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第21話 イン・トゥ・ザ・ヒューマンブレイン
しおりを挟む疾病者搬送用のストレッチャーに乗せられ、モニカは戦艦セインツ内の通路を医療クルーに押されながらながら進む。
「おいモニカ!! しっかりしろ!!」
並走するグランツの呼び掛けにモニカは反応することは無かった、依然気を失ったままだ。
「どうして……どうしてモニカがこんな目に……?」
フェイは目に涙を貯めながら涙声でつぶやく。
「………」
ソーンも少なからずショックを受けており、思うように言葉が出てこない。
モニカを乗せたストレッチャーは医務室前に到着し、心配そうに見守る仲間を残し室内へと消えていった。
グランツ達三人は暫くそこから動く事が出来なかった。
一方、セインツの格納庫。
「抵抗する気は無い……」
グリズリーのコックピットへセインツクルーたちが銃口を向ける中、そこに座るヴァイデスは両腕を高らかに上げ抵抗の意思がない事を示す。
「初めまして、私はハイペリオン所属、エージェントのレントールと申します……あなたはどちら様ですか?」
「俺はリガイア軍特務大佐のヴァイデスだ……しかしこの船はスペシオンのものでは無いのだな、ハイペリオン……聞いた事がない組織だ」
「ええそうでしょうとも、何せ我々は今まで表立って行動を起こしたことは無かったのですから……でもあなたに教える情報はここまでです、とりあえずは営巣に入って頂きましょうか」
「ああ、覚悟の上だ」
ヴァイデスはグリズリーのシートから立ち上がると頭の後ろに手を組まされ背中に銃を突き付けられこの場を後にした。
「これまた何とも不思議な機体だなぁ……何なんだこの金属とも陶器とも言えない装甲は……」
残された人型機動兵器グリズリーだったものを見てガロンは首を捻った。
それもそのはず、この機体は先ほどの戦闘で無機物である既存の兵器では有り得ない機体の変形を起こしたのだから。
その変形時に装甲が変質してしまい現在の様な未知の素材へと変貌してしまっていたのだ。
『レント隊長、あの人物はそんなに悪い奴じゃないんです、あまり酷い事はしないでやってもらえますか?』
ミズキは小包大のキューブ型AIボックスの身体から四本のチューブを出してそれを足とし、まるで昆虫の様にコックピットから這い出て来た。
「それはもちろん、彼からは聞きたいことが山ほどありますからね」
レントールはミズキを拾い上げ胸元に抱える。
『心配なのはモニカです……隊長、僕をモニカの所へ連れて行ってもらえませんか?』
「君が行ってどうなるものでもないでしょう? ここはダンテ博士に任せておけばよいのですよ」
『確かにそうかもしれない、でも元はと言えばモニカがこんな目に遭ってしまった原因は僕にあります、彼女の側に居たいんです、どうか、どうかお願いします……』
「ミズキ君……いいでしょう、連れて行ってあげます」
『ありがとうございます!!』
ミズキの声のトーンから切実なものを感じ取ったレントールはミズキを抱えたまま医務室へと向かった。
「おや、みなさんここに居たんですか」
レントールとミズキが医務室に差し掛かると通路に置かれた長椅子にグランツ達三人が腰掛け不安な表情を浮かべていた。
「隊長……モニカはどうなっちまうんだよ……」
あの普段粗暴なグランツからは想像もできない程の悲壮感漂う顔で立ち上がり詰め寄って来る。
フェイに至っては声を上げずに啜り泣き、ソーンは床の一点を見つめたまま放心状態だ。
「それを今から確認して来ますので皆さんはここで待っていてください」
力なく立ち尽くすグランツを軽く押し退けレントールは医務室の中へと入っていった。
「こりゃ!! 何を勝手に入って来ておるんじゃ!!」
医務室への侵入者に対し、ダンテが声を張り上げる。
「……って、何じゃレント、お前さんか……」
「失礼しますよダンテ、どうしてもこの子がモニカの側に居たいというので連れてきましたがお邪魔でしょうか?」
「ほう、こいつが噂の超AIと言うヤツか?」
ダンテは牛乳瓶底の眼鏡に手をやり、ミズキを食い入るように覗き込む。
『お願いします!! 何の役にも立てないかもしれないけどモニカの側に居させてください!! お願いします!!』
「いや、実に良い所に来てくれたぞAI君」
『ミズキです……えっと、それはどういう意味でしょうか?』
「ではミズキ君、これを見てくれんかの」
ダンテは医療設備に付いているモニターにある物を表示した、それはモニカの頭を縦の中心から断面したレントゲン写真であった。
『僕には医療の知識が無いのでこれを見せられても……』
「よいよい、素人でも一目瞭然じゃからな」
そう言ってダンテが指示棒で指し示したモニカの脳の画像は確かに素人にも異常だと解るものであった。
頭蓋骨と脳の間が不自然に空いているのだ。
『まさかこれって……脳が縮んでいるのですか?』
