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第五章 北国レインガルドへ
2 長い旅路
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ウィルエル、アレム、オドリックにロイ、そして数名の従者を連れた一行は馬車でレインガルドへ旅立った。マクレーニー博士は手紙の他にネイバリー語の詩やネイバリーの文化を紹介する観光資料のようなもの、北国レインガルドに関する資料などいくつか書類を送ってくれており(いずれもカガニア語の翻訳を付けてくれていた)、その中に今回の旅程も含まれていた。レインガルドへは馬車で二週間かかるそうだ。途中泊まる宿や道中のおすすめの名所、食事なども書かれており、何よりそれがカガニア語であるためアレムはとても安心した。その旅程を肌身離さず持ち歩き、暇さえあれば食い入るように読み込むアレムを周囲は笑顔で見ていた。しかし出発して数時間ほど経った頃、アレムはぐったりとうなだれていた。馬車に酔ってしまったのだ。アレムとウィルエルが乗る馬車は最も大きく安定しているが、かつて無いほどの長距離の走行と車内でずっと文字を読んでいたせいでアレムは気分が悪くなってしまっていた。そっと旅程の紙をしまうとアレムは俯いた。向かいに座るウィルエルが心配そうにアレムの顔を覗き込んだ。アレムは迷惑をかけまいと弱々しく微笑んだ。するとウィルエルは立ち上がりアレムの隣に座り直した。驚いて見ているとウィルエルはぐいっとアレムの顔を自分の肩に引き寄せた。そして椅子の端に畳んで置いてあった柔らかな毛糸の膝掛けをアレムの膝にかけてくれた。ウィルエルが背中を撫でてくれて、いつの間にかアレムは眠りに落ちていた。
途中何度か休憩を挟み、日暮前にその日の宿に到着した。その土地は城下から少し離れているがまだ建物が多く街並みはそこまで変化がない。三階建てのその宿は、人払いがされているのか他の客は見当たらなかった。一階のレストランで食事を済ませた後、三階の部屋へ通された。ウィルエルとアレムが宿泊する部屋はベッドと小さなデーブルのみで、城の部屋よりは随分こぢんまりとしていた。ベッドもいつもの半分くらいのサイズだが、おそらくこれが一般的なサイズだろうとアレムは思った。いつもと違う部屋でいつもより距離が近いためアレムはウィルエルをかなり意識してしまった。二人とも寝る準備を済ませ、アレムが先にベッドへ横たわった。
「アレム、薬」
ウィルエルが塗り薬の瓶を取り出した。アレムの傷はすっかり良くなり、見た目には全然分からないほど治った。けれどウィルエルは乾燥してはいけないからと薬を塗るのを辞めなかった。薬にしては随分いい香りのクリームを、ウィルエルは毎晩アレムに塗ってくれる。旅先なので薬は持ってこないかと思っていたが、いつも通り寝る前のケアがあるようだ。アレムはすっかり習慣になっているため大人しく上着を脱いで仰向けになった。
ウィルエルの両手の平がアレムのお腹の上を撫でる。クリームのおかげでなめらかに滑り、手は段々と上に上がって来た。指がアレムの胸の突起の上を撫でる度、アレムは身を捩るのを我慢した。徐々に突起が膨らむのが恥ずかしく、いつもアレムは腕で顔を隠す。ウィルエルはただ薬を塗ってくれているだけなのに、変な気持ちになっている自分を悟られたくなかった。ウィルエルの手は温かいのだが、それ以上にアレムの体は火照ってしまう。何度も突起の上を手が往復し、アレムは体が跳ねないよう堪えた。ようやくウィルエルに促されうつ伏せになるとほっと一息ついた。だがウィルエルは背中も撫で回すと今度は徐々に手が下に降りて来た。その手は夜着のズボンと下着を少し押し下げ、腰とお尻の境まで撫で上げる。押し付けられた前側が反応してしまわないよう、アレムは必死に気を逸らした。気持ちがいいけれど我慢が辛い。けれど毎日期待してしまう、そんな時間になっていた。
「おやすみ」
マッサージのような行為を終えると、ウィルエルもベッドに横になりアレムを包み込む。最近はいつもそうしているが、環境が違うせいでよりウィルエルの存在を感じる。アレムはウィルエルの胸元にすっぽり収まっており、息をするたびにウィルエルから薔薇のような良い香りがする。落ち着かずにそっと顔を上げると、ウィルエルと目が合ってしまった。慌てて視線を逸らそうとしたが、ウィルエルの顔が近付いてきた。アレムが「あっ」と小さな声を漏らすのと唇同士が触れ合うのがほぼ同時だった。温かく濡れた感触が口に触れた。驚いて固まっているとすぐに唇は離れていった。離れる際のチュッというリップ音がアレムの耳に響いた。数秒後意識を取り戻したアレムは即座に顔を伏せた。ウィルエルの胸元に頭頂部を押し付けて顔を見られないようにした。顔が燃えるように熱く、心臓が飛び出してきそうな程に脈打っていた。ウィルエルはアレムの頭を撫でるとつむじの辺りにキスを落とした。またキュッと身を固くしたアレムを溶かすように、ウィルエルは馬車に乗っていた時のように背中を優しく撫でてくれた。
