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勇者の男を導く、正体は
しおりを挟む勇者、と。
コーダがそう呼ばれるようになったのは、ここ数年のことだった。
それ以前のコーダは、ただのコーダ。それ以上でも、それ以下でもない、ただの少年だった。
――コーダ、ねぇ、コーダ!
晴れた日には野を駆け、暑い日には川に飛び込んで。
そうして、時折摘んだ花を仲の良かった少女に渡してあげる様な。
そんな平凡で、どこにでもいる少年だった。
――どこに行くの? ケイトも一緒に行っても良い?
幼馴染の少女が、ある日突然、誰かに連れ去られるまでは。
「勇者様、間もなく魔王城へ続く道が現れるようです」
盾の聖女、ルナに声を掛けられたコーダは「うん、わかった」と頷いた。
目の前には、ぽっかりと開いた魔王城への道が、徐々に姿を現していた。
数年に一度、魔力が揺らいだ時にしか見えないという道は、古い本に記録が残っていたらしい。
偶然見つけられたその情報は、難しいと思われていた魔王討伐計画を大きく進めた。
「すごいですよね、こんな道。あるなんてずっと知りませんでした」
「……誰がこんなに重大な情報を見つけたんだろうね?」
「情報によると、図書館司書がたまたま見つけたと書いてあります。何か気になることでもありますか?」
「いや、すごいタイミングの良さだと思って。まるで、天が味方でもしてくれているような」
「そうですね、きっとコーダ様には神の寵愛があるのでしょう」
「いやぁ、それはどうかな。僕はきっと、神様から嫌われているから」
「コーダ様はご立派な方です。魔王討伐という使命にも誠意をもって立ち向かっていらっしゃいます。そんなコーダ様が、神に嫌われているなど……」
「うーん、そうなのかな? でも僕、一番欲しかったものはずっと前に奪われちゃったんだ。欲しくて欲しくて、それ以外は、なんにも要らないって思ってたのにね」
ルナはコーダの言葉に滲む寂しさのような、悲しさのようなものに首を傾げた。
ルナの知る限り、コーダが何かを無くして悲しんでいたり、仲間の誰かが亡くなったりしたことは無かった。
ならば、ルナとコーダが出会う前、勇者としてコーダが有名になる前のことだろうか?
そんなに前に失って、今でも悲しい顔をさせる程に大事なものとは、一体何なのだろう?
「コーダ様、あの……」
「道が繋がったみたいだね。行こうか」
尋ねようとしたルナは、しかしコーダの言葉で遮られてしまった。
コーダの言葉通り、確かに道は真っ直ぐに伸びている。
この機会を逃すと、数年は姿を消してしまう道が。
「もしも。もしもコーダ様が一等大切なものを失って、この場に立って下さっているのなら、それもまた神の導きでは無いかと思います」
「そうかもしれないね」
にこりと。コーダに穏やかな笑みを向けられて、ルナは少し安心した。
なんだかコーダが、少し遠くに行ってしまったように感じて、不安になってしまっていたから。
「……よし、行こうか」
コーダはゆっくりと立ち上がった。
傍らに置いてあった聖剣を手にして、魔王へと続く道へ向かって足を踏み出す。
その姿は、まさに勇者としか言いようが無いほどに堂々としていた。
「それなら神の導きに従って、魔王を倒してしまおう」
コーダによって数百年の眠りから解き放たれた聖剣は、キラキラと輝きを放って暗い道の先を照らしていた。
「何が神の導きよ! 魔王城への道も、聖剣の封印の解除方法も、寧ろそれ以外の全部も私の導きに決まってるでしょう! 数百年も封印されてた聖剣が急に復活するなんて、タイミングが良すぎるでしょう!?」
「別に、コーダに気付いて欲しい訳じゃないけど」と呟いたケイトは、王都の城の中から、勇者コーダの活躍を見つめていた。
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