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第18話 妹背一家…離散の危機
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「お兄ちゃんどうしたの?もう起きないと学校遅刻しちゃうよ?」
翌朝…
もう八時だというのに愛志が部屋から出て来ない事を心配した密が彼の部屋のドアの前から呼びかける。
しかし返答がない…。
「ちょっとお兄ちゃん!?」
ドアノブに手を掛けるも中から鍵がかかっており開ける事が出来ない。
きっといつもの愛志なら寝坊した兄を起こしに来る妹というシチュエーションは大好物の筈であった。
しかしそれすらも拒絶するほどサーティの戦闘中行方不明は彼にとってとてつもなくショックな出来事であったのだ。
「密ちゃん…いっ君の様子はどうだった?」
「物凄く頭が痛いんだって…だから学校を休みたいって言ってたわ」
「そう…じゃあ後で学校に電話して伝えておくわね~」
密は愛美に対して嘘を吐いてしまった。
話し掛けても愛志からは何の反応も無かったのだから…。
「では行ってきますお母さん」
「は~い、行ってらっしゃい」
セーラー服姿の密、薫、ジニアは愛美に見送られながら玄関を後にする。
本来愛志が学校へ行かない以上は彼女らも登校する必要はないのだが、愛美に心配を掛けないように登校する振りだけをしているのだ。
愛美が居間に戻ったのを見計らって家に入りシスタールームへと入室する。
その際ジニアの魔法『インビジブル』で姿が見えない様にしていた。
「はあ…お兄ちゃん…サーティちゃんの事で相当落ち込んでるね…」
共用スペースの畳に座り哀し気な表情の密。
「無理もない…兄者の妹好きは本物だからな…」
「でもジニア…お兄ちゃまが元気ないのは楽しくないの…」
薫とジニアもうつ向いてそれ以上言葉が出て来なかった…これではまるでお通夜だ。
『私が余計な事をしてしまったのでしょうか…マスターが持ってきた血痕付きの包帯のDNA鑑定を許可を取らずにしたから…』
シスタールームの奥から声が聞こえる…ロボット少女アイビーだ。
彼女は自分の部屋に自分専用のメンテナンス用の機械仕掛けのベッドを兼ねた椅子を持ち込んでいた。
壁にも何やら丸いメーターやランプ、沢山のスイッチなどがびっしりと設置してあり、このシスタールームの中でも特に異彩を放っていてまるでSF作品のセットの様だ。
これはアイビー自身が自分のいた世界から転送した物で、一見しただけでかなり科学が進んでいる世界だと推測できる。
アイビーはその椅子から起き上がると密たちが集まっている共用スペースまで歩いて来た。
「そんな事無いよアイビーちゃん…サーティちゃんの安否があのままハッキリしないのも辛いもの…」
昨日の夕方…
愛志が顔面蒼白でフラフラとした足取りでシスタールームに入って来た。
そして力無く畳に腰を下ろす。
「密…サーティは帰って来たか…?」
弱々しい声で訪ねてくる。
「ううん…まだよ…どうしたのお兄ちゃん?そんな真っ青な顔をして…」
愛志は右手に握っていた薄汚れた細長い布状の物をちゃぶ台に置いた。
それは愛志が爆発事件現場で拾って来た血染めの包帯であった。
「…これは…血か!?まさか兄者…この包帯は!!」
さすがの薫もわずかに動揺する…最悪の事態を想像してしまったからだ。
「…のどが渇いた…」
薫の言葉が耳に入っていないのか返答もせず
おもむろに立ち上がり少し離れた壁に設置してある冷蔵庫まで水を取りに歩く。
その足取りも実に弱々しい。
戻って来てミネラルウォーターのペットボトルを開けた所でアイビーが愛志の前にやって来てこう言った。
『マスター…サーティさんの部屋から収集した頭髪のDNAとその包帯に付着している血液のDNAは97.25パーセントまで一致しています…ほぼサーティさんの物と断定しても間違いないかと思われます』
アイビーの手にはあの血染めの包帯が握られている。
愛志が席を外した隙に彼女が勝手にDNA鑑定をしていたのだ。
「………!!何勝手な事をしてるんだ!!」
さっきまでの落ち込み具合からは想像できない程の怒声を上げる愛志。
勢いよく立ち上がりアイビーから包帯を強引に引ったくる。
愛志が妹に対して声を荒げたのはこれが初めてであった。
「サーティは死んでない!!絶対に帰って来るんだ!!」
今にも泣きだしそうな顔をする愛志。
妹達はあまりに急な彼の態度の変化に呆然としている。
「あの時俺がサーティを一人で行かせなければ…あの時俺が無理にでもサーティを引き止めていれば…!!わあああああっ!!!」
彼女たちの困惑した顔を見てしまいいたたまれなくなった愛志は走り出し、シスタールームから出て行ってしまった。
「お兄ちゃん待って!!」
「追うな密!!」
追いかけようとした密の肩を掴み薫が制止する。
「薫さんどうして止めるの!?あのままじゃお兄ちゃんが…!!」
「今の兄者には我々が何を言ってもきっと届かない…これは兄者自身が自分で解決しなければならない問題だ…」
「でも…」
無言で首をゆっくりと横に振る薫の何かを訴えかけてくる様な力強い瞳を見て密もそれ以上愛志を追おうとはしなかった。
『私はマスターに良かれと思って行動しましたが…マスターにはそうではなかったのですね…私は人の感情についてもっと学ばなければなりません…』
声のトーンは常に一定のアイビーだが今だけはやさしさの感情が籠っているのを感じる。
「大丈夫…お兄ちゃんはそこまで怒ってない筈だよ…どちらかというと自分自身に怒ってるんだ…きっと…」
アイビーを慰めている密の言葉を聞き薫も思う所があったのか思いつめたようにうつ向き拳を握りしめる。
この時はまだ誰も薫の心境の変化に気付いた者は居なかった。
そして放課後…
「お兄ちゃんただいま…」
相変わらず返事がない…。
さすがに心配になって来た密。
結局その日は晩御飯になっても愛志は姿を見せなかった。
「お兄ちゃん…ここにご飯、置いておくね…」
二階の廊下、愛志の部屋のドアの横にお盆に乗せたカレーライスを置く密。
ここで不意に一つの疑問が彼女の頭の中で首をもたげた。
「ねぇお母さん…愛志お兄ちゃんはどうしてあんなにも妹が好きだって言うのかな…」
キッチンで食事の後片付けをしている愛美に問いかけた。
「あら、どうしてそんな事を聞くの?」
「…ちょっと気になったから…」
「そう…」
サーティの事を心の底から心配し自分を責め、心を閉ざしてしまった愛志を見て、人は身内の為にこんなにも親身になれる物なのかと…自分の姉、秘女が自分の事を殺したいほど憎んでいた事に衝撃を受けた密には是非とも聞いておきたい事だったのだ。
「いっ君にはね…本当は妹がいたはずだったのよ…」
「えっ…?」
まさかの新事実…しかし「いたはずだった」とは一体どういう事だろう。
「私が妊娠した事を知ったいっ君はそれはもう喜んでね…特に性別が女の子と知った時のあの子の満面の笑顔ときたら…今でも昨日の事の様に思いだすわ…あの子ったら名前まで考えていた様なのよ?俺が名前をつけてあげるんだ~ってはりきっちゃって…」
愛美母さんは思わずにっこりと微笑む…密も釣られて微笑んでしまう。
「でもその後、私は自転車に当て逃げされてしまってね…激しく身体を打ち付けてしまったせいで流産してしまったの…」
「そんな…!?」
今度は鼻をすすり始めて愛美、目尻には涙が浮かんでいる。
密もあまりの衝撃で脚がふら付く。
「いっ君はそれはもう悲しんだわ…あの時は一週間、部屋から出て来なかったもの…」
「そんな事が…有ったなんて…」
(じゃあお兄ちゃんは妹を失うという喪失感を二度も経験したというの?)
