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【一章】 魔国に居るのは、魔王に許された存在だけ

おいしーい!……あれ、何か忘れてる?

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「キュキュ、キュイキュイ」

 リスを追いかけて、森の中を駆け抜ける。
 オレンジ色の尻尾がふわふわと揺れていた。

「待ってー、早いよぉ」

 私よりずっと小さいのに、リスには疲れた様子もない。

 時折木を登って、滑り降りて。
 葉っぱの影に隠れたかと思えば、どこからともなく現れる。
 自由自在に走り回って、時折振り返って。
 私が離されていないのを見て、また駆けていく。

 私はその後ろを追いかける。
 木の根っこを飛び越えて、葉っぱの絨毯を踏みしめて。

 楽しいなぁ。
 ずっとこうして、走っていたいなぁ。
 乱れる呼吸すら楽しくて、私の足はどんどん速くなっていく。

「待って、待ってよぉー! ふふ、ふふふふふ。あれ? ひらけた? ……うわぁ!」

 夢中でリスを追いかけて……

 気が付いたら、森の中の開けた場所にたどり着いていた。
 ここだけは木が少ない。代わりに花がたくさん。

 よく見るような、赤や黄色の花とは違うみたい。
 葉っぱは緑だけれど、花はあんまり見ない黒色。
 それが辺り一面に咲いていた。

「花畑だー!」

 リスは一目散に花の中へ飛び込んでいく。
 ふわ、ふわり。黒い花びらが二枚落ちていった。

 魔国の花は全部黒いのかなぁ?
 でも、さっきの果実は赤かったよね。
 赤い花もどこかにあるのかな?

「リスさん? どこ行っちゃったのー?」

 花の中に潜り込んだリスを探すために、黒い花に近付いてみる。

 近付いて、気が付いた。
 背の高い黒い花に隠れるみたいに、背の低い白い花がもう一つ。

 小ぶりな白い花には、赤い果実が幾つか実っている。
 美味しそう! 食べても良いのかな?

「キュウ?」

 白い花と黒い花の間から、リスが赤い果実を持って現れる。
 「良いでしょう?」と見せつけてから、リスは果実に齧り付いた。
 多分、さっきも持っていた果実と一緒みたい。

「私も! 私も食べる!」

 私も果実を摘んでみる。
 赤い実は柔らかくて、ちょっと力を込めただけで潰れちゃいそう。
 指先程度の小さな実を優しく、優しく摘んでみる。
 口の中に放り込んで……

「美味しーい!!!」

 ……甘くて、酸っぱい!
 その美味しさに、大きい声が出ちゃう!

「キュイ!?」

 私の声にびっくりしたのか、リスの体がビクッと跳ねる。
 ついでに、バチリと電気が弾けるみたいに光った。

「あっ、ごめんね」

 謝ったら、リスはさかだてていた毛を戻してくれた。
 「パチパチ」って弾けるみたいな音はまだ鳴ってるけど、大丈夫かなぁ?

「これ、あげるから許してー」
「キュー♪」

 お詫びに採ったばっかりの果実を渡してみたら、リスは許してくれたみたい。
 いっぱい生えてるから、取り放題なんだけどね。
 でも許してくれて良かった。

「美味しいね」
「キュキュキュ!」
「魔王サマにもお裾分けしてあげたいなー……あれ?」
「キュウ?」
「魔王サマのこと、忘れちゃってた!」

 私、魔王サマのことを探してたはずなのに!
 慌てて立ち上がる。
 魔王サマを探しに行こうとして……

「魔王サマにも、分けてあげないといけないし……」

 ……探しに行こうとしたんだけど、まだまだたくさん生えてる果実の誘惑に、もう一度座り込んじゃう。
 だって美味しいんだもん。それにお腹も空いてるし。

「仕方ないよねー」

 言いながら、少しだけ急いで果実を摘んでいく。

 摘んで、食べて。摘んで、食べて。
 形の良いやつはポケットに。後で魔王サマにあげるの。

 これはちょっと潰れてるから食べちゃおうかな。
 おいしーい♪

 これは綺麗。それに、色も真っ赤で美味しそう!
 ……あれ!? 気付いたら、すごい綺麗だったやつも食べちゃってた!
 魔王サマの分も摘まないといけないのにー!

「美味しかったぁ」

 ポケットとお腹がいっぱいになって、やっと立ち上がる。
 
「今度こそ魔王サマを探しに行かないと!」
「キュウ」
「リスさんは、魔王サマのこと知らないの?」
「キュキュ!」

 なんとなくリスに魔王サマの居場所を聞いてみたら、知っているみたいな反応だった。
 知ってるのかなぁ? 物知りね。

「キュウ!」

 頼もしい表情で「付いて来い!」とでもいうように一鳴き。
 その後ろを、私はまた追いかけて行く。

「キュキュ、キュキュキュ」
「リスさん、リスさん。楽しいねー! 私、魔国ここに来て良かったなぁ」

 空は相変わらずの曇り空。
 私の暮らしていた村と違って、明るい場所はどこにもない。

 けど、私は来て良かったって思うの。
 村で暮らしていた時よりずっと楽しい。
 こんなに楽しかったことなんて、今まで一度も無かったもん。

「……ずっと、こんな時間が続けば良いのにねー」

 私の言葉に、リスが「キュウ」と一鳴きした。








 ===================

<あとがき>


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