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第24話 出発(たびだち)の準備
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「おいおい、見くびるなよ!? 俺はこれでもリガイアの軍人であることに誇りを持っている、いくら実の娘であるお前の勧誘でも出来ない相談だな!!」
毅然とした態度と真剣な眼差しでエリザベスを一喝するヴァイデス。
「あらそう? じゃあ何でパパは折角捕虜にしたはずのモニカと鹵獲したAIのミズキを連れて友軍に追われていたのかしら?」
「………」
そんな事はお構いなしと言った風で痛い所を突くエリザベス。
「私が思うにパパはもうリガイア軍には戻れない……違う?
そうでなければこんな事にはなっていないでしょう?
どういった経緯でそうなったかは知らないけど、そんなリガイア軍に義理立てても意味は無いんじゃないかしら?」
「そんな単純な事ではない、気構えの問題だと言っている、そうそう簡単に手の平を返す事は出来ないんだよ」
(全く、普段は抜けているくせにこういった考察にだけは昔から長けているんだこの娘は……)
図星を突かれ内心穏やかではないヴァイデス。
「まあいいわ、時間はまだあるものゆっくり考えて頂戴、どうせどこにも行けないんだし……パパの事だから脱走なんてしないわよね?」
「………」
リガイアから半ば脱走してきた身で軽々しく返事は出来ない。
無言のヴァイデスを尻目にエリザベスは営巣を出て行こうとしたその時。
「……そうだ、お前の言う通り俺は不本意ながら軍を追われた身、しかしタリアが、お前の母さんが地上に居るんだ、寝返るなど無理な話……分かるだろう?」
ヴァイデスは妻であるタリアが軍に拘束され人質として扱われる、若しくは処刑されるのを恐れていた。
「ちょっと待って、あ、もしもし? 私だけど……」
「おい!! 俺が意を決して……!!」
ヴァイデスの言葉を遮りポケットから通信端末を取り出すとどこかと通信を始めるエリザベス。
ヴァイデスは憤るも彼女の視線はふざけている者のそれでは無かったので口を紡ぐ。
「……そう、その方向でお願いするわ、宜しくね……」
エリザベスは通信を終えた。
「私達に付かない理由がママの件だっていうなら今片付いたわ、リガイア軍に潜伏している私達の仲間が既にママ確保に動いてくれているの、これでどうかしら?」
「まさか、そんな事が? ハイペリオンとは一体……?」
驚きの余りそれ以上言葉が出てこないヴァイデス。
「これから我らがハイペリオンについて色々と教えてあげるわ、聞いたらパパきっと驚くわよ?」
いたずらな笑みを浮かべたエリザベスの特別授業が始まるのだった。
『さて、何をして時間を潰そうか……』
キューブ状の身体から出た四本のケーブルを脚代わりに猫の様にセインツの廊下を彷徨うミズキ。
モニカの手術は成功したが絶対安静につき面会謝絶になってしまい、ミズキは彼女の側についていることが出来ない。
そのせいで急に手持無沙汰になってしまったのだ。
ピロリロリン……ミズキの中から何やら音がする。
『あれ、ガロンのおやっさんから着信だ……もしもし?』
「おうミズキ、今時間あるか?」
『うん、丁度暇を持て余していた所』
「そうかいそりゃあいい、なあお前さん、今から格納庫に来れるかい?」
『格納庫? 一体どうしたんだい?』
「どうしたもこうしたもあるかい、お前さんの新機体、まだ拝んでないだろう? 調整は殆ど終わってるんだがお前さんとの同期がまだとれていないんだ、今の内にやっちまおうぜ」