胸の奥がざわつく密。
「だから私はあなた達が来てくれて本当に良かったと思っているのよ?
いっ君の為にも…私の為にもね…」
「えっ?それって…!」
何と…愛美には密たちが自分の実の子ではないと言う事がバレているではないか…
どうやら愛志の心が弱っているせいで魔導書の効力が薄れてしまっている様だ。
「騙していてご免なさい…」
「…いいのよ…ほら密ちゃん…ちょっとお母さんに抱かせてちょうだい?可愛い私のお姫さま」
愛美は両手を広げて密を呼ぶ…密が不安で堪らなくなっているのを見抜いたのだ…その瞬間から溢れ出す母性…密はそれに抗えずふくよかな胸に顔を埋める。
「さあ思う存分甘えなさいな…」
「うん…うん…ありがとうお母さん…」
涙ぐみ
抱き合う二人…。
二人の会話を廊下で聞いていた人物が居た…
その人物は静かにその場をは離れるとそのまま外へと去っていった。
「…ちゃん…お兄ちゃん…愛志お兄ちゃん…」
「ん~~~?誰だ俺を呼ぶのは…?」
目を覚ますと愛志は真っ白い空間に漂っていた。
「何だここは…」
辺りを見回しても何もない…ただただ純白の世界…。
「お兄ちゃん…やっと目を覚ました…お寝坊さんね…」
そう言って愛志の前に現れたのは大きな光の球だ。
直径50センチメートルはあろうか。
「何だぁ!?いくら俺が妹ラブだからって光の球にお兄ちゃんと呼ばれても嬉しかないぞ…!!」
と言いつつ顔はニヤついていた…見境が無い筋金入りの本物である。
「ひっどーい!!それが実の妹に言うセリフ?」
「えっ?今何て言った?」
「おほん…それはどうでもいいの…」
慌てて誤魔化している…かなり怪しい光の球。
「それよりお兄ちゃん…こんな事していていいの?」
「こんな事とは?」
「だから…サーティさんがいなくなってしまったのを自分のせいにして自分を責め続けてる事!!」
「…何故それを?」
「分かるわよ…全部見てたもの…」
「…お前…ストーカーは犯罪だって知っているのか?」
「ひっどーーーい!!お兄ちゃんなんて大嫌い!!」
つーんと顔を背けたかどうだか分からない光の球…何せ目鼻口が無いので口調以外で感情が判別できないのだ。
「早くここを出ないときっとお兄ちゃんは凄く後悔すると思うな~」
「お前何言ってるんだ?」
物凄く思わせぶりな言い回しをする光の球。
「今いる妹たちも大事にしてあげて…でないと居なくなっちゃうかもよ?」
「あっ…!!」
愛志はハッとした…サーティ一人の事を気に掛けるあまり密たちを蔑ろにしてしまったのだった…。
「やっと気づいたの?馬鹿ね~…まあいいわまた会いましょう?バイバイお兄ちゃん」
白い空間が更に発光して何も見えなくなる…
「ちょっと待ってくれ!!君は何て名前なんだ?」
目がくらみそうな光の中、光の球に名前を尋ねた。
「お兄ちゃんは知ってるはずだよ?私の名前…」
その言葉が白い空間で聞いた最後の言葉になった。
「はっ!?」
布団から勢いよく上体を起こす。
ここは愛志の部屋だった…。それはそうだ愛志は今日一歩も部屋から出ていないのだから…。
室内は真っ暗だった。
室内にあるデジタル時計を見ると午後八時を回っていた。
どおりで暗いはずだ。
「…あれは…夢だったのか?」
さっきの光の球との会話を思い出して再びハッとした。
「そうだ…みんなに謝らなくっちゃ…」
寝間着から部屋着に着替えシスタールーム入る愛志。
バツが悪そうに奥に進む。
「あ~…そのなんだ…昨日はゴメ…」
「あっ…お兄ちゃん!!やっと来てくれた!!これを見て!!」
謝罪の言葉を密に遮られ麺を喰らっていたが密に見せられた書置きと思われる紙を見せられ仰天した。
『自分の未熟を思い知った故、修行の旅に出ます、探さないでください 薫』
