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第28話 不死身の機動兵器
しおりを挟むグランツ達三機のレヴォリューダーはセインツの艦首側に待ち受ける敵人型機動兵器、バイパーを目視出来る所まで来ていた。
「なあ、あのマーキング、どこかで見覚えが無いか?」
グランツはバイパーの胸元の白いギザギザの模様に既視感を憶えた。
「……黒い機体にあの歯のような白いマーキング、僕も見覚えがあるよ……」
ソーンも同意する。
「あれよ!! 以前の戦闘でグランツが闇雲に突っ込んでいって大剣を挟まれた奴!!」
「ああ!! あいつか!! あの蛇野郎!!」
フェイに言われ唐突にグランツの記憶が甦った。
「でもおかしくない? あいつはモニカのアヴァンガードに倒されたはずでしょう?」
「……確かに」
「それじゃあ単に似た機体だって言うのか?」
『いいや、君らの推測は当たっているよ』
「何だ!? この声は!?」
三人の通信に割込んで来た者が居た。
ハイペリオン独自の通信チャンネルなので敵勢力が通信に参加する事など本来はあり得ない事だ。
『勝手にお邪魔するよ、俺はバイパー……どういった運命のいたずらか、君らはあのエデン3に居た守備隊のパイロット達だな?』
「だったらどうだっていうんだ?」
「馬鹿!!」
バイパーの質問にまともに答えたグランツをフェイが罵倒する。
『やっぱりそうかい、機体の装備と部隊編成からそんな気はしていたんだ
じゃあ高機動型の機体もいるはずだよな?』
「……敵に情報を漏らすと思う?」
ソーンはグランツと違いバイパーの誘導尋問には引っ掛からなかった。
『なるほどなるほど、まあいいや、もしまだここに来てないだけか既に死んでいるならそれはそれで君らに肩代わりをしてもらおうかな』
「何を言ってるの?」
『リベンジって奴さ、俺をこんな身体にしてくれた礼をしなくっちゃなぁ!!』
そう言うが早いかバイパーは急加速して襲い掛かってきた。
突き出された腕の先には拳は無く何かカバーのような物が取り付けられている、反対の腕も同様だ。
「おっと!! その機体、近接格闘仕様か!? なら俺が相手だ!!」
グランツは機体を回転させてブースターを点火したハンマーでバイパーに殴りかかった。
バイパーは腕をハンマーに合わせるようにこちらに向けている。
ハンマーを受け止めるつもりなのだろうか。
「へっ!! そんなの腕ごと圧し潰してやるよ!!」
インパクトの瞬間、バイパーの腕のカバーが上下に開いた。
そしてグランツのハンマーを挟み込んだではないか。
それはまるで蛇の口が顎を外して獲物に噛み付く様に似ていた。
「何!?」
一度ならず二度までもグランツは武器を挟み込まれてしまった。
そしてその挟み込んだ部分から何やら紫色の液体のような物が湧き出ている。
『グランツ!! 何か嫌な予感がする!! すぐに離れて!!』
「おっ、おう!!」
AIナナの指示に従い、ハンマーのグリップから手を放し離脱するグランツのレヴォリューダー。
直後、バイパーの手元に残ったハンマーは解けた飴細工の様にドロリと溶け原形を無くす。
『おや? 今の女の声はAIか? なるほど、これがデータにあった超AIって訳だ』
「貴様、どこでそんな情報を?」
『知りたいか? なら俺と勝負だ、お前らが勝ったら色々教えてやるぜ……ずっと退屈してたんだ、盛大にやろうぜ命懸けのパーティーを!!』
バイパーは身体の各所を分離し放射状に飛ばした。
脚部や胴体部も腕と同様に口が開き、各々が別の生き物のように自在に蠢きだしたのだ。
「……一体どうなって、一人でこんなに複数の部位をコントロールするなんて」
『人間業じゃないってか、ボウズ?……そうとも、俺は既に人間じゃないんだよ!! これを見ろ!!』
ソーンをはじめ他の機体にもある映像が送られてきた。
その映像は水槽のようなカプセルに納められた人の脳髄……それには【siori】と刻印された装置が接続されていたのだ。
「……そんな、まさか人間の脳を直接コンピューターに接続したっていうのかい?」
『ピンポーーーン、ご名答、お利口だなボウズ……これが俺だ、操縦はAIと化した俺が直接やってるんでね、人間の時より自由自在に機体を操れるぜ』
「うっ……おえっ……」
ソーンの手が震え、吐き気を催す。
彼もエンジニアの端くれ、コンピューターや機械が発展するのを見るのは好きだが、こういった邪道なやり方は彼に拒絶反応を起こさせた。
