悪役令嬢だそうですが、攻略対象その5以外は興味ありません

千 遊雲

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3巻

3-1

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   プロローグ 打倒こう華国かこく! でも攻略対象その5には嫌われたくありません!


「困ったのです」

 うーんと悩む私……ユナ・ホワイトリーフの言葉に、私の契約精霊のヨルも「困ったナ」と言いながら、黒い猫耳をへにゃりと伏せます。
 前世の記憶を持ち、この世界の人々が登場する乙女ゲーム『君と紡ぐ千の恋物語』……略して『君紡きみつむ』をプレイした記憶のある私と、闇の精霊でかなりの実力があるヨル。私たち二人が困ることなんてあまりないのですが、今回ばかりは困り果てています。
 私たちが困っている理由、それは……

「海の向こうの国で捕まっちゃったレオンを助けてほしいのー」

 隣国キュラスの国王であり、『君紡きみつむ』の攻略対象でもあったレオン・キュラスの契約精霊、ラーノさんの頼みごとが原因です。
 ……いえ。正確に言えば、ラーノさんの頼みごと自体は別に大した困りごとではありません。私とヨルが力を合わせれば、今私たちがいるユーフォルビア王国から海を越えた先にある国……光華国で捕まったというレオン王を助けるくらい訳ありませんから。
 ちなみにレオン・キュラスは、『君紡きみつむ』ではキュラス国の第二王子という設定の人物でした。前世の記憶持ちの私という異物が入り込んでしまったせいなのか、この世界は『君紡きみつむ』の世界とは少しずつズレてしまっているようです。
 まぁ、別に私は『君紡きみつむ』に特別な思い入れはないので、設定がめちゃくちゃになろうがどうでもいいですけれど。
 私が気にするのはただ一つ。

「ユ~ナ~? まさかとは思うけど光華国に一人で乗り込もうなんて、そんな物騒なことは考えてないよな?」

 にっこりと満面の笑みを浮かべて、私に問いかける最高にかっこいい男性。短い赤髪、きりっとした目元、髪と同じく赤い瞳、耳元で揺れる赤いピアスまで全部が全部かっこいい『君紡きみつむ』の元攻略対象。私が気にするのは、ノルディア・カモミツレ様のことだけです!
〝元〟攻略対象というのは、今のノルディア様は私の婚約者だから。「絶対に誰にもノルディア様は渡しません!」という強い意志で、幼少期に婚約者の立場を勝ち取りました。
 世界の誰よりも、何よりも大好きなノルディア様ですが、今はそんなノルディア様の言葉に少しだけ困っています……

「ユナ、どうするんダ?」
「ど、どうしましょう。レオン王は助けたいですけど、ノルディア様にダメと言われたら強行突破は出来ないのです! ノルディア様に嫌われたくないのです!」
「でもこのままだト、魔力不足でラーノが弱るゾ」
「それもそうなのです……」

 最愛のノルディア様の言うことは、私にとって絶対です。ノルディア様が嫌がることをして、嫌われてしまったら生きていけません。
 なので、ノルディア様がダメと言えば、レオン王を助けるのは難しいです。でも、ヨルの友達であるラーノさんも、放っておくのは気が引けます。レオン王の無事も気になりますし……どうしましょう……

「ユナ、もう一回聞くぞ。誰にも相談しないで、光華国に乗り込んだりしないよな?」

 困り果てた私に、ノルディア様はもう一度、「一人で」という部分を強調するように言いました。
 もしかしてノルディア様は、私が光華国に乗り込むこと自体に反対しているわけではない……?

「一人がダメなら……青藍せいらん! 青藍を連れて行くのです! リー兄にもちゃんと報告します!」

 必死に考えて、私のお目付け役の青藍と、保護者のような立ち位置になっているリージアお兄様の名前を出してみました。けど、ノルディア様はうなずきません。それどころか、満面の笑みからあふれ出る圧がますます強くなった気がします。

「えっと、えっと……」

 慌てる私に、ノルディア様は「そうか」と一言。

「俺には言ってくれないのか? 光華国に行くから、一緒に来てほしいって」
「でも……」
「それとも俺は、ユナの企みを聞かせられないほど頼りないか?」
「そんなことはないのです! ノルディア様は仕事もあってお忙しいので、お手をわずらわせるのは心苦しいのです」
「気を遣ってくれたのはうれしい、ありがとうな。でも、こういう非常事態に頼ってもらえないのは、婚約者としては寂しいだろ」

