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第七章 カガニアへ
3 サンチェラー
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そんな風に二週間が過ぎ、ウィルエルは城に戻ると更に一週間静養した。そしていよいよ、カガニアに出発する日がやってきた。
船はアレムが見たことがないほど豪華で、ネイバリーに来る時に乗っていたものの三倍くらいはありそうだった。船の中とは思えないほど立派な部屋があり、アレムはとても興奮した。そして傍にはウィルエルがいる。頼りになるロイとオドリックも一緒だ。行きの船での憂鬱な思いを考えると天と地ほどの差があった。
アレムは出航後いつまでも甲板から海を眺めていた。ネイバリーの大陸がどんどん離れていく間に、陸地の上空に白い鳥が一羽見えた。
「あっ!」
アレムは思わず叫んでしまった。隣にいたウィルエルがアレムの視線を追った。
「ああ、あれはサンチェラーという鳥だよ」
「サンチェラー……。ネイバリーにくるときのうみと、ウィルエルさまがじこにあったときにみかけました。 とてもきれいなとりですね」
するとウィルエルは右手の腕輪を空に掲げた。白い石がキラキラと陽の光を反射する。サンチェラーの羽とそっくりだった。アレムはサンチェラーを見つめていたのだが、どうも段々と大きくなってきたような気がした。こちらに近づいているのだ。
「なんだか、こちらにきてませんか?」
ウィルエルはにこにこと笑っている。
「えっ? え……?」
戸惑うアレムを尻目にサンチェラーは更に近づいてきた。そしてついにアレム達の船の上までやって来た。
「うわあ……! すごい……、きれいですね……!」
サンチェラーが羽ばたく度、羽が水面のように煌めいた。
「もしかして……、ウィルエル様はサンチェラーをあやつれるのですか?」
アレムの質問にウィルエルはあははと笑った。
「サンチェラーはね、我が王家の鳥なんだ。普段は王宮で飼われているとても貴重な鳥だよ。吉事や緊急事態のときに出てくるんだ。彼らはこの腕輪の石を見つけることができる」
ウィルエルは腕輪の石をトントンと指差した。アレムは目を丸くした。
「それじゃあ、もしかして、もりで、すぐみんながみつけてくれたのは……」
「そう、サンチェラーが腕輪を見つけてくれたおかげさ。アレムが海で見たのは、サンチェラーを羽伸ばしのために放していたときだと思う。きっと彼らはアレムが婚約者になるって分かってて会いに行ったんだよ」
「ええ!? ほんとうかな……? でもすごい……!」
アレムは空を見上げて目を細めた。
「わたしのねがい、かないました」
「え?」
アレムはウィルエルを見て微笑んだ。
「ウィルエル様はおぼえてないとおもいます。はじめてあったひ、ほしいものをきかれて、『しろいおおきなとりを、またみたい』といいました」
するとウィルエルはこめかみに手を当てて何かを考え込んでいた。
「あのとき、通訳は『何もない』って言っていたぞ……?」
「ええ?」
アレムは驚いたが、すぐに通訳のジャドの性格を思い出して有り得そうなことだと思った。
「つうやくが、めんどうだったのでしょう」
「なるほど……、そうか……。向こうの通訳には要注意だな」
ウィルエルは独り言のように呟いた。
サンチェラーはしばらく旋回すると城の方へ戻って行った。
出航時は元気だったアレムだが、カガニアが近づくにつれ不安になってきた。ネイバリーの皆はカガニアでのアレムの扱いを見て失望するのではないか、カガニアの人達がウィルエル達に失礼なことをするのではないか、そして何よりもミシュアルに会いたくない。考えるときりがなく、アレムは暗い顔になってしまっていた。
「アレム」
甲板の手すりで一人溜息を付いていると、ウィルエルがやって来てアレムの口に何かを押し込んだ。驚いたがアレムはそれをもぐもぐと咀嚼して飲みこんだ。サクサクして口の中で溶けてとても甘い。
「これ、おぼえてる?」
ウィルエルがカガニア語で話してくれた。アレムが飲み込んだお菓子は、ネイバリーでウィルエルと初めて食事した時に出て来たものだ。
「はい、これ、とてもすきです」
するとウィルエルはにっこり笑ってもう一つアレムの口に放り込んでくれた。ロイとオドリックも後ろで微笑んでいる。ロイの持っている皿にはお菓子が大量に載せてある。この旅には料理人も一人付いてきてくれた。更に護衛達も三名ほど同行しているが、皆自分から志願してくれたそうだ。アレムは雲のように広がった憂鬱な気持ちがゆっくりと晴れていくのを感じた。
