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第23話 インセクト王
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巨大カブトムシが俺に迫る。
俺の服に付いたハチミツの匂いに惹かれてまんまと現れたな、しかしなんの準備も出来ていない状態の俺には今の状況は最悪と言える。
あんなどでかい昆虫相手に剣一本で戦うなど無謀もいい所だ。
「はぁっ!!」
巨大カブトの攻撃を紙一重で避け、カウンター気味に剣を横一線に振るう。
奴の頭、角の付け根辺りにヒットした。
パキィ……ン
「何っ!?」
いともあっさりとミドルソードが折れてしまった。
何て硬さだ、逆にカブトの頭には傷一つ付いていない。
その黒光りする光沢を放つ兜と鎧は伊達ではないという事か。
俺の装備にはライムが付加してくれた復活の祝福がされているので直に元に戻る……しかし伝説の装備でも何でもないミドルソードが何度復活したところで奴に太刀打ち出来るとは到底思えない。
考えをめぐらせている今も巨大カブトは再び俺に迫って来る、あの大きくて太い角で突進されたら確実に死ぬ。
くそっ、地面に降りてからも奴の移動速度が速い、しかも自分の進路を阻む樹々をなぎ倒しながら向かってくる。
知恵の樹は言っていた、この古代昆虫が森の樹々の樹液を吸ったせいで森そのものが弱体化していると。
いま眼前で展開されている直接樹々を倒されるのも森のダメージになるのでは?
まずいぞ、このまま逃げ惑っていては却って森の被害を増やすだけだ。
俺は逃げるのを止め振り向く、ここは踏み留まなければ、しかしどうする?
せめて剣が通る柔らかい部位が狙えれば……。
「ウガーーーーッ!!」
うなり声と同時に俺を背後から飛び越え何かが落ちてきた。
「カタリナ!!」
巨大カブトの突進を両手で角をガッチリと掴み抑え込む……しかし徐々に押し込まれ、踵が地面を抉りながら後退している。
だがカタリナは物凄いパワーだな、あの巨大カブトに力負けしないとは。
「ウッ……ウッ……ウガーーーーッ!!」
カタリナが更に力を籠めると、彼女が掴んでいる角の先端を起点に巨大カブトの身体が浮き始めたのだ。
「よし、いいぞカタリナ!! そのまま後ろ側へ叩きつけろ!!」
「ウウウガーーーーッ!!!!」
とうとう垂直まで持ち上げた、そしてそのまま後ろへ倒れ込むように巨大カブトを後方へ投げ捨てる、ブレンバスターだ!! ってブレンバスターって何だ?
背中側から地面にたたき込まれ脚をじたばたさせる巨大カブト、甲虫は得てしてひっくり返されると身動きが取れなくなるものだ。
俺の手の中のミドルソードの柄が振動する、見ると刀身が復活していた。
ベストタイミング、いま巨大カブトは比較的柔らかい腹を晒している。
「くらえーーーー!!!」
俺はジャンプ一番、剣を逆手に持ち直しカブトの腹へと落下する。
予想通り剣は奴の腹に根元まで突き刺さり、粘り気のある体液を吹き出した。
「うぇっ……何だこの液体」
何とも言えない異臭を放つ体液で俺の身体はベトベトだ、ハチミツの次には虫の体液……今日はとことん汚れる日だ。
巨大カブトは脚を蠢かせ最初は苦しんでいたが次第に動かなくなり絶命した。
「よし、何とか倒したな……」
俺はカブトの身体から剣を引き抜くと、奴の身体から飛び降り地面に降り立った。
「後は知恵の樹に虫退治の報告を……」
「ウガウガッ!!」
「うん? どうしたカタリナ? 何かあったのか?」
このカタリナの慌てよう、普通ではない……何かあると思い周囲を警戒するため後ろを振り向いたその時、ギザギザの鋸のような琥珀色の棒が二本、俺の頭を外側から挟むように空中にあった。
「えっ?」
二本の鋸に挟まれ俺の頭はスイカを輪切りにしたかのように真っ二つに切断された……一体何が? ああ、意識が遠のく……。
「はっ!?」
油断した……巨大昆は一匹ではなかったんだ……今思えば知恵の樹はあやつらといっていた。
あの鋸……恐らくは巨大ノコギリクワガタだろう。
しかしどこへ行った? 辺りを見回しても巨大クワガタはおろかカタリナも見当たらない。
「きゃああああっ!!」
今のはイングリットの悲鳴!?