 満面の笑みを崩して眉を下げ、寂しそうな表情をするノルディア様。その姿に胸を貫かれました。かっこいいノルディア様が、まるで捨てられた子犬のような表情をするなんて! か、可愛すぎます‼

「はぅ……」

 胸を押さえてもだえる私を、ノルディア様は慣れた様子でスルーして「ユナ、俺に言うことはあるか?」と聞きました。

「光華国に行って、レオン王を助けるのを手伝ってほしいのです」
「おう、任せろ」

 ニッと笑って胸を叩くノルディア様が頼もしくて素敵で、見ているだけで目が溶けてしまいそうです。『君紡きみつむ』の中でも見られなかったレア表情なんて、空間魔法〈映像保存ピクチャー〉で撮らないわけにはいきません。

「ノルディアも一緒に行くのカ? オイラとユナだけでも足りると思うけド」
「ああ。お前ら二人で向かわせたら、キュラス国王は取り戻せたとしても、光華国で指名手配されて帰ってきそうだからな」

 ノルディア様の魅力的すぎる姿を満足いくまで堪能して、私は「よし」と握り拳を作ります。

「打倒光華国! みんなで絶対にレオン王を取り戻すのです!」

 気合い十分の私を見て、ヨルが「確かニ」と呟きました。
 ……? 何が「確かに」なのでしょうか?



   第一章 打倒光華国! いざ出発です!



「打倒光華国! みんなで絶対にレオン王を取り戻すのです!」


「エイエイオー」と拳を突き上げて、気合い十分で叫んだ日から数日後……


「うーん……ノルディア様からの連絡が来ないのです……」

 ……私は未だに、光華国へ行けていません。
 と言うのも、最初は魔法を使ってピュピューンと光華国へ行くつもりだったのです。しかしノルディア様から「魔法を使って他国へ移動することは禁止されている」と言われてしまいました。
 さすがに犯罪者になってしまったら、将来の夢である「ノルディア様のお嫁さん」に支障をきたす恐れがあるので断念です。
 代わりにノルディア様が「所属している騎士団を通して光華国へ行く許可を取ってくる」と言っていたのですが……なかなか時間がかかりますね。

「王都周辺のダンジョンに、フェンリスヴォルフが出たという話もありますからね。百年前に強い勢力を持っていた魔王、ハルジオンの忠臣もフェンリスヴォルフでしたから、騎士団は警戒態勢を取っているのでしょう。ノルディアさんもお忙しいのだと思いますよ」

 自室でうなっていた私に声をかけたのは、私の護衛役の青藍。いつも通りのメイド服姿で、獣人特有の猫耳をへにゃりとしおれさせている様子からして、恐らくフェンリスヴォルフを怖がっているのでしょう。

「ユナ様、もしもフェンリスヴォルフが出たら、絶対に逃げてくださいね。間違っても面白がって攻撃なんかしたらダメですよ」

「絶対ですよ!」と念押しをする青藍には悪いのですが、前にダンジョンでフェンリスヴォルフと遭遇した際、既にガッツリ戦ってしまっています。青藍に話したら怒られるかな~と思っていたら、見事に話すタイミングを失ってしまいました。

「フェンリスヴォルフ? オイラ、ソイツとはもう……」
「ヨル、言ったらダメですの! 青藍には内緒にしておくのです!」
「……私に内緒とは、何のことですか?」
「ええっと、その~……内緒は内緒ですの!」
「怪しすぎて逆に気になりますよ⁉」
「秘密ですの!」
「えぇ……まぁ、良いですけど……」

 無理矢理の誤魔化ごまかしでしたが、なんとか見逃してもらえました。これで一安心です。

「ところでユナ様、ノルディアさんと今度は何をするおつもりですか?」
「光華国に乗り込んで、捕らえられているレオン王を奪還するのです」
「本当に何をしようとしているんですか⁉」