出航から二十五日後、遂に船はカガニアに到着した。
船はアレムが見たことがないほど豪華で、ネイバリーに来る時に乗っていたものの三倍くらいはありそうだった。船の中とは思えないほど立派な部屋があり、アレムはとても興奮した。そして傍にはウィルエルがいる。頼りになるロイとオドリックも一緒だ。行きの船での憂鬱な思いを考えると天と地ほどの差があった。
アレムは出航後いつまでも甲板から海を眺めていた。ネイバリーの大陸がどんどん離れていく間に、陸地の上空に白い鳥が一羽見えた。
「あっ!」
アレムは思わず叫んでしまった。隣にいたウィルエルがアレムの視線を追った。
「ああ、あれはサンチェラーという鳥だよ」
「サンチェラー……。ネイバリーにくるときのうみと、ウィルエルさまがじこにあったときにみかけました。 とてもきれいなとりですね」
するとウィルエルは右手の腕輪を空に掲げた。白い石がキラキラと陽の光を反射する。サンチェラーの羽とそっくりだった。アレムはサンチェラーを見つめていたのだが、どうも段々と大きくなってきたような気がした。こちらに近づいているのだ。
「なんだか、こちらにきてませんか?」
ウィルエルはにこにこと笑っている。
「えっ? え……?」
戸惑うアレムを尻目にサンチェラーは更に近づいてきた。そしてついにアレム達の船の上までやって来た。
「うわあ……! すごい……、きれいですね……!」
サンチェラーが羽ばたく度、羽が水面のように煌めいた。
「もしかして……、ウィルエル様はサンチェラーをあやつれるのですか?」
アレムの質問にウィルエルはあははと笑った。
「サンチェラーはね、我が王家の鳥なんだ。普段は王宮で飼われているとても貴重な鳥だよ。吉事や緊急事態のときに出てくるんだ。彼らはこの腕輪の石を見つけることができる」
ウィルエルは腕輪の石をトントンと指差した。アレムは目を丸くした。
「それじゃあ、もしかして、もりで、すぐみんながみつけてくれたのは……」
「そう、サンチェラーが腕輪を見つけてくれたおかげさ。アレムが海で見たのは、サンチェラーを羽伸ばしのために放していたときだと思う。きっと彼らはアレムが婚約者になるって分かってて会いに行ったんだよ」
「ええ!? ほんとうかな……? でもすごい……!」
アレムは空を見上げて目を細めた。
「わたしのねがい、かないました」
「え?」
アレムはウィルエルを見て微笑んだ。
「ウィルエル様はおぼえてないとおもいます。はじめてあったひ、ほしいものをきかれて、『しろいおおきなとりを、またみたい』といいました」
するとウィルエルはこめかみに手を当てて何かを考え込んでいた。
「あのとき、通訳は『何もない』って言っていたぞ……?」
「ええ?」
アレムは驚いたが、すぐに通訳のジャドの性格を思い出して有り得そうなことだと思った。
「つうやくが、めんどうだったのでしょう」
「なるほど……、そうか……。向こうの通訳には要注意だな」
ウィルエルは独り言のように呟いた。
サンチェラーはしばらく旋回すると城の方へ戻って行った。
出航時は元気だったアレムだが、カガニアが近づくにつれ不安になってきた。ネイバリーの皆はカガニアでのアレムの扱いを見て失望するのではないか、カガニアの人達がウィルエル達に失礼なことをするのではないか、そして何よりもミシュアルに会いたくない。考えるときりがなく、アレムは暗い顔になってしまっていた。
「アレム」
甲板の手すりで一人溜息を付いていると、ウィルエルがやって来てアレムの口に何かを押し込んだ。驚いたがアレムはそれをもぐもぐと咀嚼して飲みこんだ。サクサクして口の中で溶けてとても甘い。
「これ、おぼえてる?」
ウィルエルがカガニア語で話してくれた。アレムが飲み込んだお菓子は、ネイバリーでウィルエルと初めて食事した時に出て来たものだ。
「はい、これ、とてもすきです」
するとウィルエルはにっこり笑ってもう一つアレムの口に放り込んでくれた。ロイとオドリックも後ろで微笑んでいる。ロイの持っている皿にはお菓子が大量に載せてある。この旅には料理人も一人付いてきてくれた。更に護衛達も三名ほど同行しているが、皆自分から志願してくれたそうだ。アレムは雲のように広がった憂鬱な気持ちがゆっくりと晴れていくのを感じた。
出航から二十五日後、遂に船はカガニアに到着した。
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