翌朝…
もう八時だというのに愛志が部屋から出て来ない事を心配した密が彼の部屋のドアの前から呼びかける。
しかし返答がない…。
「ちょっとお兄ちゃん!?」
ドアノブに手を掛けるも中から鍵がかかっており開ける事が出来ない。
きっといつもの愛志なら寝坊した兄を起こしに来る妹というシチュエーションは大好物の筈であった。
しかしそれすらも拒絶するほどサーティの戦闘中行方不明は彼にとってとてつもなくショックな出来事であったのだ。
「密ちゃん…いっ君の様子はどうだった?」
「物凄く頭が痛いんだって…だから学校を休みたいって言ってたわ」
「そう…じゃあ後で学校に電話して伝えておくわね~」
密は愛美に対して嘘を吐いてしまった。
話し掛けても愛志からは何の反応も無かったのだから…。
「では行ってきますお母さん」
「は~い、行ってらっしゃい」
セーラー服姿の密、薫、ジニアは愛美に見送られながら玄関を後にする。
本来愛志が学校へ行かない以上は彼女らも登校する必要はないのだが、愛美に心配を掛けないように登校する振りだけをしているのだ。
愛美が居間に戻ったのを見計らって家に入りシスタールームへと入室する。
その際ジニアの魔法『インビジブル』で姿が見えない様にしていた。
「はあ…お兄ちゃん…サーティちゃんの事で相当落ち込んでるね…」
共用スペースの畳に座り哀し気な表情の密。
「無理もない…兄者の妹好きは本物だからな…」
「でもジニア…お兄ちゃまが元気ないのは楽しくないの…」
薫とジニアもうつ向いてそれ以上言葉が出て来なかった…これではまるでお通夜だ。
『私が余計な事をしてしまったのでしょうか…マスターが持ってきた血痕付きの包帯のDNA鑑定を許可を取らずにしたから…』
シスタールームの奥から声が聞こえる…ロボット少女アイビーだ。
彼女は自分の部屋に自分専用のメンテナンス用の機械仕掛けのベッドを兼ねた椅子を持ち込んでいた。
壁にも何やら丸いメーターやランプ、沢山のスイッチなどがびっしりと設置してあり、このシスタールームの中でも特に異彩を放っていてまるでSF作品のセットの様だ。
これはアイビー自身が自分のいた世界から転送した物で、一見しただけでかなり科学が進んでいる世界だと推測できる。
アイビーはその椅子から起き上がると密たちが集まっている共用スペースまで歩いて来た。
「そんな事無いよアイビーちゃん…サーティちゃんの安否があのままハッキリしないのも辛いもの…」
昨日の夕方…
愛志が顔面蒼白でフラフラとした足取りでシスタールームに入って来た。
そして力無く畳に腰を下ろす。
「密…サーティは帰って来たか…?」
弱々しい声で訪ねてくる。
「ううん…まだよ…どうしたのお兄ちゃん?そんな真っ青な顔をして…」
愛志は右手に握っていた薄汚れた細長い布状の物をちゃぶ台に置いた。
それは愛志が爆発事件現場で拾って来た血染めの包帯であった。
「…これは…血か!?まさか兄者…この包帯は!!」
さすがの薫もわずかに動揺する…最悪の事態を想像してしまったからだ。
「…のどが渇いた…」
薫の言葉が耳に入っていないのか返答もせず
おもむろに立ち上がり少し離れた壁に設置してある冷蔵庫まで水を取りに歩く。
その足取りも実に弱々しい。
戻って来てミネラルウォーターのペットボトルを開けた所でアイビーが愛志の前にやって来てこう言った。
『マスター…サーティさんの部屋から収集した頭髪のDNAとその包帯に付着している血液のDNAは97.25パーセントまで一致しています…ほぼサーティさんの物と断定しても間違いないかと思われます』
アイビーの手にはあの血染めの包帯が握られている。