まさかクワガタがイングリットと知恵の樹の所へ向かったのか!?
声の方角に急いで向かおう。
「ウッ………ガァ……」
微かに声が聞こえる、これはカタリナの声だ。
近くに居るのか?
「オーーーイ!! カタリナ!!」
足元にも注意を払い進んでいると、いた……カタリナだ。
「ウウウッ……」
「カタリナ、お前……」
倒れているカタリナを見ると両腕が肘の辺りから切断されているではないか。
巨大クワガタと交戦したのか。
カタリナの目に涙が溜まっている、相当痛かったんだな。
不幸中の幸い、切断された腕の先は近くに落ちていた。
「待ってろ、今直してやる」
俺は拾ってきた腕をカタリナに接続した。
すると接合した傷口が脈動を始め、腕は傷一つ残さず綺麗に接合された。
「動けるか?」
「ウガッ!!」
強い意志の宿った瞳、カタリナは闘志を失っていなかった。
「よし、付いてこい!! イングリットと知恵の樹がやばい!!」
俺たちは急いで救援に向かう。
森の奥が騒がしい、恐らく巨大クワガタが暴れているのだろう、一刻も早く現場に行かなくては。
「大丈夫か!?」
「あっ、アクセルさん!!」
イングリットは無事だった、しかし知恵の樹は?
「何だこれは!?」
知恵の樹は自分の枝葉を他の樹も使って網の目の様に張り巡らし、巨大クワガタを雁字搦めにしている、しかしクワガタも自慢の巨大な顎を使って次々と切断していく。
『グムムム……もう持たない……早く奴を……』
「分かった!!」
俺は軽く跳躍を繰り返し枝から枝に飛び移り、巨大クワガタの上に位置取る。
そして奴の背中目がけて飛び降りた。
「貴様らの弱点はここだ!!」
首と胴体の付け根、柔軟に動く部分に剣を突き立てた。
途端に激しく暴れだす巨大クワガタ、俺はまるでロデオでもしているかの様に振り落とされないように柄に捕まる。
急所を刺したのに仕留められなかった、恐らく剣が浅く刺さってしまったのだろう……しかしこんなに揺れる状況では再び力を掛けて剣を奥に突きさすのは不可能だ。
「カタリナ!! こいつの頭を下から殴り上げろ!!」
「ウガッ!!」
俺の指示でカタリナが駆け込んでくる、そして強烈なアッパーカットを巨大クワガタに食らわせたのだ。
その衝撃で剣は奴の喉を貫通したが、俺も吹き飛ばされてしまった……それから暫くして巨大クワガタは完全に沈黙したのであった。
「くそっ、手こずらせてくれたな……」
茂みの上に逆さまに落ちた俺。
ライムの試練でもないのに死亡回数カウンターをまた一つ減らしてしまった。
「知恵の樹さん!! 知恵の樹さんしっかりして!!」
イングリットの声にハッとし、飛び起きて知恵の樹の方へと向かう。
「知恵の樹……」
俺は彼の姿を見て愕然とした、水分を見る見る失い干からびていく幹、ボロボロと樹皮が剥がれ落ちていく。
『ありがとう……あやつらを倒してくれて……礼を言う』
「済まない、俺は何の役にも立てなかった……」
彼の傍らに跪きうな垂れる。
『約束だ……受け取ってくれ……』
彼の顔の上の枝の先端がふくれはじめ大きくなっていく……そして片手に収まるほどの林檎によく似た果実が実った。
「俺にこれを受け取る資格は無い」
依頼をこなせなかったのだ、報酬を受け取る訳にはいかない。
『何を言う……この老いぼれが最後に命をとして実らせた実……無駄にしてくれるな』
「アクセルさん……」
イングリットが悲しそうな表情で俺を見つめる。
「分かったよ、これはありがたく貰っておく」
『私が死ぬことでこの島はやがて沈むだろう……早く逃げるがいい……最後にお前たちのような人間に会えて良かった……』
そう言い残し知恵の樹はからからに朽ちていった。
「行こう……」
俺たちは沈痛な思いで森を後にした。
それからすぐ島が振動を始めた、知恵の樹が言った通り島の崩壊が始まったのだ。
「アクセルの旦那----!!! 急いでください!!」
三人組の下っ端二人が両手を振っている。
「二人とも急げ!!」
「はい!!」
「ウガッ!!」
船のタラップに駆け込んだ直後、島は跡形もなく海底に沈んでしまった。
俺の服に付いたハチミツの匂いに惹かれてまんまと現れたな、しかしなんの準備も出来ていない状態の俺には今の状況は最悪と言える。
あんなどでかい昆虫相手に剣一本で戦うなど無謀もいい所だ。
「はぁっ!!」
巨大カブトの攻撃を紙一重で避け、カウンター気味に剣を横一線に振るう。
奴の頭、角の付け根辺りにヒットした。
パキィ……ン
「何っ!?」
いともあっさりとミドルソードが折れてしまった。
何て硬さだ、逆にカブトの頭には傷一つ付いていない。
その黒光りする光沢を放つ兜と鎧は伊達ではないという事か。
俺の装備にはライムが付加してくれた復活の祝福がされているので直に元に戻る……しかし伝説の装備でも何でもないミドルソードが何度復活したところで奴に太刀打ち出来るとは到底思えない。
考えをめぐらせている今も巨大カブトは再び俺に迫って来る、あの大きくて太い角で突進されたら確実に死ぬ。
くそっ、地面に降りてからも奴の移動速度が速い、しかも自分の進路を阻む樹々をなぎ倒しながら向かってくる。
知恵の樹は言っていた、この古代昆虫が森の樹々の樹液を吸ったせいで森そのものが弱体化していると。
いま眼前で展開されている直接樹々を倒されるのも森のダメージになるのでは?
まずいぞ、このまま逃げ惑っていては却って森の被害を増やすだけだ。
俺は逃げるのを止め振り向く、ここは踏み留まなければ、しかしどうする?
せめて剣が通る柔らかい部位が狙えれば……。
「ウガーーーーッ!!」
うなり声と同時に俺を背後から飛び越え何かが落ちてきた。
「カタリナ!!」
巨大カブトの突進を両手で角をガッチリと掴み抑え込む……しかし徐々に押し込まれ、踵が地面を抉りながら後退している。
だがカタリナは物凄いパワーだな、あの巨大カブトに力負けしないとは。
「ウッ……ウッ……ウガーーーーッ!!」
カタリナが更に力を籠めると、彼女が掴んでいる角の先端を起点に巨大カブトの身体が浮き始めたのだ。
「よし、いいぞカタリナ!! そのまま後ろ側へ叩きつけろ!!」
「ウウウガーーーーッ!!!!」
とうとう垂直まで持ち上げた、そしてそのまま後ろへ倒れ込むように巨大カブトを後方へ投げ捨てる、ブレンバスターだ!! ってブレンバスターって何だ?
背中側から地面にたたき込まれ脚をじたばたさせる巨大カブト、甲虫は得てしてひっくり返されると身動きが取れなくなるものだ。
俺の手の中のミドルソードの柄が振動する、見ると刀身が復活していた。
ベストタイミング、いま巨大カブトは比較的柔らかい腹を晒している。
「くらえーーーー!!!」
俺はジャンプ一番、剣を逆手に持ち直しカブトの腹へと落下する。
予想通り剣は奴の腹に根元まで突き刺さり、粘り気のある体液を吹き出した。
「うぇっ……何だこの液体」
何とも言えない異臭を放つ体液で俺の身体はベトベトだ、ハチミツの次には虫の体液……今日はとことん汚れる日だ。
巨大カブトは脚を蠢かせ最初は苦しんでいたが次第に動かなくなり絶命した。
「よし、何とか倒したな……」
俺はカブトの身体から剣を引き抜くと、奴の身体から飛び降り地面に降り立った。
「後は知恵の樹に虫退治の報告を……」
「ウガウガッ!!」
「うん? どうしたカタリナ? 何かあったのか?」
このカタリナの慌てよう、普通ではない……何かあると思い周囲を警戒するため後ろを振り向いたその時、ギザギザの鋸のような琥珀色の棒が二本、俺の頭を外側から挟むように空中にあった。
「えっ?」
二本の鋸に挟まれ俺の頭はスイカを輪切りにしたかのように真っ二つに切断された……一体何が? ああ、意識が遠のく……。
「はっ!?」
油断した……巨大昆は一匹ではなかったんだ……今思えば知恵の樹はあやつらといっていた。
あの鋸……恐らくは巨大ノコギリクワガタだろう。
しかしどこへ行った? 辺りを見回しても巨大クワガタはおろかカタリナも見当たらない。
「きゃああああっ!!」
今のはイングリットの悲鳴!?
まさかクワガタがイングリットと知恵の樹の所へ向かったのか!?
声の方角に急いで向かおう。
「ウッ………ガァ……」
微かに声が聞こえる、これはカタリナの声だ。
近くに居るのか?
「オーーーイ!! カタリナ!!」
足元にも注意を払い進んでいると、いた……カタリナだ。
「ウウウッ……」
「カタリナ、お前……」
倒れているカタリナを見ると両腕が肘の辺りから切断されているではないか。
巨大クワガタと交戦したのか。
カタリナの目に涙が溜まっている、相当痛かったんだな。
不幸中の幸い、切断された腕の先は近くに落ちていた。
「待ってろ、今直してやる」
俺は拾ってきた腕をカタリナに接続した。
すると接合した傷口が脈動を始め、腕は傷一つ残さず綺麗に接合された。
「動けるか?」
「ウガッ!!」
強い意志の宿った瞳、カタリナは闘志を失っていなかった。
「よし、付いてこい!! イングリットと知恵の樹がやばい!!」
俺たちは急いで救援に向かう。
森の奥が騒がしい、恐らく巨大クワガタが暴れているのだろう、一刻も早く現場に行かなくては。
「大丈夫か!?」
「あっ、アクセルさん!!」
イングリットは無事だった、しかし知恵の樹は?
「何だこれは!?」
知恵の樹は自分の枝葉を他の樹も使って網の目の様に張り巡らし、巨大クワガタを雁字搦めにしている、しかしクワガタも自慢の巨大な顎を使って次々と切断していく。
『グムムム……もう持たない……早く奴を……』
「分かった!!」
俺は軽く跳躍を繰り返し枝から枝に飛び移り、巨大クワガタの上に位置取る。
そして奴の背中目がけて飛び降りた。
「貴様らの弱点はここだ!!」
首と胴体の付け根、柔軟に動く部分に剣を突き立てた。
途端に激しく暴れだす巨大クワガタ、俺はまるでロデオでもしているかの様に振り落とされないように柄に捕まる。
急所を刺したのに仕留められなかった、恐らく剣が浅く刺さってしまったのだろう……しかしこんなに揺れる状況では再び力を掛けて剣を奥に突きさすのは不可能だ。
「カタリナ!! こいつの頭を下から殴り上げろ!!」
「ウガッ!!」
俺の指示でカタリナが駆け込んでくる、そして強烈なアッパーカットを巨大クワガタに食らわせたのだ。
その衝撃で剣は奴の喉を貫通したが、俺も吹き飛ばされてしまった……それから暫くして巨大クワガタは完全に沈黙したのであった。
「くそっ、手こずらせてくれたな……」
茂みの上に逆さまに落ちた俺。
ライムの試練でもないのに死亡回数カウンターをまた一つ減らしてしまった。
「知恵の樹さん!! 知恵の樹さんしっかりして!!」
イングリットの声にハッとし、飛び起きて知恵の樹の方へと向かう。
「知恵の樹……」
俺は彼の姿を見て愕然とした、水分を見る見る失い干からびていく幹、ボロボロと樹皮が剥がれ落ちていく。
『ありがとう……あやつらを倒してくれて……礼を言う』
「済まない、俺は何の役にも立てなかった……」
彼の傍らに跪きうな垂れる。
『約束だ……受け取ってくれ……』
彼の顔の上の枝の先端がふくれはじめ大きくなっていく……そして片手に収まるほどの林檎によく似た果実が実った。
「俺にこれを受け取る資格は無い」
依頼をこなせなかったのだ、報酬を受け取る訳にはいかない。
『何を言う……この老いぼれが最後に命をとして実らせた実……無駄にしてくれるな』
「アクセルさん……」
イングリットが悲しそうな表情で俺を見つめる。
「分かったよ、これはありがたく貰っておく」
『私が死ぬことでこの島はやがて沈むだろう……早く逃げるがいい……最後にお前たちのような人間に会えて良かった……』
そう言い残し知恵の樹はからからに朽ちていった。
「行こう……」
俺たちは沈痛な思いで森を後にした。
それからすぐ島が振動を始めた、知恵の樹が言った通り島の崩壊が始まったのだ。
「アクセルの旦那----!!! 急いでください!!」
三人組の下っ端二人が両手を振っている。
「二人とも急げ!!」
「はい!!」
「ウガッ!!」
船のタラップに駆け込んだ直後、島は跡形もなく海底に沈んでしまった。
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