 一安心だと思ったのですが、まさかのこっちもお説教コースでした……

「ユナ様、普通の令嬢は他国に乗り込んだりしません」
「はいですの……」
「ご自分から危険なことに突っ込んでいかないでください」
「はいですの……」
「私も巻き込まれてしまうんですから。ちゃんと他の人のことも考えて下さいね」
「はいですの……え? 青藍も付いてきてくれるのですか?」

 青藍のお説教をみっちりと聞いて、「はいですの」という返事しかできなくなった頃、聞こえてきた言葉にびっくりして聞き返してしまいました。
「付いて来て」と頼んだら来てくれるとは思っていましたが、青藍自身が「行く」と言うとは思っていませんでした。

「ユナ様が行くと決めたのなら、私も付いて行きます。私はユナ様の護衛として、ここに置かせて頂いているのですから」

 きっぱりと言い切った青藍ですが、その表情は強張っている気がします。

「大丈夫ですの?」

 光華国は青藍の生まれ故郷だと聞いています。私もあまり詳しくはありませんが、人間至上主義、光魔法至上主義を掲げる小さな島国だとか。そんな国で闇魔法の素質を持って生まれた獣人の青藍は……恐らく、あまり良い扱いはされていなかったはずです。
 今だって光華国の話をしているだけで、青藍の手は震えています。

「ここで光華国から逃げたら、私はこの先、ずっとあの国におびえたまま暮らしていく気がするんです。立ち向かってユナ様の護衛として役に立って、案外怖くなかったって思えるようになりたいです。だから、私も光華国へ連れて行ってください」

 震えながらも力強く言い切った青藍のことを、これ以上止める必要はないでしょう。
 それに……青藍のことは私の兄、リージア・ホワイトリーフが過保護すぎるほど大事に見守っているので、滅多なことにはならないでしょうし……

「分かりました。でも、無理はしないでほしいのです」

 今だって「ありがとうございます」と言って頭を下げる青藍には、パッと見ただけでも五個以上、装飾品に偽造された魔道具がつけられているのですから。

「リー兄の魔道具好きはあいかわらず重度ですの」
「リージア様の魔道具好きは昔からだと思いますが、急にどうなさいました?」
「青藍はきっと、知らないままの方が幸せですの」
「……? 変なユナ様ですね」

 不思議そうな表情をする青藍ですが、「青藍が身に付けているコレとコレとコレとコレ、全部魔道具なので売ったらすごい価格になりますよ」なんて言ったら、多分、青藍はその場から動けなくなってしまうと思います。だからやっぱり、青藍は知らない方が幸せだと思うのです。

「そういえば、冒険者ギルドからユナ様……ではなくて、冒険者ユーナ宛に手紙が届いていましたよ」
「手紙? 珍しいのです」

 青藍から受け取った手紙には、確かに「冒険者ユーナ様」と書いてありました。「ユーナ」は冒険者ギルドに登録している私の偽名なのですが、ユーナ宛の手紙がユナに届いてしまっている時点で偽名の意味がない気もします。

「えーっと……ライラックさんからの手紙のようですね」


 冒険者ギルドきっての実力者、ライラックさんとは何度かお会いしたことがあります。雷魔法が得意で豪快な戦いをする方ですが……あのライラックさんが手紙を書く姿は想像しにくいです。どちらかといえば「文字をチマチマ書くより、会いに行った方が早いだろ!」とか言って走って来そうなイメージでした。
 不思議に思いながら封を切ってみれば、中に入っていた紙には大きめの文字で「緊急依頼。詳細はギルドで話すから来てくれ」とだけ。

「え、これだけですか⁉」

 横から覗き見ていた青藍も、びっくりした顔で手紙の裏を覗き込んでいます。もちろん裏も白紙だったので、本当にこれだけしか書いてありません。用件がなにも伝わってきませんが、これこそライラックさんって感じがします。
 ノルディア様を待っているだけなのは暇なので、ライラックさんに会いに行ってみることにしましょうか。


   ◆ ◇ ◆


「お、来てくれたか!」

 久しぶりに訪ねた冒険者ギルド。迎え入れてくれたのはライラックさんですが……なんか、げっそりしています……?