愛志が席を外した隙に彼女が勝手にDNA鑑定をしていたのだ。
「………!!何勝手な事をしてるんだ!!」
さっきまでの落ち込み具合からは想像できない程の怒声を上げる愛志。
勢いよく立ち上がりアイビーから包帯を強引に引ったくる。
愛志が妹に対して声を荒げたのはこれが初めてであった。
「サーティは死んでない!!絶対に帰って来るんだ!!」
今にも泣きだしそうな顔をする愛志。
妹達はあまりに急な彼の態度の変化に呆然としている。
「あの時俺がサーティを一人で行かせなければ…あの時俺が無理にでもサーティを引き止めていれば…!!わあああああっ!!!」
彼女たちの困惑した顔を見てしまいいたたまれなくなった愛志は走り出し、シスタールームから出て行ってしまった。
「お兄ちゃん待って!!」
「追うな密!!」
追いかけようとした密の肩を掴み薫が制止する。
「薫さんどうして止めるの!?あのままじゃお兄ちゃんが…!!」
「今の兄者には我々が何を言ってもきっと届かない…これは兄者自身が自分で解決しなければならない問題だ…」
「でも…」
無言で首をゆっくりと横に振る薫の何かを訴えかけてくる様な力強い瞳を見て密もそれ以上愛志を追おうとはしなかった。
『私はマスターに良かれと思って行動しましたが…マスターにはそうではなかったのですね…私は人の感情についてもっと学ばなければなりません…』
声のトーンは常に一定のアイビーだが今だけはやさしさの感情が籠っているのを感じる。
「大丈夫…お兄ちゃんはそこまで怒ってない筈だよ…どちらかというと自分自身に怒ってるんだ…きっと…」
アイビーを慰めている密の言葉を聞き薫も思う所があったのか思いつめたようにうつ向き拳を握りしめる。
この時はまだ誰も薫の心境の変化に気付いた者は居なかった。
そして放課後…
「お兄ちゃんただいま…」
相変わらず返事がない…。
さすがに心配になって来た密。
結局その日は晩御飯になっても愛志は姿を見せなかった。
「お兄ちゃん…ここにご飯、置いておくね…」
二階の廊下、愛志の部屋のドアの横にお盆に乗せたカレーライスを置く密。
ここで不意に一つの疑問が彼女の頭の中で首をもたげた。
「ねぇお母さん…愛志お兄ちゃんはどうしてあんなにも妹が好きだって言うのかな…」
キッチンで食事の後片付けをしている愛美に問いかけた。
「あら、どうしてそんな事を聞くの?」
「…ちょっと気になったから…」
「そう…」
サーティの事を心の底から心配し自分を責め、心を閉ざしてしまった愛志を見て、人は身内の為にこんなにも親身になれる物なのかと…自分の姉、秘女が自分の事を殺したいほど憎んでいた事に衝撃を受けた密には是非とも聞いておきたい事だったのだ。
「いっ君にはね…本当は妹がいたはずだったのよ…」
「えっ…?」
まさかの新事実…しかし「いたはずだった」とは一体どういう事だろう。
「私が妊娠した事を知ったいっ君はそれはもう喜んでね…特に性別が女の子と知った時のあの子の満面の笑顔ときたら…今でも昨日の事の様に思いだすわ…あの子ったら名前まで考えていた様なのよ?俺が名前をつけてあげるんだ~ってはりきっちゃって…」
愛美母さんは思わずにっこりと微笑む…密も釣られて微笑んでしまう。
「でもその後、私は自転車に当て逃げされてしまってね…激しく身体を打ち付けてしまったせいで流産してしまったの…」
「そんな…!?」
今度は鼻をすすり始めて愛美、目尻には涙が浮かんでいる。
密もあまりの衝撃で脚がふら付く。
「いっ君はそれはもう悲しんだわ…あの時は一週間、部屋から出て来なかったもの…」
「そんな事が…有ったなんて…」
(じゃあお兄ちゃんは妹を失うという喪失感を二度も経験したというの?)
