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【二章】非力な少女に、変えられる魔国

面倒、面倒、面倒【リス視点】

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【今回の話は引き続きリス視点です】


 面倒なことになったなぁって、思ってたんだ。
 うん、面倒なことになったのは、ちゃんと自覚してたよ。

 だけどさぁ……まさか、ね。
 どんどん面倒なことが増えるなるなんて、予想出来るはずないよね。



 ◆  ◇  ◆



 事の発端は、アメリアだった。
 アメリアは最初、「魔王サマを探すのー!」とやる気満々だった。
 けれど、魔王様の居場所が分からなくてすぐに迷走した。

「どこにいるんだろうね、魔王サマったら」

 アメリアは首を傾げながら、魔王サマの居場所を考えている。
 ……その手に、いくつも果実が抱えながら。

「あっ! クマさん、クマさん! また美味しそうなやつ見つけた!」

 クマに止まってもらうようお願いして、アメリアは木の枝に実ってる赤い果実をもぎ取った。

「これがクマさんの分で、こっちがリスさんの分ねー!」

 完璧におやつタイムみたいになっちゃってるけど、真剣に魔王様を探してるのかな?
 ボクには分からなかったけど、アメリアから分けてもらった果実は美味しい。
 美味しいは正義。
 それ以上でも、以下でもないよね。

 ボクとアメリアとクマは、色々な木の実や果実を食べながら歩いていた。
 正直、途中からは魔王様じゃなくて、美味しい木の実を探してたよね。
 もはや散歩。もしくはピクニック。
 でもまぁ、そこまでは良かったんだ。そこまでは。

 黄色の果実を二つと、赤い木の実を五つと、クルミも三つ食べた後。
 ゆっくり歩いてたボクたちの前を、猛スピードで駆け抜けた影があった。
 小さいピンク色の塊は、炎猪ファイアボアの幼体だ。
 ……小さいって言っても、ボクよりは大きいよ。

 アメリアは突然現れたソイツに、「うわぁ!」ってちょっと間の抜けた声を上げた。
 クマも「グァア!」って、驚愕の声を上げて……って!
 だからなんでお前もびっくりしてるんだよ!
 魔力感知で気付け!
 魔物なんだから、ちゃんと感知しろ! もう!

 びっくりしているアメリアとクマの前を通り抜けて、炎猪ファイアボアの子供は、半泣きの状態で駆けて行った。
 炎猪ファイアボアが半泣きになっている原因は……すぐに

「ゲロゲロゲロ!!」

 森の木をなぎ倒しながら現れたのは、クマと同じくらい大きなカエルの魔物。
 毒蛙ポイズンフロッグの成体だ。
 毒蛙ポイズンフロッグの名前の通り、アイツは体液に毒がある。
 食べても苦いばっかりだし、厄介なんだよね。

「おっきいカエルさん!」
「ゲロ?」

 そんな毒カエルは、アメリアのことを見つけて舌なめずりをした。
 あー……まぁ、気持ちは分からなくもない。
 人間って、魔物によっては美味く感じるらしいから。
 毒カエルにとって、アメリアは相当美味しそうなに見えたんだろう。

 デロリ。
 毒カエルの口から、紫色のよだれが滴り落ちた。
 紫色の涎は地面に落ちて、そこに生えていた野草をジュワリと溶かす。

「溶けちゃったぁ」

 アメリアは呆然と呟いた。
 自身よりも余程強い魔物を前に、その姿は無防備過ぎた。
 まるで、どうぞ食べて下さいと言わんばかりだ。

 毒カエルが舌を伸ばして、アメリアを食べようとする。
 勿論ボクは、雷魔法で迎撃をするつもりだった。
 バチリとボクの体から雷魔法が放たれる……

「ゲロッ!?」

 ……寸前、毒カエルが動きを止めた。
 多分、気付いたんだ。
 アメリアの体に、魔王様の魔力が絡みついていることを。

『触るな』

 魔王様の魔力から、そんな威圧が届く気がするよね。
 分かる分かる。
 ボクも気を抜いたら圧倒されそうだもん。
 魔物だったら、気付かない方がおかしいってくらいの魔力だからね。
 気付かないのなんて、余程の馬鹿くらいだよ。
 それか、魔力感知が死ぬほど下手な魔物か。

