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毒兵器が主様に、初めて出会った日

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私が主様と出会ったのは、まだ隣国との戦争も始まっていない時のことだった。

いつ起こってもおかしくない戦に備えて、秘密裏に開発されていた人間兵器。実験の繰り返しの末、体にあらゆる毒を詰め込まれた動く毒兵器。それが私だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…娘、名前は?」

「よんごう」

「ここから出たらしてみたい事はあるか?」

「でる?」



ある日、研究所の扉を壊して私の所にやって来た主様は、私の手足を縛る鎖を外しながらそう聞いた。

質問の意味が分からなくて首を傾げる私に、主様は再び聞いた。



「…こうなったらいいと望むことはあるのか?」



私は最初、主様のことを「へんな人だ」と思った。

だって、注射で毒を流し込むことも、色々な器具で体を切ったりすることも、私どくへいきの前でマスクもせずに立って、言葉を掛ける人なんて、今までずっと居なかったから。

けれどその声は、私が今まで聞いてきた言葉の何よりも優しく聞こえて。



こうなったらいい。

毒に塗れて、苦しくて、痛くて。

こうして生きていくために吐く息ですら、含んだ毒で誰かを傷つける私が、望むこと?



「きえたい」



小さくそう答えた私に、主様は痛みを堪えるような顔をした。

この人も痛いのかな、と思った。主様の体は大きくて、重そうな剣も軽々と担いでいたから凄いと思っていたけど、もしかしたら私と同じように、体のどこかが痛いのかもしれない。




主様は私の瞳をじっと見つめ、それから膝をついて…私の手を取った。毒に塗れて、主様の手とは全く違う色の不気味な私の手を躊躇いなく握って、主様は私を抱え上げた。

主様の腕の中から見える世界は地面が遠くて、少しだけ怖かった。



「お前の苦痛は痛いほど分かる。

消えてしまいたいという気持ちも。

けれど…。

けれど、誰にでも降り注ぐ日の光は暖かく。

頬を撫でる風は心地よく。

見上げる空は青く、こんな時ですら美しい。

幸せを見つける方法が分からないというなら俺が教えてやる。

消えたいなど言うな」



研究所から連れ出されて、主様に見せられた空は確かに綺麗だった。

その時から、毒兵器だった私は、幸せを教えてもらうために主様の側にいることになった。
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