「何じゃと!? これはあ奴の研究構想にあったバイオコンピューターではないか!! あ奴め、とうとう人が手を出してはいけない領域に入りおった!!」
映像はセインツ艦内にも流れており、近くの小型モニターにダンテはかぶり付いた。
『siori……しおりだって!?』
ミズキも動揺を隠せない、しおりと言えば美咲栞……モニカとミズキが探している少女と同名の装置……偶然にしては出来過ぎている。
「ミズキ、どうかしたの?」
モニカがベッドから怪訝な表情でミズキを見ている。
『栞が見つかったかもしれない、確証はないけど……って今の君に言っても分からないんだったね、なら……』
ミズキは再びケーブルを伸ばしモニカの首の端子に接続した。
「モニカ、御覧の通りだ……もしかしたらだけど俺たちが探してる栞かも知れない」
いつものオープンカフェの席に着いているモニカの前にノートパソコンを開いて置き、件の映像を見せる。
「あんたと同じく物に転生したって訳か……十分あり得る話だわ」
モニカも画面を食い入るように見つめている。
「モニカ、どうする?」
「決まっているわ、直接会って話をする」
「君ならそう言うと思った」
決意の籠った眼で見つめ合うミズキとモニカ。
二人は頷き合う。
「僕が君の身体に接続された状態なら僕のサポートで君は身体を自由に動かせるはずだ、レント隊長の様にね」
「OK、出撃しましょう!!」
「よし!!」
ミズキは意識を現実に引き戻す。
『モニカ、君の望み通り出撃しよう』
「えっ? でもこの身体じゃ……」
『いいから、ベッドから起きてみなよ』
「……ミズキがそう言うなら」
恐る恐るモニカが上体を起こし身体を捻り足先をベッドの外へと降ろす。
「あれ? あたし身体が動く……動くわ!!」
そのまま床に立ち、ゆっくりと脚を交互に出し歩き回る。
モニカの目には涙が滲んでいた。
『このままだと動きづらいだろう、今、僕も形を変えるね』
ミズキはモニカの首に巻き付く形で固定した。
傍から見ればヘッドフォンを首に掛けているかのようだ。
「よし!! 早速出撃準備よ!!」
『おいおい、そんなに走ったら転ぶよ』
モニカは寝間着のまま部屋を出て、走ってパイロットスーツのあるロッカールームへと向かった。
「くそっ!! まるで本物の蛇じゃねぇか!! ウネウネと!!」
グランツは予備の武器、ミドルソードを抜きバイパーの分離体と対決するも、そのしなやかで素早い動き翻弄されていた。
「みんな退いて!! 一網打尽にするわ!!」
フェイのレヴォリューダーのミサイルコンテナが一斉にミサイルを発射する。
『へへっ、そんなもの効くかよ!!』
蛇状の部位がこぞって獲物を狙うかのようにミサイルに向かっていく。
そしてガブガブとミサイルにかぶり付き悉く粉砕していった。
「何よ、口先だけじゃない!! みんな破壊してやったわ!!」
目の前に漂う残骸を見ながらフェイは自慢げだ。
残ったのは一体の蛇型メカだけだ。
『そう思うかい?』
「えっ!?」
完全に破壊したはずのバイパーの声がスピーカーから流れてくる。
向こうの宙域から何かがこちらに向かって飛んでくる。
「……あれは?」
それは無数の蛇型メカであった。
それらは残った一体のメカに次々と接続すると、元のバイパーの姿へと戻っていった。
「馬鹿な!! 合体しただと!?」
グランツは声を張り上げた。
『見たか!! 各ユニットは共通の構造をしているからパーツさえあれば完全復元が可能なのだ!!』
「……運よくコックピット部分が生き残っていただけでしょう……その部位は覚えているよ」
ソーンがシールドのエネルギー発生装置から小型のシールドを形成し、弾の様に撃ち出す。
それは先ほどの合体前に残っていた唯一の機体がある場所、人型の頭部に当たる部分に見事にヒットした。
「やった!! やるじゃねぇかソーン!!」
グランツが歓声を上げる。
バイパーは頭部を完全に破壊されてしまった。
これで戦いが終わったかに見えたその時。
『無駄無駄、何度やっても同じよ』
再びバイパーの声がしてもう一機蛇型メカが現れ、一度分離したメカ同士が合体をしてまた元通りになってしまった。
「そんな……コックピットを破壊したはずなのに……」
ソーンは落胆する。
『へっへっへ、お前らにこの謎が解けるかな? 解けなきゃあの世がお待ちかねだ!!』
バイパーが身体の各所の装甲を開き、スネークトゥースを繰り出した。
それらは一斉に火を噴きレヴォリューダー隊を襲うのだった。
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