「なんだか疲れているのです?」
「そうなんだよー、冒険者ギルドマスターギルマスが光華って国に派遣されちまってから帰って来なくてよ。俺が代わりの仕事をやってんだ。もう死んじまうよ」

 そう言ったライラックさんが指した先にあるのは、机の上に積み上げられた書類の山。崩れないギリギリのバランスで積み上がっている書類は全部、冒険者ギルドのマスターであるルーファス先生宛のようです。

「ルーファス先生も光華国から帰って来ないのです?」
「おう。すぐ帰ってくるって言ってたのに、もう二週間も帰ってこない。その上、王都周辺にフェンリスヴォルフが出たとかいう騒ぎがあっただろ? あれのせいでダンジョンの確認依頼やら、お偉いさんの護衛依頼やらが急増して、冒険者ギルドは機能停止寸前だ」

 冒険者ギルドのトップを務めているルーファス・ラベントは、幼少期、私に魔法を教えてくれた先生であり、乙女ゲーム『君紡きみつむ』の中では攻略対象の一人だった人物です。ルーファス先生もレオン王も実力者のはずですが、そんな二人が帰って来られないなんて、光華国で何が起こっているのでしょう……?

「それでな、ユーナには光華国に行ってもらって、至急冒険者ギルドマスターギルマスを連れて帰ってきてほしいんだ。俺が直接行きたい所ではあるんだが、海を渡る手段がねぇ」
「私も光華国に用事があるので、その依頼は私にとってもちょうど良いのです」
「お、本当か? 助かる。すぐに国から、光華国に冒険者を送り込む許可をもぎ取ってくるから、なるべく早いうちに出発してほしい」
「分かりました。ノルディア様も騎士団を通じて光華国に行く手続きをしてくださっているので、両方の準備が終わり次第向かうのです」

 ライラックさんと今後の動きを話していると、ふいに背後から「光華国?」という声が聞こえてきました。振り返った先にいたのは……

竜胆りんどうさん!」
「悪いね、姫さん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、つい気になっちまってね」

 ノルディア様の師匠でもある竜胆さんは、ユーフォルビア王国ではあまり見ない、刀という珍しい武器を使う女性冒険者です。着ているものも、珍しい民族衣装……私も前世で着たことがある「着物」によく似たものを身に付けています。

「光華国って聞こえたけど、あんな辺鄙へんぴな島国に何の用事だい?」
「光華国に行った人が帰って来ないのです。色々と問題があるので、迎えに行こうかと思っていましたの」

 私の話を聞いた竜胆さんは「帰って来ない?」と険しい顔をしました。それから考え込むように口元に手を持っていき、「その話さ、アタシも混ぜてくれないか?」と言いました。

「竜胆さんも光華国に行きたいのです?」
「光華国はアタシの故郷なんだ。抜け道とかにも詳しいから役に立つよ」
「光華国が故郷なのです?」
「……まぁね」

 そう言う竜胆さんの言葉に少し驚きましたが、言われて見れば竜胆さんの着ている服は、この国のものとは少し雰囲気が違っています。珍しい日本の着物のような衣装も、海を挟んだ隣国、光華国の衣装だと言われれば納得です。

「良いのです?」
「ああ。たまには里帰りもしないとだろ? それに……身内の不始末は、身内が片付けないといけないからね」

 その時、竜胆さんが暗い顔をした気がしました。私と視線が合うと「任せてくれよ」といつも通りの明るさでウインクをしたので、もしかしたら見間違いだったのかもしれませんけれど……


   ◆ ◇ ◆


 青藍と竜胆さんが付いてきてくれることになって、冒険者ギルドの後ろ盾もゲットして、光華国へ行く準備が着々と進んでいます。
 そう思っていたのですが……ノルディア様の準備を待っている間に、一つ問題が発生してしまいました……

「ラーノの魔力が持たなイ。このままだと弱って消えちゃうヨ」

 不安げなヨルから伝えられたのは、ラーノさんの魔力がレオン王に会うまで持たないかもしれないというものでした。
 精霊は魔力を消費して生き続ける存在です。闇の精霊のヨルは私から闇の魔力を貰って生きています。それと同じで光の精霊のラーノさんも、普段は契約者のレオン王から魔力を貰っています。けれどレオン王と離れ離れになっている今、ラーノさんは魔力を消費する一方です。