――ここまでしてくれるのに、抱いてはくれないのか。
アレムはウィルエルとのスキンシップに心が跳ねるが、一線を超えないウィルエルの態度には落ち込んだ。自分はその相手には値しないのだという事実が胸を締め付ける。
そのうちにウィルエルの手の温もりに誘われ、アレムは眠りについた。
途中何度か休憩を挟み、日暮前にその日の宿に到着した。その土地は城下から少し離れているがまだ建物が多く街並みはそこまで変化がない。三階建てのその宿は、人払いがされているのか他の客は見当たらなかった。一階のレストランで食事を済ませた後、三階の部屋へ通された。ウィルエルとアレムが宿泊する部屋はベッドと小さなデーブルのみで、城の部屋よりは随分こぢんまりとしていた。ベッドもいつもの半分くらいのサイズだが、おそらくこれが一般的なサイズだろうとアレムは思った。いつもと違う部屋でいつもより距離が近いためアレムはウィルエルをかなり意識してしまった。二人とも寝る準備を済ませ、アレムが先にベッドへ横たわった。
「アレム、薬」
ウィルエルが塗り薬の瓶を取り出した。アレムの傷はすっかり良くなり、見た目には全然分からないほど治った。けれどウィルエルは乾燥してはいけないからと薬を塗るのを辞めなかった。薬にしては随分いい香りのクリームを、ウィルエルは毎晩アレムに塗ってくれる。旅先なので薬は持ってこないかと思っていたが、いつも通り寝る前のケアがあるようだ。アレムはすっかり習慣になっているため大人しく上着を脱いで仰向けになった。
ウィルエルの両手の平がアレムのお腹の上を撫でる。クリームのおかげでなめらかに滑り、手は段々と上に上がって来た。指がアレムの胸の突起の上を撫でる度、アレムは身を捩るのを我慢した。徐々に突起が膨らむのが恥ずかしく、いつもアレムは腕で顔を隠す。ウィルエルはただ薬を塗ってくれているだけなのに、変な気持ちになっている自分を悟られたくなかった。ウィルエルの手は温かいのだが、それ以上にアレムの体は火照ってしまう。何度も突起の上を手が往復し、アレムは体が跳ねないよう堪えた。ようやくウィルエルに促されうつ伏せになるとほっと一息ついた。だがウィルエルは背中も撫で回すと今度は徐々に手が下に降りて来た。その手は夜着のズボンと下着を少し押し下げ、腰とお尻の境まで撫で上げる。押し付けられた前側が反応してしまわないよう、アレムは必死に気を逸らした。気持ちがいいけれど我慢が辛い。けれど毎日期待してしまう、そんな時間になっていた。
「おやすみ」
マッサージのような行為を終えると、ウィルエルもベッドに横になりアレムを包み込む。最近はいつもそうしているが、環境が違うせいでよりウィルエルの存在を感じる。アレムはウィルエルの胸元にすっぽり収まっており、息をするたびにウィルエルから薔薇のような良い香りがする。落ち着かずにそっと顔を上げると、ウィルエルと目が合ってしまった。慌てて視線を逸らそうとしたが、ウィルエルの顔が近付いてきた。アレムが「あっ」と小さな声を漏らすのと唇同士が触れ合うのがほぼ同時だった。温かく濡れた感触が口に触れた。驚いて固まっているとすぐに唇は離れていった。離れる際のチュッというリップ音がアレムの耳に響いた。数秒後意識を取り戻したアレムは即座に顔を伏せた。ウィルエルの胸元に頭頂部を押し付けて顔を見られないようにした。顔が燃えるように熱く、心臓が飛び出してきそうな程に脈打っていた。ウィルエルはアレムの頭を撫でるとつむじの辺りにキスを落とした。またキュッと身を固くしたアレムを溶かすように、ウィルエルは馬車に乗っていた時のように背中を優しく撫でてくれた。
――ここまでしてくれるのに、抱いてはくれないのか。
アレムはウィルエルとのスキンシップに心が跳ねるが、一線を超えないウィルエルの態度には落ち込んだ。自分はその相手には値しないのだという事実が胸を締め付ける。
そのうちにウィルエルの手の温もりに誘われ、アレムは眠りについた。
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