『ああそうか、分かったよ、これから行くから』
「おう、待ってるぜ」
そう言って通話は切れた。
『確かに帰還した時はバタバタしてそれどころじゃなかったからな、いつ戦闘になるか分からないんだ、早めに調整をしておくに越した事は無い』
ミズキは足だったケーブルを車輪状に変形させてラジコンカーさながらに走っていく。
この方が長距離を移動するなら断然に速いのだ。
そして程なく格納庫へ到着した。
『おやっさん、来たよ』
「おう、思ったより早いじゃあねぇか、こっちへ上がって来な」
再び四つ足形態となり金属製の階段を上っていく。
「どうだい、これが最新型の人型機動兵器、レヴォリューダーだ
カタログスペック上ではアヴァンガードの二倍の出力がある」
『どれどれ』
ミズキはひょいと軽くジャンプしレヴォリューダーのコックピットの中へと飛び込む。
そしてAIボックスが収まるよう空いているスペースに自らの身体をはめ込んだ。
『接続開始……』
ミズキのボディの至る所を光の線が巡っていく。
それと同時に彼の中にレヴォリューダーの基本スペック及び操縦方法などの情報が湯水のように流れ込んでくる。
『なるほど、確かにアヴァンガードとは基本性能が段違いだね』
「そうだろうそうだろう、だがどうにも扱いが難しいらしくてなぁ……グランツ達は苦労していたぜ」
『分かる気がする、これレスポンスが良すぎるんだよ、なあおやっさん少し操作入力時間を遅くしてみたらどうだろうか』
「おいおい、それじゃあ折角の高性能が発揮できないんじゃないのか?」
『遅くすると言ってもほんの0.05秒ほどさ、今のままでは操縦桿を少し傾けただけでも超反応するよ、それが気になっておちおち操縦桿も握っていられないはずだ……実際にやってみせるよ』
そう言うが早いかミズキはアクセスしてレヴォリューダーの設定をいじり始めた。
『こんなもんかな、なあみんなもやってみてくれないか?』
他の機体のAI達にも呼び掛けてみる。
『確かに短期的に見ればその方がいいのかもな、分かった、俺も実践してみよう』
『なるほど、違和感の正体はそれだったのね、いいわ私もやる』
『へぇ、流石ミズキ、そう言う訳で私も便乗』
ティエンレン、ルミナ、ナナもミズキの提案に乗り機体設定を改定しだす。
「参ったな、これじゃあ俺らの仕事がなくなるぞ……」
ガロンは後頭部に手をやり顔をしかめる。
『まあまあ、機体の整備や修理はおやっさん方にしか出来ないんだから頼りにしてるよ……AIにはAIに、人間には人間にしか出来ない事がある』
「まあいいさ、機体自身が不調や違和感を言ってくれた方が効率はいいわな、こっちも動きやすい」
『そう言う事、共存共栄で行こうよ』
ミズキ達はしばらく格納庫で人型機動兵器談議に花を咲かせるのであった。
スペシオン軍高速宇宙巡洋艦、チェイサー艦橋。
「くっ、何が起こったのだ……あんな敗北は納得がいかない……」
静かに、しかし明確に怒りを露にするハイデル。
セインツのレヴォリューダー相手に終始優勢に運んでいた戦況が一転、僅かの時間で逆転され新型人型機動兵器三機と敏腕パイロット三名を失ってしまったのだ、無理もない。
「あまりご自分を責めないでください、あの様な戦略、普通では有り得ません」
「ではあの敗北はただ運が悪かった、で片付けるつもりかね? ケルン中尉……」
「いえ、決してそのようなつもりは……出過ぎた口を利きました」
決して怒鳴り付けられたわけではないがハイデルの余りの迫力に副官のケルンは委縮する。
(私とレント、どこが違うというのだ? 私はどこまで行っても奴にかなわないと言うのか……?)
ハイデルが悶々としている所にダビデ博士が入室してきた。
「ハイデルよ良い知らせがある、例の実験が成功したぞい」
「そうか!! で、実用性は!? いつ実戦投入できる!?」
「まあまあ落ち着きなされ、らしくないですぞハイデル」
「申し訳ない……」
ハイデルは情緒不安定になっていた自身を恥じた。
「例のアレは精神状態が実に不安定だったのじゃが、儂がかつてから研究していたオペレーションシステム【SIORI】に繋いでみた所一発で安定してのぅ……本人は早く戦闘させろとやる気十分じゃ、あの新型機に搭載すればそう遠くない内に使えるようになるじゃろう、なにせ人間と違い完熟訓練が必要ないのでな」
「そうですか、それを聞いて安心しました、流石ですねドクターダビデ」
「技術発展に綺麗も汚いも無い、結果を出した者が全てじゃからな、それを奴は分かっていない」
ダビデは一瞬憎しみの表情を露にした。
「はて? 奴とは?」
「いや、独り言じゃよ、気にせんでくれ」
ハイデルに対しては元の怪しげな老人に戻っていた。
「ハイデルよ、こちらの準備はこれで良いとして、もう一手打たないかね?」
「もう一手、とは何です?」
「増援じゃよ」
「増援? そう言いましても今から友軍に増援要請してもいつ到着するか分かったものではありませんぞ?」
「そうでしょうな、そこで儂に伝がありましてのぅ、その者たちに手を貸してもらえば宜しい」
「何を言っておられるダビデ殿!! 我々スペシオン正規軍がそんな得体のしれない者たちに助けを乞うなど言語道断!!」
ケルンが語気を強めダビデの案を否定する。
「若いというのに頭が固いのぅケルン殿は」
「何ですって!?」
「まあまあ、それであなたの言うその増援とやらは何者なんです?」
今にも一触即発の二人に割って入るハイデル。
「少なくとも得体のしれない者ではないですじゃ、素性は寧ろこれ以上なくはっきりとしている……あとはハイデル、あなたの決断だけですぞ」
ダビデは自身の通信端末を取り出しその相手の名前をハイデルにだけ見せた。
「なっ!? 馬鹿な!! これは断じて無理な話だ!! 彼らと手を組んだのが知れたら私は破滅だ!!」
「おや? あんたはレントとか言う者に勝てれば手段を選ばないのではなかったかな? 儂にあれだけの事をさせておいて自分の手は汚さない、あんたはそんないじましい人間だったのですかな?」
「ぐっ……」
ハイデルは反論の言葉が見つからない。
「まあ任せなされ、結果さえ出してしまえば後はどうとでもなりましょう、文句だけ言って来る有象無象など気にしない事です……常々歴史とはそういう事の積み重ねじゃからな」
そう言ってダビデは通信を開始した。
「済まなかったな、縁もゆかりもない者の葬式を出してくれて」
「いいのよ、私達に付いてくれたせめてものお礼」
戦艦セインツの艦橋内にエリザベスとヴァイデス、ミズキをはじめブリッジクルーがいた。
いま艦の前方から人一人が入るほどの大きさのカプセルが打ち出されるところだ。
カプセルの中には身体を清め、一杯の花に囲まれてケイオスが眠っている。
「逃走の際に俺たちの手助けをしてくれた部下だ、精悍で実直な好青年だった……俺が付き合わせたばかりにこんな事になってしまった」
ヴァイデスは目を瞑り宙を仰ぐ、目じりからは一筋の涙が流れ落ちる。
「宇宙に生まれし命よ、命尽きしいま宇宙に還れ、再び生まれるその時まで、さらば」
ゆっくりとカプセルが射出されると皆一斉に胸に手を当て哀悼の意を表す。
(銃弾が飛び交う中、僕を回収したのが彼だったと聞く……本当にありがとう)
ミズキも皆の真似をして箱型の身体にケーブルの腕を当てる。
そして思った、転生してから出来た仲間たちにもし死が訪れたらと。
AIになってからを振り返ると怒りを感じたことはあれど悲しみの感情を抱いた事がない事に気付く。
命も生身の身体も無い自分は一体どうなってしまうのか。
当然悲しみの涙は流せないがそれだけだろうか?
願わくばそんな事が起こらない様にとミズキは願うばかりであった。
「えっと、みんな集まっている事だし今後の予定を発表するわね、私たちは地上を目指します」
「ええっ!?」
エリザベスの発表に艦橋内がざめく、どうやらこの情報を知っている者は殆ど居なかった様だ。
「出発は宇宙標準時間にして明日、準備と覚悟だけはしておいて頂戴!!」
『ガイア……か』
転生後目覚めたのが宇宙にあるコロニーだったこともあり、ミズキにとっては初めての地上と言うことになる。
前世の地球とどう違うのか、否が応にも興味は尽きないのだった。
毅然とした態度と真剣な眼差しでエリザベスを一喝するヴァイデス。
「あらそう? じゃあ何でパパは折角捕虜にしたはずのモニカと鹵獲したAIのミズキを連れて友軍に追われていたのかしら?」
「………」
そんな事はお構いなしと言った風で痛い所を突くエリザベス。
「私が思うにパパはもうリガイア軍には戻れない……違う?
そうでなければこんな事にはなっていないでしょう?
どういった経緯でそうなったかは知らないけど、そんなリガイア軍に義理立てても意味は無いんじゃないかしら?」
「そんな単純な事ではない、気構えの問題だと言っている、そうそう簡単に手の平を返す事は出来ないんだよ」
(全く、普段は抜けているくせにこういった考察にだけは昔から長けているんだこの娘は……)
図星を突かれ内心穏やかではないヴァイデス。
「まあいいわ、時間はまだあるものゆっくり考えて頂戴、どうせどこにも行けないんだし……パパの事だから脱走なんてしないわよね?」
「………」
リガイアから半ば脱走してきた身で軽々しく返事は出来ない。
無言のヴァイデスを尻目にエリザベスは営巣を出て行こうとしたその時。
「……そうだ、お前の言う通り俺は不本意ながら軍を追われた身、しかしタリアが、お前の母さんが地上に居るんだ、寝返るなど無理な話……分かるだろう?」
ヴァイデスは妻であるタリアが軍に拘束され人質として扱われる、若しくは処刑されるのを恐れていた。
「ちょっと待って、あ、もしもし? 私だけど……」
「おい!! 俺が意を決して……!!」
ヴァイデスの言葉を遮りポケットから通信端末を取り出すとどこかと通信を始めるエリザベス。
ヴァイデスは憤るも彼女の視線はふざけている者のそれでは無かったので口を紡ぐ。
「……そう、その方向でお願いするわ、宜しくね……」
エリザベスは通信を終えた。
「私達に付かない理由がママの件だっていうなら今片付いたわ、リガイア軍に潜伏している私達の仲間が既にママ確保に動いてくれているの、これでどうかしら?」
「まさか、そんな事が? ハイペリオンとは一体……?」
驚きの余りそれ以上言葉が出てこないヴァイデス。
「これから我らがハイペリオンについて色々と教えてあげるわ、聞いたらパパきっと驚くわよ?」
いたずらな笑みを浮かべたエリザベスの特別授業が始まるのだった。
『さて、何をして時間を潰そうか……』
キューブ状の身体から出た四本のケーブルを脚代わりに猫の様にセインツの廊下を彷徨うミズキ。
モニカの手術は成功したが絶対安静につき面会謝絶になってしまい、ミズキは彼女の側についていることが出来ない。
そのせいで急に手持無沙汰になってしまったのだ。
ピロリロリン……ミズキの中から何やら音がする。
『あれ、ガロンのおやっさんから着信だ……もしもし?』
「おうミズキ、今時間あるか?」
『うん、丁度暇を持て余していた所』
「そうかいそりゃあいい、なあお前さん、今から格納庫に来れるかい?」
『格納庫? 一体どうしたんだい?』
「どうしたもこうしたもあるかい、お前さんの新機体、まだ拝んでないだろう? 調整は殆ど終わってるんだがお前さんとの同期がまだとれていないんだ、今の内にやっちまおうぜ」
『ああそうか、分かったよ、これから行くから』
「おう、待ってるぜ」
そう言って通話は切れた。
『確かに帰還した時はバタバタしてそれどころじゃなかったからな、いつ戦闘になるか分からないんだ、早めに調整をしておくに越した事は無い』
ミズキは足だったケーブルを車輪状に変形させてラジコンカーさながらに走っていく。
この方が長距離を移動するなら断然に速いのだ。
そして程なく格納庫へ到着した。
『おやっさん、来たよ』
「おう、思ったより早いじゃあねぇか、こっちへ上がって来な」
再び四つ足形態となり金属製の階段を上っていく。
「どうだい、これが最新型の人型機動兵器、レヴォリューダーだ
カタログスペック上ではアヴァンガードの二倍の出力がある」
『どれどれ』
ミズキはひょいと軽くジャンプしレヴォリューダーのコックピットの中へと飛び込む。
そしてAIボックスが収まるよう空いているスペースに自らの身体をはめ込んだ。
『接続開始……』
ミズキのボディの至る所を光の線が巡っていく。
それと同時に彼の中にレヴォリューダーの基本スペック及び操縦方法などの情報が湯水のように流れ込んでくる。
『なるほど、確かにアヴァンガードとは基本性能が段違いだね』
「そうだろうそうだろう、だがどうにも扱いが難しいらしくてなぁ……グランツ達は苦労していたぜ」
『分かる気がする、これレスポンスが良すぎるんだよ、なあおやっさん少し操作入力時間を遅くしてみたらどうだろうか』
「おいおい、それじゃあ折角の高性能が発揮できないんじゃないのか?」
『遅くすると言ってもほんの0.05秒ほどさ、今のままでは操縦桿を少し傾けただけでも超反応するよ、それが気になっておちおち操縦桿も握っていられないはずだ……実際にやってみせるよ』
そう言うが早いかミズキはアクセスしてレヴォリューダーの設定をいじり始めた。
『こんなもんかな、なあみんなもやってみてくれないか?』
他の機体のAI達にも呼び掛けてみる。
『確かに短期的に見ればその方がいいのかもな、分かった、俺も実践してみよう』
『なるほど、違和感の正体はそれだったのね、いいわ私もやる』
『へぇ、流石ミズキ、そう言う訳で私も便乗』
ティエンレン、ルミナ、ナナもミズキの提案に乗り機体設定を改定しだす。
「参ったな、これじゃあ俺らの仕事がなくなるぞ……」
ガロンは後頭部に手をやり顔をしかめる。
『まあまあ、機体の整備や修理はおやっさん方にしか出来ないんだから頼りにしてるよ……AIにはAIに、人間には人間にしか出来ない事がある』
「まあいいさ、機体自身が不調や違和感を言ってくれた方が効率はいいわな、こっちも動きやすい」
『そう言う事、共存共栄で行こうよ』
ミズキ達はしばらく格納庫で人型機動兵器談議に花を咲かせるのであった。
スペシオン軍高速宇宙巡洋艦、チェイサー艦橋。
「くっ、何が起こったのだ……あんな敗北は納得がいかない……」
静かに、しかし明確に怒りを露にするハイデル。
セインツのレヴォリューダー相手に終始優勢に運んでいた戦況が一転、僅かの時間で逆転され新型人型機動兵器三機と敏腕パイロット三名を失ってしまったのだ、無理もない。
「あまりご自分を責めないでください、あの様な戦略、普通では有り得ません」
「ではあの敗北はただ運が悪かった、で片付けるつもりかね? ケルン中尉……」
「いえ、決してそのようなつもりは……出過ぎた口を利きました」
決して怒鳴り付けられたわけではないがハイデルの余りの迫力に副官のケルンは委縮する。
(私とレント、どこが違うというのだ? 私はどこまで行っても奴にかなわないと言うのか……?)
