2 / 13
もう、いいのです
2
しおりを挟む
昔から、自分の婚約者が嫌いだった。
美しいけれど、生に執着していないようにただ死んでいないだけのように生き続ける、彼女のことが嫌いだった。
婚約をした当初は、彼女のことを俺が変えてみせると意気込んでいた。
けれど彼女のことを知れば知るほど、彼女がどうしてこうなってしまったのか、わからなかった。
人々からは愛され、美しさあり、頭も決して悪くない。
恵まれているはずの彼女が、何に絶望しているのか、フィルには分からなかった。
分からなくて、彼女の憂いはまるでわがままのようにしか映らなくなってしまって。
変わりにフィルの心を埋めたのは、クレアよりも爵位は下がるけれど、心優しい女の娘だった。
クレアに悪いとは思った。
けれどそれ以上に、人形のような彼女とこのまま婚約をしていたくない気持ちの方が大きかった。
「畏まりました。国王様にお伝えしておきます。追って、婚約破棄が了承されるはずです」
なのに、クレアは婚約破棄を伝えても、事務的に返事をするばかり。
話はそれだけかと背中を向けたクレアに、何故かカッと頭に血が登った。
俺への想いはそんなものだったのかと、そんなこと、フィルが言えたものではないのに。
怒りから額に皺を作ったフィルのことを、クレアは訝しげに見つめていた。
「婚約を破棄したんだ。指輪は返してもらうぞ」
本当は指輪なんてどうでも良かったけれど、彼女を貶めたくて、フィルはクレアの手を掴んで、その薬指に付けられていた銀の指輪を奪い取った。
クレアは何が起こったのかわからなかったのだろう。
一拍おいて、クレアは悲鳴を上げた。
美しいけれど、生に執着していないようにただ死んでいないだけのように生き続ける、彼女のことが嫌いだった。
婚約をした当初は、彼女のことを俺が変えてみせると意気込んでいた。
けれど彼女のことを知れば知るほど、彼女がどうしてこうなってしまったのか、わからなかった。
人々からは愛され、美しさあり、頭も決して悪くない。
恵まれているはずの彼女が、何に絶望しているのか、フィルには分からなかった。
分からなくて、彼女の憂いはまるでわがままのようにしか映らなくなってしまって。
変わりにフィルの心を埋めたのは、クレアよりも爵位は下がるけれど、心優しい女の娘だった。
クレアに悪いとは思った。
けれどそれ以上に、人形のような彼女とこのまま婚約をしていたくない気持ちの方が大きかった。
「畏まりました。国王様にお伝えしておきます。追って、婚約破棄が了承されるはずです」
なのに、クレアは婚約破棄を伝えても、事務的に返事をするばかり。
話はそれだけかと背中を向けたクレアに、何故かカッと頭に血が登った。
俺への想いはそんなものだったのかと、そんなこと、フィルが言えたものではないのに。
怒りから額に皺を作ったフィルのことを、クレアは訝しげに見つめていた。
「婚約を破棄したんだ。指輪は返してもらうぞ」
本当は指輪なんてどうでも良かったけれど、彼女を貶めたくて、フィルはクレアの手を掴んで、その薬指に付けられていた銀の指輪を奪い取った。
クレアは何が起こったのかわからなかったのだろう。
一拍おいて、クレアは悲鳴を上げた。
669
お気に入りに追加
660
あなたにおすすめの小説

もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。

【短編】婚約者に虐げられ続けた完璧令嬢は自身で白薔薇を赤く染めた
砂礫レキ
恋愛
オーレリア・ベルジュ公爵令嬢。
彼女は生まれた頃から王妃となることを決められていた。
その為血の滲むような努力をして完璧な淑女として振舞っている。
けれど婚約者であるアラン王子はそれを上辺だけの見せかけだと否定し続けた。
つまらない女、笑っていればいいと思っている。俺には全部分かっている。
会う度そんなことを言われ、何を言っても不機嫌になる王子にオーレリアの心は次第に不安定になっていく。
そんなある日、突然城の庭に呼びつけられたオーレリア。
戸惑う彼女に婚約者はいつもの台詞を言う。
「そうやって笑ってればいいと思って、俺は全部分かっているんだからな」
理不尽な言葉に傷つくオーレリアの目に咲き誇る白薔薇が飛び込んでくる。
今日がその日なのかもしれない。
そう庭に置かれたテーブルの上にあるものを発見して公爵令嬢は思う。
それは閃きに近いものだった。

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。

[完結]愛していたのは過去の事
シマ
恋愛
「婚約破棄ですか?もう、一年前に済んでおります」
私には婚約者がいました。政略的な親が決めた婚約でしたが、彼の事を愛していました。
そう、あの時までは
腐った心根の女の話は聞かないと言われて人を突き飛ばしておいて今更、結婚式の話とは
貴方、馬鹿ですか?
流行りの婚約破棄に乗ってみた。
短いです。

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?
歩芽川ゆい
恋愛
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」
コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。
プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。
思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。
声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。


【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる