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第35話 オロチ
しおりを挟む全身に漆黒のオーラを纏った栞は背中からそのオーラを変化させて作り出した黒き翼を羽ばたかせ物凄い速さでミズキとモニカの二人に詰め寄った。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
そしてそれぞれ右手にミズキ、左手にモニカの首根っこを鷲掴みにし吊るしあげた。
その少女の見た目に反して有り得ない力強さだ。
「くそっ……」
ミズキは両腕で首を絞めている栞の手をこじ開けようと抵抗したがまったくビクともしない。
地面から離れている両脚で栞の腕を蹴ってみるも結果は同じだ。
「がはっ……!!」
モニカが口元に泡を浮かべ喘いでいる、このままでは窒息か頸椎の骨折でどちらにしても命を落としてしまう。
(冷静になれ……今この場所にいる僕らの姿は所詮イメージの産物だ、実際に首を絞められている訳では無い……)
「はああああっ!!」
声を張り上げながらミズキはイメージする、自分の今の姿を。
するとミズキは最近よく単独行動時にとっているキューブ状のボディにケーブルの四つ足が生えている状態に姿を変えた。
無論、その形態時には首など無いので栞の手からの脱出に成功する。
「なっ……!?」
栞には何が起こったのか分からない。
『この過去に囚われた怨霊め!! モニカから離れろ!!』
ミズキはケーブルの手足を長く伸ばし栞のうなじ、延髄辺りに差し込んだ。
そして電撃を流し込み一気にスパークさせた。
「あああっ……!!」
感電し倒れ込む栞、同時にモニカの首を掴んでいた手の力が緩む。
その隙にモニカの身体にケーブルを絡め、引っ張りだす。
「ちょっと……私まで感電したじゃない……」
『ゴメン、非力な今の身体じゃあれが関の山だったんだ』
「抵抗するの? 罪の意識から潔く私に殺されるって気は無いって訳ね」
『無茶苦茶な言い草だな、確かに僕にだって君にしてしまった事への罪の意識はあったさ……だけどね、今の君にはこれっぽっちも詫びようなんて気持ちは起きないな!! 親友までその手に掛けようとした君にはな!!』
「うるさい!! うるさいうるさい!! うるさいーーー!!」
正論を突きつけられ半狂乱になり頭を掻き毟る栞。
もう既にまともな精神状態では無いのが見て取れる。
『へへへっ、早速やっている様だな』
栞の足元に一匹の蛇がやって来た。
『バイパー、いやギル大尉だな?』
もちろん普通の蛇はしゃべらない、これはミズキ同様バイパーがこのメモリー空間の中で具現化した姿なのだ。
『どっちでも好きに呼べばいいさ、どちらも間違いなく俺の名だ』
『異世界転生課で栞に取り付いたのはお前だな?』
『ビンゴ!! お前たちと戦った俺はあの後死んだのさ、今思い出しても忌々しい、あのケイオスとか言う青二才に撃墜されてな……だが俺はこの世に舞い戻った、この栞という女の転生に憑依する形でな!!』
『何だって!?』
「酷い、栞を自分の復讐の為に利用するなんて……」
あまりの憤りに身体が震え声が掠れるモニカ。
『おっと心外だな、まるで俺が全て悪いような口ぶりだがさっきお前らも見た通り栞のお前への怨嗟は本物だ……こいつは望んで俺に力を貸してくれたのさ』
『それは……』
ミズキはそれ以上反論できなかった。
「勝手な事を言わないで!! 栞のミズキへの恨みは確かに本物かも知れないけどそれをあんたが唆して栞をここまで連れて来た事は紛れもない事実……どう考えてもやっぱりあんたが悪い!!」
バイパーを指さしモニカはそう言い放ってミズキの方を力強い眼差しで見つめ頷く。
「モニカ……」
ミズキはメモリーに何か熱いものを感じずにはいられなかった。