胸の奥がざわつく密。
「だから私はあなた達が来てくれて本当に良かったと思っているのよ?
いっ君の為にも…私の為にもね…」
「えっ?それって…!」
何と…愛美には密たちが自分の実の子ではないと言う事がバレているではないか…
どうやら愛志の心が弱っているせいで魔導書の効力が薄れてしまっている様だ。
「騙していてご免なさい…」
「…いいのよ…ほら密ちゃん…ちょっとお母さんに抱かせてちょうだい?可愛い私のお姫さま」
愛美は両手を広げて密を呼ぶ…密が不安で堪らなくなっているのを見抜いたのだ…その瞬間から溢れ出す母性…密はそれに抗えずふくよかな胸に顔を埋める。
「さあ思う存分甘えなさいな…」
「うん…うん…ありがとうお母さん…」
涙ぐみ
抱き合う二人…。
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その人物は静かにその場をは離れるとそのまま外へと去っていった。
「…ちゃん…お兄ちゃん…愛志お兄ちゃん…」
「ん~~~?誰だ俺を呼ぶのは…?」
目を覚ますと愛志は真っ白い空間に漂っていた。
「何だここは…」
辺りを見回しても何もない…ただただ純白の世界…。
「お兄ちゃん…やっと目を覚ました…お寝坊さんね…」
そう言って愛志の前に現れたのは大きな光の球だ。
直径50センチメートルはあろうか。
「何だぁ!?いくら俺が妹ラブだからって光の球にお兄ちゃんと呼ばれても嬉しかないぞ…!!」
と言いつつ顔はニヤついていた…見境が無い筋金入りの本物である。
「ひっどーい!!それが実の妹に言うセリフ?」
「えっ?今何て言った?」
「おほん…それはどうでもいいの…」
慌てて誤魔化している…かなり怪しい光の球。
「それよりお兄ちゃん…こんな事していていいの?」
「こんな事とは?」
「だから…サーティさんがいなくなってしまったのを自分のせいにして自分を責め続けてる事!!」
「…何故それを?」
「分かるわよ…全部見てたもの…」
「…お前…ストーカーは犯罪だって知っているのか?」
「ひっどーーーい!!お兄ちゃんなんて大嫌い!!」
つーんと顔を背けたかどうだか分からない光の球…何せ目鼻口が無いので口調以外で感情が判別できないのだ。
「早くここを出ないときっとお兄ちゃんは凄く後悔すると思うな~」
「お前何言ってるんだ?」
物凄く思わせぶりな言い回しをする光の球。
「今いる妹たちも大事にしてあげて…でないと居なくなっちゃうかもよ?」
「あっ…!!」
愛志はハッとした…サーティ一人の事を気に掛けるあまり密たちを蔑ろにしてしまったのだった…。
「やっと気づいたの?馬鹿ね~…まあいいわまた会いましょう?バイバイお兄ちゃん」
白い空間が更に発光して何も見えなくなる…
「ちょっと待ってくれ!!君は何て名前なんだ?」
目がくらみそうな光の中、光の球に名前を尋ねた。
「お兄ちゃんは知ってるはずだよ?私の名前…」
その言葉が白い空間で聞いた最後の言葉になった。
「はっ!?」
布団から勢いよく上体を起こす。
ここは愛志の部屋だった…。それはそうだ愛志は今日一歩も部屋から出ていないのだから…。
室内は真っ暗だった。
室内にあるデジタル時計を見ると午後八時を回っていた。
どおりで暗いはずだ。
「…あれは…夢だったのか?」
さっきの光の球との会話を思い出して再びハッとした。
「そうだ…みんなに謝らなくっちゃ…」
寝間着から部屋着に着替えシスタールーム入る愛志。
バツが悪そうに奥に進む。
「あ~…そのなんだ…昨日はゴメ…」
「あっ…お兄ちゃん!!やっと来てくれた!!これを見て!!」
謝罪の言葉を密に遮られ麺を喰らっていたが密に見せられた書置きと思われる紙を見せられ仰天した。
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