「ご名答、儂が診たところこれは何かの薬品の副作用の様じゃな」
『はい、ヴァイデス大佐が言うにはリガイア軍ですら認可していない強力な自白剤と言ってました』
「何と、そうであったか……しかしこの結果ありきで人命を顧みない成分を薬品に盛り込むとは嫌な奴を思い出すのぅ」
ダンテは白くて長い顎髭をいじりながら眉間に皺を寄せた。
『はい?』
「いや、こちらの話しじゃよ、しかしこうなってしまってはもはや打つ手がない」
『何ですって!? それじゃあモニカは!? モニカは助からないんですか!?』
「良くて植物状態、最悪は数日の内に命を落とすじゃろう……」
『そんな……僕のせいだ……僕が無理をしてフリーズしてしまったばかりにモニカを一人にしてしまった……』
前世で身体があった時の背筋が冷たくなるような感覚を覚え取り乱すミズキ。
それはすぐに自身への怒りと憤りへと変換された。
無理もない、AIに転生してからこっち、モニカはずっと一緒にパートナーを組んで戦ってきた掛け替えのない相棒なのだ。
それを戦闘中にミズキが暴走した事によって機能停止に陥っている間に敵の捕虜になりこんな結果を招いてしまった事に深い後悔と慚愧の念があるのだから。
泣きたいという悲しみの感情が湧くがAIの身ではそれも叶わない。
「皆さん、見てください……モニカが……」
レントールの言葉にミズキとダンテは同時にモニカに視線を移す。
何とモニカが僅かに目を開けたのだ。
「何と……信じられん……」
ダンテも驚いている。
モニカは薄っすら開いた瞼の間から視線だけをミズキの方へ向け、口を動かして何かを訴えかけていた。
『モニカ!! 何だい!? 何か言いたいのかい!?』
ミズキは立方体の身体をモニカの枕元まで移動させ聞き耳をを立てた。
この際AIに耳があるかどうかは些細な事だ。
「……この感覚……私はまた死ぬのね……嫌になっちゃう……」
それだけを言い残し、モニカは再び気を失った。
『また!? モニカ、何を言って……あっ……』
かすれそうな声でモニカが言った言葉にミズキは電撃に撃たれたような感覚に陥る。
傍でダンテ達が意識が混濁しているのだろう敵な事をいっているがミズキにはそれは違うと断言できる。
モニカは……そう、もしかしたら……。
ミズキはここである決心をする。
『ダンテ博士、僕とモニカの脳を直接つなぐ方法は無いだろうか?』
「何じゃと!?」
『直接モニカと繋がって僕が呼び掛ければもしかしたら彼女は目覚めるかもしれない……博士!!』
動揺するダンテにミズキは語気を強める。
「ありますよねぇダンテ、ミズキ君に話してあげてはどうです?」
「レントール……」
『えっ? 何故隊長が?』
ミズキの疑問に対しレントールは無言で後ろを向き、自信の後頭部の髪を手で持ち上げうなじを晒す。
延髄の辺りから数本のケーブルが生えていて背中の方へと繋がっている様だ。
彼が上着を脱ぐとケーブルは二本の束に別れ背骨に沿うように走り身体に中に埋め込まれている。
『あの……それは?』
「これは人間の脳や神経とAIを繋ぎ身体の機能を補う施術の跡です……私はこれが無いと生きていけない身体なんですよ、ねえダンテ」
「……もう十年前になるのかのぅ、戦闘で神経に損傷を追ったレントールは首から下の身体を動かせない程の身体的ダメージを負ってしまってな、儂が当時研究中であったこの技術を用いて彼を元の身体に限りなく近い状態まで回復させたのじゃよ」
『そうだったのですか』
「副産物として人型機動兵器を操縦する時などは直接サポートAIとリンクできるので重宝していましたよ」
『なるほど、それで隊長の機体だけはAIが進化しなかったのですね、既にあなたがAIと同化していたから……』
「そうだね、でも逆にそれが私の限界でもあったんだよ……そこで後は君たち若者に人類の進化を託そうと思ったって訳さ」
ミズキはレントールが人類の進化に固執する理由が何となく分かった気がした。
「つまりだ、この技術の応用で君とモニカを繋ぐことは可能と思うんだけどどうかなダンテ」
「ウム、このまま患者を見捨てたとあっては医者の端くれである儂の恥じゃ、あい分かった、ミズキ、お前さんとこの少女を繋いでやろう」
『はい!! お願いします!!』
こうしてダンテの手術が始まった。
四時間後……モニカの首筋からは無数のケーブルが伸び、ミズキのAIボックスと繋がっている。
「最初に言っておくがこの施術をしたからと言って彼女の脳や身体が元の状態に戻るかどうかは保証出来ない……レントールの時は奇跡に等しかったのじゃ、過度な期待は持たんでくれ」
『分かりました、ここまでしてもらって感謝しています……ここからは僕が結果を引き寄せます!!』
「よく言った!! では早速モニカ君の脳へとアクセスするのじゃ!!」
『はい!!』
ミズキのAIがフル稼働しモニカの脳へとデータのアクセスが開始された。
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