上 下
19 / 44

第19話 ドラゴンに花束を

しおりを挟む
 取り返しのつかない事をしてしまった…いくら許せない行為をしていたからといって自分よりはるかに非力な存在の人間を村ごと消し飛ばしてしまうとは…。
 
 数日たった今でも先程俺自身が引き起こした大災害の惨状がはっきりと思いだせる…目に焼き付いて消えてくれない。
 しかしあの場では自分の感情を制御できなかった…俺はまだまだ未熟だ。
 相容れない相手だから力で排除する…これでは俺が否定して対立し、リューノスから追い出した弟、ドラゴが主張していた『強者こそ正義』と何ら変わらないではないか。
 済まないライデン…あんたの期待に応えられなかったよ…。

 リアンヌは洞窟の住処まで運んで『癒しの水アクアヒーリング』で治療したが、一向に目を覚ます気配がない。
 その際、ドラゴンのまま帰還したのでマーニャに目撃されてしまったのだ。
 俺を見るなり血相を変え森の方へ駆け出して行ってしまった。
 当然か…あの時の俺は物凄い形相をしていたはずだ、怯えてしまうのも無理はない。

 こうなってしまった以上、俺はこれから全ての人間を敵に回す事になるだろう。
いや、人間だけではない…下手をするとエルフ族やドワーフ族などの知的な種族全てかも知れない。
 数日後には討伐隊を組んで俺を退治しに来る事だろう…遅かれ早かれここは戦場になる。
 冒険者と呼ばれる戦闘に特化した人間たちとはまだ戦った事は無いが、中にはきっとドラゴンを凌駕するほどの強者が存在するはず。
 俺が討たれるだけならまだいいが、リアンヌとマーニャが巻き込まれるのだけは回避しなければならない。
 それに先程どこかに行ってしまったマーニャをそのままにしておけない、森には危険な動物も生息しているのだから。
 気分は相変わらず最悪だが、俺はマーニャを探すべく人間形態で森へと入っていった。

 森の中は相変わらず高密度で樹木が密集していた…ただ一直線に樹がなぎ倒されている場所が所々に見受けられる。
 これは俺がライデンと戦った時に出来た戦闘の爪痕だ。
 ライデンに近付く方法が導き出せず試行錯誤していた印…あれから既にひと月くらい経つんだな…もう随分と昔の様な気がする。
 ライデンを倒したあと、生贄として連れて来られたリアンヌと出会い、村で騒動を起こしたマーニャを助けて連れ帰ったんだっけ…。
 あれ…おかしいな…何で目頭が熱くなる?
 そこまでは順調だったんだ…なのにどうしてこうなった?
 いけないいけない…また答えの出ない思考の堂々巡りに陥るところであった。
 今はマーニャを探し出す事に全力を尽くそう。
 俺の水探知は探し物や危機の探知、文字に込められた思念を感じ取る等、実に応用が利く成長する能力だ。
 しかしそれはごく近い範囲にしか適用できない、だから攻撃を避ける時はいつもギリギリだった訳だ。
 だから広範囲の索敵や、物や人の捜索をするにはどうすればよいかを思い付いたので実行しようと思う。

「『浮遊式水泡フローティングアクアバブル』」

 俺は水の球を八つ召喚し、俺を中心に八方に水の球を奥に向かって押し出した。
 水の球は通った道の空中に尾を引いて進んでいく。
 出来上がった形は、上から見下ろしたら漢字の『米』みたいな感じにみえるだろう。
 これで索敵範囲は広がったはず…さて迷子のお姫様はどこへ行ったのかな?
 そのままの陣形を維持して森の中を練り歩く。
 八方行に伸びた水の棒は俺に固定されたかのようにそのまま移動するのだ。
 移動すればその分索敵範囲も広がるとは便利な事だ。
 反応があった、右前方に生命反応…大きなのが二つあるが、その内の一つはもう一つの五倍はある。
 マズいぞ、小さい方が恐らくマーニャだ…そして大きい方は…。
 俺は全速力で反応があった方へと走る…すると突然大きく開けた平原に出た。
 そこには色とりどりの美しい花が一面に咲いていた…いや、今は花に気を取られている時ではない、マーニャはどこだ?

 ウオオオオオオン…!!

 居た…花畑に座り込んでいるのはマーニャだ、上を見上げて目を見開いている。
 そして今にも彼女に覆い被さろうと両腕を上げているのは一匹の大熊であった。
 これは危険だ…間に合うか?
 
(『鉄砲水ウォーターガン』!?)

 また閃いた…これは高速の細長い水流を打ち出す魔法だ、射程も長い。
 速度が速いのと周りに影響が少ないのとで今の様な状況にうってつけだ。

「『鉄砲水ウォーターガン』!!」

 前へ突き出した俺の右手の平から性能の良い水鉄砲の様な水流が発射…大熊の顔にヒットした。
 その威力は凄まじく、大熊は後方へ弾き飛ばされゴロゴロと転がっていく。
 前言撤回、水鉄砲なんてちゃちな表現は失礼だな…これは普通に攻撃魔法として十分優秀だ。

 ヒュウウウウン…

 不意を突かれた大熊はすっかり戦意を喪失し、情けない鳴き声を上げて森の奥へと逃げて行った。

「大丈夫かマーニャ!?」

 コクン…。

「心配したぞ…何でこんな所に!?」

 マーニャは自分が抱えていた花束を俺に手渡して来た。

「これを…俺に?」

 コクン…。

 そして俺にしゃがむ様にと仕草で伝えてきたのでそれに従い跪く。
 頭に柔らかい感触と花のいい香りが俺を包む…これは花の王冠?