そんな時、うつ伏せに倒れていた栞はまるで糸にでも引っ張り上げられるように手足を使わずに立ち上がる。
『おい栞、遊んでないでそろそろここを出るぞ、決着は人型起動兵器で付けてやる』
バイパーの蛇は栞の足から螺旋状に纏わりつきながら身体を登っていき、肩の辺りで彼女に語り掛けている。
『私に命令しないで……』
『何だと? いや聞き間違いだ、お前が今まで俺に逆らった事は無かったからな』
一瞬戸惑ったバイパーだがすぐに平静を取り戻す。
関係性としてはバイパーがマスターで栞がスレイブだからに他ならない。
『いい加減ウザいのよ!! 私がいつまでもあんたの言いなりで動くと思う!?』
『なっ!? お前!! 止めろ!!』
栞はバイパーの首根っこをがっしりと握り締める。
蛇はこうされると逃げることが出来ない。
『ここからは私がやりたいようにやらせてもらうわ!!』
『馬鹿!! 止めろ!! 止めろぉ!!』
大口を開けバイパーを頭から丸のみにする栞。
するんと尻尾までを飲み込み、舌なめずりをした栞の瞳孔は爬虫類などにみられる縦長のものに変わっていた。
栞は逆にバイパーを取り込み支配してしまったのだ。
「うっぷっ……」
口を押え吐き気を我慢するモニカ。
『もう人の心は残っていないのか……?』
ミズキは残念で仕方がなかった。
『あああああああっ!!』
「ちょっと!! 今度は何!?」
『栞の身体が……変わっていく……?』
ミズキの言う通り栞が怒号を発している間、彼女の皮膚は鱗の様に変化し、それが全身に広がっていく。
怪奇図鑑にでも載っていそうな蛇女の出来上がりだ。
しかし身体の変化はそれに留まらず、鱗は工業的な装甲へと変化し身体も徐々に大型化していった。
『まさか……彼女自身が人型機動兵器になろうとでも言うのか!?』
「そんな!?」
『このままここに居ては不味い!! モニカ、一旦フェードアウトするよ!!』
「えっ!?」
ミズキはモニカの腕を掴みこの空間から脱出を図った。
極彩色の電脳空間を通り抜け、気づけばレヴォリューダーのコックピットへ舞い戻っていたのだ。
『ふぅ……どうやら無事戻って来れたようだね……』
『おい!! 一体どこへいってやがった!? お前はいきなりフリーズするしモニカは気絶するしで心配したんだぞ!!』
戻ってホッとしたのも束の間、ティエンレンから叱責を受けた。
『ああ悪い、所で僕らがいない間こっちはどうなっていたんだ?』
『どうもこうもねぇ、このデカ物はピクリとも動かなくなった……もしかしてお前らが何かしたのか?』
『そうか、じゃあ今の内にこっから離れよう、恐らく大変な事が起こる』
『どういうことだ!?』
ティエンレンが問いただそうとしたその時、ウロボロスのボディの中心に縦に線が走り光が漏れ出した。
『何がはじまるの!?』
『いいから早く離れるんだ!!』
ナナの質問を遮ってミズキはレヴォリューダーを操りウロボロスから距離を取った。
ウロボロスのボディはその中心線から真っ二つに左右に分かれていく。
光に満たされたその中には何やら人型のシルエットが浮かび上がっている。
『あいつの言う通りになってしまって癪だけど、この姿で決着を着けましょうか? ミズキ、モニカ』
現れたのは蛇の頭部の口の中に更に人型の顔が嵌った頭部、鱗の様に何枚もの装甲が重なった女性のようなラインのボディ、更には臀部から延びた長くて太い尻尾……異形の人型機動兵器が姿を現した。
『何なのあれは……?』
その姿にルミナも驚くより他なかった。
『私は【オロチ】……全てを飲み込み破壊する終末の大蛇……』
頭部にある蛇の目が不気味に光る。
『くそっ!! やはり戦うしかないのか!?』
なるべくなら栞と争いたくは無かったミズキであったが、こうなってしまった以上戦いは避けられないのだった。
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