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死の草編 -本編-

曲者な薬草収集者2名帰還する =ロビン視点=

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 私は今公爵家から借りた馬に跨り、王都を掛けている。
何故かって?
“うちの”人間が王都検問に引っかかって、大暴れしているって報告がきたからよ。

私、ロビン=バーニアンは元は男爵家の次男坊だったわ。
色々あって勘当されちゃって、今はジェーンお嬢様の代わりに世界中の新種・改種を見つけては、この国に送る仕事をしているわけだけど。
もちろん、この仕事をしているのは私だけじゃない。
他に6人在籍していて、そのうちの2名が大暴れしてるってのよ。困っちゃうわ~、私みたいに温厚で常識溢れる対応をして欲しいものだわ。

だけど、世界中を旅して辺境の地や奥地などに赴く私たちは、時には獣・盗賊等に命を脅かされることもある。
だから、知恵と腕っぷしが物をいう職だから、血の気が多いのが揃っているのよね~。

だからって、今検問所を破壊しないでほしい…。
今のジェーンお嬢様の頑張りを無駄にしたら、優しい笑顔で美しい私の上腕二頭筋が炸裂する可能性があるわよ!

おちゃめな思案を遮ったのは、可哀想な叫びだった。




ぎゃーーーーーーーーー!!!!





私が馬でたどり着いた検問所は、王都の南に位置する石造りの門。
戦争になれば、この高い石塀と門がこの王都を守ることになる。
今は、“死の草”から王都を守る為、ここが文字通り最後の砦となっている。
その威厳ある門から、人間の絶叫が聞こえる。

男性のものだ。

ってことは、明らかに報告を受けている人間のものではない。
この門を守る兵士と検問官の叫び声他ならない。

私は、一息ため息をついて、馬からヒラリと降りると、この子を門の馬屋につなぎに行く。





うわーーーーーーー!!!

ガターーーーンッ!
ガチャーーーーン!




私が馬の歩幅に合せてゆっくり繋いでいる間に、又男の野太い声が聞こえ、物騒な物音も聞こえてきた。

うん。私が門番ならこんな奴自分の命に代えても王都に入れるわけにいかないって、自分の命を掛けようとするかもね。

大丈夫よ、門番ちゃん・検問官ちゃん。私が助けてあげるからね。
そう思いながら、片肩をグルンと回して、下唇を舌で舐めた。
あらやだ。さっきルージュ塗ったばっかなのに!

石塀には何か所か木の扉がつけられており、その部屋で入都する人間の所持品や商品などを検問するのだけど、一番ぶっそうな音がする扉の前は、一般の人間が足を止め遠巻きに見守っている。
まぁ、あんな叫び声とか物音とか聞こえたら、近づきたくはないけど気になって足は止めるでしょうね。


私は、その人だかりをゆっくり掻き分けて、扉の前にたった。

そして、肺にいっぱい空気を入れて叫んだ。



「バネッサ!グローリア!ジェーンお嬢様が待ってるから、暴れんのおやめっ!!」



大声で叫ぶと、とたんに部屋の物音がなくなった。

理由としてあげられるのは2つ。

1、私の声が聞こえて、暴れ狂う2人が動きを止めた。
2、遂に抵抗していた門番・検問官が息絶えた。

私としては、2は避けたいんだけど。


私の美しい手で木の扉をゆっくり開ければ、気絶した兵士たちが床に転がり、最後の2名は可哀想に暴れ女2名に首や腕を抑え込まれ、意識を落とされる寸前の状態で止まっていた。



「………なにやってんのよ。あんた達。」


あきれ顔で、床に転がる兵士の腕を取って脈をとる。
うん。大丈夫生きてるわ。
脈を測って全身を軽く診て壁に移動させていく。

燃えるような赤髪を高い位置で一つに纏めたバネッサは、眉を跳ね上げ首を持っていた兵士を勢いよく放し、床に放り投げた。
あ、その兵士見事に気絶したわね。



「ロビン!何って、ちゃんと説明してんのに、“王都には入れません!”の一点張りでこっちの話しを聞かないこいつらが悪いでしょうよ!!」

「こら。あんたちが問題起こせば、ジェーンお嬢様にも影響があるかもしれないんだから、慎重になんなさいよ。」

「だーかーらーーーー!慎重に丁寧に説明したってば!」

「もう。……グローリアもいてどうしてこうなったわけ?」



私はもう一人の黒髪おさげの少女に目を向けた。
グローリアは、腕を取り床にねじ伏せていた兵士の背中から、はらりと退いて立った。
ここで、最後の検問官が意識を手放し、私たち3人。

そんなの関係ない顔で、グリーンの眼に眼鏡が似合うこの少女は、スカートを摘まんでお辞儀した。



「お久し振りです。ロビンさん。……私たちの持っているジェーンお嬢様の交通手形を偽物と認識して、私たちが採取した薬草を燃やそうとしたので、仕方なく。」



命懸けで取ってきた希少な薬草を燃やされそうになったからの暴挙だったか……。
それは………この門番と検問官が悪いわね……。
私は、この子達の主張に気持ちが揺らぐ。
今この部屋には、私たち3人しか意識がある者はいない。
その間にもう少し“外の様子”を聞いておく必要がある。



「で、お嬢様から話はいってると思うけど“死の草”の群生状況と、各国の対策、他の国への被害は?」

「群生は、やっぱり今問題になっているあの国の北部。砂漠の間の草原地帯のとこ。広がりは砂漠を囲うように生えてる。燃やしてしまおうとも思ったんだけど、その煙にどんな有害物質が含まれるか分かったもんじゃないから、敢えて手は付けてこなかった。念のため、地図で群生の位置と範囲を描いて来たよ。」

「本当は、サンプルを持ち帰ろうかとも思ったのですが、検問に引っかからないけもの道を進むにはあまりに今手持ちの薬草が多かったこともあり。後続に任せてきました。」



悔しそうに顔を歪めたバネッサと、残念そうに申し訳なさそうな顔をするグローリア。
私は2人の頭をポンポンと撫で、笑顔になった。



「懸命な判断よ。後続は?」

「ブレイブとバンパーニオ。」

「……あの凸凹コンビなのね……。」



後続の収集者の凸凹加減を思い出して、苦笑する。
でも、仕事は出来る人間たちだ。私は頭を切り替えて、2人が持っていた手形と薬草のリストを確認した。
手形にもリストにも、彼女たちを止めるようなものは含まれていない。

私は、伸びている検問官の一人を気付ツボを押して気付の薬を嗅がせる。
すると、検問官がおぼろ気な顔で意識を取り戻し始める。
私はニッコリと彼に笑い掛けた。



ギャーーーーーーー!!!



失礼じゃない?
顔は笑顔をキープしたまま青筋を浮かべて、検問官の頭を鷲掴んでみた。
そしてそのまま持ち上げてみる。
うーん、男子なのに軽いわね、ちゃんと食べなきゃだめじゃない。

等と、お母さんのような心情になりながら力は一切緩めない。



「この2人の保護者ですけど。何でこの子達の荷物を燃やそうとしたの?ジェーン=コレストお嬢様の手形は本物だったわ。どういうことか分かるように、速やかに話しなさい。」

「うっわー、ロビンさんすごーい。」

「力持ちです。」



顔と声だけは可愛い2人の女子の声援に、若干気分が治ってくる。
すると、検問官ちゃんは青い顔をして口を割った。



「め、命令されたのです!ある…貴族から……。」

「……ダレなの?それ。」

「い、言えません。」

「いくらもらったのか知らないけど、命は大切にした方がいいわよ。3数えて言わなかったらこのままグッて、指に力を入れるわね。3。」



乙女の柔腕が悲鳴をあげそーー、すぐにカウントダウンを開始すると検問官ちゃんはすぐに叫んでくれた。



「パーソン公爵です!」

「…パーソン公爵か…。」



確かジェーン様が婚姻を結んだディレス公爵家と犬猿の仲の家じゃなかったっけ?
そして、ジェーン様の離縁の原因になった女の家が子爵だったけど、パーソン公爵の血縁関係あったんじゃなかった?確か、従兄弟だか従姉妹だか…。

…はぁ、頭悪いわねぇ~。浅いわ浅い。スンって分かっちゃう悪事に手を染めるなんて、パーソン公爵も駄目な貴族なのね。
頭悪い子多いのねぇ~。

と、不敬な事を考えながら、彼の頭を離してあげた。
そして、倒れ込んだ彼にしゃがんで近寄り、必殺スマイルで近寄ってみた。


「今の証言、公爵様にしゃべってもらうから、私とランデブしましょっ。」


これでもかってほどの魅力溢れる私なのに、何故か彼は泡を吹いて意識を失った。



「もーーー、照れちゃって!」



こんな可愛い私に骨抜きにされた検問官ちゃんに、頬杖を着いてウインクすると。



「違うと思う。」



バネッサの呟きが、静かになった検問所一室に響いたのだった。



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