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第19話 この世界の最終回

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 「誰だ!?」

 俺たちの背後から掛けられた叱咤の叫び、その発信者を特定するために振り返る。

「えっ……?」

 そこには意外な人物が立っていた。
 ドクター真黒以蔵の爺さんが腰に両腕を当てに仁王立ちしていたのだ。
 しかも右側にヒカリブルーとピンク、左側にヒカリイエローとグリーンを従えて。
 その上ヒカリオン達は皆、ヘルメットを脱ぎ顔を出しているのだ。

「事情は聞いた!! 諦めるのはまだ早いぞひろみ!!」

 ヒカリブルーの青葉さんが拳を握り締め熱く語る。

「そうだ!! 俺たちはヒーローだ!! 力を合わせれば不可能は無い!!」

 ヒカリイエローの岩城さんがガッツポーズをとる。

「私、一度スーツを着てアクションしてみたかったんです!!」

「拙者も同様!! これは末代までの語り草となりましょうぞ!!」

 ヒカリピンク、グリーンの麻実ちゃん葵ちゃんが両手の平を合わせ片足を曲げる。

「良かった、みんな……記憶を取り戻したんだね……」

 思いがけない奇跡に俺の目から涙が溢れ出た……今までずっと自分だけが正気で皆は役になり切っていて俺一人が孤独に苛まれていたからか、抑えてきた感情が一気に押し寄せたのだろう。
 それはそうとセンターにいる真黒以蔵は一体何なのだ?

「困惑しているなひろみ、俺だよ、英徳だよ」

「えっ!? 英徳さん!?」

 このボサボサ頭で顕微鏡眼鏡のジジイがあのヒーロー体型の英徳さんだなんて想像見出来ない。

「ああそうだ、気が付いた時にはこの身体だったからな」

 そうだった、今の英徳さんの身体は永田に奪われているのだった。

「しかもレッド役の荻野琢磨くんはどうやら日比野君の力で作り出された傀儡だった様だ、溶けるように消えてしまったよ
 だがこの身体だったことがいい方に巡って来たぜ、これを見ろ!!」

「それは!! ヒカリチェンジャー!?」

 ドクター英徳さんの手にはヒカリチェンジャーが二つ握られていた。
 そうか、以前真黒以蔵はヒカリチャンジャーを複製していたんだったな、俺の左手首に着いているのがそうだ。
 それをいつの間にか量産していたんだ、中々食えない爺さんだな。

「芳乃!! 佐次!! これを使え!!」

 ドクター英徳がチェンジャーをこちらに向かて投げ、二人はそれを受け取った。

「さあ、変身だ!!」

「はい!!」

「うん……」

「「ヒカリチェンジ!!」」

 光が二人を包み込みやがて姿が現れる。
 芳乃はホワイトの、佐次さんはブラックのヒカリオンスーツに身を包んでいた。

「新たなる聖なる光!! ヒカリホワイト!!」

「新たなる輝ける闇!! ヒカリブラック!!」

 二人は背中合わせに対になるポーズをとった。
 打ち合わせもしていないのにアドリブでだ、さすがプロ。

「ぬううっ……何故だ!? 何故こうも僕の意思に反して次々とおかしなことが起こる!?」

 アンコック永田は半狂乱になっている、という事はこれらの状況は世界を支配しているはずの永田の予想外の出来事なのか。
 ならば答えは一つだろう。

「決まっている、お前が悪だからだ!! 悪ある所に正義は必ず現れる!! ヒカリチェンジ!!」

 俺もヒカリヴァイオレットに変身して加勢だ……しかし俺の身体に装着されていくスーツはいつもの薄紫では無かった……これはレッド!?

「驚いたか? 今のヒカリオンのリーダーはお前だ!! お前がレッドだ!!」

「英徳さん……」

 遂に……遂に俺がレッドに……この充実した感覚……感無量とはこの事を言うんだな。
 ただやっぱり腰回りにスカートが付いてる、女性のレッドだった。
 だがそんな事は些細な事さ。

「よし!! みんな!! グリッターフォーメーションだ!!」

「おう!!」

 俺の号令でヒカリオンは全員の武器を合体させ巨大な大砲が完成させた。
 ホワイトとブラックの銃型の武器も加わって更に大きくなった。
 それを総勢七人のヒカリオンで担ぎ上げる。

「照準セット!!」

 アンコック永田に砲口を向けた。
 
「フン!! そんな取り回しの悪い武器など簡単にかわせるよ!!」

 永田は背中の悪魔の様な翼を広げ上空へと飛び立とうとしている。
 まずいぞ、あいつの言う通りこの重量の大砲で空を縦横無尽に飛び回る相手に攻撃を中てるのは簡単な事ではない。
 どうする?

「任せろ!!」

 ドクター英徳が既に動き出していた、肩に担いだバズーカ砲の様な筒を構え前方に向けソフトボール程の球を発射したのだ。
 飛んでいった球は永田の近くで大きく弾け、網が展開する。

「うおっ!! 何だこれは!?」

 網が永田の上から覆いかぶさり絡みつく。
 網の周囲には錘が付いていて広げた翼も抑え込まれた。
 これで奴はすぐに飛び立つ事は出来ない……チャンスだ!!
 だがいいのか? あの永田の身体は英徳さんのものだ。
 ここで倒してしまったら英徳さんは元に戻れないのでは?
 一瞬躊躇し引き金に掛かった俺の指が震える。

「今だ!! 撃て!!」

「でも!!」

「気にするな!! このまま奴を倒せ!!」

 まるで俺の心の中を察したように叫ぶ英徳さん。
 分かりました、このチャンスを逃せばもう後は無いかも知れない。
 俺は英徳さんに向かって頷くとグリッターキャノンの引き金を引いた。

「グリッターキャノン!! ファイアー!!」

 グリッターキャノンの砲口から虹色のビームが発射された、更に白と黒の稲妻も纏って。
 そしてビームは見事アンコック永田を捉えたのだ。

「グワアアアアアアアアッ……!! こんな!! こんな筈では……!!」

 ビームにより身体を焼かれたアンコック永田は大きく派手な爆炎を上げ大爆発した。
 特撮だったら火薬の量が多すぎるんじゃないかと心配してしまう程の見事な爆発だった。

「やった!!」

 俺はガッツポーズをとる、皆もそれぞれ喜びの声を上げている。
 
「喜ぶのは早いぞお前たち!! よく見ろ!!」

 ドクター英徳さんの声にハッとなり爆発を見つめる。
 徐々に収まっていく炎の中に人影がある……アンコック永田だ。

「そんな……あの爆発の中で生き残ったっていうのか!?」

 奴の身体は既にあちこち焼け焦げ、数多の傷からは緑色の体液が流れている、攻撃自体は効いている様だった。

「危ないわよひろみ!!」

「いや大丈夫だ、芳乃たちはここに居てくれ」

 俺は恐る恐るアンコック永田に歩み寄った。

「やってくれたね君たち……この身体はもうダメだよ……」

 やっと言葉を絞り出している風な永田。
 だが表情には余裕があった。

「僕を倒したという事がどういう事か分かるよね?」

 奴がそう言った途端、空や地面に亀裂が入り、まるでガラスのように音を立て割れ始めたではないか。
 割れて出来た穴には極彩色の空間が見える……これは俺が第三の世界で無理矢理永田と結婚式を挙げさせられそうになった時、助けてくれたタソガレが俺を連れて飛び込んだ空間に酷似していた。

「まさか……終わるのか? この特撮の世界が……」

 悪の組織のラスボスが倒されたのだ、当然と言えば当然なのだがこうも唐突に終わりを迎えるとは思ってもいなかった。
 もっとこう、余韻というか後日談というかそういうのがあっても良さそうなものだが。

「今更こんなことを言っても仕方が無いんだけど、何故僕は負けたんだろう……この世界の神であるこの僕が……」

 地面に手を付きうな垂れる永田。
 その事に対して俺には分かった事がある、多分これが正解だ。

「そんなの決まってる、あんたがアンコック将軍の身体を乗っ取って役に付いてしまったからだ……その時点であんたは神でも何でもなくて登場人物の一人、只の役者になってしまったんだ」

