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最終章:夢を見れなかった魔王は、夢の続きを望んだ

夢を見れなかった魔王は……【魔王視点】

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【今回の話は魔王視点になります】


 夢を、見ている。
 夢……なのだろうか?
 魔王である俺が夢を見るなど、無いと思っていた。

「魔王サマー!」

 懐かしい声が聞こえる。
 独特な、少し間の抜けた呼び方をする人物なんて、一人しかいない。

「……アメリア」

 振り返った先に、黄色の髪の少女が居た。
 俺の姿を見て、ふにゃりと安心したように笑う、人間の少女が。

 彼女の姿を見た途端、俺の頬に涙が伝った。
 アメリアが慌てた様子で駆けてくる。
 慌てすぎて転びかけたアメリアのことを、咄嗟に抱きしめて支えた。
 アメリアは魔王の腕の中に居るというのに、怯えた様子もなく、俺の顔を覗き込む。

「魔王サマ、どうして泣いてるのー?」

 語尾が伸びる彼女の話し方。
 こてんと首を傾げる仕草。
 俺よりもずっと温かい体温。
 そのどれもが、アメリアの存在を感じさせた。

「アメリア」
「うんー」
「アメリア」
「なぁに?」
「アメリア」
「魔王サマに名前を呼ばれると、やっぱり嬉しいなぁ」
「アメ、リア」

 何度も名前を呼んでしまう。
 アメリアの声が、聞こえなくなってしまうことが怖かった。
 俺よりもずっと小さいアメリアの体を抱きしめて……



 ◆  ◇  ◆



「夢、か」

 夢から覚めた俺の前に、アメリアの笑顔は無かった。
 あるのはただ……眠っているように見える、アメリアの体だけだった。

「アメリア」

 夢で見たように、返事が無いかと名前を呼んでみる。
 アメリアは声を上げるも、笑みを作ることもしなかった。
 分かっていたことだ。
 分かっていた事だが……胸にぽっかり穴が空いたようだった。

「アメリア」

 触れたアメリアの体は、夢とは違って酷く冷たかった。
 アメリアが死んだのは、もう数十年も前のことだ。
 体は魔法で形を保たせているが、その温度はとうの昔に失われている。

「お前が死んだ、それだけだと言うのに」

 数十年も前に、人間の少女が魔国で死んだ。
 ただそれだけの話の筈だった。
 アメリアが居なくなっても、世界は変わることなく回り続ける。
 不要な魔素は変わらずに俺の元へ集まり、俺は魔素を使い続ける。
 何も変わらない、筈だった。

「こうも胸が痛むなど、おかしな話だ」

 何も変わらない。変わらない筈なのに……
 俺の胸にぽっかりと空いた穴は、いつまで経っても塞がってはくれない。
 幾年もの時間が流れても、俺の悲しみは増すばかりだった。

「お前に出会わなければ、きっとこんな想いも無かっただろうに」

 アメリアと出会う前の世界は真っ暗だったのだから。

 色も温度も、何一つ感じないような世界。
 喜びもなければ、悲しみもない。
 無色だった俺の世界を色づけたのは、アメリアの存在だった。

 名前を呼ばれる喜びを。
 笑顔を向けられる嬉しさを。
 人の手の温もりの優しさを。
 俺に教えたのは、全部アメリアだった。

『ねぇ、魔王サマ。笑ってよー!』

 今になって分かってしまう。
 あの日、アメリアが初めて魔国にやって来たあの日。
 アメリアを魔国から追い出そうとして、使った魔法は不発なんかでは無かったのだと。

Σε πού πρέπει να είναιあるべき場所へ
 二度と魔国へ足を踏み入れるな、人間の娘』

 きっと俺は、あの時からアメリアに惹かれていたのだ。
 アメリアの「あるべき場所」が、俺の隣であったら良いと願ってしまった。
 だから魔法は発動しなかった。
 ……否。正確には発動した。
 発動をして、アメリアは俺の願う「あるべき場所」……魔国に居続けたのだ。

 もしも時間を巻き戻して、あの時に戻れたとして。
 アメリアをあの場からすぐに立ち去らせたなら……
 きっと、こんなに胸が痛むことは無かっただろう。
 だが……

「ああ、駄目だな。きっと、何度やり直しても願ってしまうよ。お前のあるべき場所が、俺の隣であって欲しいと」

 何度やり直したとしても、あの魔法がアメリアを追い出すことは無いだろう。
 だって、こんなに悲しい想いをしても……
 それでも俺は、再びアメリアに出会えればと願っているのだから。

「悲しみさえも、お前が教えてくれたものだと言うだけで愛おしい」

 溜め続けた魔力を解放しながら、アメリアのことを撫でた。
 使う魔法は、時空をも歪ませる、神話のような魔法。

「何度おいて行かれるとしても、俺はもう一度、お前に会いたいよ」



 ◆  ◇  ◆



 その日、魔国を支配していた魔王が死んだ。
 何らかの魔法を行使した末に、魔力がなくなって砕け散ったのだ。

 魔王の膨大な魔力は、数十年もの時を遡って、人間の少女の元へと向かって行く。


『アメリア』


 人間の少女の夢の中、魔王は少女の名前を呼んだ。
 愛おしくて堪らないのだと、伝える様な表情で。


「う、ううん? あれ、夢??
 あの人、魔王サマっていう名前なのかなぁ?
 ……また、会えるかな?」



 これは夢見る少女が、魔王の笑顔を望んで……
 夢を見れなかった魔王が、少女との邂逅を求めた……
 悲しくて優しい、恋のお話。

 
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みんなの感想(1件)

ひつじ
2021.12.05 ひつじ
ネタバレ含む
千 遊雲
2021.12.05 千 遊雲

感想ありがとうございます!
どう書けばいいのかと悩みながら書いていた物語なので、とても嬉しいです!!( ;꒳​; )
アメリアも魔王も、生きてきた環境が環境なだけに、自分の感情に気付くことができない激鈍人間でした…
生きているうちはくっつかないままでしたが、天国では絶対にくっつくことが確定していますので…!!
感想とても嬉しかったです!ありがとうございました!<(_ _*)>

解除
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