もう、いいのです。

千 遊雲

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もう、いいのです

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「どんな事情があろうとも、王家との約束を反故にした貴様は咎人だ!」



「なら、後で何でも罪はお受けします!だから、それを返して下さい!!!」



「巫山戯るな!!!」



咎人の癖に、フィルを裏切っていた癖に、指輪にしか目を向けないクレアに、フィルはプツリと何かが切れてしまった。



「そんなにこれが大事か!ならこれを失うことを、貴様への罰としてやろう!!!」



怒りに突き動かされ、その勢いのまま窓から城の堀へと指輪を投げた。

クレアの瞳が大きく開かれる。

水の溜まった大きな堀の中に小さな指輪がぽちゃりと落ちたのと、クレアの瞳から涙がこぼれ落ちたのは同時だった。

クレアの瞳からこぼれ落ちた涙はたったの一滴だったけれど、その涙に全ての悲しみを込めたかの様だった。





『何故、泣いているの?我が愛し子』





その涙が、床に落ちもしないうちに、酷く美しい声が聞こえた。

ふわりと半透明な女が、どこからか現れた。

真っ白な髪に、金色の瞳をした、この世のものとは思えないほど、美しい姿の女だった。



『愛し子、何がそなたを苦しめた?』



女は項垂れるクレアの元に、宙を滑るように近寄り、その肩に透ける手を置く。

それでもクレアは答えない。

否、ショックで女の声が聞こえない様にも見えた。



『そこの、何が起きたのか教えなさい』



女はクレアが答えないと知ると、透き通る白い指でフィルを指差した。

変な女に答える道理などないとフィルは思った。

けれど。



「彼女との婚約を破棄し、婚約の印の指輪を取った。けどそれは王家の指輪ではなく、浮気をしていた罰として指輪をそこの堀に捨てた」



フィルの口は、思考とは別に勝手に動いた。

驚愕に目を見開くフィルなど微塵も気にせず、女はクレアを抱きしめる。



『可哀想な愛し子。そなたの悲しみは痛いほど伝わるわ。けれど私はそなたの声が聞きたい』



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