「ああ、そうか……その通りだね……神である監督が役者という駒になってしまったのが敗因か……」

「あんた、役者を駒だと思っていたのか? その時点であんたの造ったこの世界はもうあんたの思い通りにはならなかっただろうよ」

「どこかおかしいかい?」

「もういいよ……」

 今の言葉が本気で口から出て来たというなら永田のこれからの監督人生はもう終わっていたのだろう。
 その間も世界の崩壊は進んでいる、もう周りは異空間の方の割合が多くなっている。

「おい、このままだと世界はどうなってしまうんだ?」

 永田を問い詰める。

「どうなるも何も終わるんだよ文字通り」

「それは分かってる、俺たちはどうなるのかを聞いている」

「このままここに居れば世界の崩壊に巻き込まれて君も君らもみんな消えてしまうんだよ」

「何だって!? このまま待っていれば元の世界に戻れるんじゃないのか!?」

「ははっ、そんな虫のいい話しがある訳ないじゃないか……一度ステーキになった牛肉が元の牛に戻る訳ないだろう」

 永田が力なく笑う、瞳には光が無くなっていた。
 っていうか例えのセンスが相変わらず無いなこの人。

「だけど僕は終わらない、この肉体から離れまた新たな世界へと移動すればいいだけだからね」

 そう言うとアンコック将軍の肩から半透明の霊体のような物が滲み出て上空に舞い上がった。
 それは徐々に形を成していく……あれは元の人の姿の永田?

「これで僕は役に縛られる事は無くなった、僕だけは消える事は無い」

「なっ……この卑怯者め!!」

「何とでも言い給え」

 奴はまだ神としての能力が使えるのか? こうなってしまったら俺たちだけが消えてしまう。

『どこへ行こうというの? あなた……』

 不気味な声がしたと思うと何かが永田の霊体に飛びつき絡め捕る。
 何だあれは? くすんだ黄色のゲル状のものが奴の身体に巻き付いているではないか。
 いやこれには見覚えがある、この世界に来た初期に俺の身体検査を行ったドクターダークイエローじゃないか。

「お前は確かに死んだはずだ!! 何故ここに居る!?」

 なんとこのスライムは日比野なのか? これまたおかしな事になっているな。

『あたしを置いて行かないで……ずっとこの世界に居ましょう? 二人だけでこの世界に……』

「やめろ!! 放せ!! 誰がお前なんかと……ガボッ!!」

 永田が言葉を言い切る前にスライム日比野は永田を完全に飲み込んでしまった。

『彼はあたしの物……誰にも渡さないし逃がさない……』

「日比野さん……そうまでして……」

 形は歪だが彼女なりに永田を愛していた訳だ。
 その事に対して俺が口を出す事は何も無い。
 
『そう言う事であなた達は邪魔なのよ、どこへでも行って頂戴』

「そうは言うけどどうすればいいんだよ」

『あれを見なさい』

 スライムの一部分がせり出しある方向を指す……するとそこには先ほど永田が開けた空間の裂け目が残っていた。

『あそこを潜れば新たな世界に行けるはず……その先がどんな世界かはあたしは分からないけれど行かなければあなた達はここでお終いよ』

「選択の余地はない……って訳か」

 願わくば元の世界に繋がっていて欲しいものだがこの際脱出が優先だ、贅沢は言っていられない。

「でもどうして俺に脱出の方法を教えてくれたんだい?」

『さっきも言ったけどあたしはあなたの事が大っ嫌いなの、だから一刻も早くここから出て行って欲しいだけ……他意は無いわ』

「ありがとう日比野さん……」

『早く行きなさいな、さよならひろみちゃん』

 俺はスライム日比野さんにお辞儀をするとみんなの待つ場所まで走った。

「みんな!! 急いであの空間の裂け目に飛び込んで!! この世界はもう消えてしまう!!」

「何だって!?」

「大変!!」

 皆は大慌てで走り出した、その傍から地面も崩れ始めた。

「急げ!!」

 次々と裂け目に飛び込むみんな、後は殿の俺だけだ。
 ほぼ全体が極彩色の世界に変わっている、そこには丸まったスライムが浮かぶのみ。

「さようなら……俺は嫌いじゃなかったですよ日比野さん」

 日比野さんへの別れの言葉を手向けとして俺も空間の裂け目に飛び込むのだった。
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