12 / 13
だから、ごめん
2-4
しおりを挟む
遠く離れた王都の家の中、勇者の婚約者は涙を堪えて指輪を見つめていた。
魔王の元へ向かう勇者が、唯一持って言った大事な指輪。
勇者が困った様に婚約の破棄を口にしながら、けれど決して外さなかった婚約の印。
「お願い、ディオ。生きて帰ってきて」
そんな願い、婚約の破棄を言われた時から、叶わないものなのだと分かってしまっていたのだけれど。
それでも願わずにはいられなかった。
思い返すのは、旅立つ前の彼の顔。
困ったように、笑っていた。
痛みを堪えるように、泣き出す前のように。
『僕は勇者だから、君を幸せにできないんだ。ごめん』
■
獄炎が勇者を飲み込んだ。
刹那、勇者は自身の魔力を練り上げた。
魔王の魔力と混ざるように、正反対の性質の魔力を、無理矢理に。
「まさか勇者、最初からこれを…!?」
獄炎に焼かれながら勇者が行ったそれは、魔力の融合で、けれどもそんなものが成功する確率は少ない。
失敗すれば魔力相応の爆発と化し、そして魔王は膨大な魔力を獄炎に注ぎ込んでいた。
「一緒に死のう。これが唯一、僕があなたを殺せる方法だ」
勇者は燃えながら、魔王に言った。
勇者と魔王の魔力が眩しいほどの光を発しながら、爆発した。
視界も何も奪われた中、魔王の耳に勇者の声が聞こえた気がした。
「ごめんね、魔王と言うだけで殺してしまって」
爆発の中、聞こえるはずがないのに。
大地を揺るがすかのような爆発の後、砂埃が収まったそこは大きな大きなクレーターが出来ていて、大量の魔物も魔王も勇者も、誰一人も居なくなっていた。
■
「我らが勇者様が魔王を倒された!!!」
万歳、万歳と至る所で歓声が上がる。
ようやく平和が来たと、皆が騒いでいた。
その騒ぎの中、勇者の婚約者は一人屋敷に引きこもっていた。
空は青々と、まるで平和になった世界を祝福するかのように輝いている。
その色が、勇者の瞳と同じ色で。
「死なないでって、言ったじゃない」
耐えきれずに呟いた言葉は、震えてしまった。
じわりと風景が滲む。
「ディオの、馬鹿」
ぽとりと落ちた雫が、外すことなどできない指輪を濡らした。
魔王の元へ向かう勇者が、唯一持って言った大事な指輪。
勇者が困った様に婚約の破棄を口にしながら、けれど決して外さなかった婚約の印。
「お願い、ディオ。生きて帰ってきて」
そんな願い、婚約の破棄を言われた時から、叶わないものなのだと分かってしまっていたのだけれど。
それでも願わずにはいられなかった。
思い返すのは、旅立つ前の彼の顔。
困ったように、笑っていた。
痛みを堪えるように、泣き出す前のように。
『僕は勇者だから、君を幸せにできないんだ。ごめん』
■
獄炎が勇者を飲み込んだ。
刹那、勇者は自身の魔力を練り上げた。
魔王の魔力と混ざるように、正反対の性質の魔力を、無理矢理に。
「まさか勇者、最初からこれを…!?」
獄炎に焼かれながら勇者が行ったそれは、魔力の融合で、けれどもそんなものが成功する確率は少ない。
失敗すれば魔力相応の爆発と化し、そして魔王は膨大な魔力を獄炎に注ぎ込んでいた。
「一緒に死のう。これが唯一、僕があなたを殺せる方法だ」
勇者は燃えながら、魔王に言った。
勇者と魔王の魔力が眩しいほどの光を発しながら、爆発した。
視界も何も奪われた中、魔王の耳に勇者の声が聞こえた気がした。
「ごめんね、魔王と言うだけで殺してしまって」
爆発の中、聞こえるはずがないのに。
大地を揺るがすかのような爆発の後、砂埃が収まったそこは大きな大きなクレーターが出来ていて、大量の魔物も魔王も勇者も、誰一人も居なくなっていた。
■
「我らが勇者様が魔王を倒された!!!」
万歳、万歳と至る所で歓声が上がる。
ようやく平和が来たと、皆が騒いでいた。
その騒ぎの中、勇者の婚約者は一人屋敷に引きこもっていた。
空は青々と、まるで平和になった世界を祝福するかのように輝いている。
その色が、勇者の瞳と同じ色で。
「死なないでって、言ったじゃない」
耐えきれずに呟いた言葉は、震えてしまった。
じわりと風景が滲む。
「ディオの、馬鹿」
ぽとりと落ちた雫が、外すことなどできない指輪を濡らした。
544
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説

もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

[完結]愛していたのは過去の事
シマ
恋愛
「婚約破棄ですか?もう、一年前に済んでおります」
私には婚約者がいました。政略的な親が決めた婚約でしたが、彼の事を愛していました。
そう、あの時までは
腐った心根の女の話は聞かないと言われて人を突き飛ばしておいて今更、結婚式の話とは
貴方、馬鹿ですか?
流行りの婚約破棄に乗ってみた。
短いです。


【短編】婚約者に虐げられ続けた完璧令嬢は自身で白薔薇を赤く染めた
砂礫レキ
恋愛
オーレリア・ベルジュ公爵令嬢。
彼女は生まれた頃から王妃となることを決められていた。
その為血の滲むような努力をして完璧な淑女として振舞っている。
けれど婚約者であるアラン王子はそれを上辺だけの見せかけだと否定し続けた。
つまらない女、笑っていればいいと思っている。俺には全部分かっている。
会う度そんなことを言われ、何を言っても不機嫌になる王子にオーレリアの心は次第に不安定になっていく。
そんなある日、突然城の庭に呼びつけられたオーレリア。
戸惑う彼女に婚約者はいつもの台詞を言う。
「そうやって笑ってればいいと思って、俺は全部分かっているんだからな」
理不尽な言葉に傷つくオーレリアの目に咲き誇る白薔薇が飛び込んでくる。
今日がその日なのかもしれない。
そう庭に置かれたテーブルの上にあるものを発見して公爵令嬢は思う。
それは閃きに近いものだった。

3年も帰ってこなかったのに今更「愛してる」なんて言われても
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢ハンナには婚約者がいる。
その婚約者レーノルドは伯爵令息で、身分も家柄も釣り合っている。
ところがレーノルドは旅が趣味で、もう3年も会えていない。手紙すらない。
そんな男が急に帰ってきて「さあ結婚しよう」と言った。
ハンナは気付いた。
もう気持ちが冷めている。
結婚してもずっと待ちぼうけの妻でいろと?

【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。


恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる