上 下
36 / 43

第35話 オロチ

しおりを挟む

 全身に漆黒のオーラを纏った栞は背中からそのオーラを変化させて作り出した黒き翼を羽ばたかせ物凄い速さでミズキとモニカの二人に詰め寄った。

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

 そしてそれぞれ右手にミズキ、左手にモニカの首根っこを鷲掴みにし吊るしあげた。
 その少女の見た目に反して有り得ない力強さだ。

「くそっ……」

 ミズキは両腕で首を絞めている栞の手をこじ開けようと抵抗したがまったくビクともしない。
 地面から離れている両脚で栞の腕を蹴ってみるも結果は同じだ。

「がはっ……!!」

 モニカが口元に泡を浮かべ喘いでいる、このままでは窒息か頸椎の骨折でどちらにしても命を落としてしまう。

(冷静になれ……今この場所にいる僕らの姿は所詮イメージの産物だ、実際に首を絞められている訳では無い……)

「はああああっ!!」

 声を張り上げながらミズキはイメージする、自分の今の姿を。
 するとミズキは最近よく単独行動時にとっているキューブ状のボディにケーブルの四つ足が生えている状態に姿を変えた。
 無論、その形態時には首など無いので栞の手からの脱出に成功する。

「なっ……!?」

 栞には何が起こったのか分からない。

『この過去に囚われた怨霊め!! モニカから離れろ!!』

 ミズキはケーブルの手足を長く伸ばし栞のうなじ、延髄辺りに差し込んだ。
 そして電撃を流し込み一気にスパークさせた。

「あああっ……!!」

 感電し倒れ込む栞、同時にモニカの首を掴んでいた手の力が緩む。
 その隙にモニカの身体にケーブルを絡め、引っ張りだす。

「ちょっと……私まで感電したじゃない……」

『ゴメン、非力な今の身体じゃあれが関の山だったんだ』

「抵抗するの? 罪の意識から潔く私に殺されるって気は無いって訳ね」

『無茶苦茶な言い草だな、確かに僕にだって君にしてしまった事への罪の意識はあったさ……だけどね、今の君にはこれっぽっちも詫びようなんて気持ちは起きないな!! 親友までその手に掛けようとした君にはな!!』

「うるさい!! うるさいうるさい!! うるさいーーー!!」

 正論を突きつけられ半狂乱になり頭を掻き毟る栞。
 もう既にまともな精神状態では無いのが見て取れる。

『へへへっ、早速やっている様だな』

 栞の足元に一匹の蛇がやって来た。

『バイパー、いやギル大尉だな?』

 もちろん普通の蛇はしゃべらない、これはミズキ同様バイパーがこのメモリー空間の中で具現化した姿なのだ。

『どっちでも好きに呼べばいいさ、どちらも間違いなく俺の名だ』

『異世界転生課で栞に取り付いたのはお前だな?』

『ビンゴ!! お前たちと戦った俺はあの後死んだのさ、今思い出しても忌々しい、あのケイオスとか言う青二才に撃墜されてな……だが俺はこの世に舞い戻った、この栞という女の転生に憑依する形でな!!』

『何だって!?』

「酷い、栞を自分の復讐の為に利用するなんて……」

 あまりの憤りに身体が震え声が掠れるモニカ。

『おっと心外だな、まるで俺が全て悪いような口ぶりだがさっきお前らも見た通り栞のお前への怨嗟は本物だ……こいつは望んで俺に力を貸してくれたのさ』

『それは……』

 ミズキはそれ以上反論できなかった。

「勝手な事を言わないで!! 栞のミズキへの恨みは確かに本物かも知れないけどそれをあんたがそそのかして栞をここまで連れて来た事は紛れもない事実……どう考えてもやっぱりあんたが悪い!!」

 バイパーを指さしモニカはそう言い放ってミズキの方を力強い眼差しで見つめ頷く。

「モニカ……」

 ミズキはメモリーに何か熱いものを感じずにはいられなかった。
 そんな時、うつ伏せに倒れていた栞はまるで糸にでも引っ張り上げられるように手足を使わずに立ち上がる。

『おい栞、遊んでないでそろそろここを出るぞ、決着は人型起動兵器で付けてやる』

 バイパーの蛇は栞の足から螺旋状に纏わりつきながら身体を登っていき、肩の辺りで彼女に語り掛けている。

『私に命令しないで……』

『何だと? いや聞き間違いだ、お前が今まで俺に逆らった事は無かったからな』

 一瞬戸惑ったバイパーだがすぐに平静を取り戻す。
 関係性としてはバイパーがマスターで栞がスレイブだからに他ならない。

『いい加減ウザいのよ!! 私がいつまでもあんたの言いなりで動くと思う!?』

『なっ!? お前!! 止めろ!!』

 栞はバイパーの首根っこをがっしりと握り締める。
 蛇はこうされると逃げることが出来ない。

『ここからは私がやりたいようにやらせてもらうわ!!』

『馬鹿!! 止めろ!! 止めろぉ!!』

 大口を開けバイパーを頭から丸のみにする栞。
 するんと尻尾までを飲み込み、舌なめずりをした栞の瞳孔は爬虫類などにみられる縦長のものに変わっていた。
 栞は逆にバイパーを取り込み支配してしまったのだ。

「うっぷっ……」

 口を押え吐き気を我慢するモニカ。

『もう人の心は残っていないのか……?』

 ミズキは残念で仕方がなかった。

『あああああああっ!!』

「ちょっと!! 今度は何!?」

『栞の身体が……変わっていく……?』

 ミズキの言う通り栞が怒号を発している間、彼女の皮膚は鱗の様に変化し、それが全身に広がっていく。
 怪奇図鑑にでも載っていそうな蛇女の出来上がりだ。
 しかし身体の変化はそれに留まらず、鱗は工業的な装甲へと変化し身体も徐々に大型化していった。

『まさか……彼女自身が人型機動兵器になろうとでも言うのか!?』

「そんな!?」

『このままここに居ては不味い!! モニカ、一旦フェードアウトするよ!!』

「えっ!?」

 ミズキはモニカの腕を掴みこの空間から脱出を図った。
 極彩色の電脳空間を通り抜け、気づけばレヴォリューダーのコックピットへ舞い戻っていたのだ。

『ふぅ……どうやら無事戻って来れたようだね……』

『おい!! 一体どこへいってやがった!? お前はいきなりフリーズするしモニカは気絶するしで心配したんだぞ!!』

 戻ってホッとしたのも束の間、ティエンレンから叱責を受けた。

『ああ悪い、所で僕らがいない間こっちはどうなっていたんだ?』

『どうもこうもねぇ、このデカ物はピクリとも動かなくなった……もしかしてお前らが何かしたのか?』

『そうか、じゃあ今の内にこっから離れよう、恐らく大変な事が起こる』

『どういうことだ!?』

 ティエンレンが問いただそうとしたその時、ウロボロスのボディの中心に縦に線が走り光が漏れ出した。

『何がはじまるの!?』

『いいから早く離れるんだ!!』

 ナナの質問を遮ってミズキはレヴォリューダーを操りウロボロスから距離を取った。
 ウロボロスのボディはその中心線から真っ二つに左右に分かれていく。
 光に満たされたその中には何やら人型のシルエットが浮かび上がっている。

『あいつの言う通りになってしまって癪だけど、この姿で決着を着けましょうか? ミズキ、モニカ』

 現れたのは蛇の頭部の口の中に更に人型の顔が嵌った頭部、鱗の様に何枚もの装甲が重なった女性のようなラインのボディ、更には臀部から延びた長くて太い尻尾……異形の人型機動兵器が姿を現した。

