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第六章 存在意義

4 ウィルエルとヒュート

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 ヒュートをネイバリーに呼び寄せたのはウィルエルだった。ヒュートは十歳から十六歳までの六年間、ネイバリーにある学校に通っていた。その間ネイバリー城に住み、同い年のウィルエルとはよく一緒に遊んでいた。当時から奔放だったウィルエルだが、ヒュートとはそういう関係にならなかった。なぜなら二人とも抱く側を好んだからだ。ヒュートの好みは一貫していた。小柄で華奢、長髪の美少年だ。しかしヒュートはウィルエルとは違い、誰かと交際しても徹底して隠すため、彼の好みを知るのは極一部の人間だけだった。ウィルエルとヒュートがいい仲だという噂はよく聞いたが、それはあくまで友人としてであり、本人達は噂を全く気に留めなかった。
 ヒュートはプランド教の聖職者達と繋がりが深い。暴動が起こるたび、ヒュートは過激派の信者達を諌めてくれた。アレムが巻き込まれた事件についてはヒュートに手紙で詳細を知らせてあった。プランド教の信者達はヒュートをウィルエルと結婚させたがっている。けれどヒュートもウィルエルも全くその気は無かった。ウィルエルはカガニアとの縁談を勧められていたし、アレムと出会いすっかり彼に心惹かれた。そのことをヒュートも祝福していた。ただ、婚約パーティーで見かけたアレムのことをヒュートも気に入っていた。容姿が彼の好みに一致しているのだ。ウィルエルもそれを分かっていたので、ヒュートにはあまり会わせたくなかった。最初の頃はそんな風に思わなかったのに、徐々にアレムに対する独占欲が出て来たことに自分でも驚いていた。このように意中の人を誰かに会わせたくないと思うのは初めてだった。しかしアレムの今後を思うとプランド教過激派をこのままにはしておけない。一刻も早くアレムを安心させるためにヒュートを呼ぶ決心をしたのだった。
 ヒュートがやって来た日、アレムはパーティーで倒れてしまった。その様子を見たウィルエルは気が気でなかったが、医師から命に別状は無く今は眠っているだけという報告を受け一安心した。アレムが倒れてしまった翌日、ウィルエルはヒュートからこれまでのプランド教の関与が疑われる事件について報告を受けていた。
 アレムの母の肖像画紛失事件の犯人は若い給仕の女だった。それ自体は事件から数日で突き止めたのだが、プランド教の信者であるという証拠がなかった。ヒュートは手土産としてその証拠を持って来てくれた。ヒュートは人脈を駆使して教会をしらみつぶしに調べ、彼女がプランド教信者であると突き止めた。更にラサ教会前の襲撃事件については、首謀者のプランド教過激派の重役を見つけ出した。疑わしい人物数名に当たりを付け、ウィルエル陣営と分担して数ヶ月張り込みをした結果だった。
 ヒュートの働きにより事件の背後にプランド教が潜んでいることが明らかになった。
「どうしたら過激派の嫌がらせが無くなるだろうか……」
 ヒュートの報告を受けた後、ウィルエルは頭を抱えた。
「世論を味方に付けるべきだね。国民みんなをアレム様の味方にするんだ。そしたら迂闊に手出しできない」
 ヒュートの提案にウィルエルは目を見張った。
「なるほど……」
「まぁそれには本人の協力が不可欠だけどね。しかしアレム様、可愛かったなあ」
 ウィルエルはじろりとヒュートに目をやった。
「あはは、嫉妬か!? そんな姿初めて見たよ。アレム様のことがますます気になるな」
「アレムは譲れないよ。絶対に」
 ウィルエルはきっぱりと言い切った。
「……冗談だって」
 ヒュートは両手を挙げて降参の姿勢を示した。その時、従者の一人が慌てた様子でやってきた。
「ドーイ地方でアレム様との結婚に反対するデモが実行されるそうです」
 ウィルエルは眉間に皺を寄せた。
「まずいな……、噂が広まればネイバリーでもデモが起こる可能性がある」
「そうなればアレムの耳に入ってしまうかもしれない……」
 ウィルエルとヒュートは神妙な面持ちで顔を見合わせた。
「デモはいつ?」
 ヒュートが従者に尋ねた。
「それが……明後日のようです」
 ヒュートは頭を抱えた。ウィルエルは顎に手を当て考えた。ドーイ地方までは馬を飛ばせば丸一日で着くことができる。悩んだ後、ウィルエルは口を開いた。
「現地に行って鎮圧してこよう」
「……私もそれがいいと思う。君が行くなら信者達も文句を言えまい」
「アレムの具合が心配だが……」
「そうだな。君を最短で帰そう。もう出発できるか?」
「ひとつだけ、用を済ませるのを待ってくれ」
 ウィルエルはアレムに手紙を書くとドーイ地方へ出発した。
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