「まさかお前…これを俺にくれるために…これを作るためにここに来たって言うのか?」

 コクン…。

 そしてその直後マーニャは俺に抱きつき頬にキスをしてきたではないか。

「あっ…」

 あまりに意表を突かれて俺も気が動転する…何せマーニャは俺にそんなに懐いてはいなかったのだ…おまけにさっきはドラゴンの姿もさらしてしまったのに何故?

「…りあと」

「何だ…?」

「…ありあと…」

「お前いま…しゃべったのか!?」

 信じられない…マーニャが言葉を発している…しかもありがとうとは…?

「おねえちゃ…たすけて…くれて…ありあと…」

 その瞬間、俺の涙腺が完全に決壊した…片言ではあったがここまで魂を揺さぶられる言葉をかけてもらったのは前世でもこの世界でもこれが初めてだ。

「ないちゃ…らめらよ?」

「うん…うん…!!」

 たどたどしい手つきで俺の涙を拭おうとしてくれるマーニャ。
 しかし滝の様に流れる俺の涙は一向に止まる気配がない。

 俺のして来た事は間違いじゃ無かった…こんな俺にも好意を寄せてくれる人がいる…一緒にいてくれる人がいる…これの何と幸せな事か…。
 今、マーニャは満面の笑みを俺に向けてくれている…この笑顔を、リアンヌとマーニャの命を守れた事に俺は誇りを持とうと思う。
 しでかしてしまった罪は消えない…しかしこれからやっていくことも同様にこれからも残っていくのだ。
 それならば俺はもう迷わない…自分の信じる道を自信をもって進んでいくしかないじゃないか。

「お前、いつの間にこんな花畑をみつけたんだ?」

「んっ…リュウジがいなくなってから…」

「俺の留守中は洞窟を出ちゃ駄目って言ったろう?悪い子だ…」

 俺はマーニャを抱き上げ頭を優しく撫でる。

「ごめん…なさい」

「次は気を付けろよ~~~また怖い熊さんがマーニャを食べに来るぞ~ガオー」

「きゃーーーーっ!!」

 俺はおどけて熊のマネをする、マーニャもそれは分かっていて俺の腕の中でキャッキャとはしゃぐ。

「さあ帰ろうか…リアンヌ姉ちゃんが目を覚ましているかもしれないしな」

「うん!!」

 俺はマーニャを肩車して家路についた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Shine Apple

あるちゃいる
ファンタジー
山の上にあるポツンと建つ古民家を買った。 管理人の上村さんから鍵を貰い山までの道を愛車のジムニーで走る。 途中まではガードレールがあるが、山の中間まで来るとガードレールもアスファルトも無くなり轍の真ん中に草が生える農道みたいな畦道になる。 畦道になった辺りから山頂までが俺の買った土地になるらしい。 これで10万は安いと思って理由を聞いてみると、歳を取って管理が辛いから手放す事にしたらしく、道の管理も託された。 まぁ、街に出るのに管理しないと草が生えて通れなくなり困るのは自分なので草刈りはするが……ちょっと大変そうだった 「苦労込みで10万なのかな……」 ボソリと俺は呟いた。毎年2、3回刈らないと駄目らしい……そのうちヤギでも飼おう……。 そんな事を考えながら畦道を登っていくと拓けた場所に辿り着く。 ここは地面が固くて草も余り生えないようだ。そこに車を止めて更に上を見上げると蔓や草木が生い茂った家の屋根が見えて来る。 其処がこれから住む古民家だった。 薄っすらと雑草の隙間から石畳が見えて階段もある様だが一度草刈りしないと歩けない。 取り敢えず日も暮れて来たので今夜は此処に野宿する事にした。 次の日には何とか草を掻き分けて階段を見付けて上っていくと石畳の庭らしき場所に着いた。 周りを見渡しても雑草が生い茂りどのくらい広いのかさえ分からなかった。壁中に蔦が絡まり窓から中は見えなかったので、仕方なく玄関らしき場所を見付けて鍵を開ける。 家屋の中はかび臭く壁や床は腐っているようだった。 流石にこのままでは住めないので夏になったら有給と夏休みと使って直す計画を立てよう。 柱などは意外としっかりしていたので全部解体する事は無い様だ。 もう一泊野宿する予定だったのだが、俺は山を後にした。 上村さんにまた夏に来るから今日は帰ると告げた。 帰り際に大根などの野菜をくれた。「豊作だったんだ」と言って嬉しそうに沢山くれた。 今度来る時はお土産を持ってきますと言っといた。 酒が好きだというので俺の好きな日本酒でも持っていこうと思う。 上村さんご夫妻に手を振って別れると車を走らせた。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...