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第四章 ウィルエルの本音

1 ウィルエルの本音

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 ウィルエル・トバリーは美しいものが好きである。そして自分自身がとても美しいということを自覚している。子どもの頃からちやほやされ、何もしなくても男女問わず寄ってきた。男も女も美しければ相手をしたが、それはウィルエルにとって街に出て気に入ったものを買うような感覚だった。気に入ったら付き合って、新しいお気に入りが出来たら乗り換える。そうなることが分かっているから必要以上に相手に深入りしない。そんな風に過ごしていたら家族や付き人がやたらと心配するようになっていた。避妊してるのかとか、いつか刺されるぞとか。それでもウィルエルは全く夜遊びをやめなかった。そして二十二歳を迎えてしばらくした頃、異母兄のマイコムが「話がある」と部屋へやって来た。部屋で二人きりになると、マイコムは真剣な顔で話し始めた。
「父上がお前の夜遊びを心配して、お前を男と結婚させようとしているぞ」
 彼は腕組みをしてウィルエルを睨み、そう言った。
 マイコムは次期国王として父である王の側近を勤めている。ウィルエルとはあまり似ておらず、精悍な男らしい顔つきだ。マイコムはウィルエルの行いに度々苦言を呈すが仲はいたって良好である。国王にはウィルエルについていつもフォローを入れてくれていたようだが、ついに庇いきれなくなったのだろう。父はいつも多忙でウィルエルはあまり会うことがない。父からの伝達事項はもっぱらマイコムから伝えられていた。
「男と? ああ……。僕が子種を振り撒いてるからってこと?」
 苦笑しながら答える。もちろん避妊はしているが、それはまた面白いことを考えたな、とウィルエルは顎に手を当てた。
「そうだ。男と結婚すれば絶対に子どもができない。そうなれば婚外子に王位継承権が無い我が国では、いくらお前が浮気して他所で子どもをこさえようと、子どもは王位継承者にはなれないってことだ。もしお前が女性と結婚して子どもが産まれたら婚外子達と抗争の火種になりかねない。王族の離婚は基本的に認められていないしな。お前との子が出来たという者が現れないうちにだな……」
「いいんじゃない?」
 ウィルエルは被せるように答え、ふっと鼻で笑った。
 マイコムは目を見開いた。
「お前、分かってるのか!? 子どもを持てなくなるんだぞ!」
「別にいいよ。僕自身は結婚願望は無いけど、王家で決められた誰かと結婚させられるんだろうなと覚悟していたし」
 微笑んでそう伝えるとマイコムは答えに窮したようだった。
「お前は……、本気で何かを欲しがった事がないな」
 一呼吸置いてそう言ったマイコムの声には、哀れみが混ざっていた。
「そうかな? 気にしたことないや。欲しいものはいつも与えてもらっているからね」
 これはウィルエルの本音だった。必死に得たいものなどない。欲しいものはいつも目の前にある。
「それに僕がどれだけ遊んでもいいように結婚という足枷を付けるんだろう? 遠慮なく遊ばせてもらうよ」
「お前なあ……」
 マイコムは十年ほど前に結婚して四人の幼い息子達がいる。マイコムは結婚してから、仕事以外の時間はほとんど家族と過ごしている。ウィルエルにはマイコムの生活は退屈に思えた。不倫している男も女も貴族には大勢いる。ウィルエルはその方が自然な姿だとさえ思っていた。マイコムにそんな話をすると延々と説教が始まるのは目に見えているので、口には出さない。
「……結婚相手に希望はあるか?」
「僕の希望を聞いてくれる余地があるの?」
「一応、聞くだけだ」
「美しければ、誰でも」
 にっこりと言い放ったウィルエルに、マイコムは呆れてため息をついた。
「いくつか候補がいるが、最有力候補の一人がカガニアの王子だ。詳細はオドリックに聞いておけ」
 カガニアという国について知っていることは少ない。離れた場所にある島国で交流はほとんどない。褐色の肌を持つ民族ということは知っていた。
「へぇ……。それは気になるな」
 見た事がない美しさを持つ人物と会えるかもしれない。ウィルエルはカガニアの王子に興味を示した。
 マイコムはウィルエルの肩をぽんと叩くと部屋から出て行った。
「パートナーを大切にな」
 去り際にそう言い捨てて行った。一人の相手に操を立てる気はないが、かと言って冷たくするつもりもない。ウィルエルは「分かってるよ」と答えたが、マイコムには聞こえていないようだった。
 その後、ウィルエルはオドリックからカガニアとの関係、王子であるアレムについて説明を受けたのだった。
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