「グゥ?」

 ボクはクマをちらっと見た。
 クマは動かないカエルを見て、不思議そうな顔をしていた。
 馬鹿と感知下手。多分このクマは両方。
 魔王様の魔力を前に、ここまで能天気な顔を出来るのは最早才能だよ。

「ゲ、ゲロー!!」

 毒カエルはアメリアに背を向けて逃げ出した。
 ちゃっかり炎猪ファイアボアの逃げた方向に向かったから、獲物変更ってところかな。
 ボクはまとっていた雷魔法を、バチリと散らした。

 ボクとしては、アメリアが無事ならそれで良いからね。
 だって、弱い魔物が食べられるのなんて当たり前のこと。
 ピンクの子イノシシは、運と実力が無かっただけ。
 ボクが助ける必要はない。

 ……って、思ってたんだ。

「大変! さっきのイノシシさん、食べられちゃう!」

 ……アメリアがクマの背中から飛び降りて、イノシシとカエルを追いかけるまでは。

 小さな体で、アメリアはクマの背中を滑り落ちるみたいに降りてしまった。
 それから、細い足で森の中を駆けて行ってしまう。

「キュ!?」

 突然のことに、ボクは止める事もできずに呆然としてしまった。
 だって、ボクからしたら、イノシシを助ける理由なんて一つもなかった。
 だって、魔物は弱肉強食が普通だから。

 けど、アメリアは違う。
 アメリアは魔物じゃなくて、人間だから。
 イノシシを助けるメリットなんて一つもない筈だけど、アメリアは助けたくなってしまったんだろう。

 しまったと思った時には遅かった。
 アメリアはずいぶん先に進んでしまっていた。

「リスさんたちは、待ってていいよー!」

 呑気に言うアメリアだけど、弱いくせに、どこからその自信が出るのかな!?
 魔王様の魔力が残っている内は、大丈夫だと思うけど……
 ……けど、馬鹿クマの前例があるからなぁ。
 心配になったボクは、アメリアを追いかけようとして……

(なんか来た!)

 ……遠くから聞こえた、鋭く風を切る音に立ち止まった。
 クマは気付いていないけど、これは弓矢が放たれた音だ。
 人間が使う道具で、強い魔物でも当たり所が悪ければ死んでしまう武器。
 弓矢が進む方向は多分、アメリアの居る場所。

「キュー! (もうー! ボク急いでるのに!)」

 文句を言った。
 けど、文句を言ったところで、弓矢が止まる訳じゃない。
 弓矢を確実に止める方法を急いで考える。
 アメリアが弓矢に当たったら、死んでもおかしくないからね!

「キュウ!(雷網サンダーネット)」

 ボクは魔力を多めに使って、魔法を展開する。
 頭上の空から、<雷網サンダーネット>が広がっていく。
 細く見える雷の糸だけど、その破壊力は抜群だ。
 なんたって、魔国の中でも強い部類の魔物ボクが使った魔法だからね。

 触れたものを一瞬で焼き焦がす、雷魔法の網。
 それを広げて、アメリアの居る場所まで全部包み込んで、ボクは魔法の威力を上げていく。

 弓矢はまだ見えていない。
 けど、放たれた弓矢が止まることもない。
 なら、弓矢が当たるまで、魔法を展開し続けるだけで良い!

「キュウ(アメリアは魔王様のお気に入りで……ボクの友達なんだよ! 手を出すな!)」

 ボクは更に、魔法の威力を上げていく。
 魔国の森の中が、ボクの魔法で照らされた。
 クマが眩しそうに眼を細めたけど、知ったもんか。

 森の木々の間をすり抜ける様に、茶色の弓矢が飛んできた。
 先っぽに銀色の欠片みたいな金属が付いた、何の変哲もない弓矢だった。
 アメリアに向かって一直線に飛んできた弓矢は、ボクの魔法に当たって燃えた。

「キュ! (ま、ボクに掛かればこんなもんだよね!)」

 フン! と鼻息を鳴らして……

「キュウウウ!?(アメリアが居なくなってる!?)」

 ……ボクは、アメリアがどんどん走って進んでることに、項垂れた。
 こんなに頑張ったんだから、ちょっとくらい待っててよ!!!!









 ===================

<あとがき>


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