ハイデルが悶々としている所にダビデ博士が入室してきた。
「ハイデルよ良い知らせがある、例の実験が成功したぞい」
「そうか!! で、実用性は!? いつ実戦投入できる!?」
「まあまあ落ち着きなされ、らしくないですぞハイデル」
「申し訳ない……」
ハイデルは情緒不安定になっていた自身を恥じた。
「例のアレは精神状態が実に不安定だったのじゃが、儂がかつてから研究していたオペレーションシステム【SIORI】に繋いでみた所一発で安定してのぅ……本人は早く戦闘させろとやる気十分じゃ、あの新型機に搭載すればそう遠くない内に使えるようになるじゃろう、なにせ人間と違い完熟訓練が必要ないのでな」
「そうですか、それを聞いて安心しました、流石ですねドクターダビデ」
「技術発展に綺麗も汚いも無い、結果を出した者が全てじゃからな、それを奴は分かっていない」
ダビデは一瞬憎しみの表情を露にした。
「はて? 奴とは?」
「いや、独り言じゃよ、気にせんでくれ」
ハイデルに対しては元の怪しげな老人に戻っていた。
「ハイデルよ、こちらの準備はこれで良いとして、もう一手打たないかね?」
「もう一手、とは何です?」
「増援じゃよ」
「増援? そう言いましても今から友軍に増援要請してもいつ到着するか分かったものではありませんぞ?」
「そうでしょうな、そこで儂に伝がありましてのぅ、その者たちに手を貸してもらえば宜しい」
「何を言っておられるダビデ殿!! 我々スペシオン正規軍がそんな得体のしれない者たちに助けを乞うなど言語道断!!」
ケルンが語気を強めダビデの案を否定する。
「若いというのに頭が固いのぅケルン殿は」
「何ですって!?」
「まあまあ、それであなたの言うその増援とやらは何者なんです?」
今にも一触即発の二人に割って入るハイデル。
「少なくとも得体のしれない者ではないですじゃ、素性は寧ろこれ以上なくはっきりとしている……あとはハイデル、あなたの決断だけですぞ」
ダビデは自身の通信端末を取り出しその相手の名前をハイデルにだけ見せた。
「なっ!? 馬鹿な!! これは断じて無理な話だ!! 彼らと手を組んだのが知れたら私は破滅だ!!」
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「ぐっ……」
ハイデルは反論の言葉が見つからない。
「まあ任せなされ、結果さえ出してしまえば後はどうとでもなりましょう、文句だけ言って来る有象無象など気にしない事です……常々歴史とはそういう事の積み重ねじゃからな」
そう言ってダビデは通信を開始した。
「済まなかったな、縁もゆかりもない者の葬式を出してくれて」
「いいのよ、私達に付いてくれたせめてものお礼」
戦艦セインツの艦橋内にエリザベスとヴァイデス、ミズキをはじめブリッジクルーがいた。
いま艦の前方から人一人が入るほどの大きさのカプセルが打ち出されるところだ。
カプセルの中には身体を清め、一杯の花に囲まれてケイオスが眠っている。
「逃走の際に俺たちの手助けをしてくれた部下だ、精悍で実直な好青年だった……俺が付き合わせたばかりにこんな事になってしまった」
ヴァイデスは目を瞑り宙を仰ぐ、目じりからは一筋の涙が流れ落ちる。
「宇宙に生まれし命よ、命尽きしいま宇宙に還れ、再び生まれるその時まで、さらば」
ゆっくりとカプセルが射出されると皆一斉に胸に手を当て哀悼の意を表す。
(銃弾が飛び交う中、僕を回収したのが彼だったと聞く……本当にありがとう)
ミズキも皆の真似をして箱型の身体にケーブルの腕を当てる。
そして思った、転生してから出来た仲間たちにもし死が訪れたらと。
AIになってからを振り返ると怒りを感じたことはあれど悲しみの感情を抱いた事がない事に気付く。
命も生身の身体も無い自分は一体どうなってしまうのか。
当然悲しみの涙は流せないがそれだけだろうか?
願わくばそんな事が起こらない様にとミズキは願うばかりであった。
「えっと、みんな集まっている事だし今後の予定を発表するわね、私たちは地上を目指します」
「ええっ!?」
エリザベスの発表に艦橋内がざめく、どうやらこの情報を知っている者は殆ど居なかった様だ。
「出発は宇宙標準時間にして明日、準備と覚悟だけはしておいて頂戴!!」
『ガイア……か』
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