もう、いいのです。

千 遊雲

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もう、いいのです

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昔から、自分の婚約者が嫌いだった。

美しいけれど、生に執着していないようにただ死んでいないだけのように生き続ける、彼女のことが嫌いだった。

婚約をした当初は、彼女のことを俺が変えてみせると意気込んでいた。

けれど彼女のことを知れば知るほど、彼女がどうしてこうなってしまったのか、わからなかった。



人々からは愛され、美しさあり、頭も決して悪くない。

恵まれているはずの彼女が、何に絶望しているのか、フィルには分からなかった。

分からなくて、彼女の憂いはまるでわがままのようにしか映らなくなってしまって。

変わりにフィルの心を埋めたのは、クレアよりも爵位は下がるけれど、心優しい女の娘だった。

クレアに悪いとは思った。

けれどそれ以上に、人形のような彼女とこのまま婚約をしていたくない気持ちの方が大きかった。



「畏まりました。国王様にお伝えしておきます。追って、婚約破棄が了承されるはずです」



なのに、クレアは婚約破棄を伝えても、事務的に返事をするばかり。

話はそれだけかと背中を向けたクレアに、何故かカッと頭に血が登った。

俺への想いはそんなものだったのかと、そんなこと、フィルが言えたものではないのに。

怒りから額に皺を作ったフィルのことを、クレアは訝しげに見つめていた。



「婚約を破棄したんだ。指輪は返してもらうぞ」



本当は指輪なんてどうでも良かったけれど、彼女を貶めたくて、フィルはクレアの手を掴んで、その薬指に付けられていた銀の指輪を奪い取った。

クレアは何が起こったのかわからなかったのだろう。

一拍おいて、クレアは悲鳴を上げた。

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