「私の魔力をあげたいところですが、闇属性が強すぎて、光の精霊のラーノさんには逆に毒になってしまうのです」

 私の言葉に、ヨルもしょんぼりしながら「オイラなんて闇そのものだし……」と言いました。

「私も多分ダメですね。物心ついた時から闇魔法が得意だったので、多分ユナ様と同じく闇属性が強いと思います」

 青藍も闇魔法が得意なので、ラーノさんに魔力を分けることができません。

「アタシも力になりたいけど、多分ダメだろうな。昔っから風魔法以外は全然使えないんだよ」

 竜胆さんだけは「闇魔法も光魔法も苦手」とのことだったので、試しに魔力を分けてもらいましたが、ラーノさんが回復している感じはありませんでした。

「困ったのです……」
「そこらへんの冒険者に魔力を分けてもらうか?」
「うーん……冒険者ギルドの方々、今は全員忙しそうで頼みにくいのです……」

 光属性の魔力が強そうな人……光属性の魔力が強そうな人……うーん……
 悩む私に、竜胆さんが「そういえば」と何かを思い出したように手を叩きます。

「近くの孤児院で最近、無償で回復魔法をかけてくれる人がいるって噂があるな。その人に頼んでみるのはどうだい?」
「そんな優しい人がいるのです?」
「ああ。聖女のような人物だって、一部の間では人気になっているらしい」
「ダメ元で頼みに行ってみるのです」

 その人に頼んで断られてしまったら、冒険者ギルドで魔力を分けてくれる人がいないか探してみましょう。そう思って、竜胆さんに案内されながら向かった孤児院。そこで「聖女様」と呼ばれていた人物を見て、私はびっくりしました。

「聖女様、聖女様~! 転んじゃった! 回復魔法で傷治して~!」
「私は聖女様なんかじゃありませんよ。光魔法〈回復ヒール〉」
「ありがとう、聖女様!」

 孤児院で小さな子供の擦り傷を治してあげていたのは、ふわふわとした黄色の髪の女の子……私の友達のリリア・ジャスミンさんだったのです。

「リリアさん⁉」
「あれ、ユナさん。学校の外で会うなんて奇遇ですね」

 リリアさんは私のことを見て、ふわっと優しい表情で笑いました。リリアさんは本当に良い子なんですよね。話しているだけで癒やされます。

「本当に奇遇ですの。会えて嬉しいのです。……じゃなかったのです」

 リリアさんの癒やしオーラにほんわかしてしまって、ここに来た目的を忘れるところでした。

「聖女様にお願いがあって訪ねてきたら、リリアさんがいたのです」
「お願いですか? 聖女様ではありませんけど、私にできることなら、なんでも言ってください」

 そう言って微笑むリリアさんは、真の光属性といった感じがします。聖女と呼ばれるのも納得です。多分リリアさん本人は否定するでしょうけど。

「実は……」

 私はリリアさんに事情を説明しました。
 レオン王が光華国に行ったまま戻って来ないこと。レオン王の契約精霊のラーノさんだけが光華国から戻って来て、レオン王を助けてほしいと頼まれたこと。レオン王奪還計画を進めているが、ラーノさんが魔力不足で弱ってきていること。一刻も早く光属性の魔力を補充したいが、適性のある魔力を持つ人がいないこと。回復魔法が得意な聖女様がいると聞いて、魔力を分けてもらえないかと頼みに来たこと。
 全部聞いてくれたリリアさんは……

「そういうことなら、私に任せて下さい」

 ……そう言って、快く魔力をラーノさんに分けてくれました。

「やっぱり聖女様ですの……」
「違いますってば。もう、ユナさんまで変なことを言い出すんですから……」

 弱り切って消えかけの光の球のようになっていたラーノさんが、リリアさんの魔力で力を取り戻して、手のひらサイズの女の子に姿が変わっていきます。

「ラーノ、復活したのー! 美味しい魔力ありがとうなのー」
「ふふ、どういたしまして」

 リリアさんのおかげで、なんとか消滅を免れたラーノさんですが「これでー、二日は大丈夫なのー」となにやら恐ろしいことを言っています。ラーノさんって結構魔力消費が激しいですね。


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