機嫌だと思っていたら大間違いです」

 わかってます。皆呆れ顔なの。
 抱きしめられた私は、多分至福の表情してます。ここで怒って、ガツンと言った方がいいと思ってはいるのですが…。
 「だって、この時だけはお嬢!が乙女に見えるもの」

 カチン!
 「私さ、爆裂呪文と雷撃呪文組み合わせたらどうなるか、ずっと試してみたかったんだ。右手に『ギガ・フレイム』、左手に『アトミック・サンダ…』」
 「すみません!すみません!! お許し下さい!お嬢!殿下も! もっと強く抱きしめてあげて下さい!ね、機嫌直して! お嬢!!」

 ムギュギュ!
 「機嫌直った?」
 「ルーク様? カイルを甘やかし過ぎです。今日という今日は…」
 ムギュギュ! 
「笑顔の君の方がいいな、リスティア?」

 ふぇ? もう、恥ずかしいです、ルーク様。
 やや赤く、 微笑んでしまう私に、やっぱり皆呆れ顔。

 この後、講堂に集まって諸注意事項を確認しました。
 いよいよ、来週から宿泊訓練です。
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