『何なのあれは……?』

 その姿にルミナも驚くより他なかった。

『私は【オロチ】……全てを飲み込み破壊する終末の大蛇……』

 頭部にある蛇の目が不気味に光る。

『くそっ!! やはり戦うしかないのか!?』

 なるべくなら栞と争いたくは無かったミズキであったが、こうなってしまった以上戦いは避けられないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎
ファンタジー
 奴隷になんかなりたくない! あたしは毎日お腹いっぱいご飯を食べて、そして素敵な男性と結婚したいんです!  この物語は、奴隷として売られそうになった孤児の少女が決死の逃亡の果てにその才能を覚醒させ、森で友となった魔物達と、そして逃げた先で親切にしてくれた人々と共に幸せを掴む物語である。 ※本作品は他サイトでも同時掲載しております ※更新は毎週1回土曜日 20 時を目安に行っております。 ※イラストはアルパ閣下先生にご担当いただいております (Twitter: @AlpakakkaX2 )

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ
ファンタジー
↑※お気に入り登録お願い致します! 前世で幼女を守って死んだ主人公、夢咲真白は、目覚めると不思議な空間にいた。そこで出会ったのは、なんと全ての神の長たる創造神ノエル。唐突な神様の出現に驚く真白だったが、何事かと身構える彼にノエルが放ったのはプロポーズの言葉だった。 なんやかんやでその告白を受け取った真白は、ノエルと共に異世界へと旅立つ。 全てはスローライフを送るために! ……………しかし、現実はそんなに甘くない!? 五人の奴隷少女との出会いによって運命の歯車は動き出し、やがて世界を飲み込む闇と成る! スローライフ願望を持つ最強主人公と奴隷少女、さらには神様や魔王までもが織りなすハーレムストーリー…………………みたいな感じです。 スローライフ願望と言いながらも、結構戦うんですよ、この主人公。 テンプレ過多で好きな人は好きだと思います ちなみに、ちょっとえっちぃシーンもあります( ˙-˙) 1話1話が短いので、隙間時間に気軽に読んでいただけるかと!!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん
ファンタジー
 人気乙女ゲー『月と共に煌めいて~キラキラ魔法学園、ラブ注入200%~』略称『とにキラ』の世界。  エステリア・ハーブスト公爵令嬢はゲーム内の最大ライバルである悪役令嬢でどのルートでも悲惨な運命を辿る。ある日、前世の記憶を持って転生した事を知ったエステリア(5歳)は悲惨な運命を回避する為に動き出す!

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

無能と追放されたおっさん、ハズレスキルゲームプレイヤーで世界最強になった上、王女様や聖女様にグイグイ迫られる。え?追放したの誰?知らんがな

島風
ファンタジー
万年Cランクのおっさんは機嫌が悪かったリーダーからついにパーティーを追放される。 金も食べ物も力もなく、またクビかと人生の落伍者であることを痛感したとき。 「ゲームが始まりました。先ずは初心者限定ガチャを引いてください」 おっさんは正体不明だったハズレ固有スキル【ゲームプレイヤー】に気づく。 それはこの世界の仕様を見ることができるチートスキルだった。 試しにウィキに従ってみると、伝説級の武器があっさりと手に入ってしまい――。 「今まで俺だけが知らなかったのか!」 装備やスキルの入手も、ガチャや課金で取り放題。 街の人や仲間たちは「おっさん、すげぇ!」と褒めるが、おっさんはみんなの『勘違い』に苦笑を隠せない。 何故かトラブルに巻き込まれて美少女の王女や聖女に好意を寄せられ、グイグイと迫られる。 一方おっさんを追放したパーティはおっさんの善行により勝手に落ちぶれていく。 おっさんの、ゆるーいほのぼのテンプレ成り上がりストーリー。

悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの… 乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。 乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い! 原作小説?1巻しか読んでない! 暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。 だったら我が道を行くしかないじゃない? 両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。 本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。 ※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました) ※残虐シーンは控えめの描写です ※カクヨム、小説家になろうでも公開中です

処理中です...